国を追われた首無し王女……神になるってどういうこと!?   作:haku728

7 / 10
十字の誓い①

地下牢獄は静寂に包まれている。

 

いや、静かというより無音に近い。

 

また、昼夜の境も分からないので時間の感覚も消えてゆく。

 

(今は一体いつなのか……自分はいつまでここにいるのか……)

 

外界より隔絶されたこの環境の中で、囚人の精神は追い詰められていく。

 

 

 

鉄格子の中のソフィ―ナは、うなだれながら胸の前で両手を合わせ、祈りの言葉を唱えていた。

 

 

この国の神はダイオスという唯一神である。

 

エルサイムの民とダイオスは契約で結ばれているという。

 

民は神に信仰を誓い、神は必ず民を救う。

 

それが《ダイオスとの約束》。

 

 

神の大切な言葉がある。

 

 

――エルサイムの民よ

 

――振りかかる災難は払ってはならない

 

――受け入れる者には祝福が与えられるだろう

 

――そしてザイオンへの道が開かれるだろう

 

 

ザイオンは苦しみも悩みもない天上世界であるという。

 

ソフィ―ナは挫けそうな時、この言葉を繰り返した。

 

暗い地下世界に彼女の詠唱が吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

それは突然であった。

 

「ソフィ―ナ様。陛下より出獄せよとのご命令です」

 

ジャイロックと十数人の衛兵が鉄格子の前で慇懃に頭を下げると、ガチャガチャと扉を開錠した。

 

呆然とするソフィーナ。

 

「わ、わたくしは……許されたのですか?」

 

「はい……その通りでございます」

 

「ああ……ありがたい……」

 

予期せぬ赦免に、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。

 

しかし、彼女はハッとなった。

 

「ディルクは?ディルクも出られるのですか?」

 

「さて……それは……。まずは陛下からお話がございますので……御前にお越し下さい」

 

ジャイロックはそう言うと衛兵に目配せする。

 

兵は一斉に彼女の周りを取り囲んだ。

 

「え?な、なぜ……」

 

「ご心配は無用です。さあ参りましょう」

 

赦免されたはずのソフィーナは、再び罪人のように連行されていった。

 

 

慌ただしく動き回る臣下や侍女。

 

足早に走り去る殺気立った衛兵の隊列。

 

(どうしたの……。雰囲気がおかしい……)

 

王のいる部屋に向かう途中、ソフィーナはただならぬ城内の様子に息を飲んだ。

 

 

謁見の間に連れられたソフィーナは、父と久々に対面をした。

 

(え!お父様……)

 

玉座のフィリップはこれまで見た事が無い程やつれていた。

 

しかし彼はソフィ―ナの顔を見ると、精一杯の笑顔を作った。

 

「おお!ソフィ―ナよ!よく来た!息災であったか?」

 

「は、はい……」

 

「早速だがお前に見せたい物がある。わしと共に城壁に上がろう」

 

「城壁……でございますか?」

 

彼女は訝しげに首を傾けた。

 

 

その時背後から呼び声が響いた。

 

「殿下!」

 

「ディルク!え……!」

 

続いて謁見の間に連れられてきたディルクの姿を見てソフィーナは言葉を失った。

 

後ろ手を拘束され、多数の衛兵に囲まれていたのだ。

 

「おお……ディルク。お前も一緒に来るのだ」

 

フィリップは、伸び放題の髪を振り乱して「離せ!」と身をよじるディルクを傲然と見下ろした。

 

そんなディルクの姿を見てソフィーナは思わず叫んだ。

 

「お父様!どうか……ディルクの拘束を解いてあげて下さい!お願いでございます!」

 

「うるさい!まずは黙ってついてくるのだ!」

 

そう言うとフィリップは玉座より立ち上がり、ジャイロックと衛兵を引き連れて謁見の間より出ていった。

 

ソフィーナとディルクも衛兵に囲まれながら後に続く。

 

城壁に続く石階段を上る途中、ソフィーナは顔を上げた。

 

巨大な青銅の十字架の背面が見える。

 

それはダイオス教の印で、同時に王家の紋章でもあり、城下町を見下ろすように城壁の上に建てられているのだ。

 

階段を上がりきり、城壁の上に立ったソフィ―ナとディルクは、狭間から外を見た。 

 

そして……二人は信じられない光景を目撃した。

 

 

城下町が消えていた。

 

全ての建物は無くなっていた。

 

代わりに、見渡す限りはるか彼方まで、雲霞のような大軍で地上が満たされていた。

 

 

「お、お父様……これは一体!?」

 

ソフィーナは声を震わせる。

 

王は、無数の軍勢を忌々しげに睨みながら答えた。

 

「北方の蛮族が、愚かにも神聖なる我が国に押し寄せてきたのだ」

 

「北方の蛮族!?」

 

「そうだ!モランゴールとかいう野蛮な者共が、大陸全土を従えてこのラムゼンを取り囲みおった」

 

「!大陸全土を?」

 

「そして奴らの王《オルグン・ハーン》が傲慢にもわしに対し降伏を促しておる。千年の血筋たるこのわしに!たかが数百年の歴史しかない蛮族風情が!」

 

「お父様……」

 

「あんな奴らの言いなりにはならん。この神国を決して引き渡すわけにはいかん。降伏すれば、この王家も国民もろとも皆殺しになるであろう……」

 

ここでフィリップはソフィーナの方に向き直った。

 

眉が吊り上がり、目が血走っている。

 

その異様な表情に、ソフィーナは思わず後ずさりした。

 

「そこでお前に命ずる。奴らの前で《十字の誓い》をやり遂げよ!」

 

――十字の誓い

 

その言葉を聞いてソフィーナの顔面は蒼白になった。

 

瞳孔が開き、唇がわなわなと震える。

 

フィリップは戦慄くソフィーナに諭すように語りかけた。

 

「怯えることはない。お前は国の為に奉公できるのだ。死んだ母親の罪滅ぼしもできる。そしてザイオンへの道も開かれよう」

 

(う……く……国の為……罪滅ぼし……)

 

ソフィ―ナは懊悩し、呼吸が不規則になった。

 

 

「馬鹿な!気が狂われたか!陛下!」

 

ディルクは眼尻を裂いて絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。