国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!? 作:haku728
凄まじい怒号の中を馬車は行く。
「何しに来た?帰れ!帰れ!」
「王家の雌ぎつね!」
「王兵はこの町からでてけ!」
国境の町メルクに入ったソフィ―ナの馬車は沿道にひしめき合う住民から激しいバッシングを受けた。
投石が窓ガラスにひびを入れ、生ゴミや卵が扉の十字紋章にへばりつく。
ディルクは王女を庇うように寄り添っていた。
(この怒りはなんということだ?想像を遥かに超えている……)
彼は必死の形相でソフィ―ナに進言した。
「殿下!このまま進むのは危険です!引き返しましょう!」
しかし彼女はまっすぐ前を見据えたまま答えた。
「いいえ。このまま向かいます」
「そんな……!」
「王兵の不始末は王家の責任です。逃げる訳には参りません」
「しかし、この件は国境警備隊で処理中です!彼らに任せるべきです!」
「いいえ。現場に丸投げしてもメルクの方々は収まらないと思います。わたくしは直(じか)に謝罪がしたいのです」
「っ!殿下……」
ディルクは沈痛な表情で項垂れた。
程なくして町の中央広場に面した教会に馬車が到着した。
取り囲んだ民衆の罵声を浴びながら、主従は逃げ込むように聖堂に入って行った。
入口ホ―ルではメルク町長ランスの出迎えを受けた。
「お待ちしておりました。こちらへ……」
彼の案内で奥に向かう。
礼拝所には喪服姿の参列者が多数居並び、その冷たい視線を浴びながら二人は奥に進む。
そして正面の祭壇に視線を向けたディルクは硬直した。
大理石の長方形の壇上にはウエディングドレス姿の若い女性の遺体が横たわっている。
彼女は両手を胸で組み、多数の花に埋もれる様に眠っていた。
そこにすがる様に群がり泣き叫ぶ親族。
その中の一人、女性の父親であるヤコブがソフィ―ナに気付き、真っ赤に泣き腫らした目で睨みつけた。
「あんたは王家の者か!」
「はい……」
「ミリ―ネは今日が結婚式の予定だった……」
「くっ……」
「それが王家の兵に……野獣みてえな奴に……こんな姿にされ……」
「うっ……うう……」
ソフィ―ナは声が出ない。
ランスも厳しい表情で彼女に語りかけた。
「国境警備兵の不祥事は今回だけではないんです。二年前には若い兵による集団強盗殺人も起こっています。細かい傷害や窃盗も数え切れない……」
ディルクは思わず町長の話を遮った。
「しかし、それはみんな逮捕されて裁かれているはずだ」
「ええ……でも無くならない……。もう我々は限界なんです」
「そ、それは……」
「王女様。この町に兵は要りません。国を守るといいながら我々を守ってくれない!王家として退去命令を出して頂きたいが如何ですか?」
「皆様のご怒りはもっともです……こちらに向かう馬車の中でもそれは骨身にしみました」
「それで?」
「はい。………しかし……ながら……メルクは隣国からの防衛上重要な拠点であり……ここの兵力を手薄にする事は……国の危機に直結致します」
「ほう!ならば兵の狼藉は仕方ないと?我々の不安や悲しみはどうでも良いと?」
「い、いいえ!決してその様な……」
ソフィ―ナは必死にかぶりを振った。
しかし、ヤコブが憤怒の形相で彼女に詰め寄る。
「なら、わしの娘を生き返らしてくれ!元に戻してくれ!」
「うっ……うう……」
「待て!落ち着け!」
ディルクはソフィ―ナを庇うように割って入った。
「兵は確保されている!ちゃんと法に則り裁かれるんだ!」
「それでミリ―ネは帰ってくるのか!ええ!答えてくれ……答えろ!」
ヤコブはディルクの襟首を掴んで叫んだ。
その時であった。
ディルクの背後にいたソフィーナが、彼の腰の剣の柄を握ると鞘から引き抜いた。
「!」
「え!殿下!」
もみ合っていたニ人は仰天した。
ソフィ―ナはその剣を両の掌に捧げ持つとヤコブの前に立った。
「王女様よ……一体何の真似だ?」
「これで……わたくしを切って下さい」
「な、何だと!?」
ヤコブは血走った目をかっと見開いた。
「殿下!なりませぬ!」
「ディルク!動いてはなりません!」
ディルクは咄嗟に剣を奪い取ろうとしたが、鋭いソフィーナの声に制止された。
そしてヤコブの方に向き直った。
「ヤコブ殿。この度の一件、王家の者として心より謝罪をいたします。このような悲しい出来事が今後とも起きないよう願っております。そしてこの場は私の命をもって何卒お納めください。どうかよろしくお願い申し上げます」
彼女は剣を差し出し頭を下げた。
「駄目です……殿下!駄目です!!」
懇願するような眼差しから涙を溢れさせた。
ヤコブは黙ってソフィーナの手から剣を取り上げた。
礼拝堂にいる全員はその光景を見守りながら息をするのも忘れ静まり返った。
「王女様。その覚悟……本当だな?」
「はい」
ソフィーナは静かに、しかしヤコブの目を見据えながら頷いた。
彼は剣の柄を両手で握ると、切先をソフィーナに向けた。
(くっ!やるしかないのか!?)
固く握り締めたディルクの両拳が攻撃魔道の赤光を帯び始めた。
その時ヤコブが絶叫した。
「王女様!!!もう二度とこんな事が起きないよう、頼みましたぞ―――!!!」
彼は剣の切先を自分の喉に当てがい、一気に押し込んだ。