おとぎ話の末裔   作:C&Y

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寮監先生と人外生徒の明日はどっちだ秘密の部屋編。
R15と残酷描写タグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。

素敵原作から、とんでも分岐をしたウィザーディングワールドぽい何かな世界っす。
薄目で見てね!


AVB、或いは静かなる丘と秘密の部屋 ㉑

 幕間

 

 魔の森で行方不明者の探索が行われていた頃、小説家は……

 

 ファンレターの返信をしつつ、決闘クラブはどこでやろうかなー等とお優雅な時間を過ごしていた。

 

「いやはや、ホグワーツの今年は実に華やかですね。

 もちろん、この私、スペシャルヒーローギルデロイ・ロックハートがっ!

 ホグワーツ教師の、魔法界の宝石がっ!

 いるからですね!!

 ふぅ、実に素晴らしぃ!」

 

 よい香り付き便箋にサインを入れ、彼は部屋中の鏡に向かってポーズをとる。

 うむ、きれてるきれてる(ボディビルダーではない)じゃなくて歯が光る。

 ペカッ!

 

「若い魔女こそ、最終的に“本物の英雄”に惹かれるべきだと思わないかい、スペシャルヒーローな私よ!」

 

 陰キャがモテているのが、わからない。

 最近の流行りだったら嫌だなーと、モテポーズを決めながら笑顔でぼやく。

 

「スネイプも運がいい。

 魅力的な同僚の、スペシャルヒーローが一人いると評価が上がるんだ。

 もっと私に感謝するべきなのさ!

 

 ダンブルドアも私がいるのだから、一人ぐらいスポンサーを紹介してほしいよ。

 できればスネイプぐらいの……、いや、もっと。

 できれば私の輝きが陰らない程度がいいんだよねぇ。

 美人の後援者はステイタスとしてはよくとも、私が霞む……。

 

 とはいえ、彼のお姫様は、本物らしいからねぇ。

 私の著書を寄贈しておこうかな。

 私という魔法界の財産について知ることは、教育的にも文化的にも、良い影響を与えるものさ」

 

 と、鏡の中の自分が笑った気がして、彼は手を止めると頬杖をついた。

 

「もちろん、私だって知ってるさ!

 英雄というものは隠しても輝いてしまうものだからね。

 スネイプは口数が少ないが、きっと感謝しているだろう。

 私が彼女を魅了するのを控えてるのをね!」

 ……

 ……

 ……

 

 鏡が壁を埋めている。

 小説家の部屋はある意味ホラー。

 葵が見たら大興奮、合わせ鏡のミラールームだ。

 しかしそこは大先生だ!

 寝室とバスルームも天井が鏡に……。

 それでも眠れるロックハート、さすが魔法界の英雄は一味違うね!

 

 葵が見たらクソダサいと喜ぶ、狂気のバブル期ラブホテルな内装だったりする。

 ある意味アトラクションの住人、ギルティギルデロイ・ロックハート!

 だけど外の騒ぎには夕飯時まで気が付かない男である。

 

 ちなみに後ろ後ろー、鏡の中、ちょっと動きの違う鏡がねー小説家ー後ろー

 

 ***

 

 生きてると、日々後悔することがある。

 あまり無い?

 私は頻繁にあるよ。

 少し時間があって、本当は勉強とか運動とかするつもりだったのに、何もしないで過ごしちゃった!とか。

 お菓子を控えてダイエットしようとしてたのに、今週はドカ食いしてるとか。

 友達とラインしてて、いつの間にか喧嘩しちゃったり。

 見栄はって、失敗とかね。

 葵になってからは、覚えている限り、やっぱり対人面でどっぷり落ち込むことはあったと思う。

 学校行きたくないなーは、大体がそれ。

 友達できなくて、どうやったら友達できるのかもわからないなー、って感じだろうか。

 それでも明日はきちゃうわけ。

 行きたくない学校。

 行きたくない職場。

 家にいたって、親や家族に心配かけたくないし。

 かといってあてもなく街に繰り出すほど、やけっぱちでもない。

 愚痴りたくなるけど、喋ったらなんだか負けてる気もする。

 落ち込んじゃうし、このままじゃ駄目なのも知ってる。

 責めてる声は消えない。だって自分だしね。

 自分を許せ?

