パウロ転生 ー家族のために本気だすー   作:パウロ大好きマン

12 / 12
第十二話「ミルボッツ帰郷」上

 

 

 

「……ふう。これくらいでしょうか」

 

 盗賊達を撃退した後、獲物である棒についた汚れを払いながら、シャンドルは焚き火の傍へ戻ってくる。

 

 強い。動きだけ見れば分かる。でも、どこまで強いのかが見えてこない。底なしの井戸を覗き込んでいる気分だ。

 

「助かりました、ありがとうございます。俺はパウロといいます」

 

「いえいえ、気にしないでください。人助けは当然のことなので」

 

 軽い調子でそう答えながら、シャンドルは焚き火の反対側に腰を下ろした。

 

「それにしても、パウロ君も大したものですね。その年で、よくもここまで剣を研ぎ澄ませている」

 

「いえ、俺なんてまだまだですよ」

 

「謙虚でとてもいい子だ。私の息子にも見習って欲しいくらいです」

 

 シャンドルには息子がいるのか。まぁ、深くは聞くまい。あんまり興味もないし。

 

「ところで、パウロ君はこんな夜更けに一人で何を?」 

 

「……故郷に、帰るところです。母が病気だと、ミリオンに手紙が来て。アスラ王国に急いで戻らないといけないのです」

 

「それは、心配なことですね」

 

 声のトーンが、少し落ち着いたものに変わる。大げさに同情するでもなく、ただ静かに相槌を打つその態度に、妙な好感を覚えた。

 

「シャンドルさんは、どちらへ?」

 

「私ですか?魔大陸から、中央大陸の東へ向かう途中ですよ」

 

「魔大陸……」

 

「ちょうど、同じような方向ですね。ふむふむ」

 

 シャンドルは顎に手を当てて、何かを考えるような顔をした後、にやりと笑った。

 

「パウロ君、私の弟子になりませんか?」

 

「……は?」

 

 初対面の相手に、弟子になれと言われると思わなかった。とても怪しい、何が狙いだ?

 

 にやりと笑うシャンドルの表情に、どこか試すような色が見えた

 

「聡明で才能ある人を、弟子にするのが趣味なんですよ。それに、私は旅慣れしてますから、同行すれば君の助けになれますよ」

 

「……お断りします。助けてもらったのは感謝してます。でも、それと旅を一緒にするのは別の話です。あなたのこと、何も知らないので」

 

「ごもっとも。警戒するのは、正しい判断です。ただ、君は私がどれだけ強いのか、気になっているのではないですか? 目を見ればわかる。君がどれだけ強さを渇望しているのか」

 

「……」

 

 図星だった。盗賊たちを相手にした、あの無駄のない動き。どこまで強いのか知りたいという気持ちが確かにある。まぁ、剣を交えれば分かることか。

 

「……剣士に言葉は必要ない、ですよね?」

 

「ははっ、私が剣士だとよく気がつきましたね。とても良い目をしている……」

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、剣の柄に手をかけた。シャンドルは少し意外そうに眉を上げてから、楽しげに笑った

 

「では、お手合わせ願いましょうか」

 

 焚き火の明かりが、二人の間に揺れる。

 この人が、どれほどの強さを隠しているのか、わくわくしている自分がいる。つくづく俺は剣士だな。

 

 

 

────

 

 

 

 焚き火の明かりが届かない、少し開けた空き地まで移動する。

 

 シャンドルは、あの長い棒ではなく、俺が差し出したもう一本の剣を受け取った。剣士として戦うことを決めたようだ。

 

「私を殺すつもりで、来てください」

 

 剣を軽く振って感触を確かめながら、シャンドルが静かに言った。

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 俺は雲岳を構えて、地を蹴る。

 

 剣神流の速さで、最短の軌道を描き「無音の太刀・陸閃」を放つ。狙いは正確なはずだった。でも、刃は空を切る。シャンドルの体が、最小限の動きで軌道を次々と外していた。

 

 すぐに、水神流へ切り替える。相手の反応を見ながら、受け流しを前提とした柔らかい斬撃。でも、シャンドルは踏み込んで、その柔らかさごと受け止めてしまう。力でねじ伏せられるわけでもなく、ただ耐えられる。

 

