天才に出会ってしまった凡人たちの末路 作:どうも
王立騎士団に入団してから10年が経つ。
それなりにこの業界で生き延びてきて、ある程度の立場も出来てきた。
おかげで手に入れてきたものもそれなりにあるが、同時に失ってきたものも無数にある。
例えば――。
「俺は水生流の道場で一番腕が良かったんです! この騎士団に入れて貰えれば、間違いなく活躍できます!」
こういった若者特有の世間知らずな自信とか、そういったものだ。
私も昔は自分が名を轟かすような騎士になれると信じて止まなかった。
努力を続けてさえいれば、その努力は自分に報いてくれる、そう信じていた。
しかし、結局のところ、10年経っても私の名前は騎士団員全員にも届いていない。
ただのしがない小隊長だ。
私の名を知っているのは、自分の抱える小隊の部下たちと、数人の上司といったところだろうか。
この10年、努力を怠ったことはない。
それどころか、生まれてこの方、29年、一日たりとも剣を持たなかった日はないくらいだ。
彼氏も作らず、女の子らしいことはすべて捨てて、ここまでやってきた。
なのに、いくら頑張っても、小隊長止まり。
30を超えれば後は下り坂だ。
どれだけ鍛えようとも身体の老いには逆らえない。
これ以上剣が上手くなることはないだろう。
この10年でそういった現実を何度も何度も味わった。
自分の実力不足を何度も実感した。
今回、自分の小隊の新規隊員を募ったのも、自分の実力不足で欠員を出してしまったからだった。
一ヶ月前、国の県境の山脈付近にA級の魔物〈ギガント〉が出たと報告が上がった。
その討伐遠征に自分の小隊が選ばれた。
久しぶりの大型任務だ。
部下たちも成果を上げようと躍起になっていたし、私も念入りに下調べをしていった。
なのにちょっとしたドジで二人失った。
森に元々生息していたトレントの横やりのせいで、後方支援のバフ付与のタイミングが少しズレたのだ。
バフが切れて急激に速度を失った前衛の二人がその変化についていけず、瞬く間に〈ギガント〉に叩き潰された。
索敵員に周囲の索敵の指示を出していなかった自分の責任だ。
目の前の大型の敵にしか意識が向いていなかった。
そういったちょっとした視野の狭さが簡単に人の命を奪う。
だから、この青年は不採用だ。
どれだけ腕が良かろうが、ウチの小隊に、自分が自分が自分が、みたいな人間は必要ない。
それから何人かの志願者を面接していった。
それなりに実戦経験があり、仲間を失った経験もありそうな人材が二、三人いた。
彼らには二次試験の会場の案内を渡しておいた。
人員の補充は二人いれば十分だ。
最後の志願者もどうせあまり期待はできないだろうし、不採用を言い渡してさっさと面接を閉めよう。
ちょっと疲れてきたところだった。
「お邪魔します」
そう入ってきたのはぱっと見は普通の青年だった。
何処にでもいそうな、街に出ればすぐに見失ってしまいそうな、そんな青年だった。
しかし、私の長年の勘は違和感を感じていた。
どことなく雰囲気が独特なのだ。
緊張しているわけでもなく、かといって傲慢なわけでもない。
ただ興味深そうに部屋の中を見渡していた。
「座って」
私は一つ前の志願者の履歴書に不採用の文字を書きながら、自分の机の対面にある椅子に座るように促した。
すると彼はそこで初めて私の方を見た。
言葉はない。
そのまま彼は私の方を見ながら、ジッと動かずに立ち続けていた。
「聞こえなかったの? 座って」
私は痺れを切らしてもう一度言った。
それでも彼は動かなかった。
その後、彼はゆっくりと口を開いた。
「あの……」
「なに?」
思わず語気を荒らげてしまった。
指示に従わない彼の態度にイライラしているのかもしれない。
「あっ、いえ、怒らせるつもりはなく――」
「そう」
「貴女は何で……
「は?」
一瞬、言っている意味が分からなかった。
しかし、徐々にその言葉の意味を理解し始める。
彼の言っていることは正しかった。
私は生まれつき左利きなのに
「何で……分かったの?」
眉根を寄せて尋ねる。
すると彼は軽く肩を竦めて言った。
「まず、貴女、ペンは左手で持っているじゃないですか」
そう言われて自分の左手を見る。
確かにそこには不採用の文字を書くための万年筆が握られていた。
「でも、肩が少し右下がりで、筋肉も左腕より発達している。それに、左手の剣だこの方が小さいので」
「……なるほど」
言っていることは確かに的を射ているように感じた。
しかしこの一瞬でそこまで見抜ける人間に会ったことはない。
何かトリックがあるのではないか。
そう感じてしまった。
試してやる。
そう思った私は、感情を表に出さず、彼にこう尋ねた。
「じゃあ、私が何の流派の使い手か、分かる?」
尋ねると、彼は少し私のことを見つめた後、言った。
「う~ん、おそらくですけど、
当たっていた。
私はとうとう驚きを表情に出してしまう。
「なんで分かったの?」
「剛我流の特徴は、重たく大きな得物と、体重を乗せた勢いのある振りです」
「そうね」
「重たい得物を持つには、肩周りの筋肉が必要になる。それに一振りに体重を乗せるから、身長や体重も必要になってくる」
「女に体重の話をするなんて、デリカシーがないのね」
茶化すように言ってみるが、彼はそれを無視して話を続ける。
まるで、自分の世界に入り込んでしまったかのようだった。
「男性と変わらない身長と体重、そして肩周りの筋肉の盛り上がり方。それともう一つ、視線の動かし方にも少し癖が見られますね。貴女はあまり焦点を動かさずに周囲を観察している。つまり周辺視野を使うことに慣れているということです。剛我流は基本、正確な狙いとか考えずに押し切るタイプの流派なので、周辺視野を使ってとにかく視覚情報を得ることに特化することになる。その癖が日常生活にも現れていますね」
絶句した。
体つきだけではなく、視線の動かし方の癖まで見抜かれるとは。
でも、確かにそうだった。
言っていることはすべて間違っていない。
彼は言い終えると満足したような表情をして、椅子に座った。
そして言った。
「さあ。面接をお願いします」
私は彼に二次試験の会場場所を伝えた。
もう既に、私は彼の虜になっていたのかもしれなかった。