 正論はね。

 もちろん自尊心を無くしちゃ駄目なのも、後ろ向きじゃなくて肯定して、自分を褒めてあげる事も必要だってのはわかってる。

 わかっててもね、しくじったなぁって時は、さすがの、そう、毎日ハッピーに生きるぜ!!

 っていうスタンスの私でも凹む。

 美人でも金持ちでもね。

 わ〜嫌な女〜!

 ふふふっ、自分で美人とか言っちゃう?

 そうなんだよね、私、自惚れてる悪役令嬢ざますっ!

 

 それでも、あぁ……つまり、嫌われたくないのも本音だ。

 嫌われるの、誰だって嫌だもん。

 ウッソ気にしてるの?

 はいはい、好きな相手に嫌われる事、だよ。

 その他は、どーでもいい。

 嫌われよーが、馬鹿にされよーがね。

 誰だってそうでしょ?

 嫌なことがあったら、それを家族や大切な人に知られたくない。

 シクジリだって、知られたくない。

 だって、嫌われたくないもん。

 

 美人だから許される?

 そんなわけねーのよ。

 若いから許される?

 子供だから?

 子供未満だからね。

 はぁ……。

 限度があるんよ。

 親だって、無限に愛してくれるなんてのは、幼児のころだけだよ。

 そんな事無い?

 わかった、わかった。

 じゃぁ赤の他人の厄介事積み上がってる純血のクソガキの場合は?

 ……。

 うん。

 また、やっちゃった!

 ふふふっあ〜あ。

 寂しいし、しくじると凹むし、やっちまったなぁである。

 何言ってるの?

 

 そう、しくじって後悔してるところ。

 今ね、魔の森の中でやっちまったところ。

 護符も持ってるし、杖ももってる。

 だから彼が追いかけてくるのは確信できてるから、焦ってはいない。

 森の浅層でいきなり飛ばされて、理由のわからないうちに穴に落ちて、今、穴から見える空を見ながら落ち込んでるだけ。

 たぶん、立ち上がったら穴から出られるけど、泥まみれで尻もちついてる。

 落とし穴じゃない。

 自然に崩落した段差で、木の根が見えてる。

 片側は少し傾斜が付いてるから、雨水で崩れたってところかな。

 靴は脱げてないけど、片足がアホみたいに空を切ってる。

 もろに仰向けね。

 土が口に入ってるし。

 そして彼ピッピとの繋がりが切断されてる。

 彼ピ……ふふっ

 また、変な語彙が浮かんだぞぃ、ふふっ

 護符に追跡魔法が込められてるから大丈夫だけどね。

 それでも、すんごい非常事態。

 こんなシクジリをするとは、我ながら気が抜けてる証拠である。

 ごめんね、セウェルス。きっと激怒してるでしょ?

 ははは、また迷惑かけちった。

 

 基本は動かないことって言われているので、まずは杖を抜いたわけ。

 何があってもいいようにね。

 身体の痛みは、お尻と左太もも。

 打撲、かな?

 痣になってそう。

 血はどこからも出てない。

 見回すと、深さ1メートルぐらいの竪穴で、地面が崩れ落ちてる。

 最近かな、木の根っこに柔らかい感じの土。

 湿り気は無いけど、ローブは汚れていた。

 

 魔法を使おうか考えたけど、やめた。

 魔法の行使ってのは、ここにいるでー!って知らせる事でもある。

 何が穴の外に広がっているかにもよるけど、息を潜める。

 見上げる空は少し曇って白い雲が流れてる。

 ニオイは普通に土の香りだけ。

 

 動くな、隠れてるんだぞ!って意味のことを言われているので、じっとする。

 五分ぐらいでいいかな。

 音もしないし、そう自然の音だけ。

 風、葉擦れ、ぐらいだね。

 

 足を引き寄せゆっくりと気配を殺して立ち上がる。

 思ったより怪我してるかな、足首痛い。

 血は出てないし、ヒビぐらいかな。

 それでも動ける。

 治療、う〜ん、切り傷のちっちゃいのぐらいはできる。

 素人は止めとく。

 痺れ痛みも、脈打ってるけど動くしね。

 護符が防御をしたはずなんだけどな。

 これも検証しないと。

 それとも護符が守ってこの程度だった?

