異世界でロードアウトを組んで生き残る~FPSゲーマーの転生記~ 作:眼鏡丸
時間は夕暮れ時。
日夜はこの世界にもあるらしい。
森から抜けてしばらく、街道のようなものを歩く。
人や獣がよく通ることでできた天然の舗装だ。
レンも痛みに慣れたのか、だいぶ落ち着いてきたらしい。
今では普通にユウとお話ししている。
町に近づくにつれ、周囲の人からちらちらと視線を感じるが、そりゃ変だよな。
24歳男性、推定14歳ほどの少女2人。完全に事案である。
FPSのUIだ、金を稼ぐだ、衣食住だなどより大事なことが抜けていた。
社会的信頼性だ。いや、悪いことはしてない。誓ってしていない。
大丈夫だよなと内心不安になりつつ、町の入り口へ近づく。
一応門番のようなものは立っているが門はあいており、普通に人が出入りしている。
一人ずつチェックするより、怪しい奴には声をかける的な見張り方なのかな?と思っていると門番の一人から声をかけられた。気分は完全に職質です。
「おい、そこのお前止まれ。」
「ん?俺ですか?」
「お前以外誰にいる、見ない顔だな。
それとなんだその怪しい恰好は。」
そういえば。
なんも違和感なく過ごしてたけど、下スウェットに上Tシャツとパーカーだわ。
寝巻だし仕方ないじゃんね。
あ、町に近づいたときにP2000は一応インベントリにいれてるよ。
どうやら召喚した銃器は持ち物という扱いらしい。
「異国からの旅人でね。服装は文化の違いと思ってもらいたい。
詳細はユウとレン、こっちの二人も交えてこの街に来た経緯を伝えたいが、けが人がいる。
俺は横の詰め所でちゃんと話すから、二人だけでも先に町に通してくれないか?」
頭の中に用意しておいた文面を読み上げる。薬の効きがいいのか心配はなさそうだが、万が一があってもまずいしな。
「わしが呼び止めたのは貴様だけじゃ。そっちの二人は小さいときからよく知っておる。通ることに何も問題ない。早くゲイルのところに急ぎなさい。」
「ありがとー、バトーさん!
ファイブ!あとで報酬渡すから、うちかゲイルさんのところに来なさいよー!」
どうやら門番として大ベテランのようだ。ユウは猛ダッシュで街の中へ消えていった。
妹はいえ、人ひとり背負ってずっと歩いていたのに、姉妹愛とはかくも美しきかな。
「さて、まずはご協力感謝する。わしはバトー、ここグルダの町の門番長じゃ。
名はファイブでよかったかな?」
「ええ、それで大丈夫です。」
黒歴史封印したいよと暴れる心を押さえつける。
叫びたいのに叫べないもどかしい気持ちをかかえて生きていく、JPOPかな?
と心は修羅場なんだが、顔はにこやかに。社会人で培ったスキルである。使用するリソースはSAN値。
「詰め所に行くほどでもあるまい。簡単に話してもらうだけで構わんよ。」
おや?幾分か態度が優しくなったか?職務上のものなのか、姉妹効果なのか。
なんにせよ、やりやすいに越したことはない。
俺は先ほどの名乗り通り、外国からの旅人という設定と姉妹に出会ってからのことをでっちあげて話した。
もちろん銃に関しては言わない。
「ふぅむ、あのあたりにレッサーウルフが…」
「やはり珍しいのですか?道すがら、あの姉妹には森のあたりにはめったに魔物は出ないと聞いて」
「珍しいがありえなくはない、といった程度じゃな。何かの前触れでなければよいのじゃが。
ところで、おぬしはこの町にはどれほどの滞在予定かな。」
「特に決めてません。恥ずかしい話ですが、路銀が尽きてしまいしばらくは冒険者のまねごとでも、と思っております。
今日明日のお金は、レッサーウルフを売却できればと思っています。」
「ふむ?なにか素材を回収しておるのか。」
「え、ええ。」
あっぶねぇ。自然とインベントリから死体をまるまる出しそうになった。夕方とはいえ往来で。姉妹の反応を見るに、インベントリも珍しいものっぽい。なんか偽装しないとな。
「それならギルドへ行くがよい。今ならまだ間に合う。まっすぐ行って2本先を右の突き当りじゃ」
「ありがとうございます。早速向かいます。」
どうやら門番長のお眼鏡にはかなったらしい。
まぁ、姉妹を助けたのもここまで護衛してきたのも本当だしな。護衛時は戦闘らしいものはなかったが。
ある程度信頼を得られたということで、町への入場。
夕方も遅く人もまばらだが、なんとなく活気がある町だということは感じられる。
店じまいに入っているが、露店や店は門から続く道に多く、それほど大きくないこの街にしては物が多いようである。
