国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!? 作:haku728
『北方の国のよからぬ噂を聞いた。この事を何とか陛下の御耳に入れてくれ!頼む!』
牢獄でディルクに依頼された日より、マ―ルは宰相ジャイロックに国王との謁見を何度も願い出た。
しかしその度に『その様なくだらぬ噂話如きで陛下に取次ぐことは叶わぬ』と素気なく断られる。
(どうしよう……鼻にもかけてもらえない……)
マ―ルの苦悩は深まる。
思案の末、従兄弟である城中衛兵のクロウドにこの話を打ち明けてみた。
元々マ―ルは、彼のつてで城入りしたのである。
「その話は僕の耳にも入っているよ」
「本当に!」
「うん。確か国の名は《モランゴ―ル》だったかな……」
「そうなんだ!もっと教えて!」
「いや……僕もあんまり詳しい事は……」
「どうしてなの?大変な事態かもしれないのに!」
「そうかなぁ……。数千里も彼方の国だよ。騎馬民族らしいけど」
「でも、周りの国を攻めてるんでしょう?」
「そうらしいけど。ここまで影響無いんじゃないかな。隊長もそう言ってるし……」
「ねえ……クロウド兄さん。隊長様から陛下に進言してもらえないかしら?」
「え!む、無理だよ!」
「お願い!」
「駄目だって!そんな話聞いてもらえないって!」
「そんな……」
「大丈夫だよ。心配は要らないって。エルサイムは千年王国だ!」
「うう……」
(駄目……分かって貰えない……)
落胆するマ―ル。
離宮に戻ってからも彼女は頭を抱える。
そして悩んだ挙句、ついに一つのことを決断した。
(直接陛下に進言するしかない!)
彼女は決意を固め、機会を伺う。
数日後、そのチャンスが巡ってきた。
国王が城下町の視察に出るという情報を得た彼女は、王宮玄関前に生えている糸杉の蔭に身を隠す。
やがて入口が開き、臣下を従えてフィリップが姿を現した。
「陛下!大事なお話が御座います!」
マ―ルは飛び出して、王の前で平伏した。
ジャイロックが血相を変えて彼女の前に立ちふさがる。
「貴様!女中の分際で無礼であるぞ!」
「お恐れながら、どうしても御耳に入れたき話が御座います。何卒お聞き入れ下さいませ!」
「下がれ!下がれ!」
「何卒!何卒!」
マ―ルは平伏したまま引き下がらない。
「お前、王女付きの侍女ではないか。話とはなんじゃ!」
フィリップは顎髭をさすりながら眉間にしわを寄せた。
「はい!北方の大国モランゴ―ルが周辺諸国を武力で平らげているとの事です!」
「それがどうした?」
「ディルク様は不吉な予感を感じておられます。是非ともお備え下さい!」
これを聞いて フィリップの眼尻が上がった。
「何!ディルクだと?くだらぬ世迷い事でわしを惑わすつもりか!」
「い、いいえ!決してそのような……」
「我国はダイオスに守護されたる神国!何者にも侵されぬ!」
「し、しかし……万が一の事が……何卒お備えを!」
「うるさい!怪しき流言を振り撒く不埒者め!こやつを切れ!」
ジャイロックは目配せすると、衛兵が剣を抜いた。
「へ、陛下……!」
悲痛な声を上げるマール。
震えるその身に容赦ない凶刃が振り下ろされた。
獄中のソフィ―ナがふと顔を上げた。
(……何かしら?この胸騒ぎは……)
彼女は不吉な感情を押し殺して目を閉じた。
翌日、ディルクの元に食事を届けに来たのはマ―ルではない別の年配の女中であった。
「マ―ルは!彼女はどうしたんだ!?」
「さあ。なんでも暇を貰って故郷に帰りなさったとか」
「ば、馬鹿な!そんなことがあるわけがない!彼女を、彼女を呼んでくれ!」
「そんな事を言われましても……。去ってしまわれたので……」
「嘘だ……嘘だぁ!うっ……うぐ……」
ディルクは伏して石床に拳を打ち付けながら体を震わせた。
それから三カ月が経過した。
その日、国境の町メルクは夜更けから朝まで雨が降り続けていた。
「ちくしょう。まだ降ってやがる……」
見張番の兵士はあくびを噛み殺しながら持場に向かった。
そして城壁の見張り台に立った瞬間彼は声を失った。
地平線を見渡す限り、無数の兵で埋め尽くされていたのである。
「て、て、敵だ!」
彼は早鐘を鳴らすため鐘楼の方に向いた。
その瞬間、びゅん!という空気を切裂く音が鳴り、巨大な矢が彼の体を貫いた。
そしてそのまま吹っ飛ばされ、巨大な青銅の鐘に縫い付けられた。
その衝撃で鐘が鳴り響く。
城壁内は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。
「若!まだ攻撃命令は出ておりませんぞ!」
黒馬を操る傷面で筋骨隆々の老戦士が、長い髭を揺らしながらたしなめた。
「まだ寝ぼけてる城のやつらを起こしてやったんだ!アッハッハ!!」
そう言うと白馬にまたがった若い戦士が巨大な弓を背中に戻した。
艶やかな銀髪を三つ編みに束ね、背中に垂らしている。
そして狼のような瞳。
「オルドス!親父の合図は待てん!行くぞ!」
「はぁ……相変わらず気の早いこと」
老戦士はやれやれといった表情をした。
若者はゆっくり右手を天に掲げた。
それを合図に全兵が『ウォ―!』と吠える。
そして全軍が凄まじい地響きを立てながら城壁に向かって突進した。