ワタシ達はバクロ婆とトモダチになった後、ケータくんに謝った。笑顔が素敵と褒めてくれたのに怖い顔をしてしまったからだ。ケータくんはデートを駄目にされて怒るのは普通のことと言って、バクロ婆に取り憑かれたとはいえ変なことを言ったオレにも責任があると頭を下げた。
「じゃあ、おあいこだね。」
ワタシがそう笑うとケータくんも笑った。ワタシ達は今までの道を反転し、ひょうたん池公園の方に行く。河川敷を見て他の水場を見たい気分になったからだ。道中の話は、バクロ婆を切っ掛けとして、お互い言いたいことを言おうという雰囲気になっていた。ケータくんだけが秘密を喋るのも不公平だしね。
「ワタシ、将来子供は2人は欲しい。男の子と女の子で1人ずつ。そよ風ヒルズの一軒家でケータくんと子供たちと楽しく暮らすの。」
「そよ風ヒルズかぁ。カンチの家を見ればわかるけどあそこの家高いから頑張って稼がないと。」
ケータくんは話をよく聞いてくれる。それこそ胸の内にある黒いものも。
「本当はね。今すぐケータくんと結婚したいの。ありとあらゆるしがらみの無い世界の中で、ケータくんの子を沢山産んで、沢山幸せになりたいの。」
でも、それは叶わない。今のワタシの現実は誰かを育てるほどのお金も無くて、子供を産めるほど体は強くない。何より人と関わらざるを得ないこの世界が勝手にしがらみから逃れる事を赦さない。それがどうしようもなく恨めしい。
「だからオレたちは力をつけ結婚するために、早く大人になりたいと思ってたんだよね。」
そう。ワタシ達は早く大人になりたかった。クラスの子と遊ぶのは大好きだけど、それ以上にケータくんより身近な位置でワタシを支えてくれる両親に、何よりワタシ達を引き合わせてくれた大人に憧れていたのだ。いつかこんな大人になりたいなと2人で話し合ったりもした。
でも今はその考えが揺らいでいる。
「大人になったら、妖怪が見えなくなるんだよね……。」
ウィスパーから聞いたことだけど、子供の内に妖怪が見える人はそこそこ居るそうだ。そういった人はウォッチ無しでもハッキリ見えるらしい。でもそういった人の大多数は大人になるにつれてその力を失うのだ。まれにその力を失わない個人、あるいは妖怪が見えることが当たり前の家系があるそうだが、ワタシとケータくんはそのどちらでもない。
ワタシには霊感があるけどもっと強い力が必要で、ワタシ達は大人になっても妖怪を見る力が一切ないのだ。
「そして妖怪が見えなくなったら最後、妖怪に関する記憶を忘れてしまう……。」
もちろん妖怪ウォッチを沢山使えば記憶を失うことを防げる。でも妖怪が見えなくなる力が連鎖して記憶に影響を及ぼすことが無いと言い切れないのだ。
ワタシは、その事を悲しいと感じている。
「バクロ婆を見て思ったの。妖怪の力を必要としている人も居るって。さんかく公園の時ケータくんは妖怪が居ない世界がいいと言っていたけど、ワタシは何から何まで居ない方がいいとは思えない。」
ワタシ達は妖怪を知らなすぎる。知らないからといってひたすらに拒絶するのはもったいないと思った。
「オレはきっと、フミちゃんを守る口実、いやそれすらも理由で妖怪と関わるのがめんどくさいと思ってたかもしれない。フミちゃんが他の人より苦しんでいたのは妖怪の仕業だったから、オレは無意識の内に敵だと思っていたし、トモダチも敵を排除するための駒と思ってたかもしれない。」
ケータくんはトモダチ妖怪をゲームのキャラに見た立ていたと話す。只あの戦闘を経て、ケータくんはトモダチ妖怪をボタン1つでいろいろ行動できるゲームのキャラじゃなくて、ちゃんと自分で考える、この世界に生きる存在だと強く認識したと明かした。
「だからオレはせめて、トモダチになる全ての妖怪を信じようと思う。それがトモダチとしての礼儀だから。」
そう決心するケータくんの顔を見つめる。その瞳が夢見る理想には、ジバニャン達トモダチ妖怪が映っている顔をしていた。
