国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!? 作:haku728
――う……うん……
――頭が……ぼうっとする……
――首も……何だか……痛い……
ソフィ―ナはゆっくりと目を開けた。
宗教画で彩られた天井が目に入った
(ここは……礼拝堂?わたくし……寝かされてるの?)
彼女は目をしばだたく。
(わたくしは……あの時……死んだのでは……)
起き上がろうとしたが、体が動かない。
(え……どうして?ううん!うん!)
懸命に力を込めるソフィ―ナ。
唸りながら暫く身を起こそうとしたが駄目である。
彼女は一旦力を緩めてから、「えい!」と気合を入れた。
すると、上半身がガバッと跳ね起きた。
「え?どういう事!」
彼女は、目線の先にあるものを見て思わず叫んだ。
それは、彼女自身の背中であった。
しかも、その体には首より上が無かった。
彼女の唇がガクガクと震える。
(ま、まさか……わたくしの頭は……離れてる!?)
あまりの衝撃にめまいがした。
ソフィ―ナは恐る恐る手足を動かしてみる。
手のひらは開閉でき、足も上下に動いた。
(体は何とか動かせるみたいね……)
彼女は手で自分の頭を掴み、視界が揺れた。
そして祭壇から降りると、ステンドグラス横の壁付けの大鏡の前に立った。
そこには、自分の生首を両手で持ったソフィ―ナが映し出されていた。
彼女は鏡の前で茫然と立ち尽くしていた。
目の当たりにしても信じることができなかった。
(こ、こんな事って……蘇生の術……?………まさか!)
彼女は慌てて振り返って祭壇の足元を見た。
そこには一人の男がうつ伏せに床に転がっていた。
「ディルク!」
ソフィーナは駆け寄り、揺り動かしながら必死に声を掛けた。
「ディルク!ディルク!お願い!目を開けて!」
しかし彼は微動だにしなかった。
ソフィ―ナは冷たくなった彼の顔を見ながら絶叫した。
「ディルク……い、いや……いやアァァァ―!!!」
「何だ!叫び声がしたぞ!」
礼拝堂の外で警固していた衛兵が中に突入した。
そして彼らが目撃したのは、床に倒れたディルクにすがりついて泣き崩れる、首の無い王女の姿であった。
「弱った事になったのう……」
翌朝、居間で好物のレーズンを頬張りながら、ジャイロックの状況報告を聞くフィリップの顔は険しかった。
「とりあえずソフィ―ナ様には離宮にお戻り頂いています。なにぶん、かなり憔悴しておいでです。しかしあの姿で生きておられるとは……わたくしめも理解が追いついておりません」
「ふん!どうせディルクの仕業であろう。奴は回復魔導の使い手じゃからのう。怪しい蘇生術を知っておっても不思議ではない。全く余計なことをしてくれる……」
「はい。あの男の死体も転がっておりましたので。しかしこれからいかがなさいましょう?殿下の御姿も何人かに見られております」
「ふむ……。蛮族は追い払った。後は死んでおけばよかったものを……。蘇ったものは仕方あるまい。わしも礼拝堂で大泣きをした手前、無下に扱うこともできん。城の者には騒ぎ立てるなと言え。そして出入りは控えさせよ!」
「かしこまりました!」
離宮の扉は外から鍵を掛けられ、ソフィ―ナは幽閉状態となった。
出入りするのは、彼女の身の回りの世話をする侍女の他、時々様子を見に伺うジャイロックだけである。
彼女は、自分の生首を抱えて、うつろな目で毎日窓からラムゼンの空を眺めていた。
それから一年が経過した。
(街はどんな様子なのかしら……)
モランゴ―ルに蹂躙された市街も復興が進んでいると聞く。
ソフィ―ナはその様子が気になって仕方がなかった。
ある日彼女は、ジャイロックが訪ねてきた際、思い切ってお願いしてみた。
「ラムゼンの復興の様子を見たいのです。少しだけでも結構です。どうかお父様に取りなして下さいませんか?」
「少しだけとは?街中に行かれるのは承服いたしかねます」
「それは駄目ですか……。ならばせめて城壁の上からでも眺めさせて下さい」
「むむ……。一応陛下にお伝えいたします」
「ありがとう。どうかよろしくお願いいたします」
謁見室に戻ったジャイロックはこのことをフィリップに伝えた。
「殿下は外が見たいと仰せです」
「ふむ……城壁から眺めるぐらいならよかろう」
「ではお連れするということで……」
「但し長居はいかんぞ。短時間で切り上げよ!」
「御意に」
許しを得たソフィ―ナは久々の外出に胸が高鳴った。
ジャイロックと衛兵に囲まれて城壁に上がる。
オルダイにへし折られた十字架も元通りに修復されていた。
その正面は謁見台として、城壁から半月型の舞台が張り出している。
そこから市街の様子が一望出来た。
「ああ!城下町が元に戻りつつある!」
ソフィ―ナは思わず呟いた。
まだあちこちで復旧工事がなされている。
しかし、街の様子が活気に満ち溢れていることは、城壁の上からでも感じて取れた。
(わたくしの行いは無駄では無かったのかも……)
彼女は町を見つめ、目頭が熱くなった。
その時であった。
城前の教会の屋根を修復中の大工が城壁を指差して叫んだ。
「お、おい!お城に首の無い女がいるぞ!」
ソフィ―ナはぎょっとした。
「そんな馬鹿な……あ!」
「本当だ!生首を抱えてるぞ!」
「ば、化け物だ!」
大工のみならず、歩行者達も口々に騒ぎ立て始めた。
(う、うう……)
ソフィ―ナは居たたまれなくなった。
彼女は、自分の頭をぎゅっと抱え込むと、涙をこぼしながら逃げるように立ち去った。
「王女様。お願いでございます。開けてくださいませ!」
その日の夜、心配した侍女のヤンセンが、離宮の扉の前でソフィ―ナに呼び掛けるも、中からは沈黙がはしるばかりであった。