怪盗は、お隣の天使様を甘やかしたい 〜世界を救った男の二度目の高校生活〜   作:スバルック

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休日の買い出しと、初めてのお出かけ

週末の朝。

蓮がモルガナに急かされて目を覚ますと、すでにインターホンのモニターには控えめに佇む真昼の姿が映っていた。私服姿の彼女は、学校の制服よりも少し大人びて見えるが、どこか落ち着かない様子で自分のカーディガンの裾を握っている。

 

「おはよう、椎名さん。朝からどうした?」

 

玄関のドアを開けると、真昼は少しだけ視線を逸らしながら口を開いた。

 

「お、おはようございます……。あの、今日、スーパーの特売日なんですけど。お肉も野菜も安い日なので、もしよければ……一緒に、買い出しに行きませんか?」

 

それは、彼女なりの精一杯の歩み寄りだった。

天使様ではなく、ただのお隣さんとしての誘い。蓮は小さく微笑むと、首からかけていた手ぬぐいを外し、伊達メガネをかけ直した。

 

「ちょうど冷蔵庫の中身も寂しくなってきたところだ。準備するから、少し待っててくれるか?」

 

「はい。……あの、雨宮さん」

 

「ん?」

 

「昨日の……ホットミルク、ごちそうさまでした。よく、眠れました」

 

消え入るような小さな声で告げられたその言葉に、蓮のカンストした「魅力」をもってしても、ほんの少しだけ口元が綻んでしまうのを止められなかった。

 

「オイ蓮! オレ様を置いてデートか!?」

 

部屋の奥からボストンバッグをくわえたモルガナが飛んできたが、蓮は「今日はスーパーだからお留守番だ。帰ったら美味い魚をやるから」となだめ、その頭をひと撫でしてから玄関の鍵を閉めた。

 

廊下で待っていた真昼は、あらためて蓮の私服姿——シックなロングコートに黒のタートルネックという、都会的で洗練された佇まいを目にして、気まずそうに視線を泳がせる。

 

「……その、雨宮さんは何を着ても似合いますね」

 

「椎名さんこそ。その淡いピンクのカーディガン、すごく似合ってるよ。可愛いと思う」

 

「っ……! た、ただの普段着ですっ」

 

蓮のカンストした「優しさ」と「魅力」が合わさった自然体の褒め言葉に、真昼は一瞬で耳まで真っ赤にし、ぽかすかと自分のカバンの紐を握りしめた。不意打ちに弱すぎる彼女の反応に、蓮は悪戯っぽく口元をゆるめる。

 

二人で並んで歩く街の道中、道行く人々が思わず振り返る。

学校で憧れの的である『天使様』の可憐な私服姿と、どこかミステリアスで大人びた雰囲気を纏う蓮。二人が並んで歩く姿は、まるで一枚の絵画のように様になっていた。

 

地元の大型スーパーに着くと、真昼はいつものテキパキとした様子でカートを押し始めた。

 

「今日は豚の角煮と、季節の野菜の煮物にしようと思っています。雨宮さん、何か買いたいものはありますか?」

 

「じゃあ、ルブラン風のカレーの隠し味用に、赤ワインとリンゴ、それとハチミツを買い足したいな。あと、椎名さんが良ければだけど……昼は俺がパスタでも作ろうか?」

 

「雨宮さんの手料理……ですか? ふ、不満なんてあるわけないじゃないですか。楽しみです……」

 

照れながらも嬉しさを隠せない真昼。

野菜コーナーでは、真昼が新鮮なキャベツを選ぼうと真剣な眼差しを向けていた。そこへ蓮がすっと手を伸ばし、一つの重みのある玉を選び取る。

 

「芯の大きさが500円玉くらいで、葉が巻きすぎていない軽い方が、春キャベツとしては柔らかくて甘いよ」

 

「え……? あ、本当ですね。……雨宮さん、本当に何でも知っているんですね」

 

カンストした「知識」と、純喫茶ルブランのマスター・惣治郎から叩き込まれた生活の知恵。感心したように目を丸くする真昼に、蓮は「まあね、師匠が厳しかったから」と懐かしそうに笑った。

 

精算を終え、袋詰めをした二つの重い買い物袋を、蓮は当たり前のように両手で持ち上げた。

 

「あっ、雨宮さん! 片方は私が持ちます! あなたに全部持たせるなんて……」

 

「いいよ。このくらい、トレーニングにもならない。それに、女の子に重いものを持たせるわけにはいかないからね」

 

幾多のペルソナを扱い、数々の修羅場をくぐり抜けて鍛え上げられた蓮の腕力(ついでに「度胸」)にとって、買い物袋の重さなど無に等しい。

 

「〜〜っ、もう! そうやってすぐに格好つけるんですから……!」

 

ぷくっと頬を膨らませて不満気にする真昼だったが、その瞳には嬉しさと隠しきれない憧憬が滲んでいた。歩幅を合わせてくれる蓮の隣で、真昼はそっと彼のコートの袖を、迷子にならないように小さくつまんだ。

 

「……転ばないように、掴んでいてもいいですか?」

 

「もちろん。しっかり捕まってて」

 

春の柔らかな日差しの下、並んで歩く二人の影が、ひとつに重なるように長く伸びていく。

世界を救った元怪盗の静かな日常に、天使様の甘い吐息が、またひとつ刻まれていった。

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