R15と残酷描写タグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできています。
幕間
パパへ、ご飯食べてる?
いつもどおり気がついたことを書くよ。
最近あった事。
一学年上のお姉ちゃんが、大きな生き物に見えた。
銀色のフサフサでキラキラできれいだった。
写真撮ると呪われるんだよ。
魔法薬学の吸血鬼みたいな先生が作った護符だって。
こんど先生にいろいろ聞いてみるよ。
だから、写真じゃなくて絵を描いたよ。(便箋に画伯イラスト、なかなかにエキセントリック)
そのお姉ちゃんと栗とか拾った。
それからハロウィンで耳の飾りを買ったよ。
動く耳、ウサギにしてみた。
それと、えっと、空っぽの人がいた。(これもとんでも画伯で、おどろおどろしい黒い棒人間)
変な声が聞こえた。
たぶん、パパが言ってた逆さまやまびこ。
この前の、魔除けのミニピラミッドは、枕元に置いてる。
あと冬の間は魔の森に入っちゃだめだって、狼がでるみたい。
狼、赤ずきんちゃんに出てくる狼みたいだったら、ちょっと見てみたい。
喋るのかな。
パパと朝ごはん食べたいな。
愛を込めて、ルーナ
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ルーナへ
次のクィブラー増刊号を一緒に贈るよ。
君の話を参考にして、ナーロック・エコー(森の声)と森の魔法生物のバランスについての特集記事だ。
それから空っぽの人の話もいれてあるよ。
思念を抜かれた人は危険だ。
見分ける特徴をランキング形式にしてみたよ。
それからキラキラだね。
キラキラしている人は秘密にしておいたほうが良いね。
世界の不思議を解き明かすことも楽しいけれど、ひっそりと隠れている彼らを脅かしてはいけない。
あと、増刊号だけど付録もつけたんだ。
逆さやまびこ検知眼鏡。
かけると聞こえない声が見えるんだ!!
ちょっとまずい奴らだと眼鏡が曇る!(ただ、温度差で曇る事が多いから、判定が難しい)
あとは、空っぽ判定カード、三種類詰め合わせ。
彼らは、3つの偽装をしているんだ。
中身ごと空っぽ。
中身が別で詰まってて、オリジナルがからっぽ。
そして一番危険なのが、向こう側の入口になってる空っぽだよ。
三枚全部が反応したら、この入口だ。
(中身があると反応せず、中身が空っぽだと揺れる。ただし、普通の風でも揺れる)
ルーナは、世界を理解する勇気と目がある。
とても素晴らしい事だと、パパは思うよ。
それからね、ルーナ、森に入れないという意味を少し考えてみるといいね。
狼がでるのかな?
森番の人にもお話を聞いてみるといい、インタビューだね。
そして君がどう考えたか、どう思ったか、また、パパに教えてくれると嬉しい。
それから特別に、パパが思った事を書いておくよ。
君が友達と思う子に話してあげてもいいよ。
空っぽの人はね、ほんとうは空じゃないんだ。
食べられたり奪われたりした人とは、少し違うと思う。
彼らは向こう側に入ってしまった。
そうだね、夢が現実に、現実が夢になってしまったって感じだね。
だから、現実の僕達には、彼らが空っぽに見えて、彼らにとっては僕達が夢みたいなんだろう。
あぁあと、変な声が聞こえたら振り返らずに、その場で跳ねてみて。
影が無事ならいいけど、影がおかしい動きをしたら要注意だ。
それからお菓子を少しポケットに入れておくと良い。
もしかしたら、お菓子をあげると喜んでお家に帰ってくれるかもしれないからね。
ルーナが大好きなパパより
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そして付録付きのクィブラー増刊号が数冊手紙とともに送られてきた。
ルーナは校長先生に一冊あげた。(パパからお世話になってる校長にあげてねって言われた)
その結果、ダンブルドア大興奮!
お代は直接ゼノフィリウス・ラブグッドへ色を付けて送った。
付録の眼鏡を夕食時に着用。
なかなかの反応を得た校長は定期購入するつもりだ。
ルーナは呪いの護符を作れる魔法薬学の先生に一冊あげた。
セブルスは眉根を寄せたが、頷いて受け取った。
お代は直接ゼノフィリウス・ラブグッドへ送った。
娘の近況をしたためつつ、こんなモノを送ってくるな!