ぐぅ~~~……
いろいろ考え事したし、戦闘もしたしでお腹がなっちゃった。その間抜けな音とさっきまでの話も相まってお互いの顔が真っ赤に染まる。
「ごっご飯食べようかフミちゃん!ちょうど着いたし!」
「うっうんそうだね!時間もちょうどいいし!」
ワタシ達は同じベンチに座ってアッカンベーグルとモグモグバーガー、そして自販機で買ったヨカコーラを取り出す。ケータくんも同じように広げたら、いただきますと挨拶してワタシはアッカンベーグルを、ケータくんはモグモグバーガーを頬張る。
もちもちしたやさしいパンの食感とシャキッとした葉物野菜のアクセントが食欲を刺激し、卵とベーコンがパンの旨味を高める珠玉の味。看板商品かつ数量限定も納得できる美味しさの暴力がワタシを襲った。
こんな物をケータくんと食べれるなんてワタシは幸せ者だなぁ。
◇◆◇
オレはお昼ごはんであるモグモグバーガーを食べる。モグモグバーガーの一番旨い食いかたは一気に食べることだ。一見ゴテゴテに積み上がったオモチャに見えてもそれは食う者の脳天を打ち鳴らす味の建築物。肉が本能を訴え野菜は食感と酸味で旨味をサポートし、パンはそれらを一纏めしたあと2種のソースが一気に押し出す。
さながら理性という城を破壊するための破城槌。渾然一体となった味はオレの手と口が止まらせない!
「ケータくん美味しいね♪」
オレを美味しさの波から拾い上げたのは彼女のフミちゃんだ。フミちゃんはアッカンベーグルを片手に笑顔を浮かべている。
「うん!とても美味しい!いろいろあったけどフミちゃんと食べれてよかった!」
これがお弁当だったらあ~んとかできるけど、ホノボーノとドンヨリーヌは1人1つ食べることを想定しているから素直に食べる。純粋に食べたいというのもあるけどね。それでも会話が弾み、楽しくなれるなら問題無いんじゃないかな?モグモグバーガーを食べきってアッカンベーグルに手を出す。これはこれでパンの至高を垣間見た味だった。本当にフミちゃんと食べれてよかった。──────────
オレたちはご飯を食べた後ぼんやりとひょうたん池を見つめる。名物のスワンボートや外周をランニングする人、池に向かって釣糸を垂らす人といろいろ居る。フミちゃんはそれに加えて妖怪を見ているのだろう。一見何も無さそうだけど、フミちゃんの視線の先に妖怪が居ることをオレは知っている。
でもウォッチを向けたりしない。半ば崩壊しているけど今回のデートは妖怪を気にしないことだから。
「け~たくん」
何時もより緩んだ声がしたので顔を横に向けるとフミちゃんがうつらうつらとしていた。夏の暑さが池の涼しさで中和されて居心地のいい空間になっているのに加え、パンとハンバーガーでお腹が満たされたからだろう。事実オレも眠たくなってきた。
「ちょっと、お昼寝する?」
「うん。ケータくん、体借りるね。」
そういうとフミちゃんがオレに寄りかかってきた。相当眠たかったのだろう。オレも睡魔に負け、オレたちはベンチで身を寄せ合いながら眠るのだった。
◇◆◇
「ねーママー。あそこの2人仲良くおねんねしているよー。」
「あらあの子達は……フフ♪今日はどんな夢を見ているのかしら。」
「ハッ……ハッ……後10周。……しかしあの2人随分仲がいいな。俺はこの頃妻には見向きもされなかったのに。」
「爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろリア充!オ・シャレンヌで彼女にダサい所を見せたオレはもはや無t……ダメだあんな幸せそうな顔を曇らせたくない。」
「まさかここで隣のクラスで有名なケーフミのイチャイチャを見れるとは!あどけない表情と緩みきった体から放たれる幸せオーラ!浴びるだけで寿命が伸びました!ごちそうさまです。」
その日、そよ風ヒルズの夜が少しほのぼのとしていた。その理由を聞くと皆はこう答える。ひょうたん池公園で素敵なカップルを見たと。