フササさんのたのみごとを解決して2日後、その日は雨が降っていた。今日は家で過ごそうかなと思っていた時、かなり降っていたにも関わらずフミちゃんがオレの家に上がってきた。全力疾走したのか息を切らしていてオレは心配したが、ウィスパーが言った言葉がこの状況を引き起こしたのを察した。
「町中に妖気が立ち込めています。バクロ婆達が言っていた事が現実となる時が来たかもしれません。」
バクロ婆達が言っていたこと、それは変な妖気が強まることでさくらニュータウンに異変が起こるんじゃないかというもの。それを防ぐ妖怪も居たようだが、持たなかったようだ。オレはすぐに雨具をもって異変の発生位置をウィスパーから聞く。どうやらこやぎ郵便に変な妖気が活性化しているとのことだ。オレたちは全速力でこやぎ郵便に向かう。そこには郵便ポストになにかをしているおじさんがいた。
「これをこうして……これでもう邪魔されないだろ……。」
その光景を見たウィスパーとフミちゃんが反応する。あの人が良からぬ事を企んでいると読んだオレはバクロ婆を召喚し、おじさんに接近する。
「あのスミマセン、ここで何をしているんですか?」
そう聞くとオレのどこか気に入らないのか明らかに顔を歪めて、オレたちにいい放つ。
「あっ?……子ども2人がおじさんに何のようだい?忙しいから他所にいってくれないかな?」
強い拒絶をその身に受け、何かあるなとオレたちが察した瞬間、バクロ婆がおじさんに取り憑いた。
「オレサマは町の結界を解いて誰よりも強い妖怪になるんだ。この日の為に人間に化けて機を伺ってきたんだからな。最後の最後で邪魔が入ったがもう遅い、この妖力を手に入れてオレサマが世界の全てを手に入れる!」
なんと!おじさんは妖怪で、町の結界を解いて世界を手にできると思うほどの力を手にするつもりとの事。そんなことが起きたら間違いなく世界は混乱する。コイツは間違いなく敵だ!
「くそっ!ペラペラ喋ってしまったぜ。お前らには死んで貰う!」
「世界を手に入れるなんてさせるものか!」
「妖怪達も恐がっているの!ここで止めて見せる!」
「やれるもんならやってみろぉ!」
オレたちが妖怪を召喚したタイミングでおじさんは本来の姿、ネクラマテングとなって風の妖術をオレたちに向かって繰り出す。
土煙が上がりネクラマテングがにやりとしたがオレたちは無傷だ。
「ありがとうムリカベ。」
先制攻撃をされることは想定内なので先に壁となる妖怪を召喚した。そのお陰でオレたちは無事で済んだ。
「オォ、風はムリー。」
だがその代償としてムリカベの弱点属性をもろに受けてしまった。妖怪の扱う妖術には属性があり、受ける側にも属性耐性、弱点が存在する。ネクラマテングの妖術はムリカベに弱点をつける形。つまり短期決戦で行かないとオレたちの身が危ない!
「はっ耐えるかよ。なら行けぇお前ら!」
ネクラマテングが仲間を呼んだ。すると上空から2体のネガティブーンが飛来する。
ネガティブーンという妖怪に取り憑かれるととにかくネガティブな感情になるのだ。それが戦闘に活かされたら厄介な展開になる。何で知っているかって?オレたちのトモダチ妖怪になっている子もいるからだよ。どうやらその子は敵メンバーに居ないらしい。
「なら打たせる前に倒すだけよ!」
そうフミちゃんが声を出して妖怪に合図を送る。その瞬間地上から飛んできた水の妖術がネガティブーンに命中した。
「ブン?!これ思ったより強いブーン。」
雨で勢いが増したのか、あるいは雨でやる気が上がったのか、従来の数段強い放水の術によりネガティブーンは僅かによろける。
「じめ~。雨の中で負けないよ~。」
そう息巻くのはじめりんぼう。あたりの湿気を増やし、じめじめさせる妖怪。その特性からか雨が大好きで、雨天時にパフォーマンスが上がるかもとフミちゃんが喚んだ子だ。その結果は間違いじゃないようでネガティブーンに予想以上のダメージを与えている。それを皮切りにオレたちのトモダチが遠距離妖術を連射し始めた。ネクラマテング達も応戦するが、得意の妖術は相殺され、一方的に射たれるままとなっている。
「くそっ!なら接近だ!盾が居なくなりゃ多少はましになるだろ!」
ネクラマテングらはたまらずオレたちに接近してきた。オレたちの壁となっているムリカベの倒す算段だ。確かに至近距離から風を捩じ込めばムリカベはノックアウトだ。しかし、簡単に接近を許すかな?