とお説教めいた真面目な手紙なのに、ゼノフィリウスには通じなかった!
定期購入すると勘違いされる。
ルーナは、スリザリンのお姉ちゃんに一冊あげた。
葵は大興奮だ!
その場で定期購入をお願いして前払いのお金をルーナに渡した。
あげるという彼女に、ならばと一冊余計にもらう。
やはり、校長と同じく夕食時に頓狂な姿で現れてパンジーに怒られる。
スリザリン寮の談話室にはクィブラーが常備される事となった。
密かに皆読んでるよ!
ルーナの手元には贈答用の一冊が残った。
誰にあげようかな?
同じ寮の友達には、パパの雑誌はあまり歓迎されていない。
と、グリフィンドールの双子が彼女に話しかけた。
「それ、ホグズミードのゾンコで売れば?」
ルーナは衝撃を受けた。
パパの友達も、あっちこっちにばら撒いて売ってくれている。
ならば同じようにルーナがパパの雑誌の宣伝をしてもいいのだ!
ということで、ホグズミードには行けないルーナのかわりに、双子が委託販売の交渉をしてくれるそうだ。
親切だけど、どうして?
お礼は最新号のプレゼントぐらいだよ?
「世の中は、もっと楽しくて、もっと謎が詰まってると思うんだ!
広告記事とか俺達でも出せる?」
「君のパパは、大人にしてはイケてるよ!おもしろい事は、ひろめないと。
ちなみに、俺達もいろいろ商売を考えてるんだ!」
ルーナは双子の言葉に頷いた。
パパの手紙に書くことが増えたね。
***
ダンブルドアは時々立ち止まると、呪文を唱えた。その度に男たちは浮遊感と目眩に襲われる。
強固な迷いの術のようで、解く度にまったく別の方向を向いていた事に気がつく。
「古い呪文じゃ、耳を澄ますと囁きが幾重にも重なっておるのがわかるのぅ。」
楽しそうな校長の様子とは裏腹に、黒衣の男の様子は不穏だ。
無表情で何一つ言葉を発しないが、どう見ても苛つき落ち着きをなくしている。
当然と言えば当然で、目の前で生徒を掠め取られたのだ。
屈辱以外の何物でもなく、まして心を許している様子だ。
何を言った所で怒りに触れるのは目に見えている。
ハグリッドもケルトバーンも、校長の上機嫌とは裏腹に気を重くしていた。
もちろん、自分たちの失態でもある。
最初から娘の同道を許さぬべきだったが、そうすると異変に気が付かなかったとも言える。
スクイブのフィルチが罠にかからなかった事を考えると、魔力がある者と指定した仕掛けも考えられた。
園丁は、魔法を使えなかったが、彼はスクイブではない。
「条件付けはなんだろうか」
「何がですかい?」
「ドヴワティーヌ嬢は護符により護られたが、罠が発動する条件は満たした訳だ。
先に森から帰らぬ者と、共通の部分はあるだろうかとな」
ケルトバーンの言葉にハグリッドは唸った。
「歳も何もかも違うなぁ。魔法族なのは一緒だなぁ先生」
「それと忘れておるが、二人とも純血の魔法族だ」
「あぁ確かに。他には何かあったでしょうかね」
「体が弱い」
セブルスが不意に言葉を挟み、二人は少し驚いた。
だが、それを表には出さずに、ケルトバーンはセブルスに問いかけた。
「そんなに弱いのかね?」
ちょうどダンブルドアが妨害魔法を緩めるのに立ち止まっていた。
話題を振られた男は、少し眉根を寄せた。
「行方不明者も魔力が安定せず、使う事も不自由していた。
彼女も、長距離の移動で動けなくなる。
表に出していないが、アレは、本来は歩くことも辛かろう。
体重も標準より下。
急激に育ったのもあるが、膨大な魔力量を支えるのに体が追いついていない。
本来なら寝付いている。
だが、過剰な魔力を魔道具で発散させるにも限度がある。
奪いすぎても成長にはよくない。慣れさせる為にも普通の生活を心がけている」
初めて聞いた話に、ハグリッドが驚きのためか顎を落とした。
「そんじゃぁ、お姫さんは、病人じゃァねぇですか!」
それにセブルスは煩そうに顔をそむけた。
「病人ではない。虚弱なだけだ」