 北神流の変則的な動きも試した。地を這うような踏み込み、予測不能な角度からの攻撃。しかし、何も通用しない。まるで最初から知っていたかのように、すべてが読まれている。

 

「ほぉ、素晴らしい剣技だ!息子と同じかそれ以上の才能を感じます。ですが、もう少し本気を出してみてください」

「っ……!」

 

 挑発に乗る形で、さらに踏み込む。でも、何度剣を重ねても、同じだった。斬り込むたびに、淡々と、当たり前のように対応される。

 

 今の俺なら、カームを相手にしても、簡単には負けない。そう思える程度には、剣技を磨いてきた。

 

 シャンドルは、帝級剣士と同等以上だ。

 

 直感的にそう悟った。背中に、冷たい汗が伝う。俺は、静かに呼吸を整えた。荒れかけていた心を、もう一度、凪がせる。

 

「雲岳"軽身"──光の太刀」

 

 刀身が、羽根のように軽くなる。最高速度の踏み込みから、奇襲の一撃を放つ。目にも留まらぬ速さで、俺の切り札とも言える剣筋が、シャンドルの喉元へ奔った。

 

 ──届く。

 

 そう確信した、次の瞬間。

 

「おおっ!いい速さですね」

「……え」

 

 剣が、止められていた。

 完璧なタイミングで、完璧な角度で、シャンドルの剣が俺の一撃を受け止めていた。力みも、無駄もない、あまりにも自然な防御。

 

 自信のあった一撃が、まるで児戯のように止められている。その事実に、頭が一瞬、真っ白になった。

 

「隙あり」

「がっ……!?」

 

 気づいた時には、腹部に衝撃が走っていた。

 シャンドルの蹴りが、腹に深くめり込む。体が地面から浮き、そのまま後方へ吹き飛ばされた。

 

「ぐ、う……っ!」

 

 背中から地面に叩きつけられる。息が詰まって、まともに声も出なかった。腹の奥が、燃えるように痛い。

 

「──動いたら、死にますよ」

 

 静かな声が、頭上から降ってくる。

 見上げると、シャンドルが、両手で剣を構えて掲げていた。

 

 体が、動かない。痛みのせいだけじゃない。あの構えを見た瞬間、本能が、逃げることを許してくれなかった。

 

「右手に剣を、左手に剣を」

 

 淡々とした詠唱。でも、その言葉とともに、剣に込められる気配が、桁違いに膨れ上がっていくのが分かった。

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

 空気がガタガタと震える。木々が、風もないのに揺れている。

 

「……っ、何が」

 

 体の芯から、震えが込み上げてくる。これが、恐怖なのか。

 

「不治瑕北神流奥義──破断!!」

 

 振り下ろされた一撃が、空間そのものを引き裂くような衝撃波を放った。地面を抉りながら、強大な斬撃と衝撃が迫り来る。

 

 ──死んだ。

 

 でも、次の瞬間、轟音とともに、斬撃は俺の体を大きく逸れて、背後の森へと突き進んでいった。

 

「……」

 

 振り返る余裕すら、最初はなかった。

 轟音が収まったあと、恐る恐る、背後を見る。

 

 ──森が、消えていた。

 

 太い木々が立ち並んでいたはずの場所に、巨大な抉れた跡だけが、月明かりの下に広がっていた。あの一撃が、まともに俺を捉えていたらと思うと、背筋が凍りつく。

 

「……っ、は」

 

 これが、剣で出せる破壊力なのかよ。人間に向けていい技じゃないって。いまのが直撃していたら、肉片も残らなかった。

 

「……参り、ました」

 

 俺は、地面に手をついたまま、静かにそう言った。負け惜しみを言う気にもなれなかった。それくらい、圧倒的だった。

 

 シャンドルは、剣を下ろしながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。穏やかな顔は、戦う前と、何も変わっていなかった。

 

「これはとてもいい剣ですね。魔剣と同等までは言わずとも、稀に見る名剣だ。もしもこれが鈍だったら、狙いがずれて、君に当たっていたかも知れません」

 

「えっ!?」

 

 ありがとう、母様父様。誕生日に贈ってくれた剣のお陰で、俺は命拾いをしました。

 

 

 

────

 

 

 

 

