きっと何も変わりはしないはず   作:外道カヤノ

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お姫様の長い一日・上

 

 久しぶりに、機嫌が良さそうなセイアちゃんを見た。

 

 その日は『ティーパーティー』の業務も空いていて、やることもそれほど無かった。のだけど、何故か三人が集まっちゃった。きっと、その時だけはみんな同じ気持ちだったと思う。

 

 私、聖園ミカと、セイアちゃんと、ナギちゃん。ティーパーティーを支える三大分派の、それぞれのリーダーにして──昔からずっと縁が続いている、大切な幼馴染。

 いつもの席でお茶会。小さな円卓を囲って、分派の子たちから貰ったお菓子と紅茶を交わす。そんな、穏やかなで、久(・)し(・)ぶ(・)り(・)な(・)日常風景。

 

『セイアさん、良いことでもあったのでしょうか?』

『ん? あぁ、そうだとも』

 

 ふと会話を切り出したナギちゃん。セイアちゃんはいつも、偏屈な回答をして、のらりくらりと話を回す……はずなんだけど、想像以上に素直に、あの子は肯定した。

 その時だけは、思わず私も、ナギちゃんもビックリした。

 

『この頃ずっと、眠りが浅くてね。だが、久しぶりに熟睡ができたよ。おかげで気分がいい』

 

 透明だ……なんてキメ顔で呟くほど、セイアちゃんはスッキリした様子だった。

 

『それは……良かったです。私も、セイアさんのことは少し心配していたので』

『少しか。幼馴染という物差しがあるとはいえ、少しか……』

『あの、そういう訳では。はぁ……けど、心配は本当ですよ。今と前とで、比較できるほど顔に出てましたから』

『そうなのかい? だったら、心配をかけたね。けれど、もうこの通りさ』

 

 確かに、ここ最近のセイアちゃんは、ずっと思い詰めてばかりみたいな、そんな様子だった。以前に聞いてみたことはあるけど、小難しいことを言って、突き放すばかり。悪夢ばっかり見る、って言ってたから、眠りが浅かったのは本当だと思うけど。ナギちゃんとの会話も、同じ感じだった。

 

 けど、私にだけなんだか、何(・)も(・)知(・)っ(・)て(・)欲(・)し(・)く(・)な(・)い(・)みたいに感じたのは、気のせいじゃないと思う。

 

『ふーん。きっかけとかあるの?』

 

 それとなく聞いてみる。

 今のセイアちゃんなら、そのまま話してくれるかな。

 

『──花を見つけたんだ』

 

 花……?

 あ、ナギちゃんの顔が考えてる時の顔になった。

 

『アスファルトの隙間から茎を伸ばした、強かな花だった。それを見ていると、なんだか考えていることが、馬鹿馬鹿しくなってね』

 

 透き通った空を見つめながら、セイアちゃんはそう答えた。

 本当に、それだけ? そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)ぐ(・)ら(・)い(・)で(・)、人生の何が変わるっていうんだろう。

 なんだか悟った雰囲気ばかり出してて、私もナギちゃんみたいな顔になりそうだった。

 

 それ以降は、なーんにも情報は得られなかった。

 ただ、セイアちゃんは何か、前を向ける理由を掴んだ。ナギちゃんも、私も、その「花」に興味を持った。

 

 ナギちゃんはきっと、「自分の知らない人物」だの、「派閥のスパイに入れ込まれた」だの、「「花」は暗喩で何かしらの禁制品」だの、「他校生徒からのアプローチ」だの……色々陰謀論を考え込んでそう。

 ここ最近、ナギちゃんは『エデン条約』で忙しそうにしてるもんね。内容が内容だし。

 

 じゃあ私は? というと、素直に「花」を探してみることにした。

 

 セイアちゃんが元気になるくらいの花。それが、どんな花だったのかは知らない。

 見惚れるほど綺麗な花だったのか。思わず写真を撮りたくなるような、奇異な花だったのか。それとも、案外比喩暗喩っていうのは合っていて、特定人物のことを指しているのか。

 

 見つけてみたくて、私はトリニティを散歩してみることにした。

 