この年になって分かるのだが、こういうのは為政者がしっかりしている証拠だ。
大きな犯罪もなく、町民がきっちり稼げていて、購買欲が高いから露店が多い。
町の運営がうまくいっているということに他ならないだろう。
そうして門を離れて10分ほど、お目当てのギルドについた。
周りの建物よりでかくてわかりやすい。
入る前に偽装を考えなければ。人も少ないのでアイテムを確認しバックパックを選択。
なんの変哲もないミリタリーなバックパック。米軍払い下げ系のお店で見たことあるような気がする。ついでにペットボトルの飲料水をいくつか召喚し詰めておく。
あんまりスカスカだと怪しいからな。
というより、こういう物資は無限に出せるのだろうか。
なにか嫌な予感がしたので、LOADOUTのからナイフも召喚し、アイテムから出したホルダーにつめて、バックパックに入れる。
そこで視界に黄色いウィンドウが表示される。
Novice Bonus : Last 5
新兵ボーナス、残り5。なるほどね。
なんのコストも払わず呼べるのはあと5つってことか。
課金サービスの無料期間みたいなもんだな。
残り5つ。銃器だったりを選ぶと一気に3つ減ったりするのだろうか、単位がわからんな。
正直セカンダリ、いや、プライマリに準ずる銃が欲しいのだが後回しだな。
とにかく、目の前のギルドだ。
やることはレッサーウルフの売却と冒険者として新規登録。
ありえないことの連続で疲れているはずの脳みそも、一度現実を受け入れればなんのその。
ワクワクしちゃう、男の子だもん。
道場破り的な気持ちでドアを開ける。いや、気持ちだけね。
誰か入ってきたな、やら見慣れないやつだなといった軽い好奇の視線。
居心地は決して良くないが、仕方ない。
視線にさらされながら受付と思われるところに進んでいく。
「あー、すみません。」
「ようこそ、グルダの冒険者ギルドへ。ご依頼でしょうか?」
「いや、冒険者登録と素材の売却を」
「あ、は、はい。かしこまりました。ではこちらにご記入ください。」
そうして羊皮紙のようなものとペンを渡される。
まっずい、字の書き方わかんねぇ。え、どうしよう。
あまりにもおろおろしているのか、受付嬢さんから声がかかる。
「あら、もしかして字はかけませんか?」
「ええ、すみません。旅人なもので、こちらの地域へは今日きたばかりで。
自国の字だとまずいなと思っていたところです。」
旅人設定最強かよ。いや、日本でも言葉通じない観光客最強だったな、悪い意味で。
旅人設定は悪用するまいと心に誓うなど。
「かしこまりました。では口頭で質問にお答えいただければ代筆いたします。」
「すみません、お手数おかけします。」
こういう業務上のやりとりみたいなのって、敬語で対応しちゃうよね。
サラリーマンの性かな。
そうして名前や年齢、使用武器などいくつかの質問に答えたあと、
「それでは、初期ランクを決定するため明日適性試験を行います。
試験内容は申請武器に沿ったものになりますのでご安心ください。」
「あぁ、では、申請武器に魔道具を追加いただけますか?」
「魔道具でしょうか、どのような?」
お、ぶっつけで魔道具とか言ってみたけどなんかいけた。
いや、この感じの世界観だしいけるかなーって思ったんだよな。
「基本的には遠距離武器です。弓矢のずっと強力なもの、と思ってもらって構いません」
「は、はぁ。」
うーん、うまく伝わらなかったかな?それでも火薬を使ってうんぬんを説明すれば魔道具じゃないことバレるしな。
「試験内容は弓矢と同じもので構いませんよ」
「かしこまりました。それでは使用武器はナイフと魔道具として登録いたします。」
そう、使用武器はナイフと答えたのだ。
これならここで実物を見せても問題ないし、それっぽい斥候役のような冒険者もいる。
そんなこんなで、明日の試験の時間などを聞いて冒険者登録については終了
正直、酔っぱらった荒くれ冒険者に絡まれる王道イベントなんか起こるかなと思ったが、そうでもないらしい。好奇の視線は感じるが、露骨なものは無く、生活が豊かだと心も豊かなのかと、ある種関心せざるをえない。
「続いて、素材の売却ということですが。」
「あ、はい。こちらのギルドではどこが素材として扱われているか正確にわからなかったので、死体をまるまる持ってきたのです。種類はレッサーウルフで通じるでしょうか。」
解体とかできないんだけどね。4割くらいのウソである。
「レッサーウルフですね、かしこまりました。売却の際解体費用が引かれますがよろしいですか?
