12話 責任を負う者(前編)
この残酷な世界で、共に生きていける友人は誰一人いないだろうと思っていた。ある日のブラックマーケットでの出来事だ。当時、ヨシカはヘルメット団で暮らしながら、夢などとは全く無縁の生活を送っていた。
「うう……」
喧嘩に巻き込まれ、右目を負傷した一人の少女と出会うまでは。手にしていた鯛焼きを差し出した。少女が夢中で食べ始めると、ヨシカは尋ねた。
「チビ、名前は?」
「朝霧スオウ……よろしく。」
少女はにっこりと笑った。その微笑みだけは、今も忘れられずに生きてきた。
そして現在、アビドス高等学校のとある教室。教室の外では、団員たちが銃を手に、ドアの前に立っていた。校舎は度重なる戦闘で荒れ果て、無傷の箇所を探すのが難しいほどだった。
ガタン!
ヨシカはドアを蹴破って入ってきた。額から血を流し、足を引きずりながら、ユメを担いでいた。
「大丈夫?」
見張りをしていたヘルメット団の団員が尋ねた。
「多少はな。アビドスの生徒はタフだと聞いていたが、最後まで抵抗してくるとは思わなかった。」
彼女は床にユメを寝かせると、柱に寄りかかって息を整えていた。ブラックマーケットで黒鳥会を倒した後、アビドスへ向かうべきかどうか、随分と悩んだものだ。組織が解散した以上、すぐにその本部を掌握してしまえば、構成員が抱えていた資金はもちろん、彼らの担当区域まで手に入れることができたからだ。アビドス高等学校を手に入れたところで、何の得にもならない。それどころか、カイザーコーポレーションと敵対することになりかねないということも、十分に承知していた。
「スー坊……」
それでもヨシカはここへやって来た。八神姉妹をはじめとする団員全員も、彼女に従った。彼女たちはここで、すべてを終わらせる覚悟を決めていた。
「おい、梔子。やっと起きたのか?」
時間が経ち、ユメはゆっくりと目を開けた。夜の教室、そして周囲を取り囲むならず者たち――とても和やかに会話できるような雰囲気ではなかった。
「どうしてこんなことをするの? あのカンダって人の仲間なの?」
「まさか、そんなわけないだろ? むしろ、そいつを倒しにここへ来たんだ。お前らには感謝してるよ。」
「じゃあ、どうしてこんなことをしたの?」
「それはそれ、これはこれだから。お前がスオウを連れて行ったんだろ。砂漠で、俺たちの連中に銃を向けさせたりもしたしな。」
ヨシカは座っていた机を蹴って立ち上がり、ユメに近づいた。
「スオウは、俺たちバキバキヘルメット団で5年間一緒に過ごしたんだ。苦しい暮らしの中で互いに支え合い、必要とあらば共に戦ってきたのさ。」
ヨシカも床に腰を下ろし、ユメと目線を合わせた。ユメの視点から見るヨシカは、スオウに似ていた。
「こんなところで借金なんか返しながら、人生を腐らせておくわけにはいかない。」
「君たちがスオウちゃんの友達だったんだね。」
「俺たちの話、聞いてたのか? そういうことだ。だから、もうブラックマーケットに戻って……」
「恥ずべき生き方をしてきた、と言っていたよ。」
「何だって?」
ヨシカは表情をこわばらせた。
「……そんな嘘をついた理由は、何だ?」
ヨシカは片手で短機関銃を構えた。銃口は震えていた。
「嘘じゃないよ。スオウはここで普通に暮らしたいって言ってたんだ。」
「ここで過ごすのがどうして普通なんだ? 今より貧しくなるだけだろ。すぐに戻らなきゃいけないんだから、どこにいるか教えろ。」
「決めるのはスオウちゃんだよ。」
ヨシカは短機関銃を収めた。
「……」
顔に滲んだ涙を拭い去ると、ヨシカは何食わぬ顔でユメに話しかけた。
「そうか? それなら、あいつが本当にどこを選んだのか、確かめてみようじゃないか。」