「歩くのもままならねぇのは、よくねぇ。何で森なんかに」
「吾輩は反対した。」
そうだったとケルトバーンも聞きながら頭を掻いた。
いつも楽しげな様子ゆえ、二人とも思いもよらなかった。
「じゃが、その御蔭で森が危険だと知れた。
多分じゃが、魔法使いの男では、気が付かずに終わっただろうのぅ。こっちの道じゃ」
ダンブルドアが新たな枝道に向かうと男たちも続いた。
「体を魔力に慣らす事も必要なんじゃよ。
人間は慣れるんじゃ、まして成長が止まりつつある。
慣れさせねば、生涯、身動きが不自由なままになってしまう。
あぁして自由にはねさせておけば、そのうちに中身の成長とともに弱さも抑えられる。」
セブルスが守っているしの。
と、続けたところで、当人は嫌そうに言葉を挟んだ。
「ですが、この有り様。
弱らせぬためとはいえ、自由にさせるのにも限度があります。
今回は自分の手落ちですが。
あれの自覚も薄い、誰も叱らぬのは考えものです」
「何を叱るんじゃ?」
微笑む相手と見つめ合う男は、唇を引き曲げた。
「そうじゃ、心配じゃ、愛していると繰り返すだけで良いのじゃよ。
ミネルバのようにな。
じゃが儂ら男だと届かぬ。残念ながら」
と、ダンブルドアは返し、悔やみの混じる笑みを見せた。
「確かに楽しき祝祭の輪で踊るなら良い。
そして此度は儂の手落ちじゃ。
考えるに防げる罠ではない。
じゃが彼女を標的に絞ったわけではなかろう。
それにある意味、此度で良かったのじゃ。
ほれ、秋の収穫じゃとアオイが菓子に仕立てた栗を寄越したろう。
あの頃は、まだ、仕掛けられておらなんだ」
言われたセブルスの顔が一瞬、ひきつる。
それにチラリと視線を寄越し、ダンブルドアは頷いた。
「紙一重じゃったの。
結果はまずかろうが、最悪ではない。
知らぬでアオイだけでなく、他の子供が入り込んでいたらどうなっていたか。
気の毒なのは彼じゃ。
園丁の彼にはほんに気の毒じゃが。この後、入るとしても、我々だけになるじゃろう。」
「……手遅れ、ですか。校長先生の見立てでは?」
ケルトバーンの言葉に相手は何も返さなかった。
だが、そういうことだ。
魔の森は、何がなくとも魔法が使えぬ者がとどまれる場所ではない。
「暫く、森を閉じるが、解決するまでは要観察じゃ。
儂もできうる限り森に入るが、それも雪が降る前までじゃ。
相手が誰かを見極めねば、無策で入るのは危険じゃろう。それに相手も真冬は控えるはずじゃ」
「仕掛けた者が、こちらに出てくるのでは?」
「はて、そこまではわからぬが……。」
「何か御心あたりが?」
「根拠はない。セブルス、君はどうかね?」
言われた男は沈思した。
「わかっちょるんで?」
ハグリッドの問いに、ダンブルドアは口の端を少しあげた。
「城内は女性教諭。外は男性教諭で巡回を増やす。
そして子供たちは森への出入り禁止。
ホグズミードに向かう場合は監督生の引率付きじゃな。」
「それで安全が保てると?」
「相手はの、罠を仕掛ける狩人じゃ。
たぶんじゃが、ケンタウロス達が移動したのは、狩人がいるからじゃろう。」
「罠の条件ってのは、どんな感じだと思いますかね?」
ケルトバーンの問いに、ダンブルドアは少し考えてから口を開いた。
「年齢と性別などを細かく指定していそうだの。
篩の笊を考えると想像しやすかろう、術の組み方じゃ。
じゃから君たち魔法族の大人、戦える大人でも見落とすんじゃ。
魔力反応が出ぬ、つまり置き罠の魔法陣に魔力がない状態なのじゃ。」
「そのような事が可能なのですか?」
「可能じゃ。
自然界にも魔力を吸収する生物、無機物があろう。
我々は自然吸収する物までは、感じ取ることをしない。
過剰魔力を吸収する道具はわかろうが、微かに吸い取られる事に反応はしない。
魔法陣は保持を続ける程度の吸収を行う。
これは古い遺跡、ダンジョンの罠に近いの。
もちろん、そのような場所ならば、微かな罠にも気を張っておろうし、探査の魔法で発見できるじゃろう。