また、あまりにも損壊がひどく素材となるような形への解体が難しい場合は買い取りできかねます。」
「勿論。」
「それでは死体の状況を確認いたしますのでこちらへどうぞ」
銀で出来た深めのトレイが目の前におかれる。
そしてバックパックに手を突っ込み、意識上でインベントリを操作、あたかもバックパックから出しましたよの体裁でレッサーウルフをトレイに置く。
いや、全長120cmくらいあるからおかしいんだけどね、物理的に。
それでも特に突っ込まれることなくトレイが回収され、奥にいる解体要員みたいな人の下で検分がすすんでいく。
「こちらが結果になります。通常レッサーウルフは銀貨1枚ですが、胴体部分に傷がなく状態がいいため銀貨1枚と銅貨2枚。そこから解体費用を差し引きし、銀貨1枚での買取となります。」
「わかりました。」
相場なんてわからんしな。銀貨一枚がどんなもんなのかもわからん。
「それではこちらお支払いになります。」
「ありがとうございます。」
銀貨を受け取りポケットに入れる。
おつりの小銭とかついポケットに入れちゃうよね。
そうすると、視界の端で+1000CPという表示が出た。
再度ポケットに手を突っ込むと、銀貨は消えている。
疑問は残るが、長く付き合っていくであろう組織のど真ん中で不審な行動をするわけにもいかない。
「ありがとうございました。」
受付嬢に例を言って立ち去る。
あ。
「すみません、この辺りで食事をとれるような店はありますか?」
「ええ、町内にいくつかありますが、本ギルドにも併設の食堂がございます。」
「あぁ、なら食堂で構いません。」
「それでしたら、食堂入り口の右手にある扉が入り口でございます。」
「ありがとうございます。」
よし、衣食住のうち食の目途はついた。
ついでに物価なんかもわかるだろう。
併設食堂の入口へ向かいながら、先ほどの現象を思い出す。
銀貨をポケットにいれるとポイントが増え、銀貨が消えた。
試しに銀貨1枚を引き出すイメージをしてみる。
ポケットに手を突っ込んだままだったからか、手に銀貨の当たる感触。
これあれだ、ネットバンキング的なことだ。
しかも残高の引き出しが自由。
便利機能への疑問は増えるが、便利なので使っていこう。
スマホがなぜ動くかなど知らなくても使い方を知っていればいい的な理論。
インベントリからの引き出しに発光がないことは、ギルドに入る前に確認してたが、少し迂闊だったかと反省しながら併設食堂のドアをくぐる。
ふむ、カウンターで注文して席で待つタイプか。
イングリッシュパブとかファストフードみたいだな、と思いつつちょっといかつい兄ちゃんの待つカウンターへ向かう。
「注文いいですか」
「あいよ!何しましょ!」
「あー、旅人なもんでこの街には今日初めて来たんだ。
手持ちはそんなにないんだが、何かおすすめはあるか?」
「だったら、このワンプレートのセットがおすすめだね!
銅貨5枚で、パンが2つとメインがついてくるよ!
メインは日替わりで、今日はボアラビットのグリルだね!」
さすがはカウンター店員。おすすめがすらすら出てくるし勢いがすごい。
見た目はいかついが、ギルドという場所柄なのかもな。
「じゃあそれで。」
銀貨1枚を支払い、銅貨5枚をおつりとして受け取る。
なるほど、銅貨1枚=100CPね。
「じゃあ、適当に空いてる席で待っててな!」
カウンターの男はそう言って厨房へオーダーを伝えにいく。
空いてる席ねぇ…できれば相席は避けたいところだけど。
夕方に街について、なんだかんだでおそらくご飯時。
席はどこもいっぱいだ。
どこに座ろうかと見回すと、二人席で今ちょうど空いた席を見つける。
ひとまずそこに腰を落ち着け、ようやくこの世界にきて一息つく。
しかし、自分の身に起きたことが信じられん。
異世界転生かぁ、毎日ゲームで遊んでいたクラメンやフレンドからしたら飛んだ感じになるよな。
元の世界の俺はどうなってるのだろう、などと思考の渦に陥りかけたところで声がかけられる。
「お待たせしましたー!ワンプレートセットです!」
溌剌としたウェイトレスが注文した品を運んでくれる。
「ありがとう」
店員に礼をいい、プレートを確認する。
カウンターでの説明通りパンが2つに、鶏肉のような見た目の焼きあがった肉。
突拍子のない飯ってわけでもなさそうだ。
あとは味付けだが…
「うん、美味い」
塩味をベースにハーブのような香り、にんにくっぽい風味も感じられる。
普通にグリルチキンだこれ。
白米が欲しくなるなぁ…と考えているとぺろりと平らげてしまう。
草原で目覚めてから、体感4~5時間といったところだが、思ったより空腹だったみたいだ。
さて、食事が満たされたところでお次は住なのだが…こんな時間から宿屋は空いているのか。
というか、銅貨5枚で宿賃は足りないんじゃないか?