 だとしたら、お説教追加かな……。

 対人以外にも守ってくれる有り難い護符だけど、シチュエーションでは発動しない可能性もある。

 あぁ駄目だ、しょんぼりしちゃう。

 

 中腰のまま穴の縁から頭を出して、きょろきょろ。

 森の中のはずだけど、視界の片側はムーアだ。

 花崗岩、平らな白い岩、雨水を貯める窪み。

 森ではないし、森の出口とも違う。それはムーアの先がやはり霞んだ山に続いている。

 位置関係からすると、ムーアなら北か北西。

 でも魔の森が曲がるように広がるのは東側から南だ。

 

 どういう事だ?

 魔法的に考えると、ムーアなら妖精の鏡か精霊の井戸かな。

 それを知らずに踏んだり落ちて飛ばされた。

 あり得そうで、これは却下。

 前を森番の人とケルトバーン先生が歩いていた。

 後ろがセウェルスにファング君だしね。

 私だけ、うん、何となく覚えているのは、やばいと思った時、振り返ったんだ。

 彼を見て、私は……。

 

 そしてもう一つの可能性。

 何かがあって私が跳んだ、だ。

 護符、タリスマンによる緊急回避かな。

 ランダム跳躍でここに落ちた。

 これもあり得る。

 なにしろ森に入ったところから記憶が曖昧になってる。

 己の力も使ったかもしれん。

 どちらにしろ、しくじったのは確かだ。

 ともかく敵対者、人間、怪物、魔法生物は見えない。

 見えない怪物なら、どっちにしろ隠れてても無駄だしね。

 

 私は穴から這い出すとムーアに立った。

 ホグワーツは見えるかな。

 ぐるりと見回す。

 

 んで、ホッとする。

 思ったより近くに見えた。

 城の向きからすると、やはり東南方向である。

 すると森の奥の奥なのか、それとももっと南寄りで森を突き抜け、ては……いないな。

 距離が考えるより近い。

 すると森の中も低木や湿地の部分があるって事か。

 地形把握としてはホグズミード村の西南方向が浅い普通の森と山。そこから西回りで北に向かってムーア、見回す感じで視線を回すと、ハイランドの山々で東にむかって森が始まる。

 森は東に伸びているわけじゃなくて、南東方向へ曲がっている感じだ。

 ホグワーツを囲むと言うより、イメージとしてはホグワーツが東南の森の入口を閉じている感じ。

 これは間違いでもないと思う。

 魔の森がホグワーツ城塞を守る役目と、ホグワーツが魔の森を閉じているという二重の位置取りじゃないかな。

 

 で、魔の森だ。

 森番の大きな人の説明だと、浅層までなら人間が入り込んでも帰ってこれるけど、中層には凶暴な魔法生物の縄張りがひしめき合ってる。そして深層になると古代の遺跡や人間が手をつけていない魔法的に歪んだ空間が点在してる魔境になるから気をつけるようにって話。

 ならば、ここは浅層の荒野、ムーアって事か。

 迷い込んだ人も、飛ばされたり、わからない場所に入っちゃったのかもね。

 

 花火、あげといたほうが良いかな?

 ただ、ちょっと不思議なのが、私と彼の繋がりが、本当に切れている事だ。

 距離が離れても断ち切れている事は、今まではなかった。

 ほら、旅行中に離れた時も、彼の存在はあって、何かあればアンテナ立つ理由。

 でも今回は、本当に断ち切れてる感覚がする。

 実験で、彼が魔力を変質させて強制的に切断した時、いや、その時以上に、一人になったとわかる。

 これは驚きだし不安だ。

 

 パニックになってないのは、護符から出てる魔力がホグワーツ方向に流れてるからだよ。

 たぶん、これが彼に向かってる。

 私が何処にいても追いかけるって言ってたしね。

 ただ、いつもの血の呪いが断ち切れてる。

 そんな事ってあるんだなぁって。

 パニックで吐くとかにはなってないけど、すんごい心がざわついてる。

 手がね、勝手にぴるぴるしてるわ、ははは……さ。

 それとも彼に何かあったから飛ばされたのかな?

 いやさすがに混乱しててもそれは、無い、はず?

 

 ちょっと気を逸らすために辺りを見る。

 森の方は暗くて何か潜んでいそうだ。

 でも動きはない。

 ムーアには花崗岩の白い岩がゴロゴロしてる。

 少し平らな岩の場所、床みたいなとこがある。

 動かないと風が吹いてるから少し寒いので、その床みたいな所へ行ってみる。

 

 床だった。

 古い住居跡なのかな、石材が地面に敷き詰められている。

 雑草も生えていないね。

 白い大きな空間で、踏み入れても特段不思議な場所には、う〜ん、あれ、石の扉だ。

 石床に両開きのどでかい扉がある。

 見た感じ、とんでもない大きさだ。

 石の扉だし、重そうだし開かないよね。

 それとも彫刻?