ただ今回、使われた物は、おそらくじゃが、ほんの微量の何かで描かれておる。
自然吸収のもっとも微量な物じゃろう。
そして起動条件は相手の放出魔力。
つまり、高い魔力が漏れ出している子供じゃ。
その魔力を通して起動する。
吸収ではなく、勝手に撒き散らす魔力を浴びての起動じゃ。
アオイは、魔力制御はできているが、自然に漏れ出す量が多い。
成人の魔法使いは体内循環ができている。
違うかね?」
「押し留めれば成長に悪いとして、流していた分ですか」
「そういう事じゃ。
我々、成人し魔力制御のできている者。
もともと低い魔力の者では反応はしない。
さて、こぼれ出た魔力を砂としようか。
条件の篩にまず、砂を入れる。
最初の条件は、魔法族じゃな。
スクイブではひっかからぬし、マグルもじゃ。
次の篩にこぼされる砂は、年齢じゃ。
未成年、じゃの。
園丁の彼も、まだ大人ではない。
次の篩は、魔力量じゃ。
一定ライン以上の、高魔力を保有する者。
純血とは指定しなくとも、ほぼ、当てはまろうのぅ。
そしてここで多分じゃが、次の篩が問題じゃ。
男の場合と女の場合で扱いを分ける。
グリムの話にあるように……。」
「その、すまんですがぁ、グリムってなんです?」
ハグリッドの問いに、ダンブルドアは暗い表情を振り払った。
「グリム兄弟が集めて出版した、マグルの民話童話集じゃ。君達は知っておるかね?」
セブルスは知っているのか、先頭になり背を向けた。マグル育ちならば分かる話だ。
他の二人に聞かせるべく、ダンブルドアは考えをまとめ、話を続けた。
「その中の一つ。
六百年以上前のヨーロッパの話じゃ。
子供が森で迷うんじゃ。
森には人を喰らうモノがおってな。
物語としては、子らは知恵を振り絞り、魔物を倒し、食らうモノの財産を持ち帰り、後はめでたしめでたし。
そんなマグルの民話じゃな。
実際は飢饉に見舞われた親が、子供や年寄りを森に追い出し、それらが共食いをしただけの話じゃ。
終わり方にも虚飾が混ぜられておっての。
森から逃げ延びて戻れば、親が子を喰らう顛末よ。
その罪をすり替えた話、嫌な話じゃ。」
「昔話ですよね?」
慎重で不安げなハグリッドの言葉に、ダンブルドアは曖昧な笑みを浮かべた。
「昔話じゃな。
物語では少年は捕えて肥えさせ、少女を使役するとあるが、これも儂は逆だと考えておるよ。
硬い肉は使役をし、柔らかな肉を喰らう……」
そうして、呟くように続けた。
「昔々じゃ、そうした喰らう者を背教者と呼んだんじゃよ。」
「童話じゃねぇのか……。」
話の方向が分かったケルトバーンも、さらに心が重くなった。
「何で攫ったかは、魔法省の記録には残っておろう。ただ、イギリスからは消えた。」
「……術式の組み方が同じだと?」
ダンブルドアは、先を行く背に目を向けた。
「展開されていた陣を見たかね?」
「記憶できる限りですが」
「後で見せてほしい」
「はい」
校長とセブルスとの会話に、ケルトバーンは考え込んだ。
馬鹿げた、それでいて記憶の奥に引っかかる話が脳裏に浮かんだのだ。
当時も今も、嘘か真かわからぬと口の端に掛けることも躊躇われる話だ。
「……爺様に聞いた記憶があるぞ、そいつぁスコットランドの人喰いじゃぁねぇですかい?」
「ケルトバーン先生、そりゃぁ何の話です?」
ぎょっとするハグリッドをよそに、彼は嫌そうに続けた。
「面倒で厄介な話になる。
BeingなのかBeastなのかも含めてだ。
お前も知ってるだろう。
ブラック・アニス、ハッグ、森の魔って言われる奴がいるだろう。
人に悪さをする魔法生物だ。
子供を食うBlack Annisは、見た目が、もう人間には見えねぇからマグルが見ても魔女とは思わん。
魔法界だと分類はBeing、儂らと同じで知性がある分、非常に危険な輩だな。
で、勘違いしやすいのが老婆の姿をしたHagだ。
奴らは口がきけねぇが、凶暴な野獣だ。