最悪野宿か…幸い町は安全なようだし大丈夫だろうと楽観的に考えることにし、食堂を後にするとギルドの入り口に見知った顔がいる。
そういや家に来いとかいってたような。
「あ!アンタなに呑気にご飯なんて食べてるのよ!」
「いや、悪い悪い。ギルドで手続きやらなんやらしてたら遅くなってな。
こんな時間に行っても迷惑かと思って、飯を食ってたところだ」
嘘です、完全に忘れてました。
ギルド入り口できょろきょろと人探しをしていたのは姉妹の片割れ、ユウだ。
なんか口から出まかせ言うことがうまくなってないか、俺。
「ふん、まぁいいわ。
報酬渡すからついてきなさい!」
「おお、そりゃありがたい。」
忘れていた原因の一つとして、正直報酬には期待していなかったというのもある。
依頼とはいえ口約束だし、相手は10代中ごろの少女2人。ここでは知らんが、日本だと親からのお小遣いで学校に行っている年齢だ。支払い能力があったとしても微々たるもの。
24歳男性としてその年頃の女の子から、金品を貰うのも気が引ける。
最悪、親にどやされるんじゃないか。
その時は野宿をするのに安全な場所とか教えてもらえればいいか、と思い後をついていく。
案内されたのは一軒家。
立派でもなくかといってボロ家でもない。しいて言うならば質素な家という印象。
恐らく平屋で、家族4人で暮らすにはすこし手狭な家にお邪魔すると、レンが出迎えてくれる。
「おかえり、お姉ちゃん。それとファイブさんも。」
うん、もうファイブ呼びには悶えない。強い意志でギルドの登録名もファイブにしたのだ。
あれ、本名じゃないとダメだったかな…。
「ただいま!ダメだよ、見た目ほどケガはひどくなかったとはいえ、あんまり動いちゃ。」
「お邪魔するよ。無事でよかった。」
「はい、応急処置が適切だから、あと3日もすれば治るだろうって言われました。
本当にありがとうございます。」
うん?あのケガは3日やそこらで治るものじゃないと思うんだが…まぁ専門家が言うのならそうなのだろう。
「それならよかった。」
「私からも改めてお礼を言うわ、ありがとう。
それで、お礼のことなんだけど…」
「いや、その前にご両親に挨拶をしたい。こんな時間に家にお邪魔してるしな。」
「あ…」
「あ…」
ん、これはミスったか。
しかも特大地雷の気配。
玄関入ってすぐとはいえ、誰も様子をうかがいに来ないなとは思ったんだが…
「親はいないの…2年前の戦いで死んでね。」
「そうか…すまない、悪いことを聞いた。」
「ううん」
「仕方ないですよ、知らなかったんですから。」
やっちまった。2年前の戦いが何かは知らないが、ご両親は戦死しているらしい。
これはますます報酬なんぞ貰えないな、気持ち的にも、恐らく支払い能力的にも。
「報酬の話だが、今回はナシでいい。結局町までの護衛も何もなかったし、むしろ俺が道案内してもらったくらいだ。」
「それは…!そもそも危ないところを助けてもらったのは私たちよ!薬ももらってるし、そういうわけにはいかないわ!」
後ろでぶんぶん頷くレン。
「そうは言っても…正直宿に泊まる金があればいいんだが、払えないだろ?」
「う…お金はちょっと…」
もちろん払ってもらうつもりはない、無理なことを言ったほうが諦めるだろうと思っていると、
「それなら、ファイブさんにはうちで泊まってもらえばいいんじゃないですか?
部屋はありますし」
!?
レンが爆弾を投下した、デンジャークロース!!
「えっ!いや、そ、そうよ!泊まりなさい!
宿屋なんかこの時間から泊まれないし、うちを宿屋として使わせる!
これが報酬よ!」
ユウも乗っかって大爆発。危険物取扱の免許は持ってないのよ。
だがしかし、確かにこんな時間から宿屋も泊まれないか。
いやでもさすがに事案では?
「いや、さすがにそれは…」
「じゃあどうするんですか?この町は比較的安全ですが、それでも夜は酔っ払いもいますし、野宿は現実的ではないですよ。」
レンの言うことはもっともなのだろう。
なんとなく圧を感じるのは気のせいか?
いやしかし…むう…背に腹は代えられぬか…。
「一晩…お世話になります。」
明日からきちんとお金を稼ごう、そう誓ったのである。
土台作りはどうしても長くなってしまう…(-"-)