「ダラ~ん。」
接近する3体の前に刀の妖怪が現れる。ダラケ刀と呼ばれるこの妖怪に触れた3体は瞬く間に切り刻まれさっきの位置まで吹っ飛ばされた。
『どわ~~!?』
やいばのボディーを持つダラケ刀は接近戦のエキスパート。触れた相手を問答無用で切り裂くそれはまさに名剣の如く。取り憑いた人をだらけさせるという性質にひっばられると痛い目を見るよ。ソースはオレ。
「俺達のダラケ生活を邪魔するやつは許さないトウ。」
そしてこれで敵の体勢は崩れた。
「チャンスだ!叩き込め!」
「一斉攻撃よ!」
『オーー!』
「だらけチョップ!」
「じめりんシャワー!」
オレたちの声にトモダチ達は応え、ネクラマテング達をタコ殴りにする。そして止めといわんばかりにダラケ刀がそのダラケ具合から想像できないアグレッシブな動きで頭の剣を振り回し、じめりんぼうが妖気を解放して辺り一帯を水で押し潰す。圧倒的な暴力に叩きのめされてネクラマテング達は地に伏した。
「ああくそ……俺が負けるなんて……。だが公民館と銀行には仲間が向かった後だ……。アレを再び封じない限り世界は我ら妖怪達のも、の……。」
そう言ってネクラマテングは消滅した。だがネクラマテングを倒しても妖気が晴れない。それどころかどんどん重くなっていく。フミちゃんのような霊媒体質がなくてもその重さを感じられるようになっていた。
「フミちゃん大丈夫?」
「ワタシは慣れているから平気。でもこれを初めて感じる人だと酔っちゃうかも……。」
フミちゃんの体調を確認するとウィスパーが口を開いた。
「どうやらこのさくらニュータウンに強力な結界が張られている様子。その理由は悪い妖怪達が求める妖気を封印するためでしょう。しかしこれ程の結界が破壊されれば人間界と妖怪ワールドが混ざり合って大変なことが起こります!」
その言葉でオレたちに衝撃が走る。世界の融合なんて創作物におけるとてつもない厄介なネタだ。そしてそれは架空のお話だから笑えるのであって実際に起きたら堪ったもんじゃない!
「なら早く結界を直しに行こう!ワタシこぶた銀行に行く!」
「OK!オレは公民館だね!」
オレたちは二手に別れて結界の場所へ向かった。当然そこにネクラマテングの仲間が居たけど、
『ドリーー!?』
『もち~~!?』
この日の為に一緒に鍛えたオレたちの相手にならなかったのだった。
合計3つの結界を直したオレたちはあることを思い出す。バクロ婆は小学校から妖気を感じたということ。つまり結界は小学校にもあると考えオレたちはそこへ向かった。
そして結界のある場所、初代校長先生の像を前にフミちゃんは言った。
「ケータくん気をつけて。これ今までの結界と全然違う!」
フミちゃんがそう言うことは此処に相当ヤバいのが眠っているとみていいだろう。早く封印をとウィスパーに急かすとここ一帯の空気が揺れた。
「今までに無い妖気、ガシャより濃い敵意の塊……!」
「……間に合わなかったか!フミちゃん!それはどこに居るの!」
フミちゃんが正面玄関を指差した。そしてその方向に現れた。とぐろを1つ巻いたような下半身と移動するには小さい脚、そしてその妖怪を象徴するであろう三股の巨大な蛇みたいな頭がこちらを向いた。3つの頭が口開く。左右の頭が舌を出すが、真ん中の頭が口を開くと巨大な目玉がオレたちを見つめた。
「ギョロロ……ワガ眠りを妨げるのは誰ギョロリ……。」
明らかに今まで出会ってきた妖怪のなかじゃ格が違う存在感。ウィスパーが必死でパッドを操作する。
「ウるオォぁ、力が漲る、これぞ数百年ぶりの自由ギョロ!まずは手始めに、キサマらから食ろうてくれるギョロ!!」
補食宣言し、オレたちに向かってくる大きな妖怪。ウィスパーが特定を終えたのかその妖怪の名前を叫んだ。あれは──────