さんぎょう?より魔法の方が強いもん! 作:そういんむ
アルカディア王国の市場。朝一番には深夜早朝に仕入れた品物が立ち並ぶ。昼時には安価な料理を目当てに昼休憩の就労者が並ぶ。日が暮れるころには一日をやり遂げた者たちが酒を飲みにやってくる。首都の市場では王宮からの魔力供給によって明かりが灯されている。
本日もその例に漏れる事無く、そのサイクルが行われていた。
日は沈み、酒が入って賑やかになった市場の一角から会話が聞こえてきた。
「見ろよ、連邦製の最新式のランプだ。薪をくべてるんじゃあないんだよ、これ。鉄の筒に少量の魔力を流すだけで、ホラ。初めて見たときゃお高い品かと思えば、そんなに高くなかったんだよ。」
「ああ、俺も聞いたぜ?だけどよ、なーんだこの鉄くずは?忘れもしない、建国祭の時の王女様の魔法に比べりゃ、ドブネズミの目ん玉みたいなもんだぜ。安かろう悪かろうだ。どうせ大した事ねえよ」
「そうかぁ?俺たちがいま酒を飲んでられんのも王宮が魔法で明るくしくれてるからじゃねえか。王宮の傍に無い市場じゃ酒は飲めねえ。だけどよ、コイツさえあればどこでも日が暮れた後に酒が飲めるんだぜ?」
「まあ、それもそうかもしれねぇけどよ!」
酒場でジョッキ片手に、中年たちが管を巻いている。
近頃隣国のライヒ連邦から輸入された最新の道具。
かつて、この大陸において魔法とは「血統の証」だった。
百年前の対外戦争において、『アルカディア王国』は数代にわたり血を掛け合わせ、「黄金の血統」と称えられた大魔導士たちの大魔法によって、大陸全土にその威光を轟かせた。何代もかけて血を掛け合わせ、魔法の才と幼少期からの訓練を積んだ貴族たちが放つ一撃は、城壁を穿ち、数千の歩兵を一夜で蒸発させたという。
魔法は神聖なる貴族の秘術であり、国家の威信そのものである
その成功体験こそが、この国を縛り付ける呪いとなっていた。
王国が過去の栄光と血統の神聖さに固執し、古臭い儀式と魔法体系にうつつを抜かしている間に、周囲の国々は静かに、しかし決定的な足取りで産業の歩みを進めていたのだ。
他国は魔法を化学から切り離し、それぞれ異なるものとして工学に組み込んだ。
貴族が何年もかけて習得する複合魔法の砲撃を、彼らは鋼鉄の銃身と火薬で模倣した。
農具や刃物の柄へ差込む穴のように見えるからという理由で「銃」と名付けた。
引き金と少しの魔力で、どんな屈強な戦士を誰でも殺せる。
爆音を発し、命中精度に難あり。しかし、戦場において銃の声が聞こえたとき、だれかがまた一人倒れる。銃の声、「銃声」と呼ばれるソレは、「次は自分かもしれない」という強い心理的威圧として機能した。
今まで鉱山を掘り進めている最中に水が出たのなら貴族に頼み込んで水を吸い上げてもらうか、そこのルートを掘ることをやめるしかなかった。しかし連邦が開発した装置を使えば高度な魔法に頼らずとも水を吸い上げ、地下に眠る大量の資源を獲得、たちまち周辺諸国に広まった。
自らの権益が危ぶまれることを恐れた貴族達がその装置の輸入を制限しているそう。
とにかく結果として、王国の立場はここ数年で劇的に落ち込んだ。
100年前の覇権国は、いまや技術革新に取り残された「時代遅れの弱小国」へと成り下がり、外交の場でも周辺国から容赦なく買い叩かれている。国境付近では連邦の使節団が横柄な態度で立ち回り、不平等な通商条約や鉱山資源の割譲を強硬に迫ってくる始末だった。
「魔法使い」という存在の意義そのものが、安価な鉄クズによって足元から崩れ去ろうとしている。国家全体に、緩やかな首絞めのような閉塞感と黄昏の空気が満ちていた。
さて、指定された場所はこの商店なのだが。
今朝自宅のポストに投函された手紙。表向きは旧友から久しぶりに食事でもどうかという内容だが、これは招集の合図である。
ガチャリと戸を開けると、品出しを行っていた店員と目が合った。
合言葉を告げれば奥に通してくれるだろう。
「いらっしゃい。お探しの品は」
「黒い羊皮紙と、白い羽ペンをくれないか」
「ああ、でしたらこちらに」
商会の地下に隠された、カビと湿気臭さが充満する参謀本部の地下執務室。
