5話 梔子ユメの絆ストーリー(前編)
ある朝、ひどく嫌な夢から目覚めたスオウは、ユメが家から忽然と姿を消していることに気づいた。
「ユメ?」
一瞬動揺したものの、スオウは気を取り直して状況を整理した。アビドスに来たその夜から、ユメの説得もあって、彼女はここに滞在するようになっていた。普段はスオウが先に起きてユメを起こし、その後、一緒に簡単な朝食をとってから学校へ行く支度をしていた。
「……先に行ったのか?」
クローゼットに掛けてあった制服を着て、学校へ向かった。砂埃の積もった道路や所々に見える廃屋、殺伐とした雰囲気はブラックマーケットと大差ないが、この通りにはごく普通の住民たちの姿があった。散歩に出かける老いた犬の獣人や、出勤していく楕円形の顔をしたロボットたちを眺めながら、スオウはほのかな安らぎを覚えた。
そうして学校に到着したスオウは、すぐに生徒会室の前まで行き、ドアを開けた。
「ユメ、先に学校に行くならメモくらい……」
「ちょ、ちょっと!」
ドアを開けて入った瞬間、スオウは体がこわばった。ユメは慌てて床に置いてあった制服を手に取り、露わになった胸を隠した。青い水着の下から真っ白な肌がのぞいていたが、彼女の顔は夕焼けよりも赤く染まっていた。
「なんだ?!」
彼女は先日のメイドカフェを思い出し、後ずさりした。
「今日は水着カフェか?」
スオウが左目を覆っている隙に、ユメは素早く水着に着替え終え、彼女に近づいた。
「そうじゃないんだ。今日はすごく大事な日だからね。それに、スオウにはもっと寝てほしくて、わざと起こさなかったんだ。いいことしたでしょ?」
「え? まあ、ありがとう。」
今日も、すんなりとはいきそうになかった。
「前も水着を着ていた気がするけど……アビドスには、たまに水着を着る伝統でもあるの?」
「ふふ、ある意味そうかもしれないね。」
「えっ?」
不吉な予感がした。ユメがロッカーから別の水着を取り出した。それを手渡すと、スオウは無言で受け取った。
「何これ?」
ユメはにっこりと笑った。
「アビドスの伝統。」
熱を帯びた銃口よりも熱い太陽の下、二人の少女は水着姿で、学校から持ち出した古びたスコップを使って砂漠に穴を掘っていた。
「ユメ。」
スオウは額を伝う汗を拭い、ユメに尋ねた。
「何?」
「なんで水着を着て地面を掘ってる?」
「制服を着て砂を掘るわけにはいかないでしょ。」
「いや、そうじゃなくて……」
嫌いではないが、一発小突いてやりたい気分になった。倉庫から持ち出したスコップで1時間以上も掘り続けたのに、出てくるのは砂ばかりだった。照りつける日差しが髪を焼き、ユメを含めた周囲の景色が揺らぎ始めた。
「水着の話はさておき、ここで穴を掘っている理由は何だ? まさか、この下に宝物でも埋まっているのか?」
ヘルメット団時代にも、アビドスの砂漠に宝があるといった噂など、聞いたことはなかった。
「そうなんだ。以前見つけた書類で知ったんだけど、昔アビドスの生徒会長が秘密の展示館を作っていて、それが『生徒会の谷』なんだよ。」
「まさか、あの展示館に金になりそうな物があると思って掘り返してるのか?」
「ビンゴ!」
「はあ、まったく……」
スオウは首を振りながら、無駄骨だと思いつつも穴掘りを手伝い続けた。
「あと1時間だけ手伝ってあげる。」
「本当?」
無邪気に笑う彼女を見て、自分でも気づかないうちに口元が緩んだ。
「でも、今回の昼飯はお前が奢れ。ここ数日、あのメイドカフェでオムライスばかり食うのには、もううんざりなんだ。」
「よし、昨日いい店を見つけたんだ。ところで、スオウちゃん。」
「何?」
スオウはスコップを動かすのをやめた。