 地面に横になったまま、俺はまだ、荒い息を整えていた。シャンドルが、こちらに手を差し出してくる。その手を借りて、なんとか体を起こした。

 

「……完敗です。シャンドルさんって、何者でなんですか?」

 

「ただの傭兵ですよ。少しだけ、剣が得意なだけです」

 

 シャンドルで少しなら、俺は何だろうか。謙遜もここまでくると、いっそ清々しいものだ。

 

「さっきの技──不治瑕北神流って、何なんですか? 普通の北神流とは違うものですよね」

 

「不治瑕とは、『その太刀にて負わされし疵、不治なり』を意味します。初代北神が不死魔王を倒すために編み出した剣術で、とにかく破壊力に特化した技が多いですね」

 

「初代北神って、あの三英雄の一人じゃ……!」

 

 三英雄とは約四百年前の「ラプラス戦役」で人族を勝利に導いた三人の英雄のことだ。

 

 ちなみに『破断』と言う技は、不治瑕北神流の奥義で、不死身の魔族や巨大な魔物を、一撃で絶命させる技らしい。

 

「──ん? シャンドルさんはその奥義を、俺に使ってきたってことですよね?」

 

「いや、ま、まぁそういうことですね。はは。つい、興が乗っちゃって」

 

「つい、じゃないですよ!俺、消し飛ぶところでしたよ!?」

 

「だって弟子候補に、かっこいい姿を見せたいんだもん!」

 

「おっさんが、可愛こぶるなよ!」

 

「私はおっさんと言われる年齢じゃない!まだまだ若い方なんです」

 

 この人は何を言ってるんだろう。どう見ても中年のおっさんじゃないか。息子もいると言っているし。

 

「どうです?正式に、私の弟子になる気はありますか」

 

「……お願いします。弟子にしてください」

 

 その言葉に、俺は少し考えてから頷いた。

 俺の何十倍、いや何百倍も強い剣士だ。そんな人の元で学べる機会なんてそうそうない。

 

「よろしい。では、これからよろしくお願いしますね、パウロ君」

 

「はい。よろしくお願いします。シャンドルさん」

 

 握手を交わしてから、ふと、気になっていたことを聞いてみた。

 

「あの、修行してくれるのは嬉しいんですけど、俺は急いで帰らないといけないんです。旅を続けながら、修行ってできるんですか?」

 

「……そうですねえ」

 

 シャンドルは、顎に手を当てて、しばらく考え込んだ。何か案が思い浮かんだのか、手をポンと叩いた。

 

「日中は、私が君を背負って走ることにしましょう。私は君より脚が速いので、予定より遅れる心配はありませんよ」

 

「……はい?」

 

「そして、日が暮れたら修行です。朝方まで続けましょう。北神流には、数え切れないほど技がありますから、みっちり教えます」

 

「……え?」

 

「君が眠るときは、私の背中を使えばいい。移動中に寝ておけば、睡眠時間も無駄になりませんからね」

 

「いやいやいやいや!」

 

「大丈夫ですよ。人間、慣れればなんとかなる」

 

 あまりにも適当な返事に、思わず頭を抱えた。でも、まったく悪びれる様子もなく、涼しい顔のままだった。

 

「嫌なら、断ってもいいんですよ。無理に弟子になれとは言いませんから」

 

 その一言に、ぐっと言葉が詰まる。

 確かに、無茶苦茶な提案だ。でも、さっきの手合わせで見せられた力を思い出すと、簡単に断る気にもなれなかった。それに、母様のことを考えれば、一刻も早く移動の速度を上げられるのは、素直にありがたい。

 

「……分かりました」

 

「おや、承諾してくれるんですか」

 

「背負われるのは、ちょっと嫌ですけど……母様のことが最優先なので。だから、やります」

 

「それは重畳。では、さっそく背負わせてもらいましょうか」

 

「え、今からですか?」

 

「善は急げ、です。それに、朝はもうそこまで来ている」

 

 言われて空を見上げると、地平線から光が差していた。色々あったせいで、あっという間に時間が過ぎていたみたいだ。

 

「ほら、乗って。しっかり、掴まっていてくださいね」

 

 差し出された背中に、俺はおそるおそる体を預けた。軽い口調とは裏腹に、背負われた瞬間、体がぐっと浮き上がる感覚があった。

 