 巨大な蛇の、ちょっとカッコいい厨二病デザインの円環の蛇である。

 わ〜何か、古代のあぶね〜ダンジョンの入口とか?

 まぁホグワーツの敷地だしね、敷地だよね?

 

 岩陰の風のあたらない場所に座り込んで、息を吐く。

 しくじってるよね。

 合図の花火をあげようかな。

 何か騒動あって逃げたとしても、ここで数時間ぼ〜っと待ってるのも寒すぎるしね。

 で、花火をあげた。

 魔法的にじゃなくて、いつもの杖にお願いした。

 どど〜んとジャパンの花火が昼間にあがる。

 今度夜にお願いしようかな。

 

 で、再び落ち込む。

 葵になってから、大人から怒鳴られた記憶はない。

 怒られた事は多々あるけど、それとは別。

 ゴミ箱に感情を投げるように、怒鳴られるって事。

 そういう嫌な人間関係は無くて、記憶も無くて、でもきっとそれはとても幸運な事だ。

 そう思うより、葵は不幸ではない。

 親がいない、叔母がいない、記憶がない。

 けれど周りを囲む人たちは優しいし、環境は十分に恵まれている。

 仄暗いモノがあったとしてもだ、私の視界を埋めているのは、殆どが美しくてやさしくて、キラキラだ。

 孤独を悟った日から、私は私として生まれたようなものだけれど、それは誰の人生でもあることだ。

 

 だから、今日は本当に己がシクジリだってわかる。

 なにしろ自分から望んで森に入ったのだ。

 何を失うか考えていなかった。

 葵の幸せ。

 私の、手の中にある幸せをベットしたらだめだよね。

 それは本当に大切な事を守るためにとっておきゃなきゃ。

 

 はい、そう、十分に調子こいてましたっ!

 馬鹿でしたっ!

 ごめんなさい。

 迷惑をかけているね。

 行方不明の人を探す?

 違う、調子に乗ってる自分の好奇心だ。

 そう、森の奥を見たかったから。

 私がね。

 好奇心。

 ……。

 ……。

 

 (うん、うん、知りたいよね?

 うんうん、アテシも、そーなの?

 キラキラね、探しに、群れからとっとこ出ちゃう!

 アテシ、イケない女!)

 

 ……。

 ……。

 

 オッケー、ワイ、シリアスすんな?

 おめぇにシリアスは無理?

 面の皮が姫でも、お前、アニマルやん?

 了解した……。

 

 あ〜、チミ、そこのオモロイ思考の小動物よ、ふんふんしながら、お尻と尻尾振ってる、そこのチミ?

 

(ん、呼んだ?

 アテシ、イケてるれでぃ!

 みつがれる女!)

 

 そんなニュアンスの思考で、テシっと手をあげる小動物。

 相変わらずのほほんとした顔をしているカモノハシみたいなモフモフである。

 なのに中身がゼニゲバ。

 ニフラーちゃん、なんでいるの?

 

 しかし徐ろに賄賂を請求して、前足を差し出してくる小動物。

 

 ……。

 

 ワイ、無言で収納ポシェットからいらない宝石をぽとり。

 受け取るニフラーちゃん。

 Win-Win?

 呪いの貢物よさらばだ!!

 

 で、一匹と一人で岩の影でおしゃべり。

 彼女はちょっくらおちゃめさんなので、遠出をするタイプらしい。

 今日は、お宝センサーを頼りに、ここに出てきたそうだ。

 すごい勘だ。

 きっと私が森に出現したから、光り物をゲットするべく追ってきたんだろう。

 

 ねぇ森の奥に何かあるの?

 それってどのへん?

 

 聞いてみるとニフラーの頭がくりっと横に倒れた。

 考えてるのか?

 

(こっちじゃないよ!)

 

 そっかー

 こっちじゃないのかー

 

(だってこっちはデカデカブンブンがいるもの!)

 

 ワイ、嫌な予感を感じたけど、気のせいかな?

 

(ねむねむぐぁーだから、ダイジョブ!

 でもアテシ、ちっちゃいから、ここはダメ!)

 

 意訳

 つまりどでかい何かがいる?

 

 あぶない?

