フミちゃんから大事な話があると言われた。今まで見たことない真剣な顔だった。ぼくはコクンとうなづいた後、砂場に移動して砂遊びをしながら話を聞く。
「実はワタシ、フツーの人には見えないモノが見えたり、聞こえたりするの。」
砂場にある自分の手が止まり、フミちゃんの顔を見た。ビクッとフミちゃんの体が震え、ぼくと目があった。普段のぼくならここでウソだと言っていただろう。でもその怯え方からとてもウソだと思えなかった。
「大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ。」
話の続きを促してまた耳を傾ける。フミちゃんがいうには、その見えないナニカはいろんな場所に居ること、ナニカが行動する度、人にいろんなことが起こること、ナニカのやることを人は防ぐことができないこと。……ナニカに声をかけた時からフミちゃんの周りにナニカで溢れるようになったこと。
フツーの人には想像もつかない体験をフミちゃんは経験した。その話が進む度に声が震えて、目に涙が貯まっていっている。一度気持ちを切り替えるために、
「引っ越したのはそのナニカが理由?」
と聞くと、フミちゃんは首を振って
「パパのテンキンが理由。ナニカがなくてもココに来ていたと思う。」
と言った。でもその時にはもうナニカから離れたくて仕方がなかったとフミちゃんが続けると、重要な事を話すのか少し息を飲んだ。
「それで、ね、ココに初めて来たとき、とーても恐いナニカが同じ組の子に取りついていたの。」
砂をいじる音が聞こえなくなり、不思議とフミちゃんから目を離せなくなる。
「今までは大量のナニカがこっちに来たらって考えたら恐かったけど、どこか可愛いモノだった。でもあれはハッキリと人を殺せるようなモノで……もしあれがかかってきたら殺されちゃうって。本当に恐かった……」
声の震えが限界に達し、涙が流れる。怪人が目の前に居るのにヒーローが一切居ない状態だ。そりゃこの生活を楽しむなんて不可能だ。
「お父さんとお母さんには話したの?」
ぼくはそう聞くとフミちゃんは、
「話したよ。でも初めてだからなんとかなるって何もしてくれなかった。ナニカを初めて見たときもそうだった。」
涙がどんどん溢れて、砂場に染みができる。いつ人が殺されてもおかしくない状況で大人が動いてくれない。どれほど恐かったのだろう。どれほど苦しかったのだろう。ならなんとかしようにもこの話をここまで聞いてくれる人がいったいどれだけいるのだろうか。さっきまでのぼくを含めてその数はゼロに近いだろう。そしてお父さんとお母さんが受け入れてくれなかったという事実がフミちゃんをより孤立させたのだと理解した。ぼくに声をかけたあれはそれをわかっていたのかもしれない。
「でも、今ではみんなと遊べているよね?何かあったの?」
涙が切れたと確認してどうして今にいたったのかを聞く。するとフミちゃんからとんでもないことを言い出した。
「ケータくんが倒してくれたの。」
全く身に覚えのないことだった。えっ?ぼく?と指を指すとウンそうだよとうなづく。
「ケータくんが遊びに誘ってくれたときスゴい光が出たの。その光を浴びた恐いのがどんどん小さくなって、今ではワタシが普段みているナニカと変わらないくらいだよ。」
どうやら裏でとんでもないことが起きていたらしい。そんな特別な事をしているつもりはないんだけどな。実際みんなから、それこそフミちゃんからフツーと言われているし。
「実はね、ナニカの数はワタシが前にいたとこより多いんだ。でもあの恐いのを倒した強い光ほどじゃないけどケータくんは常にナニカを弱らせる光を出しているの。ケータくんが居なかったらココはもっと大変なことになっていると思う。」
フミちゃんはそう言いきるとどこかスッキリとした雰囲気を纏って、
「ケータくんを誘ったのはね、みんなが見ることも聞くこともできないナニカを見ることも聞くこともできるフツーじゃない子ども、木霊文花のことを聞いてもらいたかったの。あの恐いのを何とかしてくれてありがとうもあるし、フツーの子なのにどうしてこんなことできるの?とか、遊びを通して秘密を探ってごめんなさいとか色々あるけど、ひとまずはこれで終わり。」
