ミツマタノヅチの最期の願いに頷いた後、ワタシたちは色々お話をした。ミツマタノヅチが暴れていた時代、それが如何にして今のさくらニュータウンになったのかとか、ワタシとケータくんの学校生活、そして妖怪ウォッチを手に入れてから今日に至るまでの事と色々。
妖怪ウォッチの話をしたときにミツマタノヅチがどこか遠い目をしていたけど、自分が人間と関わらないように封印されたのに、人と妖怪のコミュニケーションツールが開発された事にどこか思うところがあるかもしれない。
そしてワタシたちはついにあの話題を切り出す。
「結界を破ったやつと、あなたを狂わせたやつに心当たりある?」
そう聞くとミツマタノヅチはバクロ婆の方を見た。力を使えと察したバクロ婆はミツマタノヅチに取り憑く。
「まず最初に言っておくと結界を壊した連中と、ワレを暴走させたやつらは全くの別人、別勢力ギョロ。」
激震が走る。つまり今のさくらニュータウンは2つの勢力に狙われているということ?そう言うとミツマタノヅチは首を振って、
「いや、結界を壊したのはこの桜町……さくらニュータウンから人間界を支配しようとしているが、ワレを暴走させたやつらはおまえ達、2人の妖怪ウォッチ使いを狙っているギョロ。」
ワタシとケータくんは大いに驚く、戦況を一変させた存在がよりによってワタシとケータくんをマークしているからだ。その余りの衝撃でどんな存在なのか聞いてしまった。
「……スマンギョロ。バクロ婆の力で名前を言いたいが忘れているギョロ。」
バクロ婆の力は秘密を話すこと。つまり無いものは話せない。たぶんだけど暴走させたやつによって忘れられたとミツマタノヅチは言った。しかし、覚えている範囲でその存在を教えてくれた。
その存在は妖怪であり、ミツマタノヅチを暴走させた力の主であること。
その妖怪の名前、容姿、戦法は忘れてしまった。
恐らく情報操作されている。
平安時代からこの地域を中心に活躍し、世界中の妖怪達から支持されていた。
ミツマタノヅチもファンだったという。
しかし人間に関わらないようにしていため、人間の知名度が低い。
60年前に、今でいう団々坂付近で起きた厄災以降消息不明となり、同時期からこの妖怪に関する記憶や記録が少しずつ失くなっていった。
そしてこれがワタシたちにとって一番重要な情報、
「あいつは平安時代からウォッチ使いを増やすと言って鍛練、活躍していたギョロ。そしてその時期は正に今年の夏、数は御神木で2個、貰う人物はお前達2人と決めていたギョロ。つまり妖怪ウォッチを手に入れたのは既定路線だけど、2つに増えてお前達に渡ったのはあいつの策略、夢によるものギョロ。」
再度衝撃が走る。その妖怪が居なければワタシたちのどちらかは妖怪ウォッチを手にすることはできなかったと言っているのと同じだからだ。
しかも、その妖怪は妖怪ウォッチをもらう時期、場所、そして人物を指定していた。偶然と片付けるには無理なことで、これ程の事を平安時代から読んでいたということは、
「まさか未来予知でも持っているの?」
ケータくんの言葉にこの場に居る全員がどよめく。その妖怪、又は周囲に居る誰かの中に未来を知ることができる存在が居て、ワタシかケータくん、或いは別の誰かが御神木で妖怪ウォッチを1つ手に入れる光景を見たのだろう。しかしその妖怪がその事を気に食わず、ワタシとケータくんの2人がウォッチを手にするようにしたとケータくんは言った。
「でも、その妖怪の望み通りワタシたちは妖怪ウォッチを2つ手に入れたよ?」
「きっとあいつはおまえ達2人を使って何かしたいギョロ。でもそのハードルが高いから……ワレを暴走させたんだギョロ。」
ミツマタノヅチはその妖怪のたのみごとを受けるための試練にされたと自嘲した。
確かに今までの戦いやたのみごと、そしてミツマタノヅチ戦はウォッチ1つでもできたかもしれない。でも暴走ミツマタノヅチ戦の場合はウォッチ1つだと戦いの土俵にすら立てなかっただろう。そう考えると、その妖怪のレベルデザインは合っていたのかもしれない。
「これからは2つの妖怪ウォッチがあることを前提に仕掛けてくるかも。」
「勝って兜の緒を締めよ。ニャンね。」
「人間界を支配しようとしている連中もいますからね。」
そうだ。そういうのも居たんだった。ミツマタノヅチにその事を聞こうとすると、バクロ婆が取り憑きを止めた。
「ババーン。(時間切れだよ。もう消滅する。)」
ミツマタノヅチの体が薄くなる。結界を壊した妖怪達の話を聞けなさそうだ。
「ねぇミツマタノヅチ。」
ケータくんが消え行くミツマタノヅチに声をかける。そしてケータくんは最後にこう言った。
「出会いが違ったら、君の望みが別の形で叶ったなら、オレたちトモダチになれたかな?」
意外な言葉にミツマタノヅチは目玉を出した。そしてワタシたちを見つめて、
「最後の最後までとんだお人好しギョロ……そうギョロね、連日連夜戦ってくれたら考えてもいいギョロよ。」
「なら、そのときはオレたちとトモダチになってよ!」
「人間を襲うのはアレだけどあなたと話すの楽しいもん!そのときはワタシともトモダチになって!」
ミツマタノヅチの返答に納得したのか、ケータくんはトモダチなろうと誘う。ワタシも彼と話すのが楽しかったから同じようにトモダチになりたいと示した。
「敵わないギョロ……これがやつが見たい景色、悪く、無い……」
そう言い残しミツマタノヅチは消滅した。重々しい妖気は完全に消え失せ、激戦の跡は綺麗さっぱりになり、残ったのは何も変哲もない校舎とそれを前にしたワタシたち、そしてそれらを濡らす雨だった。
「どういうことだ?ここで強力な妖気を感じたが……。」
その声がした方向に顔を向けると、水色で先端が竜の口のようなマフラーをした青年がいた。