『ぇ、あっみっミカ様!? お、おお、おはようございます!』

『やっほー☆ そんなに慌てなくても……この、花畑は?』

『花、ですか。こちらはパンジーです。今年は交配に成功しまして、綺麗にグラデーションが──』

 

 トリニティの庭園に足を運ぶと、赤から青色に、鮮やかなグラデーションを描いた景色があった。中間色に黄色とオレンジが差し込まれているのに、繋ぎ目を感じさせない、虹色がそこにあった。

 

 長らくトリニティに居たはずだったのに、初めて見た景色。こんなに綺麗に、花は咲くんだって、思わず見惚れてしまった。

 

『最初にお見せできたのか、ミカ様で光栄です……あの、ミカ様?』

『へ? あ……うん。すっごく綺麗。これ、写真撮ってもいい?』

『もちろんです!』

『オッケー♪ じゃあ、あなたも一緒にっ』

『ふぇあっ!?』

 

 写真を撮りながら気付いたけど、最初にお見せできたってことは、セイアちゃんはこれを見て元気になった訳じゃないんだ。

 じゃあ、何だろう?

 

『ところで、セイアちゃんはここに来たことあるの?』

『せ、セイア様ですか……? 申し訳ございません。私には全く』

『ふーん。あ、全然関係無いことだから、考えなくてもいいよ☆ 花畑、見せてくれてありがとね』

 

 ──後から分かったことだけど、ここ最近の間では、セイアちゃんはここには来てなかった。

 

 花畑の管理をしてた生徒と別れて、別の道を歩く。その合間にも、花と呼べるものはいっぱい見つけることができた。

 生垣を飾りつけるツツジ。百鬼夜行から取り寄せた桜の木。薔薇や、チューリップとか、自分でも分かる花もたくさん見つけた。

 

 どれも綺麗で、可愛らしくて──けれど、「強か」というには、少し可憐なもの。

 

 そうして歩いて、正午になりかけようとしてる時間になった。ここまで来れば、セイアちゃんが言っていた「花」は、そういう花じゃないというは察せれる。

 

「……授業サボっちゃった」

 

 歩くの楽しくなっちゃって☆

 と言っている場合じゃない。ナギちゃんが知ったら大目玉だ。普通に、普段は出歩かない場所まで足を踏み入れてしまった。一度来たことはあるから、迷子になった訳ではないけど。

 

 今は使われなくなった、教室棟の中。私にとっては、一年生の時のクラスだった教室が、この棟にある。

 

「久しぶりに行ってみようかな」

 

 モノは全部三年生教室に移したから、なーんにも無いはずだけど。

 

 ──なーんにも無いはずだったのに。

 

 ドンッ

 

「ん?」

 

 聞き間違いか。何かが落ちた、そんな音が聞こえた。

 ここは今、私しかいないはず。けど、耳を澄ませば、微かに人の声が聞こえた。

 

 教職員の機械的な声じゃなくて、普通の。学生の声。

 

「…………」

 

 一瞬、無視してしまおうか。そう考えてしまう。

 これを見れば、これを知ってしまえば、今までの気分が損なわれてしまうかもしれない。耳に届く声は、これまでのきらめいた「発見」に、泥をかけてしまうかのような。

 

 悩んでいる間に、私は声の元までたどり着いた。

 

 

 

 

 

「ぁ、アイリぃ゛ッ!?」

 

 

 

 

 

 ほら、聞きたくなかった。

 見て見ぬふりをしていたはずの、トリニティの汚点が見えてしまった。

 

 多分友達の名前だろう。助けを呼ぶ声を、誰かが踏みつぶす音が、妙に耳に残って、ここから逃がさないと両脚を縛りあげる。

 

 立場か、現実逃避か、その時の私には分からなかった。ただ、無意識に地獄の蓋を開けた。

 その時の後悔は、今後一生残った。

 

「あのさ」

 

 何せ、助けての声を上げていた子は──

 

 

 

 

 

 ──私の大っ嫌いな、悪魔の角を生やした子(セイアちゃんが見つけた花)だったのだから。

 

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