元が魔法族だったなんぞと勘違いされるが、あれは人型のBeastだ。
で、問題は森の魔物じゃぁなく、元々は人間だったやつ、魔法族の扱いだ。
ダンブルドア校長、そういう話ですよね。
魔法界にいる凶暴な生き物じゃねぇ、狂った魔法族の話だ。違いますかい?」
唸るようにケルトバーンは言葉を切った。
「悪い生きもん、悪いやつが入り込んだって話と何が違うんで?」
「マグルの世界で悪さしてるのは、大方がマグル自身だ。
魔女や魔法使いは、身を潜めるもんだ。
大昔からな。
なら、こっちにいる凶暴な奴だろうってんなら、問題だが、それだけよ。
一番まずいのがな、儂らの身内だ。
魔法族の身内が崩れた奴らだ。
そういう話ですよね、校長。
儂の子供の頃には冗談、と、いうかガキどもを躾ける話だと大方は思っていましたが。
魔物に食われたくなけりゃぁ夕暮れには家にもどれってな。
よく言う奴だ。
あぶねぇ魔法生物がでるから、夜が来る前に家に帰れって。
だが、そうじゃねぇ。
校長、貴方が持ち出した話は、まずい方の話だ。
爺様が、子供の躾に出すもんじゃねぇって言う方の奴だ」
「確証はない」
「手口を模倣した輩が出たんですね?」
「さぁのぅ」
「やっぱりよくわからねぇ、何が違うんで?」
「葵を見つけてからにしろ」
振り返り冷たく言い放つセブルスに、ダンブルドアが少し表情を和らげた。
「アオイの前では、話題にしないでやっておくれ。傷つけてしまうからの」
「すんません、どういう意味ですかい?」
問うハグリッドの顔を見て、ダンブルドアはケルトバーンを見つめた。
「君も、わからないかね?」
ケルトバーンはハグリッドに言った。
「恐れた民衆が突き出す生贄の家系って奴だ。
原因がなんであっても、昔は人柱を出すのはよくある話だ。
神話だろうが、民話だろうが、現実の歴史でも語られているだろう。
爺様もその人喰いを恐れた輩が、女を差し出して子供を守ったと言っていた。
子供の母親が多かったが、領主の娘を、値打ちのある娘を差し出すなんて事もあったそうだ。
美人を差し出すと、満足して土地から去るってな。」
「なんでぇ、そりゃ……あんまりじゃねぇか。お姫さんは……あぁそうか、知ってるかぁ」
「そうじゃ、あんまりな話じゃ。だからの、アオイには残酷な話はしないでやっておくれ」
「森に、そんなぁ人でなしが?」
「ひとりで探しに行くんじゃないぞ、ハグリッド。
爺様曰く、何が怖いって、そいつ等は、人間を操ってバケモノにするって話だった。
よくある闇の魔法とは違う、身体の中身まで変えちまう呪いだ。
まぁその辺は与太話も混じって……いねぇのか、ダンブルドア校長先生」
「無駄口を叩く暇があるなら、置いていく。校長、方角を」
「おぉすまぬ」
セブルスの苛立たしげな様子に、皆、無言で先を急いだ。
やがて森が不意に途切れ、荒野が目に入る。
広大な魔の森の中にある荒れ地に、男たちは目を細めた。
暗い森とは一転して明るい。
ダンブルドアの先を歩いていた男が駆けて行く。
「無事のようじゃの」
それで座っている娘を優しく抱きしめでもするかと思いきや、頭をペシッと叩いた。
頭部に居座っていた何かがころりと落ちる。
安心してしまったのだろう、人目も忘れているようだ。
男はガミガミと何か言いながら、娘の身体に魔法をかけ、己が魔法薬をふりかけ、次には何か飲ませている。
その娘はと言えば、叩かれた頭部を片手で押さえながら笑顔だ。
様子を見るに、立ち上がれないほど弱っているのだろう。
「気が付きませんでした。いつも明るい子でしたから。」
ケルトバーンの言葉に、ダンブルドアはほんのりと笑った。
「健気でもあり、諦めてもいるんじゃ」
「何を諦めているんで?」
「純血の末であり美しく裕福である事。
それを賛美する者達が与えるすべてが嘘だと思っている。
いや幻か。
弱音を吐かないのは健気であるが、弱みを見せたくないという事じゃ。
じゃが、皆もわかるじゃろう?
