混乱。唯オレたちは混乱していた。勝利は目の前、あと一歩であの妖怪を倒せていた。だけどあの黄色い閃光がミツマタノヅチを穿ち、あの妖怪に変化をもたらした瞬間戦況はひっくり返った。
ポールはひしゃげ、、グラウンドは火の海に染まる。校舎は破壊され、中に居る先生たちの悲鳴が聞こえる。
今までの妖怪不祥事案件はイタズラで済むものだった。しかしこれは結界に封印されたことも頷ける災害だった。その力はあまりにも大きくて、あの妖怪の火炎放射一発でオレたちのトモダチが壊滅に追い込まれた。
「っ……ぁ……み、みんな……」
フミちゃんが固まっている。オレは皆の様子を見てどうするかを考える。
「あ、熱いニャン……オレッち火に耐性があるのに……。」
「じめ~。離れていたから致命傷で済んだよ、でももう一回食らったらきぜつではすまないよ~。」
「回復が追い付かん!ひもじインパクト!」
「がっちりガードで、人間守れた……でももう一発はもうムリ……!」
死屍累々。考えることを投げ出したくなる絶望的状況。でも考えるんだ。考えろ。考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
こいつにどうやって勝てばいいんだ?
「腑抜けてんじゃねえぞ!」
「グレるりん……」
「有利な状況から急転直下で大ピンチ?ハッ上等じゃねぇか。この程度で諦めるやつを、オレはダチと認めた覚えはねぇぞ!」
「こういうときこそ何時もどおりに。焦らずよく見れば勝てない戦いはないボノよ。」
「ホノボーノ……」
そうだ。オレたちは諦める訳にはいかない。この妖怪から人間界を守るために、そして何よりオレとフミちゃんの約束を果たすために!
パァン!!
オレとフミちゃんは頬を叩いて気合いを入れる。妖怪達が体勢を立て直すのを手伝いながらあの妖怪について会話する。
「ベースはミツマタノヅチのまんま。でも行動が火炎放射で固定されている。」
「常に口から炎を吐き続けているね。オレたちに例えるなら息継ぎせず歌い続けるようなものかな?どこかで息継ぎ、休憩が必要になると思うんだけど。」
「多分、止められないんだと思う。アレはもはや火で全てを破壊するまで止まらない殺戮兵器のそれよ。」
つまりエネルギーが無くなるまで止まらないということか。だとしたら尚更止めないといけなくなる。
「さっきの音声フシギの陣って言っていたよね。アレは複数の妖怪を組み合わせることで発動する種族陣形と一緒でいいのかな?」
「いいと思うよケータくん。実際妖術攻撃である火炎放射の威力が物凄く上がっていたからね。」
妖怪には同じ種族の妖怪と共に行動するとパフォーマンスが上がる。妖怪達はこの事を種族陣形と呼んでいて、効果は種族の数と同じく8つある。
その内フシギの陣の効果は妖術の威力上昇。ミツマタノヅチは妖術攻撃が一番厄介だからそれが強化された形だ。
「でも陣形効果と言うから本来1体の妖怪では発動しないよね。」
「うん。でも発動したのは間違いなくあの黄色い閃光によるものだよ。」
アレはいうならフシギの陣を発動するためのドーピング薬といったところだろう。だが1体の妖怪ではその力に耐えきれず、暴走気味になったとみている。
「ミツマタノヅチはウスラカゲ族。無理矢理フシギ族の力を打ち込まれ、その拒絶反応もあるでしょう。自我を喪失し、妖怪の領分を越えるのも致し方ないかもしれません。」
ウィスパー曰く、今のミツマタノヅチはキメラの状態で理性のない怪物のようなもの。封印開放の初期段階である程度弱まった状態からドーピングありきとはいえ本来に近いパワーを取り戻した。
言うなら今までこれでよかった要求レベルが一気に跳ね上がった事を意味する。今のトモダチが闇雲に戦ってもあの火力でこんがりいかれるだけだ。
「ワタシ思ったんだけど、ベースがミツマタノヅチのまんまならさっきまでの傷を引き継いでいるんじゃないかな?」
その一言にトモダチがハッとする。そうだ。アレはさっきまでオレたちが追い詰めた妖怪だった。ならその状態をある程度引き継いでいてもおかしくない。
「さらに、あの力は本人でも持て余すようだ。事実体の所々から火が漏れ出ていて、口が焦げている。」
文字通り穴だらけの生態だ。自らの攻撃で自爆するなんて命懸けじゃないと許されない。いや、ドーピングでこうなっているのだから命を懸けられたというべきか。