 

 ニフラーの頭が逆にくりっとなる。

 

(れでぃは、ダイジョブ!)

 

 れでぃ……。

 まぁ、ホグワーツの教職員、森番の人ならここも知ってるはず。

 開けてるしね。

 森の深い場所じゃないしね、ははは……。

 

(ここねー変なモヤモヤあるから、いったりきたりムリムリねー)

 

 まちゃか?

 

(ピカピカはダメねー

 でもアテシにキラキラくれたから、ちゃんとお家にぽいねー)

 

 あ、ありがと……、

 でも、ワイなーチミより大きいから地面の穴とか、むりぽよー。

 誰か魔法使い呼んできてくれる?

 

 で、賄賂が再び……消え去るモフモフ。

 思ったよりピンチ?

 

 ひとつ学んだのは、食料となる菓子と飲み物だけでなく、ポーチにはポーションと着替えやサバイバルグッズぐらいは忍ばせておくべきだって事。

 じんじんする足首を引き寄せると、岩陰で小さくなった。

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 いやいや、どんだけ待っても誰も来ない。

 そいで寒い。

 おトイレの危機は大丈夫。

 きちんと森に行くって決めてから、朝だって水分控えたもん。

 それだって一日は無理だけどさ〜。

 太陽の位置からお昼過ぎかな。

 10時ぐらいに出発して、三時間ちょいだと思う。

 で、ちょっとばかり小さくなってたけど、しゃがんでると足首の痛みが増してきた。

 今できるのは、気休めの癒やせじゅもん。

 ワイ、まだ、よくできない。

 あんまり呪文学の勉強進めんなよって言われてたからね。

 でも、帰ったらマジで治療系魔法を勉強する。

 やっぱりサバイバルに適応できるようにしとかんとな。

 でも、癒せ〜って繰り返したら、少しだけ痛みが治まる。

 んで、寒くてしょうが無いから、保温の魔法を、自分を燃やさないように使う。

 何で最初から使わなかったかって?

 これがね、魔法って万能じゃないってののひとつ。

 わからない場所で魔法を使うと、危険なことがあるんだよ。

 バランスってのかな、悪い場所だと変な作用とか、変な生き物とか、変な事になりかねない。

 杖に頼んで花火を打ち上げたのも、ニフラーちゃんにお願いしたのもそれね。

 一人の時に対処できない事になったら怖いでしょ?

 でもどうやら、飛ばされた時に保温の魔法も切れちゃったみたいで、ずーっと寒くて。

 もう我慢の限界だ〜で、温める。

 杖に頼むとワイ、松明になりかねないから。

 やっと暖かくなって、じゃぁ隠れてると言うか小さくなってると足首が更に痛くなりかねないので、立ち上がる。

 景色は変わらない。

 静かだし、生き物も人影も見えない。

 やっぱり、何かで飛ばされたけど、自分でここに逃げ込んだのかもなぁ。

 少し草地を歩く。

 石畳のところまで行く。

 白い大きな敷石。

 大きな石の扉。

 改めてみてみると、ルーンで何か書かれてる。

 えっと、えっと。

 魔女の記憶でなんとか読む。

 

 友達、仲良し、果物、元気、えっとえっと……。

 

 怖いこと書いてあるのかと思った。

 でも違った。

 ほら、蛇マークでしょ?

 おどろおどろしい呪詛とか書かれてそうじゃない?

 で、何となく扉を囲むルーンを読んでいく。

 

 友達、仲良し、果物、元気、春、遊び、回る、復活、子供、友達、仲良し、果物……。

 

 で、扉の下の部分にルーンじゃない文字。

 

 我、永久に誓う、越えられぬ距離と時が横たわろうとも、我が愛は変わらず。

 

 えっと、友と我が愛する人、家族とえっとえっと可愛い……えっとかすれて読めないけど、署名だね。

 もしかしてお墓?

 巨大墳墓?

 

 蛇のお墓。

 ホグワーツだとサラザール・スリザリンだったりして。

 ケタケタ笑ってから真顔。

 

 いや、そんな恐ろしい人の墓だったらトラップだらけでしょ。

 死んじゃうじゃん。

 やれやれと首を振ってから、ぽんぽんと扉を叩いた。

 

 どごーん!

 

 ……お願い、誰か突っ込んで!