それで皆が魔法にかかるわけではない。
好かれるのは容姿や血の呪いばかりではない。
動物たちをみればよい。
心根が優しいとわかるから、そばに寄りたいと思うのじゃ。
じゃがの、彼女は、酷い現実に晒されすぎた。
親御が生きていれば……。
あぁして、世話を焼いているセブルスの事でさえ、見返りがなければ去ると思っている。
もしくは魔法に囚われた男だからとな。
確かに魔法じゃ。
だが呪いではない。
男が心を寄せるのは、何も欲望や見返りの為だけではない。
血筋に寄る呪いではないのだ。」
「呪い、ですか」
「お前さんなら、気がついておろう。
彼女には美しい魔法生物の血が入っている。
それもひとつではない。
複数の血じゃな。」
「……まぁ骨格が違うんで、わかりますが。ですが悪い事じゃぁありません」
「そうじゃの。
悪い事ではない。
じゃが、楽しい話ばかりでもない。
それを知らぬ子供であれば危ういが、まだまだ幸せであろうに」
「お姫さんは、不幸じゃありませんよ」
「そうさの、ハグリッド。その通りじゃ。
じゃが、信じる事もできないんじゃ」
「よく、俺にゃぁわからんです」
「彼女は自分の持って生まれた資質を喜んではおらぬ。
例えるなら、金持ちの子供である自分に群がる大人が怖いんじゃ。
子供に、おべっかを使う大人じゃな。
優しくしてもらっていたのに、金がなくなれば邪険にされる。
彼女は自分に向けられる優しさは、それと同じ嘘じゃと思っているんじゃ。」
「難しい話で、それに俺はぁ別段、お姫さんが金持ちじゃなくたって、同じです」
「儂らもじゃよ。
儂らは、彼女を好ましく思う。
彼女の明るさや優しさ、子供らしくない思いやりや考え。
彼女の中にある可能性や未来が見えるからじゃ。
他の子供たちと何らかわらん。
ハグリッド、お前の飼い犬だとて、ああして周りをウロウロしているのは、優しい娘がただ好きだからじゃ。
じゃが、彼女からするとな、すべてが呪いのせいなのじゃ」
「同族というか、同じ血筋の人間と会わせてやりゃぁいいじゃないですかね。
同じ系統の混血の女達は、堂々としたもんで。
脂下がる男を楽しんでますぜ?」
ケルトバーンの言葉に、ダンブルドアは悲しい目を向けた。
「誰もが同じ苦しみを抱えている訳では無い。
例え同じ血が混じっていてもじゃ。
彼女が諦める、絶望する気持ちはわからないかね?
隠れ潜み暮らしていた、最後の家族さえ失われてしまった。
誰も信じられない事を責める事はできない。違うかね」
「だからですよ、親になれる人間はいないんですか?