「それでは──行きますよ」

「うわっ……!?」

 

 次の瞬間、景色が猛烈な速さで流れ始めた。

 思わず声が漏れる。これまで自分の足で走っていた時とは、比べ物にならない速度だった。

 

「ははは!子どもを背負うなんて、何年振りでしょう!」

 

 風を切る音の中、シャンドルの楽しげな声が響く。とんでもない師匠を拾われた──そう思いながらも、俺はその背中に、しっかりとしがみついていた。

 

「ね、寝れる気がしないっ!!」

 

 

 

────

 

 

 

〜シャンドル先生の地獄修行〜

 

『基礎は出来ているので、とにかく実戦を経験していきましょう』

『はーいっ!』

『じゃあ、素手で魔物の群れを退治して下さい』

『へ? 素手?』

『剣は甘え』

『やば』

 

『今日は、この森で鬼ごっこをしましょう!私が君を捕まえたらボコボコにします。その次は、君が私を捕まえてください』

『……もしも、俺が捕まえられなかったら?』

『ボコボコにします』

『やば』

 

『今日は、この崖で修行しましょう!』

『ははん、分かりましたよ。崖を登る修行ですね?』

『いや、走るんですよ。剣を持って、垂直に』

『やば』

 

『この毒キノコを食べて下さい。頭痛、眩暈、吐き気、腹痛、に襲われるでしょう!』

『それは拷問といいます』

『絶不調での戦闘を経験してもらいますよ』

『やば』

 

『いやー、めきめきと強くなっていますね。師匠として鼻が高いですよ!』

『……し…ぬ……。誰か、たす……け、て』

『大丈夫!人はこれぐらいでは死にませんから!』

『や……ば……』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

龍神転生〜再会してから本気出す〜(作者:ガチ無職)(原作:無職転生)

ヒトガミを倒した龍神…しかし、彼の時間が終わりを告げることはなかった。▼再び巻き戻る世界。ヒトガミを倒すために力を使い果たした龍神。▼彼は、かつての『仲間』──そして友である「ルーデウス・グレイラット」に再会するため、力を蓄えながら世界を歩む。▼再会した時に『本気』を出せるように。


総合評価:1219/評価:8.77/連載:9話/更新日時:2026年10月19日(月) 16:09 小説情報

無職転生一週目クリアRTA(作者:さくらいJAN)(原作:無職転生)

ちょっと「日記」が辛すぎたので救いを求めて。▼(淫夢要素は)ないです。


総合評価:1031/評価:8.54/連載:5話/更新日時:2026年09月22日(火) 18:00 小説情報

剛腕転生~気合いと根性で殴り倒します~(作者:ラリゴラリゴラリゴ)(原作:無職転生)

自分の我を通した結果、壮絶な最期を迎えた少年は気付けば異世界の戦場に放り出された幼子となっていた。▼前世で磨かれた喧嘩殺法と、異世界に来たことで獲得したチート染みたスペックをもって彼は世界を生きていく


総合評価:2043/評価:8.75/連載:7話/更新日時:2026年10月10日(土) 19:00 小説情報

無職が来る前の世界で頑張ってみよう(作者:思いついたら書く人)(原作:無職転生)

 理由は分からないが死んで転生した。▼ 無職転生の世界に。▼ 問題なのはどうやらルーデウスとしての転生だということ。▼ うーん。どないしよ?ロキシーと結婚しないとダメ?▼ Web版を参考にしていきます。改善点は活動報告の方に。


総合評価:1964/評価:7.57/連載:38話/更新日時:2026年10月14日(水) 12:09 小説情報

ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら(作者:りんごりら)(原作:無職転生)

ルーデウスに2歳年下の妹ができました。▼妹の名前はトマ・グレイラット。お兄ちゃんっ子で倫理観は薄め。でも家族は大好きです。▼無職転生はなろう、漫画、アニメを見てます。▼呪術廻戦は漫画、アニメ▼Web版を参考に執筆しています。▼無職転生、呪術廻戦、呪術廻戦モジュロの最終話までのネタバレを含みます。▼呪力は無いです魔力で動く無為転変っぽいやつです。▼原作ストーリ…


総合評価:5298/評価:8.75/連載:45話/更新日時:2026年10月19日(月) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>