ジバニャンの必殺技を受けて動かない事を確認すると、妖怪達はバクの方へ、ワタシはケータくんの方へ駆け寄った。
「……ツチノコ。バク達にツチノコスマイルを。」
ワタシがツチノコにお願いするとツチノコはバクの姉妹に満面の笑みを浮かべた。同時に妖気を解放することにより癒しの効果が最大限に発揮され、辺り一帯の活力が漲った。それによりバクの姉妹のみならず、ジバニャンとツチノコ、そしてケータくんに力を与えたのだった。
「うぅん……はっ!?夢!?」
「いたた……夢にしては……夢じゃない?」
バクの姉妹が起きたようだ。何が起きたのかわからず困惑している。
「やーっと起きたニャンか。」
「今一番激しいアラームでしたね。」
「キュピ~ン。(二度は御免だよ。)」
「あっ、あんた達がおこしてくれたのかい?」
「待って、てことはバクが出したネムケムリを……!」
妹バクが顔を青くしてケータくんを見た。姉バクも妹の視線の先をみて顔を青くし、此方によってくる。
「スマン!本当にスマン!!悪夢の怪物と間違えてこんなことを!」
「バクは眠気も食べるからそれで許してくれ!」
バクの姉妹が眠気を食べてもとに戻すと言ってきた。ワタシはそれを了承すると、バクの姉妹が大きな口を開け、ケータくんの眠気を吸い取っていく。やがて吸い取りきったのか口を閉じるとケータくんが眼を覚ました。
「うぅん……ぁ……おはよう。勝ったんだね。」
その呑気な声と自分の身を省みない内容にワタシの堪忍袋の緒が切れる。
「バカッ!!!!!」
妖怪達がワタシの声に驚く。ケータくんはこの事を想定していたのか動じていない。でも、それでも言いたいことはあるのでちゃんと言う。
「ワタシ、小さい頃から言っているよねぇ!ナニカに、妖怪に手を出すのは危ないって!下手をしたら死んじゃうって!!」
「うん。知っている。」
「妖怪に取り憑かれた人に対して色んなことをして、ここまで生きてきたけど、これは今までのそれと違うのわかってる!?」
「うん。わかっている。」
「だとしたら何でそんな無茶を……!」
「フミちゃんはわかっているんじゃない?」
「……!」
「バクの姉妹の苦しそうな顔が、小さい頃のフミちゃんと重なって見えたから。よくわからない妖怪達によって苦しんで、泣いていたあの頃のフミちゃんと、訳もわからない悪夢の怪物に苛まれるバクの姉妹。辛いときに泣いて、苦しくなるところは人間と妖怪も変わらないと思ったら、何とかしたいと思っていたんだ。」
ワタシはケータくんの服を強く掴む。何とかしたいのはワタシにはわかるよ。でもネムケムリを体で受ける説明になっていないよケータくん!
「バク達の必殺技を受けたのはそれが助けるのに必要だと直観したからだよ。バク達の悪夢を晴らすにはオレたちの勝利は絶対条件。だけどあの状況で打たれる手は限られている。その時に浮かんだのがあのインターセプトな訳だけど、それでバク達を救えたなら後悔は無いよ。」
なによそれ。たらればだよ。結果論だよ。
もしバク達が眠気を吸い取ることができなかったら?もしバク達が悪い妖怪でほったらかしにしたら?そしてその眠りが永遠に続いたら?