「あそこに人が見える気がするんだけど、私の目が変なのかな?」
ユメが指し示したその先に、生徒たちの姿が見えた。頭上にヘイローが浮かんでいるのを見る限り、幽霊ではないようだった。
生徒たちはエンブレムの付いた帽子をかぶり、リュックサックを背負っており、三脚のような形の測量機器を設置して、その上に旗を立てた。近づいてみると、旗にも帽子のエンブレムにも、列車が描かれていた。
「ハイランダーの生徒みたいだ。」
「そうみたいだね。おーい!」
ユメは自分が水着を着ていたにもかかわらず、生徒たちのもとへ駆け寄った。
「何、あの人?」
「もしかして変態じゃない?」
ハイランダーの生徒たちがひそひそと話す声が聞こえると、スオウもユメの後を追って駆け出した。
「ちょっと待って、この子はアビドスの生徒だよ!変態なんかじゃない!」
もちろん、そう言うスオウも水着を着ていた。
「お前はまた何だ?!私たちの機材に手を出すな!」
誤解を解くのに、それほど時間はかからなかった。ある生徒が動揺して腰の拳銃に手をかけた瞬間、スオウが狙撃銃を取り出し、先んじて銃口を向けたのだ。
「数が多いからって、うぬぼれるなよ。こう見えても、私たちは強いんだからな。」
「ひっ!」
スオウの冷徹な眼差しと引き金にかかった指を見て、両手を挙げて拳銃を落とした。だが、その生徒は狙撃銃を向けたスオウではなく、ユメを見つめていた。他の生徒たちも驚いて武器を捨て、手を挙げたため、スオウはゆっくりと銃を下ろした。
そうして生徒たちは、半ば強制的にユメたち一行の話を聞かされた。
「ごめん!私たちも、上から調査しろって言われたんだよ。」
ハイランダーの生徒たちのリーダーが先頭に立ち、生徒会長であるユメに頭を下げた。
「それでもアビドスの地なんだから、先に言ってくれればよかったのに。」
ユメが言った。
「この近くに使われていない線路があるんだけど、あれは君たちの所有で間違いない?」
続いて、スオウが尋ねた。
「うん。アビドス砂漠は君たちの所有だと聞いていたけど、ちょっと調査してから行こうと思ってね。最近、ハイランダーで新しいプロジェクトを企画していて、候補地を調べているんだ。まさか水着姿で地面を掘っているとは思わなかったけど。」
「自慢することか。」
スオウがたしなめた。
「こっちは生徒会長だろうけど、君は誰?新入生?」
ハイランダーの生徒に尋ねられ、スオウはふと、自分もその一員であるかのような感覚を覚えた。短い間とはいえユメと生活を共にするうちに、いつの間にか自分も生徒になったかのような錯覚に陥っていたのかもしれない。だが、ブラックマーケットで誰かが「ペロロ手帳」を取り戻すか、あるいは犯人を捕まえれば、ヘルメット団に戻れるかもしれない。そんな思いが、スオウの足をその場に留まらせていた。
「いや、ちょっと事情があって、ユメにお世話になってる。」
「そうだったんだ。」
スオウが答えた瞬間、ほんの一瞬、ユメの表情が少し沈んだ。
「それで、お前たちはこれから持ち主の目の前で測定するってわけか?」
「あ、あはは。いや、私たちはもう帰るよ。本当に悪かったな!」
リーダーの叫び声を最後に、ハイランダーの生徒たちは荷物をまとめ、逃げるようにして砂漠を後にした。スオウは、スコップよりも銃を再び手に取りたいと思っていた。
「あんなふうに逃げてるけど、捕まえなくていいか?」
「私たちが探してるお宝を盗むわけじゃないし、ちょっと調べてるだけでしょ? そのくらいなら……」
「私がとやかく言う立場じゃないけどさ……」
そうして二人は、続けて砂漠の砂を掘った。邪魔者がいなくなったので、快適に作業ができた。
タタタターン!