そうフミちゃんはそう言いきるとどこか悲しそうな顔をした。
「ワタシはケータくんのおかげでフツーの子になれるから、これからも遊んでくれると嬉しいな。」
言い終わったのかフミちゃんは砂場から離れようとした。でもこのままこの話を終わらせていいのだろうか。ぼくのおかげでフツーの子になれると言った。ナニカを気にしないのがフツーの子なのか、あるいは別の何かなのかはわからない。いずれにせよ、
「フツーじゃないって、悪いことなのかな。」
ぼくはフミちゃんにそう言った。フミちゃんは目を丸くしている。ぼくから話を進めると思わなかったようだ。外で遊ぶ時間はまだある。フミちゃんに話を聞いて思ったことがあると言って砂遊びを再開した。
「そもそもさ、ナニカが恐い理由ってなんだろう?」
ぼくはフミちゃんにそう投げ掛けた。頭をひねっているとフミちゃんが口にする。
「……どういうものかわからないから、そしてどうすればいいかわからないから?」
そう、ナニカに対して恐く感じる理由はこれだと思う。火は熱いから危険。なら触らなければいい。夜は暗いから危険。なら外に出なければいい。ケーキは甘くて美味しい。なら食べてしまおう。
話を聞く限りナニカの力は色々ある。それに対していい方法が見つかれば、フミちゃんが恐い思いをすることがなくなるはずだ。
「そんなこと、できるのかな……ナニカが部屋で溢れた時恐くて逃げ出したんだよ?怒っているのもいるかもしれない……。」
「そのときは一緒に怒られよう。いい人?なら許して力になってくれるかも。」
「じゃあ悪いナニカで許してくれなかったら?」
「一緒に逃げる。追い付かれたらぼくが……いやオレがフミちゃんを守る。」
「……どうしてここまでしてくれるの?」
「えっ?それはフツーの事だよ。」
「フツーの事?」
「うん。フツーの事。」
「困っている友達を助けることはフツーの事だよ。」
◇◆◇
困っている友達を助けることはフツーの事。ケータくんがそう言いきったとき光が強くなった。あの恐いのを倒した強い光だった。
ああそうか。これがケータくんが放つ光の源。
ケータくんはよくも悪くもフツーすぎるんだ。
ケータくんはスゴくかっこいいわけでもないし、運動神経はフツーで頭の良さもフツーだ。でも皆が学ぶいいことをして当たり前、フツーな事だと、遊びでズルしたくなるのもフツーな事、それを知って怒るのもフツーな事、どこをどう見ても、何をとってもフツーな男の子。それがケータくん。
他の女の子はケータくんに対して、フツーすぎてつまらないという。とんでもない。あなた達はケータくんのこの異常ともいえるフツーパワーを知らない。
どんな行動でもフツーの範囲で理解できることがどれだけ頼もしいのか。そしてそんな子がワタシの為を思って考えてくれたことがどれほど嬉しかったか。どんな時でも困っている友達を放っておかず、助けてくれるその姿が、どれほどかっこいいのかあなた達は知らない。
「ケータくん。」
「何フミちゃん?」
「この話、皆には内緒にしてくれる?」
「嘘つきとか言われたくないからだね?」
「うん。パパとママが信じてくれなかった話を他の子が聞いてくれると思わないから……」
「うん、わかった。オレのお父さんとお母さんにも言わない。」
ケータくんはそう言うと小指を差し出した。
指切りげんまん。約束ごとに行うもの。ワタシも小指を出してケータくんの小指と絡まらせる。ケータくん指はワタシと違ってゴツゴツして硬い指だった。そして2人であの言葉を口にする。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の~ます。指切った。」」
指切りが終わったとき外で遊ぶ時間は終わった。ワタシは建物に入ろうと立ち上がったときケータくんが最後に言いたいことがあると声をかけた。
「フミちゃんが言ってたナニカの話とか、今日秘密にすること全部本当の事だと信じるし、困った時に力になるのも本当だから!」
「っ──~ー~ー~~ー!!?!」
ワタシはケータくんの数秒遅れて建物に入った。どうしてこんなことになったのかはワタシにはわからなかった。