ヨシカはユメの肩に腕を回し、再び短機関銃を一丁手に取った。
「お前を選んで、俺の連中を突破してここまでたどり着くか。それとも俺を選んで、大人しくブラックマーケットへ戻るか。」
その瞬間、廊下から走ってくる音が聞こえた。
「ヨシカ!」
団員の一人が、教室のドアを開けて入ってきた。「どうした?」
「パトカーが来た! スオウが乗ってたんだ!」
ヨシカは、しばらく目を閉じた。
「やはり来たか。」
一方、アビドス高等学校の正門前。5人の団員たちが倒れた。
「私のパトカーがあああ!」
交戦の最中、パトカーが身代わりとなって蜂の巣にされ、爆発してしまった。サヨはその場にへたり込み、泣き叫んだ。意気揚々と臨んだものの、始末書一枚で済むような事態ではなさそうだった。
「ヴァルキューレ、出ていけ!」
「その行儀の悪さ、直してやる!」
運動場から駆けてくる団員たちの姿が見えた。ヘルメットが壊れていたり、包帯を巻いていたりしたにもかかわらず、彼女たちは戦いに臨んだ。
「くそっ……先に行け!」
サヨは拳銃を構え、団員たちに向けて撃った。
「スオウさん、早く!」
廃車となったパトカーの背後で、サヨが援護射撃を行う中、マフユは塀の前で両手の指を組み、足場を作った。彼女の準備が整うと、スオウは即座に駆け出した。塀を飛び越え、砂の地面に着地した。
「よし……」
「応急処置をしただけですから、あまり無理はしないでくださいよ!」
「できれば、の話だがな。」
塀の向こうで、マフユはすぐにサヨと合流し、団員たちと戦った。
そうして、ユメから受け取った黒いショットガンを手に、アビドス高等学校へと戻ることになった。
ドカン!
運動場の真ん中で爆発が起きた。団員の一人が手榴弾を投げると、体を転がして攻撃を回避し、閃光弾が飛んでくると目を閉じて方向を計算し、ショットガンを撃った。
「ぐっ!」
仲間であり友人でもあった団員たちは、スオウの手によって一人また一人と倒れていった。彼女たちの恨みと、彼女自身の罪悪感が、その足を捉えていた。それでも、彼女は迷うことなく前へと進んだ。
「くそっ、もうやめろ!」
学校の入り口から団員の一人が外へ出てきて、スオウのもとへ駆け寄った。彼女も他の団員たちと同様に状態が悪く、弾薬も残り少ないのか、アサルトライフルの銃床を振り回していた。
「こうやって持つんじゃないよ。」
チャリン!
弾薬を無駄にしたくなかった。スオウはショットガンを構えて攻撃を防ぎ、彼女を蹴り飛ばした。倒れた彼女の前に歩み寄り、銃口を向けた。ついさっきまで銃口を熱くしていたその黒いショットガンは、今はひどく冷たかった。
「お前……どうしてこんなことを……」
ゴーグル越しに見える、恨みの混じった視線がスオウに向けられた。それでも、銃口が下がることはなかった。
「ユメはどこだ?」
「くっ、保健室の隣の教室にいたよ。」
「わかった。」
「ところでさ。本当にいくつもりか?」
入り口に足を踏み入れた瞬間、団員は彼女に尋ねた。倒れた団員たちの中に、スオウがこの学校に残ることを望む者は一人もいなかった。
「そうするつもりで、ここに来たんだから。」
スオウは彼女たちを後にし、校舎の中へ入った。
「ユメ!」
保健室前の廊下、そこで待っていたのは早乙女ヨシカただ一人だった。
「待っていた。」
ヨシカはかなり疲れ切っているように見えた。額には血を拭った跡があり、足には包帯が巻かれていた。
「ユメはどこにいる?」
「久しぶりに会った友達にかける言葉じゃないだろ?」
「言え!」
スオウはショットガンを構え、ヨシカを激しく問い詰めた。一方、ヨシカは短機関銃で天井を指し示した。
「屋上で待ってる。スー坊、俺たちの会話にあの娘が割って入る理由なんてないだろ?」