子供のうちの悩みは、いっちゃぁ何だが近しい血に育てさせるのが一番です。
まぁ魔法生物の話になっちまうが。」
「攫われるのがオチじゃ。」
「ヨーロッパには同じ血が混じる魔女は結構いますぜ」
「そこじゃ。ヴィーラとしておるが、もともとの血筋も特別じゃ。
さらに母親の血筋に混じる生き物も厄介じゃ。」
「ほぅ、どんな魔法生物で」
「マグルの世界では、こちらも神話の生き物じゃ。
ニュートにも聞いてみたが、ほぼ確実じゃの。」
「スキャマンダー氏が知る生き物で?」
「大昔の東の国の神話が始まりじゃの。
セブルスは……、しばらくかかりそうじゃ」
娘の頬を両手でくるんで覗き込む男。
たぶん、説教をしている風の診察だろう。
自分がやってもよいのだが、セブルスは思ったより取り乱しているようだった。
他者の視線があるところで、無防備な姿を見せている。
心配と安堵と、そう囲い込んでいる気持ちが見えた。
人間としての当たり前の心の動きだ。
欲望や打算ではない。
人としての愛の姿だ。
そして娘が信じられずにいるのも、わかる。
あの取り乱し方は、血の縛りに寄る反動でもあろうとダンブルドアは見て取った。
確かに呪いはある。
だが……。
セブルスの姿を、その全景を見ていると不意に理解が訪れた。
娘の支配能力は影響していない。
愛を向ける心根には手心をくわえていない。
そう、人間としての愛だ。
彼女を賛美する犬は支配に寄る強制だが、人としての思いやりを向ける者は違う。
セブルスには、強制をしていない。
繋がっていたとしてもだ。
優しさを送り続けているだけだった。
娘の方から。
心にある種に陽射しをあて、水を注いだだけだ。
支配は男には与えられていない。
つまり彼女の能力は、感情の増幅だ。
ダンブルドアは、思わず微笑んでいた。
増幅であって、魅了の強制や意思を奪う魔法ではない。
好感が無い者は、縛れない。
有るからこそ、囚われるのだ。
彼女は、背教者にはならない。
だからこそ、生贄なのだ。
そしてセブルスの姿を眺めながら、自然と笑みが深くなる。
愛とはあの男にとって困難な感情しか与えられないのだろうか。
「まずは東の国の魔法生物の定義の違いじゃ。
多くが自然信仰を元に獣の姿や動植物などの自然の姿をしておる。
そして神使や神そのものとも考えられておる。
まぁ魔物か獣かの境界が曖昧なんじゃ。」
「妖精ですかい?」
「精霊に近いのぅ」
「そいつぁまた」
「神のように祀られる、自然神、神格のある生き物となっておる。」
「そりゃぁヴィーラどころじゃぁねぇ厄介さですな。
やけにひれ伏したくなるような神々しい姿がそれかぁ」
それにハグリッドが、言葉に詰まりながら言った。
「お姫さんは、その、誰も信じていないんですかい?」
それにダンブルドアはため息を混じらせ皮肉げに口元を曲げた。
「愛も信頼も、この世にあることは知っておるさ。
じゃが自分には手に入らないものだと諦めているんじゃ。
苦しみと恐怖が大きすぎての」
何か娘が言ったのだろう、ロクデモナイ事だったらしく、男が項垂れて顔を覆っている。
ケラケラと娘は笑っているが、その表情は優しいものだ。
子供ではなく、まるで母親のようである。
「信じている。
だが、諦めてもいる。
自分はいつか真心を裏切られ、ドラゴンの供物として置き去りにされるだろうとな。
情けなくも、儂もセブルスもそんな無情な男と思われておる。」
それにケルトバーンがため息をついた。
「案じめさるな。そもそもそんな事にはなりません。
ドラゴンは食べ応えの無い人間を喰いませんし、卵を抱えた雌じゃなければ怒り狂いもしませんて。
いつか彼女も信じるでしょう。
おっ、やっぱりニフラーだな。
彼女はやっぱり魔法生物学を深く学ぶべきだ」
「ダンブルドア先生、俺も難しい事はわからねぇが。