 巨大な扉が消えた。

 開いたんじゃなくて消えた。

 階段が、暗闇に消える階段が……。

 

 どんよりしてしゃがみ込む。

 ワイな、大冒険したい男の子じゃないの。

 乙女な。

 普通に、彼ピッピが来るの待ってる乙女な。

 腹がたったので、足元にあった石を暗闇に投げる、とぅ!!

 

 ……。

 

 いや、カツンとかコツンとかしろよ。

 無音とかすんげぇ怖い!!

 じーっと見つめると、奥から光る二つの丸。

 杖を握るワイ。

 そしてゆっくりと姿をあらわす小動物。

 

 すちゃ!

(アテシ、帰り道発見!

 まほうつかえるコワコワの人にはあえなかったけど、エライ?)

 

 わ〜エライぞ〜

 

 んで、きっとゲームなら選択肢。

 

 階段を降りますか?

 王子を待ちますか?

 

 ***

 

 耳の奥が痛い。

 響く金属音にセブルスは顔をしかめた。

 護符に仕込んだ、警告と追跡の魔法が発動を続けている状態だからだ。

 正常に護符は働いている。

 死んだ反応ではない。

 セブルスは、眼の前にあるマジックサークルを凝視する。

 見たこともない陣模様だ。

 それは彼女をかき消すと、パタパタと折り始めている。

 紙を折るように、多角形の円を描きながら折っていく。

 彼は瞬きもせず、見たこともない魔法陣を脳裏に刻みつけていく。

 皆、何も反応できずにいる。

 が、確実に追跡魔法はねじ切れた瞬間と出現地を繋ぐように凶悪な音をたてている。

 距離ではなく、何か遮蔽物を通しているために、最大限の音をたてているのだろう。

 セブルスの魔力、血を馴染ませているので、彼以外には聞こえない轟音だ。

 眉根を寄せながら、自分が浅い息をしているのがわかる。

 彼女との繋がりが断たれた所為だ。

 それは鳩尾をムカつかせ、体温を下げるような吐き気を催した。

 実際の体感以外にも、支えを突然失い足元が沈むような感覚と、恐ろしいほどの虚脱の波が押し寄せている。

 

 犬が狂うとはこれか。

 

 口元が知らずに笑いを浮かべていた。

 ゆっくりと目前に杖を立てる。

 無言呪文で広範囲の索敵。

 森では生き物や対象物が多すぎて使わぬ魔法だ。

 だが、今はできる。

 支えを失った犬達が狂うのは、虚脱感が広がると同時に、真逆の毒が血を焦がし始めるからだ。

 そうして一気に魔力の質が変えられる。

 

 自滅の力。

 

 犬たちが争い始めるのは、何も女を失ったからではない。

 女が姿を消すと、魔力が増幅するのだ。

 血が沸騰を始め、虚脱が広がった場所から変化していく。

 虚脱はまるで、今まであった血を抜き去り、新たな血を注ぎ込むかのように全身を焦がす。

 

 笑いながら力を広げる。

 彼女たちは、助けを求める。

 求められた犬は、力が増幅されるという訳だ。

 怒りとともに。

 精神と生命力を摩耗するほどの、狂乱という奴によって。

 この眼の前の魔法陣は、更に奥地へと力を引き上げようとしている。

 つまり敵は奥にいる。

 だが、今は彼女だ。

 護符、タリスマンはもっと南から音を投げている。

 彼女の気配はつかめない。

 繋がりは完全に絶たれている。

 

 彼は笑いながら、音をたどるべく杖を払った。

 

 そんなセブルスに声をかけようとしたハグリッドを、ケルトバーンは制止した。

 唇に指をあてると、スタスタと無言で歩きだした男についていくべく顎をしゃくる。

 

「校長に連絡してくれ、今は魔法は使わないほうがよい。多分、魔力の流れを追っているだろうからな。急ぎで行ってくれ」

 

 フィルチにそう命じると、ハグリッドを伴い後を追う。

 命じられたフィルチは城に駆け出した。

 

「お姫さんが」

「特定の条件付けの罠が森に仕込まれているようだ。

 たぶん、男の魔法使いは引っかからんのだろう。

 一瞬だったが、彼女の護符が弾くのが見えた。

 邪魔したはずだ。

 生きてはいるだろう。

 だが何にしろ、こりゃぁまずい。」

 

