国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!? 作:haku728
「若!お待ちなされ!視察の途中ですぞ!」
疾風のように馬を駆るオルダイにかろうじて追随するオルドスが絶叫した。
「黙ってついて来い!」
オルダイは振り返りもしない。
彼はテントの入り口の前に到着すると馬から飛び降り、ズカズカと中に入ろうとした。
入り口で番をしていた小男が慌てて制止する。
「ちょっと!お客さん……御代金は?」
オルダイは男の顔も見ず、鼻の下に拳を叩き込んだ。
ゴッ!という音とともに小男は白目を剥いて、へなへなと床に崩れ落ちる。
そのまま場内に突入したオルダイは、舞台上で鞭を振るわれる首無し女性を見て思わず叫んだ。
「エルサイムの王女!」
虚ろな目で立ちすくんでいたソフィーナもその声で顔を上げた。
観客の中で目立つ彼の姿を見て、彼女も大きく目を見開いた。
二人の目が合った。
その瞬間オルダイは「カアァァァ!!!」と叫んで跳躍した。
彼は観客の頭を飛び越えて舞台の上に直接降り立つ。
ハッサンはその人間離れした身体能力に愕然とした。
「な、何者だ!まだショ―の途中ですぞ!」
「てめえ!この女をどこで手に入れた?」
オルダイは怒気で髪の毛を逆立てながらハッサンに詰め寄った、
猛禽類のような凄まじい眼光であった。
「ど、どこでって……。あんたには関係ない!」
「帝国は人身売買を禁じたはずだぜ!」
「人身売買?ハッ……ハハハ!人聞きが悪い」
「じゃあ……この女に聞いてみるが……良いか?」
「な!貴様!余計なことをしない方が身のため……」
その瞬間ドンという炸裂音がして、ハッサンの体は中央から真っ二つになった。
血を吹きながら左右に別れて舞台上に崩れ落ちる。
オルダイは剣に付いた血を拭うと鞘に収めた。
観客席からどよめきと悲鳴が起きる。
ソフィーナは、変わり果てたハッサンの姿に身をすくませた。
この時にオルドスと兵士が会場になだれ込んできた。
オルドスは舞台上のソフィーナの姿を見て息を呑んだ。
(ラムゼンの王女……なぜあんな姿で?)
さらに、血塗れの両断された死体を見て思わずため息をついた。
オルドスはパニックになっている観客をかき分けながら舞台に上がると、オルダイに苦言を呈した。
「若!性急な真似は控えるようにと、あれほどお願いしておりますのに……」
「オルドス。この興行の関係者を皆ひっとらえろ!」
「な、なぜに?」
「人身売買は死刑だ!全員吐かせて処罰しろ!」
そう言ってからオルダイは、身を固くして睨むソフィーナの前に立った。
「ソフィーナ……王女だな?」
「……はい」
「なぜ生きてる?」
「……」
「なぜここにいる?」
「……」
無言のソフィーナ。
険しい表情でじっと見つめるオルダイ。
しばし沈黙の後、突然彼が叫んだ。
「お前を大都に連れて帰る!」
そう言うとオルダイは、有無も言わせずソフィーナを軽々と抱きかかえた。
「え……!そんな!」
目を白黒させるソフィーナに構わず、彼は外につなげている白馬に向かう。
そして馬にまたがるとソフィーナを前に乗せた。
オルドスは慌てて追いかけてきた。
「若!まだ視察は終わりではありませんぞ!」
「先に帰る。親父に早馬を飛ばしといてくれ!」
「若アァァァ!」
オルドスの悲鳴に構わず、オルダイは手綱を引いた。
ソフィーナの胴体はオルダイの左腕でしっかりと抱きかかえられている。
「自分の頭はしっかり持っていろよ!」
「え!え!え!ま、待ってくだ……」
馬はヒヒ―ンと嘶くと、まるではやぶさのように駆け出した。
凄まじい加速にソフィーナは思わず身をかがめる。
彼女が知る馬の速度とはまるで違っていた。
(これが騎馬民族の速さ……!)
体に打ち付けられる風に負けぬのが精一杯の彼女。
驚くべきことに、この白馬に一騎の騎馬が追いついて来た。
「若様ぁ!黒爺が嘆いておりましたぞ!」
「チャガタイ!後で謝っとく!」
「それで大王には何と?」
「《十字の姫を連れて帰る》とだけ伝えろ!」
「承知つかまつったぁ!!」
チャガタイはさらにスピードを上げて前に走り去っていく。
ソフィーナは風を切る音の中でオルダイに尋ねた。
「大都……って?」
「新しい都だ!」
「わたくしを……どうなさるおつもり?」
「親父に会わせる!」
「わたくしは……どうなるの?」
「親父が決める!」
(オルグン大王……)
彼女の脳裏に雄大な覇王の姿が思い出された。
(もう……考えていても仕方がない。成り行に身をまかすしか……)
ふと気付くと、多数の騎兵が追い付いていた。
白馬はその騎馬の列の先頭を駆ける。
しばらく走ると、道の行く先に崖から転げ落ちた巨大な岩石が横たわっていた。
(迂回するしか無さそう)とソフィーナは見ていたが、何と白馬は全速力で突っ込んでいく。
「ま、ま、待って!!嘘!嘘!」
岩石が目の前に迫る。
(もう駄目……)
ソフィーナは真っ青になって目をつぶった。
風の音が変わった。
彼女はそっと目を開けると、馬は宙を飛んでいた。
(え!飛び越えているの!?この大きな岩を!)
唖然とする彼女をよそに馬は着地し、何事もなかったかのように走り続ける。
彼女は首を横に出して後ろを見た。
すると、後続の騎兵もみんな岩を飛び越えてくる。
(馬が飛んでいる!!北方の騎馬はみんなそうなの!?)
信じ難い姿を目の当たりにして、ソフィーナは言葉を失うばかりであった。