「ババーン。(なるほどね……。アレはさながら燃え尽きる寸前の蝋燭。だけどガソリンマシマシといったところかい。)」
「ハッ。なら燃えれば燃えるほど蝋燭が熔けるのが早くなるだけだろ!」
「その身を焼く大火ごとぼくらが消化するよ~。」
「決まったニャンね!」
完全に息が整って活路も見えた。なら友達としてやることは1つだ。
「皆には怖い思いも痛い思いもするかもしれない……」
「でも、頼れるのはあなた達だから……お願い!」
「「頑張って!アイツをやっつけて!!」」
その声がグラウンドに響いたとき、アイツが支配していた空気が薄れた。英気を纏ったオレたちのトモダチが大型妖怪に強襲する。
「火の直撃はムリ!何発も受けるのもムリ!!でもオレが倒れるのはもっとムリ!!」
ムリカベが前提条件を周知させる。あの火炎放射に当たるだけで戦線離脱を避けられない。冗談抜きでノーダメージ必須だ。何発も食らったら復活すらできないだろう。難易度馬鹿げている。
それでもムリカベはいざというとき盾にしろと言ったのだ。これからその一身に火炎を受けるであろうムリカベの言葉にトモダチが雄叫びを上げる。
「壁の野郎最高だぜ!お前ら!目玉探すぞ!」
「じめ~。でも熱すぎて攻撃しにくいよ~。」
トモダチが火炎放射を回避しながら弱点を探す。ミツマタノヅチの性質を引き継いでいることから目玉が弱点と思っているようだ。しかし頭から常に火炎を放っているため、攻撃しにくいとストレスがたまる。
「トホホ、でも体から熱気が漏れているところあるよね。今なら胴体にも攻撃が通るんじゃない?」
トホホギスがそう言うとその熱気が漏れている地点に妖術を当てる。すると熱気が吹き出し、火炎放射の威力が弱まったのだ!
「ギョロアアア!?!」
その熱気が大切なのか、大型妖怪は身をよじって熱気を逃さないようにする。すると傷は塞がったものの、火炎放射の威力が弱まったままだった。
「ナイスだトホホギス!皆、まずは熱気が吹き出しているところを狙って火を弱めるんだ!」
トホホギスのファインプレーによりトモダチの勢いが増す。近接攻撃が主体の妖怪もイキイキとして胴体に殴り掛かった。
「この程度の熱さならオレッちにも耐えられるニャン!」
「一寸の虫に五分の魂!熱でコロリといくほどセミは甘く無いミン!」
「名剣を跳ね返すその体、今はどうなっているんだトウ?」
ダラケ刀は妖気を解放し、必殺技を放つ。ミツマタノヅチはいかなる名剣を跳ね返すというが、その熱で身が壊れてしまったのか、ズバズバと胴体が切れてしまった。
その傷から熱が吹き出し、大型妖怪は暴れ回る。その暴れ様にトモダチは引いたその時、今までにない濃い妖気がアイツに渦巻いた!
「ケータくん!あの子は多分だけど必殺技を放とうとしている!」
ウィスパーに眼をやるとすでにパッドの指を働かせていた。ハードワークである。
「ミツマタノヅチの必殺技はモーレツ三叉撃という3つの頭を乱打させる広範囲攻撃です!でもあの様子だと身に余る熱を頭にためることで威力を爆発させますよ!」
大型妖怪の必殺技なんて食らったら壊滅は免れない!
「ミツマタノヅチは頭に意識を集中させるため、頭の1つでもノックアウトできれば必殺技を止められます!しかし、あの熱が頭部に集中している今、生半可な攻撃ではびくともしないでうぃす!」
最強の矛は最強の盾となるということか。熱と頭の二重の守りを突破しないといけない。ウィスパーの解説を聞いた2人の妖怪が前に出た。
「ババーン。(掌1つ火傷を負うなら安いもんさ。)」
「手伝うじめ~。ぼくが冷やすよ~。」
それを聞いたホノボーノが遂に必殺技ほのぼのフィールドを発生させる。ここが使い所だと判断したようだ。
2人は妖気をため、まずはじめりんぼうが必殺技を発動させる。3つの頭に籠る熱が薄れ、最も薄れた頭、真ん中の頭にバクロ婆の愛のビンタが炸裂する!
「ギョロー!!?!?」
ビンタに怯んだ真ん中の頭が溜めた熱で爆発を起こした。必殺技を中断されたので他の頭も爆発を起こし、左右の口から熱が唾液の様に滴る。そして真ん中の口に熱で焦げたであろう黄色い目玉が現れた。
「「イッケェェェ!!!」」
それを見た瞬間オレたちは叫ぶ。この勝機を逃すほどオレたちは甘くない!!!
「これでトドメニャン!ひゃくれつ肉球!!!」
トモダチの必殺技連打に大型妖怪は圧倒され、
「ギョロアアアアアアアア……」
遂に大型妖怪は倒れたのだった。