 藪を切り払う姿を追いながら、ケルトバーンは冷や汗をかいている。

 娘が消えた事でハグリッドも、狼狽していた。

 罠など無かったのだ。

 ハグリッドとケルトバーンが先に立ち、娘と犬が続き、最後がセブルスだ。

 ところが、娘があっと声をあげ、次の瞬間には掻き消えた。

 あっという声で彼らが振り返り、一瞬だ。

 そして魔法陣を見つめる男は杖を立てると、笑った。

 恐ろしい笑いだ。

 口元から仄かに広がり、目が細められる。

 あぁこいつはいけない。

 と、誰もがわかる笑いだ。

 

「森に何かが入り込んでるのは確実だ。

 園丁の彼は、先にやられちまったんだろう。

 こんな浅層に仕掛けられたら子供も危ないぞ。」

 

「ですが、先生、俺達は無事じゃぁないですか」

 

「大人の男で戦える魔法使いは除外されているんじゃないか?」

 

 その指摘に、ハグリッドは眉を寄せた。

 

「お前さんも儂も、攫われたって殺される前に暴れて抵抗できる。

 条件付がそうなってたら非常に危険だ」

 

「闇の奴らってことですかい?」

 

「わからんが、普通じゃない事はわかるし、魔の森に入り込み隠れるなんてできるわけもない。

 こっちは何がある?だいぶ南の浅い方向だ。

 儂は東寄りしか入ったことがない。

 それもまぁケンタウロスが不快にならんように避けとるからなぁ。」

 

「俺の記憶でも、別段こっちにゃぁ小せぇ水場が転々とあるぐらいでさぁ。

 どっちかっていやぁ鳥とか兎とか、小型の生き物ぐらい。いや、あまり生き物は多くねぇかな」

 

「奥地の輩じゃぁねえよな、ハグリッド」

 

「人間様の言葉も喋れねぇのは、最奥から動いてねぇです。

 ケンタウロスの群れが移動するっつー話を聞いて一番に確認しました。

 狼もドライアド達も変わらず。

 まぁちくっと変な感じはしましたが。それでも奥のデカい奴らも動きはねぇです。

 普通の人間が潜伏できる場所でもねぇです。魔素溜まりは変わらず毒まみれですし」

 

「今の儂では中層にも入れんからな、身体がもう少し残ってたら」

 

「よしてくだせぇ、校長先生も奥地は入らんのですから。それより、お姫さんは、大丈夫でしょうか」

 

「まだ、大丈夫だろう、追えているようだしな。あんまり近くに行くなよ」

 

「なぜですかい?」

 

「今、高位の反応呪文を使い続けている。範囲に入るとコッチの魔力がかき混ぜられちまう。人間でも使えるんだなぁ」

 

「そんなすげぇ魔法なんで?」

 

「魔法そのものはあるにはあるが、人間が使わねぇやつだ。

 亜人系のヒトガタの奴らが使うのに似てるが、もっと攻撃的だ。

 多分、アレンジしてんだろうなぁ。

 あとで教えてもらえねぇかな、まぁ儂が使えるようにするにゃぁ、そうとう弄らねぇとならんだろうが。

 あれなら、魔法生物の子がいなくなったら探しやすいだろう。

 敵意があるやつは弾かれるし、ターゲットだけに魔力が流れる。」

 

「いなくなった奴もわかるんで?」

 

「同じ魔法なら、無理だな。

 血を分けた子供や番に使う魔法だ。

 セブルスと娘は似た魔力だ。

 だから追えるんだろう。」

 

 あえて真偽を確かめていないが、魔法生物を相手にしている2人は結論として、人間の常識の括りに置かない見方をしている。

 

 特別な魔力だなんだと言っているが、つまり相性のいい相手だ。

 面倒くさいしがらみを抜かせば、番の生き物である。

 そんな相性が合う相手だ、からかう必要もない。

 もちろん人間のしがらみは外せないので、何も言わない。

 

「なぁ先生」

 

「聞くなよ。今は非常事態だ。」

 

「俺は、あんまり、そっちの話がよくわからねぇ」

 

「何の話だ?」

 

「今の女に、昔の女の話をするもんですかね?」

 

「儂に聞くのは間違いだ。儂の専門は魔法生物だ。で、今持ち出すんだ、関係ある話か?」

 

「どうも、お姫さんに、その」

 

 珍しく口を引き曲げると、ハグリッドは先を行く背中に顎をしゃくった。

 

「リリーを女神と言っているようで」

 

「捜索に集中しろ、バカモノ」

 