重々しい扉を開けを迎えたのは黒い外套に身を包んだ男だった。
「来たか、ヴェルナー」
男は机の上に書類を散らかしたまま、煙草の煙をくゆらせていた。
その男の名は知らない。顔も、声すら聴いたことは無い。しかしも、任務とは大抵そのようなものだ。
「地下室で煙草とは、随分」
「連邦製の送風機を改造して換気できるようにした。しかし連邦製の製品は便利だな。この着火機のおかげでマッチ売りの少女が失業者だ。さて、本題に移ろう。君の経歴を拝見した。表向きの記録は抹消されているが──蓋を開けてみればじゃないか。流石、梟というべきか。」
梟。アルカディア王の、言ってしまえば諜報機関的なソレだ。国旗に描かれた鷲と対比になっているらしいが、どうもお国の上層部が頑張ってこの中二臭い命名をしたと思うと笑える。
「恐縮です。此度は何故招集を?」
「上層部の老骨どもも、ようやくいま自分たちが立っている地面が腐り落ちていることに気づいた。産業化の波にはもう追いつけん。金も、技術も、工場もない。開戦となれば、我が国は数ヶ月で地図から消える」
男は立ち上がると、壁にかけられた巨大な大陸地図の前に立った。
細かなところまでは目を通していないが、びっしりと書き込まれた地図。
そこには周辺国からの外交的な圧力と軍事的威圧を示す赤い線が、まるで網の目のようにアルカディア王国を締め上げている様子が描かれていた。
「我が国が勝っているものは少しばかりの領土と、貴族院の手品師たちの数だけだ。ただ一つ、この『遺物』を除いてはな」
男の手が、王国のはずれを指し示した。
「農村地帯に、山へ芝刈りへ向かった老人が発見した遺跡だ。この国はどうも古臭いが、それが唯一功を奏したといっても過言では無いだろう。遥か昔、おおよそ1000年近く前の書物だが記載があった。お母さんによく読み聞かせてもらったろう?『八つの寓話』を」
どうしてか軍に所属する前の幼少期の事でさえ把握されているが、まあそんなもんだ。
八つの寓話。神に逆らった人類が受けた八つの神罰。それになぞらえて、子供にやってはいけないことを教えるといったもの。太陽が昇らなくなっただとか、町ごと凍て付いてしまっただとか何かとバッドな展開になる。最終的にもうしません、と誓って神様を祀る建物を建てて終わるお話だ。
とはいえ、「1000年近く前の書物」にさえ記述があるというのならば寓話の話は真実だった、ということなのだろうか。
「書物曰く。遺跡の祭壇に祀られた法具を用いてその権能を手中に収めることが可能だという」
「──周辺国も知っているのなら黙っていないのでは」
「当然だ。連邦も他国も、『調査の即時中止』や『共同調査』を突き付けてきてはいる。しかし、所詮眉唾だと思っているのだろう。一部を除いて。第一に連邦の者と思われる諜報員を遺跡近辺で拘束した。上層部は本気で圧力をかけてきている。」
男の目が、暗い情念の光を帯びる。
「彼らは恐れているのだよ。自分たちが必死に組み上げた産業や魔法具の優位性を、根底から無に帰すかもしれない絶対的な異常をな。100年前の王国が復活することを恐れている。──だからこそ、我が国は圧力を無視し、攻略を強行する」
男は机の上の黒塗りの書類をこちらの目の前へと押しやった。
「攻略隊の現場指揮を君に命じる。大魔法の栄光に酔う貴族でもなく、機械を信奉する他国の兵士でもない。お前たち梟の手で、あの遺跡を穿て」
「了解いたしました」
書類を受け取り、短く応えた。
技術と産業の波に呑まれ、ジリジリと殺されかけている国。
その黄昏の暗がりの中で、世界の均衡を根底からひっくり返すための劇薬が、静かに目覚めの時を待っていた。
誤字脱字やアドバイス等あればよろしくお願いします。
更新は遅いです。
ヒロイン的な存在は必要か?
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必要である
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必要でない