「駄目だよケータくん……。」
「……フミちゃん?」
ケータくんはきっと、困っている人を助けられないなら、ワタシの夫に相応しくないと思っている。ケータくんより愛して、それがケータくんより幸せにできる誰かがいたならケータくんはきっと身を引くだろう。
そんなのワタシが許すはずがないのに。ワタシがケータくんがいいと思っているのに、ケータくんじゃなきゃ嫌だと思っているのに、ちっとも伝わっていなかった。命を投げ出すのがいい証拠だ。
「嫌だよケータくん、妖怪の攻撃を受けて死んじゃうの嫌だよ……!」
「フミちゃん……。」
「助かったオレっちが言うのもあれだけど、今回のケータのやったことは素直に褒められないニャン。オレっち達が危なそうだからといって一々盾になると、妖怪の攻撃によってはあっという間に死ぬニャンよ?」
ジバニャンがワタシの言葉を補足する。妖怪の力は強大だ。こんなことを続けたら命がいくつ有っても足りない。それでもし死んじゃったとき、ワタシはどうしたらいいのよ。
でも、ケータくんは必要となったらこういうことをするし、ワタシはそういったところも好きになってしまった。
「だからケータくん、一人で命を懸けるのはやめて。あのガシャを回したときと同じようにワタシも頑張るから。だから、だから……!」
今すぐに命を懸ける事はできない。でも大好きな人を死なせたくないから。手離したくないからとケータくんを掴む手を強くする。言葉にできない、されど必死な願いにケータくんは参ったのかワタシに謝罪する。
「わかったよ……ごめんねフミちゃん。」
「……デート。」
「フミちゃん?」
「オ・シャレンヌの特大ジャンボパフェで食べさせ合いっこ。お代は全額ケータくんの奢り。」
「……うん。ウォッチの強化が終わった後でいい?」
「許す。タイミングに異存は無いよ。」
ワタシは心配をかけた詫びにデートを要求した。ケータくんに負担がかかる内容だけどその分怒っているということ。ケータくんはその事を察したのか苦い顔で了承する。財布と男子の尊厳にダメージを負うデートだ。反省してほしい。
そしてワタシとケータくんのやり取りを終えたのを理解したのかバクの姉妹が話しかける。
「助けてくれてありがとうバク。」
「腹が減って夢見が悪かったとは済まされないことをしかけたようじゃな。本当に迷惑をかけたバク。」
バクの姉妹はケータくんの方を向いて顔をうつむいた。夢の怪物と思ったら何の関係もない子供だったと知って罪悪感でいっぱいらしい。でもそうなった理由の大半はケータくんが勝手にやったことだし、ワタシの怒りの大部分はさっきのやり取りで整理がついたからもうそんなに気にしていないと伝える。
バク達はホッとした様子を見せると姉バクが喋り始めた。
「時にケータと呼ばれた男、お主面白い夢を見ていたの。」
ケータくんが首をかしげる。ワタシはそれを聞いてバクは夢を食べる妖怪ということを思い出した。姉バクからみてケータくんの夢は面白いらしい。
「わかるわ姉さん。フツーに甘くてフツーに美味しい、フツーの極致みたいな夢は初めてバク。」
褒めているのか馬鹿にしているのかよくわからない味の評価だった。でもケータくんの夢の味と言われたら納得できるのが可笑しいところ。
「そして、そんな男に惚れられているフミちゃんと呼ばれた女の夢の味、気にならないバク?」
「気になるわ姉さん。きっとケータより甘く、華美な味がすると思うバク。」
ワタシの顔をみてバク達はワタシの夢の味を妄想する。ウィスパーが来て以来ケータくんと幸せに過ごす夢ばかり見ているから甘すぎて胸焼けしちゃうんじゃないかな?