丘の向こうから数発の銃声が聞こえてくるまでは、の話だが。
「まったく、厄介だな。とりあえず行こう。」
「ん!」
ユメたち一行は丘へと駆け出した。丘の向こうには予想通りハイランダーの生徒たちがいたが、その傍らにはヘルメット団の団員が2人いた。
「おい、お前ら、持ってるのはこれだけか?」
「現金だって全部かき集めても、せいぜい交通費にしかならなさそうだよ、姉さん。」
団員たちは生徒たちの荷物を見て、嘲笑した。せいぜい水筒と弁当、それに金にもならない測量機器があるだけだった。武器も拳銃だけだったので、特に価値はなかった。
「他のものは全部いいから、測量機器とお金だけは持っていかないでくれ!」
「どっちか一つでもなくなったら、私たちは帰れないんだよ!」
「へへ、私たちもう終わりだ。この砂漠に埋もれて、ユメとあの眼帯の奴に見つけられるんだろうな……」
ハイランダーの生徒たちはそれぞれ反応を示して抵抗したが、団員たちは小銃を向け、生徒たちを威嚇した。
「うるせえ!俺たちだってここまで来たんだ、手ぶらで帰れるわけねえだろ!」
狙撃銃のスコープ越しに見た瞬間、指がふと止まった。ヘルメットの下から覗く、二人の紫色の髪が見えた。
「こ、こいつらは……」
「どうしたんだ?」
スオウは深呼吸をした。そして、引き金に指をかけた。
「何でもないよ。あれはあれ、これはこれだから。」
ついに彼女は引き金を引いた。
ターン!
「ぐはっ!」
団員の一人が狙撃弾に撃たれて倒れた。
「何事……っ、痛っ!」
もう一人の団員は、気絶した仲間を見ると、彼女の体を揺さぶりながら周囲を見回したが、すでに狙撃弾は彼女の太ももを撃ち抜いていた。
「誰だ!」
銃弾が飛んできた方に向かって叫んだが、すでに拳銃の銃口がヘルメットに向けられていた。
「その子たちを放して。……もう、やめよう?」
ユメの拳銃だった。
「今すぐこいつらを解放しろ。」
スオウは銃を向けたまま、そのまま丘を降りてきた。ヘルメット団の団員がふと顔を向けると、水着姿のスオウとユメの姿を目にし、その場にへたり込んだ。持っていた小銃を取り落とすほどだった。
「うわああ!お前ら、何なんだ?!」
「みんな反応が同じだね?」
「私たちの服を見てみろ。」
スオウがツッコミを入れた。
「ユメ、あの子たちを連れて先に行ってくれ。私はヘルメット団に話があるから。」
「何かあったの?」
「……挨拶だ。」
そうしてユメは、ハイランダーの生徒たちを解放し、持ち物を返してやった。生徒たちは手足をガタガタと震わせ、気まずそうな表情を浮かべていた。それでも、ここには長居したくないと思い、その場を立ち去った。ただ一人を除いては。
「ありがとう。」
ハイランダーの生徒が言った。
「ねえ……」
彼女はためらっていた。
「友達が行っちゃうよ。今なら追いつけるはず。」
「君の言う通りだ。私はハイランダーの人間だからな。」
その生徒は荷物をまとめ、振り返った。二人とも、この時ばかりは太陽がより一層激しく照りつけているような感覚を覚えた。
「さようなら、先輩。」
彼女が立ち去ってしばらくすると、スオウが戻ってきた。だが、いつものスオウらしくなく、口を開けてはまた閉じることを繰り返していた。何かを言いたいものの、口にする勇気がなかったのだ。
「今日はもう帰ろう。約束通り、ラーメン屋に連れて行ってあげるよ。」
「ユメ……」
ユメはスオウに何も尋ねず、そのまま学校へ戻った。
水着から制服に着替え、昼食をとるために向かったのは、最近新しくできたラーメン屋だった。看板は真新しく、中に入ると柴犬の獣人が愛想よく出迎えてくれた。
「いらっしゃい!」
開店したばかりの店だからか、ユメとスオウ以外には店主の姿しかなかった。ユメに案内されて席まで来ても、スオウはまるで針のむしろに座っているような心地だった。
「さあ、座って。」
「うん……」
「何かあったの?」
「それが……」
「昔の友達に再会したから?」
ユメの言葉が終わった瞬間、店主がラーメンを作る音だけが店内に響いていた。
中間試験の準備のため、しばらくは一日おきに更新する予定です。
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