「もう大きくなりすぎた。ヘルメット団がいなくても、自分の行く先を自分で決められるくらいに。」
ヨシカはふっと笑った。スオウとの対決を誰にも邪魔されたくなかったため、あらかじめ団員たちに命じて、ユメとヴァルキューレの生徒を屋上へ連れて行かせていた。スオウが自分を倒せば人質を解放すると伝えてあった以上、ヨシカも退くわけにはいかなかった。
「そう言いつつ、ユメを探してここまで来たんじゃないか?」
ヨシカは窓辺に歩み寄り、窓枠に腕をかけた。
「あの子は、大切な友達だ。」
「じゃあ、俺は? 俺たちは?」
「今はよく分からない。そもそも、手帳を盗んだりしなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。」
「そう、その手帳一つがきっかけで、こうなったんだ。だから、俺はここまでやったんだ。カンダが操る下部組織はもちろん、黒鳥会を叩き潰し、こうしてここまでお前を迎えに来たんだよ。スー坊、お前のためにね。」
「私のために?」
スオウは一瞬、怒りがこみ上げてきたが、徐々にそれを飲み込んだ。まだ聞くべきことがあったため、軽率に行動するつもりはなかった。
「どうして手帳を盗んだんだ? まさか、それを売って金でも稼ごうとしたのか?」
「違う。お前の誕生日のためだったんだ。」
ヘルメット団を追い出され、カンダの事務所からなんとか逃げ出したその日――最悪の一日が、スオウの誕生日だった。
「はは……」
スオウは額に手を当て、呆れたような笑みを浮かべた。
「お前の誕生日や趣味、さらには寝る時の癖まで、俺はよく知ってるんだぜ?」
「忘れたって? スー坊、お前が生まれた日じゃないか。」
ラーメン屋でヨシカが言った言葉が頭をよぎった。カンダがいなかったら、あの場所で、あの忌々しい誕生日プレゼントを受け取ることになっていたかもしれない――そんな考えが脳裏をかすめた。
「だから、あの時誕生日の話を持ち出したんだ。」
だが、あり得なかった過去を想像するには、あまりに遠くまで来てしまった。
「黒鳥会がいない以上、ブラックマーケットは俺たちのものだ。一方、この学校はお前にとって足かせに過ぎない。学校は借金まみれで、生徒はあいつ一人だけだ。」
否定できないことだったので、スオウは何も言わなかった。
「だがな。お前がヘルメット団に戻れば、未来は明るい。黒鳥会が消えた今、ブラックマーケットの最強は俺たちになれるんだ。だから、頼む……」
ヨシカは傷だらけの腕で目元を拭い、言葉を濁した。
「お前も知っているはずだ。ブラックマーケットにいる限り、そのしがらみは断ち切れない。生徒会の手が及ばない場所だからこそ、その座を奪い合って、互いを壊し、潰し合っているんだ。」
スオウは、しばらく目を閉じてから、ゆっくりと開けた。
「ユメと一緒にいるうちに、ようやくわかったんだ。ここにいれば、夢を持てるってこと。暴力で手に入れるような、脆い頂点なんかじゃない。友達と一緒に、ごく普通に生きていくこと――それこそが、私の夢なんだ。」
「そんな平凡な夢が、この学校で叶うと思う?」
ヨシカは腕を離し、スオウのもとへ歩み寄った。
「いつか……」
「なら、証明してみせろ。仲間たちを倒したお前が、俺に勝てるのかを。ユメを守りたいのなら、俺を倒して行け。」
「なら、ここで決着をつけよう。」
「行くぞ、スー坊!」
ヨシカが先にスオウに向かって飛び上がり、短機関銃を乱射した。一方、スオウは滑るように身を投げ出し、下から黒いショットガンを放った。二人の少女は未来を懸け、最後の戦いに身を投じた。
物語の構成を見直し、第1章と第2章の掲載順を入れ替えました。