「うん、美味しそうな夢を見れそうだ。」
「助けて貰ったし、異論はないバク。」
そう言った瞬間2人の体が発光し、4枚の円盤を作り出す。トモダチ契約の証である妖怪メダルだ。
「基本はスケジュールが空いている方が自動的に喚ばれるバク。明確なイメージがあればどのメダルからでも喚べるバク。」
「上手く噛み合えば統一パーティなんてのもできるバクよ。……同じ妖怪とトモダチになっていると遠慮しがちになってトモダチになりずらくなるから注意が必要だけど。」
2人がおどけたように笑いながらメダルを渡す。ワタシとケータくんはバクの姉妹とトモダチ契約したようだ。
どうやら同じ種の妖怪を喚ぶときはメダルを使いながらイメージする必要があるらしい。つまり姉バクを喚びたいならバクのメダルを使いながら姉バクを思い浮かべる必要がある。その代わり姉バクと妹バクどちらのメダルを使っても問題ないそうだ。また特に指定がない時はスケジュールが空いている方を優先するらしい。メダルを握れば個人差がわかるとはいえ結構集中するからこういうのはありがたい。
「そうだ。トモダチになった記念にこいつをやろう。」
「キレイだから気に入ると思うバク。」
そう言って2人が差し出してきたのはどこかで見たことのある模様の入った2つの歯車だった。
「これ!オレっち達が欲しかったものニャン!」
「そうかい?そりゃよかった。」
「夢を見たいなら喚んでくれバク~。」
ウォッチの歯車はバクの姉妹によって手に入った。バク達はワタシたちが喜んだのを見るといつか喚んでねと言い残し姿を消したのだった。
◇◆◇
オレたちはおんぼろ屋敷の探索を終え、チョーシ堂の扉を開けた。部品が集まったかと店主のお爺さんがオレたちの方を見ると目を細ませる。
「……お前さん、お嬢さんに何かしたか?」
オレは苦笑いしながら左を向く。そこにはプクーと頬を膨らませながらオレの腕に抱きついているフミちゃんの姿がそこにあった。
「ケータくんがおんぼろ屋敷で死にかけました。これは罰の一環です。」
ツンっとフミちゃんがそっぽを向くとお爺さんがやれやれと頭をかいた。
「おい坊主。あんまり女を泣かせんじゃねぇぞ。」
お爺さんが若干の怒りを込めた視線をオレに注ぐ。人間と関わる妖怪なら相応に人の別れを経験しているのだろう。実感のこもっている目はオレの言葉を出すのに十分だった。
「その事は屋敷で話したので大丈夫ですよ。」
「……ならいい。」
張り詰めた空気が晴れ、オレたちは集めたパーツをお爺さんに見せる。問題ないとお爺さんが言い、このままウォッチの強化……といいたいところで1つ追加の依頼が入った。
「実は愛用の勝負下着を無くしてしまってな。それを探してきてくれんか。」
「えっ?下着!?」
「あれがないと仕事に気合いが入らん。銭湯に置いてきた事は覚えているんだが、番頭に掛け合っても見つからないとのことだ。なら銭湯が閉まっている夜に来てくれと言われたんだが、ここを留守にするわけにはいかん。」
「えっと、つまり……」
「夜の銭湯でワシの下着を取りに行ってくれということだ。」
どうやら下着が無いとウォッチを強化してくれないらしい。それなら銭湯で下着を探してもいいけど、1つ問題がある。
「銭湯が閉まっている時間に外に出るの駄目だったよねケータくん……。」
「オレの所はそうだね……。フミちゃんもでしょ?」
そう、門限だ。夜寝静まる時間に小学生が出歩くのは問題がある。確実に親に怒られる。それにそんな時間にオレたちが眠気によって満足に行動できるか怪しいのだ。
「そうか、人間にはそれがあるか。眠気も含めて誤魔化せる妖怪、バクなんかいれば良かったんだがな……。」
「「……バク?」」
「「呼んだ~?」」
お爺さんがバクの名前をあげ、オレたちはそれに首をかしげた時、バクの姉妹がやってきた。
「おお、何だバクとトモダチになっていたか。それなら話しは早い。」
お爺さんの喜びようにオレたちは思い出す。バクは眠気も食べることができる。なら夜の活動に支障はない。後は親を誤魔化せればいいんだけど……
「親の目が怖い?ならバク達がお前達に化けて誤魔化すバク。」
「眠気と夢の駄賃と考えれば安いバク。」
バク達の提案でオレとフミちゃんの悩みが解消された。そうと決まれば話しは早い。オレたちは家に帰り夜の銭湯に行く準備をするのだった。