たぶん、信じてもらえねぇのは、男の努力がたりねぇってだけです。
お姫さんが、どうのじゃねぇし、どう考えても、男が馬鹿なんでさぁ。
見てりゃぁわかります」
そうしてハグリッドが呆れたように目を回して見せた先に、娘を抱えて歩いてくる男の姿がある。
口を引き曲げ、憤懣やる方ない風を装っているが、ローブの下に抱える娘をしっかりと包み込んでいた。
いや、どう見ても抱きしめて隠している。
馬鹿なのは誰かは一目瞭然だった。
「確かに馬鹿ですなぁ、優しくしてやりゃぁ良いのに。いやガラじゃねぇか」
「言ってやるな、実に面白いであろう」
「あ〜そういう趣向でしたか」
「儂も努力をするべきか、ハグリッドの言うとおりじゃの」
「いや、ダンブルドア先生の事を言ったわけじゃねぇですよ。
どっちかっていやぁリリーを女神とか、お姫さんに言ってるらしいスネイプ先生の方です」
笑顔が固まるダンブルドアに、ハグリッドは続けた。
「おりゃぁ三十過ぎた男が、小さな娘っこに言う話じゃねぇと思うし、なんだぁ、ほら、番になりそうな生き物に向かって言うのも、こんな俺にだってわかるぐれぇ駄目な話だってぇのもわかるんで。
努力っつーか、俺には欠片もわからねぇっていう」
「黙っとけよ、ハグリッド。ほら、お嬢さんが来たぞ」
娘が無事であった事を安堵していたが、皆、心を沈ませていた。
事実上、今回の探索は中止であり、園丁は行方不明のまま冬を迎える事になるだろう。
それに対してハグリッドは、不謹慎だと思ったが、園丁の死体が、彼の友人たちによって掃除されてしまう事を危惧していた。
そしてどうせ掃除されるなら、ケルトバーンやダンブルドアが森の奥に行く前に、掃除が終わっていれば良いと、どこかで考えていた。
園丁には気の毒だが、友人の生き物が発覚することも恐れていた。
「無事で良かった、爺は寿命が縮んだぞぃ!」
そんな各々の思考を散らすようにダンブルドアは、ことさら明るい声を出した。
娘はごめんなさいと、ニフラーを片手で握ったまま、文字を浮かべた。
実にキレイな魔法文字を描いてみせるが、男たちは文字よりも、彼女の手の中が気になった。
ふんぞり返ったニフラーが両手をあげて、威嚇というか変なポーズをしている。
セブルスにはたき落とされたはずが、それにしてはふてぶてしい。
ふんふんしながら、足を動かしている。
「……怪我は治療しましたが、後ほどマダム・ポンフリーに診察してもらう方がいいでしょう。
ただ、この場所にて少々問題があるようです」
ウンザリした表情の男が娘の頭を顎で押さえた。
「この馬鹿者が余計な事をしたようで」
と、利き手を自由にしたまま、しっかりと押さえつける。
グイグイと押さえつけられた娘は、降参だと男を頭で押し返している。
お互いに慣れた様子で、予想以上に普段から甘やかしている様子が知れた。
「……で、何があった?」
娘の口元が少し尖る。
何やら男に文句を言っているようで、どうやらいつも通りの調子に見えた。
ほっと空気が緩む。
自然に、何があったのかと、やたら主張の強いニフラーに目が行く。
その様子に、ため息を吐きつつセブルスが答えた。
「お調子者が隠れもせずに、未確認と思しき遺跡を開いたようです。
罠に掛かった後に、さらなる危険を開くとは、呆れ果てた所業。
戻り次第、暫くは外出も一人歩きも禁止だ。」
これには娘が男の胸をテシテシと叩いて反抗を訴えている。
ついでにニフラーもその胸元で蠢き、奇矯な仕草で男を煽っていた。
説教は無駄と言わんばかりだ。
「ほう、遺跡とな。それは何処じゃ?」
「遺跡かっ」
「……。」
「仕方なかろう?」
森の探索は一旦中止するしかない。
酷いが行方不明者を探すことが相手の意図に嵌まる可能性もある。
話題をそらすのが妥当だ。
言外の指示を汲み取ったセブルスは、深いため息の後に皆を促した。
「こちらです」