国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!? 作:haku728
ディルクは魔導士でありながら、剣技もエルサイムには並ぶ者は居ない。
ソフィーナに仕え始めた頃、彼女の警護のためには剣技の必要性も痛感し、当時剣聖と呼ばれていたガーランドに師事を仰ぎ、日々剣の修行に明け暮れた。
夜更けまで汗を流して剣を振る彼に対して、王女は度々心配して声をかけた。
しかし彼は「このままでは殿下をお護りすることは叶いません。今暫し鍛錬をお許しください」と言ってやめなかった。
やがて、師匠からは『お前は魔導でなく最初から剣の道を志していれば、大陸一の剣士と成れたであろう』と言われるようになった。
《剣による護身と魔導による治癒》―それがディルクが思い描いた理想の護衛の姿であった。
そんな彼の剣は、敬愛する主のうなじに振り下ろされた。
ヒュンッ!と静かに風を切る音が鳴る。
するとソフィ―ナの首に直線の赤い筋が浮かび、頭部がゆっくりと胴から離れた。
そして首は切断面を下にして落下し、そのまま地面に立った。
遅れて首を失った胴体は血を吹き出し、がっくりと前に崩れ落ちる。
敵軍に向いたソフィ―ナの表情は、ディルクの目には穏やかに映った。
ディルクは跪いて剣を恭しくその傍らに置き、オルグンに向き直って平伏し、「十字の誓いの儀……滞りなく……終了つかまつりました」とかすれた声で宣言した。
全軍は息を飲んでこの光景を見守り、声を発する者は一人もいなかった。
オルグンも無言で彼女の姿を見つめていた。
「だ、大王……」
しばし後、ようやくオルドスが声を絞り出したその時であった。
「見事なり王女!確かに見届けた!」
雷鳴のような声でオルグンは叫んだ。
そして「帰るぞ!」と言って馬首を返し右手を挙げた。
すると兵達が海が割れるように左右に分かれ、道を開いた。
そして彼は馬を操り、その中央を悠然と引き揚げていく。
「くっ!悲願の大陸統一まで……最後の一国であるというのに……是非も無し!」
老将も唇を噛み、何度も城に向かって振り返りながらも後に続いて行く。
オルダイはしばし声を失いソフィ―ナを見つめていた。
しかし、ふと城壁上のフィリップが目に入る。
(あのおっさん……最後まで高見の見物かよ……)
彼はチッ!と舌打ちした。
「このまま帰るだけじゃ面白くねえな……」
彼はニヤリとして、背負っていた巨大な剛弓を取り出した。
「あ!若様!一体何を!?」
側近の兵士が慌てて見咎めた。
しかしオルダイはそんな声が聞こえていないかのようにギリギリと弓を引き絞る。
そしてパッと弾き放つと、矢は十字架に向かって彗星のように飛んだ。
バキィ!!
矢は激しい破壊音と共に、見事にその根元をへし折った。
青銅の十字架はフィリップの上に轟音と共に倒れ込む。
フィリップは「ヒィィ!」と叫びながら間一髪で避けたが、転倒して腰を抜かした。
「カッハッハッハ!」
オルダイは乾いた声で笑うと、踵を返して父と老将の後を追った。
そしてこの地を埋め尽くしていた軍勢は、それが合図であるかの如く、潮が引くように引き揚げていく。
「お、おお……」
ディルクはその光景を見ながら全身を震わせた。
「ああ……ソフィ―ナ様!見えますか?モランゴ―ルが去って行きます!」
彼はそういうとソフィ―ナの亡骸の前に平伏した。
「痛かったでしょう。お苦しかったでしょう。でも貴方様が……貴方様がたったお一人で、この国を救ったのです!」
ディルクは無言の王女に震え声で語りかけると、わっと号泣して地に顔を擦りつけた。
城壁の上では、腰を抜かして立ち上がれないフィリップが、髪を振り乱しながら倒壊した十字架にすがり付き、撤退の様子を見ていた。
「ふ、ふふ……奴らめ……儀式に……度肝をぬかれて……去って行きおるわ!」
彼の埃まみれの顔は、狂気じみた笑みに支配されていく。
「くくっ……やったぞ!勝ちじゃ!わしの勝ちじゃ!わっはっはっは!」
彼の高笑いは、エルサイムの曇天に吸い込まれていった。