 ケルトバーンは、ハグリッドが漏らした言葉に奥歯を噛み締めた。

 意味はわかる。

 

 死んだ女の話を相手に言うのは牽制。

 もしくはそれだけ心が近いということだ。

 魔法生物の方が素直で生き物としては真っ当だ。

 ハグリッドのような男からすれば、馬鹿に見えるだろう。

 人間はシチメンドウクサイ。

 

 景色は相変わらず藪と木々で塞がれている。

 獣道も見当たらず、ふっと立ち止まるとセブルスは二人を振り返った。

 

「ハグリッド、どれぐらい先程の地点から移動している?」

 

 問われて、ハグリッドは辺りを見回して気がつく。

 

「殆ど進んでねぇ」

 

 言葉にケルトバーンが魔法を唱えた。

 反響魔法によって位置関係を探るものだ。

 娘の消失点にあった木々をアンカーにしても、進んだつもりの距離がかせげていない。

 

「高度な妨害だ。

 ダンブルドアに連絡を直接入れる。

 フィルチが戻っているか不安だ。

 二人はそのまま引き返せ。」

 

「儂は残るよ、さすがに一人で君を残すことはできない。

 まずは、君から連絡を」

 

 伝言を伝えるべく魔法を使う。

 程なくして、ダンブルドアからの返事が戻った。

 

『フィルチは戻っておる。

 マクゴナガル先生が生徒たちを森に近づけぬようにと、城に戻した。

 出入り口を閉じておる。

 今のところ異変も無く、生徒も欠けておらぬ。

 もう一度、位置を正確に知りたい。』

 

 要請に、ケルトバーンが光の魔法を打ち上げた。

 昼日中であるが、薄暗い森で白く輝いた。

 

『位置を把握した。

 森の浅層にある遺跡跡は、人を阻むモノが多い。

 たぶん、害意ではなくそれに阻まれておるんじゃろう。

 深層にある遺跡群とは違い、人避けがなされているので、特段の危険としておらなんだ。

 未踏区であるのはかわらん、すまんの。

 パターンとしては、人間の感覚を歪めるものと、位置そのものを変える転移陣かのぅ。

 彼女との繋がりは?』

 

「切れております、が、護符は働いております」

 

『なるほど、少し遅れるが一度、そちらに儂も行こう』

 

 暫くすると、ダンブルドアが現れた。

 

「多分じゃが、彼女が落ちた場所にある、人払いをしようとする力が、護符の呼び寄せる力を伝い捜索者に及んでおるんじゃろう。ほぃ!」

 

 藪と思えた場所に朽ちかけた石畳が現れた。

 

「道にも魅了の言葉、古い魔法が刻まれておるところを見るに、古代の遺跡じゃな。

 うむ、人が荒らした気配はない。

 護符が働いたために呼び寄せ場所を変えたのじゃろう」

 

 辺りを探りながらのダンブルドアの言葉にセブルスは、少し考え込んだ。

 

「護符の過剰反応でしょうか」

 

 それにダンブルドアは頭を振った。

 

「違うぞ、多分じゃが、罠を致死と判断した護符が、回避をとったのじゃろう。

 飛ばしたほうがマシだとな」

 

 その答えに男たちはぎょっとした。

 思った以上に危険な話だ。

 つまり葵は護符持ちだったから助かったが、他の子供では助からない。

 そういう意味である。

 

「だとすると早く見つけてやらんと、護符は殆ど魔力を失っておろう」

 

「おっしゃるとおりなら、ひとつは壊れたでしょうが、他にも与えております。」

 

「おぉそうじゃったの、セブルスが誕生祝に贈った品もあったの。

 それからなんじゃ、旅先で買い与えた指輪にも守護を与えておるようじゃったな。

 ならば、あと二回は確実に致死の攻撃は防げよう。ん、どうしたね、ハグリッド」

 

「お姫さんは、無事ってことで?」

「無事でなければ、セブルスが儂を待つはずがなかろう」

 

 ハグリッドは自分の顔を片手で拭うと、ダンブルドアを見つめた。

 それに相手は少し笑うと肩をすくめた。

 

「言いたいことはわかるが、今は探索が先じゃ」

 

 そしてセブルスの後にダンブルドアの背を見送った二人も、後を追うべく歩き出した。

 

「俺にはわからねぇなぁ」

 

「魔法生物にはその手の疑問がねぇから、お前も儂も、魔法生物が大好きってこった。」

 

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