目覚まし時計が深夜0時を指す頃、オレは外に出る服に着替えていた。案の定とてつもなく眠い。でもここでバクを喚んで眠気を吸い取ってもらう。
「すごい!全然眠くないや。」
「バクク……お安いご用さ。」
オレはバクに感謝を伝えると、バクはオレに化けてベッドで寝始める。自分とそっくりな存在が部屋にいるというのはなんか変な気分だ。
そんな気持ちを覚えつつ、オレは夜の町に出る。寝静まった町というのはどこか奇妙な雰囲気を醸し出していた。
「ケータくん!」
声をした方向を向くとフミちゃんとウィスパーがやって来た。彼女も抜け出すことに成功したらしい。後は団々坂の銭湯に行くだけだ。
そうと決まればと気をいれた瞬間、辺り一帯の空気が張り詰める。
「なにこれ?妖怪とは違う妖気……」
フミちゃんが不思議そうにしていると、突然頭のなかでそれは鳴り響いた!
鬼時間
その時、夜による暗かった町の色が色を失い、空間に火の粉が舞踊る。明らかに危険な場所となった住宅街に、怪物が降ってくる。
ドスンッ!
と町中に響く衝撃をもたらした後、その怪物は叫んだ。
「アーカーーーーーン!!!」
赤い巨大な体躯に黄色の1本角、そして人に振り回せそうにない大きな金棒、伝承とかによく見る赤鬼のそれだった。
「きゃーーーーーー!?」
「えっ何あれ!?何あれ!?!」
「お二人とも、そんな声を出したら見つかりますよ!」
ウィスパーの声にハッとしたオレたちはとりあえずこの場から離れ、あの赤鬼と小さい目玉の妖怪達に見つからない場所に行く。一先ず身の安全を確保すると、ウィスパーにこの現象の説明を求めた。
「どうやら私たちは鬼時間に巻き込まれたようです。鬼時間とは子供たちの見る悪夢であり、さっき落ちてきた鬼は子供たちの心配事や恐怖心を具現化した幻でうぃす。」
つまり今この空間は悪夢そのものということだ。だとしたらおかしい。オレたちは今こうして起きているというのに……
「もしかしてバクのせい?」
フミちゃんの言葉でハッとする。今バクがオレたちに化けて眠っている。そのときに鬼時間に入る条件を満たした為、現実のオレたちが巻き込まれたというもの。
ゲームでいうバグみたいなものだ。妖怪に自分の姿で寝てもらって、肝心の自分は外で活動するというのは世界広しといえどオレたちしか居ないだろう。
「でも、これが悪夢ならいつか終わるよね。条件は何だろう?」
「わかりません。とてつもないレアケースですから。しかしこれだけは言えます。あの赤鬼から逃げることです!」
夢を途中で終わらせる方法はわからない。しかし赤鬼に捕まったら無事ではすまない。オレたちはこの事を認識するとフミちゃんが笑いだした。
「なんか、昔を思い出すね。」
昔?とウィスパーが首をかしげるとオレは小さい頃にしたある会話を思い出す。野良の妖怪で溢れていたため夢見が悪かったフミちゃんはある日怖い夢を見たという。
その内容というのが[赤鬼に追いかけられる夢]だったそうだ。連日連夜ずっと見続けて、何時も赤鬼に捕まって終わると泣いていた。そのときオレはこう言ったんだったな。
「フミちゃんが逃げられないなら、オレが囮になるよ。大丈夫。ちゃんと逃げきるから。」
そう宣言したオレはその日赤鬼に追いかけられる夢を見て、その場所でフミちゃんを見つけて、一緒に逃げきったんだ。
次の日フミちゃんは「ケータくんのおかげで逃げきれたよ!本当にありがとう!」って言われて、偶々同じ夢を見たんだと思ったけど、
あれは鬼時間だったんだね。なら問題ない。一人なら難しいかもしれない。でも鬼時間を逃げきった2人なら何とかなるはず。
「皆逃げきろう。銭湯で会おう!」
オレたちはそう決心し各々銭湯を目指すのだった。
◇◆◇
俺は赤鬼。子供の悩みや恐れが産み出した怪物として生まれた妖怪だ。
嘘つきものを懲らしめる青鬼と怠け者をシバく黒鬼と違って、オレは恐怖と向き合うこと、乗り越えることを目的としている。
その為他の鬼と違って甘いところはあるが、並みの人間は乗り越えられずこの金棒の餌食となるだけ。
ほら、怯えた心がまた1つ潰れた。潰れた心はその事を受け入れられず、ただの夢として処理される。心の末路を知らせない事で人間は変わらず人間でいられる。
ただ、俺を乗り越えたとき、恐怖と向き合うことができたとき、無意識に人間は成長する。それが赤鬼冥利につきるというものだが、最近俺を満足させるやつは居ない。訳もわからずただ俺の金棒に吹っ飛ばされる連中ばっかだ。
この惨状を見ているとある先輩の話を思い出す。その心は自分が俺達に潰された事を覚えていた。何度も逃げきろうとした。でも後一歩で届かない惜しい心。
しかしある時その心は別の心と共に行動していた。その連携は素晴らしく、俺達を翻弄したという。そしてその心達は逃げきった。2人がかりとはいえ恐怖を克服した瞬間だった。あの日以来恐怖を抱えていないのか、動きが別人過ぎて確認されていないのかわからないが、その心が現れる事はなかった。
フゥー、こんな事を考えるもんじゃないな。見回り鬼の信号を受け俺は心を潰す。潰す潰す潰す。ドイツもこいつも他愛ない。あの先輩のように俺を満足させるやつは居ないのか。
「ホウコクホウコク!」
「どうした見回り鬼よ。」
「タカラバコ、ゼンブトラレタ!スゴイスゴイ!」
「見回り鬼に引っ掛からなかったのか!?」
「ミツカッテナイ!ダカラスゴイ!」
「ハハハ……アカーン!!!」
滾る!滾る!!こんなやつが居たとは!先輩の話に出てきたやつと勝るとも劣らない、正に凄い子供だ!
「是非とも会いたいものだ……!」
今会ったら叩き潰すことになって、それはそれで面白いことになるが、願うならオフでも会いたいものだ!ああ、仕事に気合いが入るぞ!
◇◆◇
「皆、無事!?」
「無事、だけど、見回りがキツイ!」
「ここまでくるのに結構かかりましたね……」
オレたちは見回りや鬼の目を掻い潜って小学校の前に来ていた。本当にキツかった。何と団々坂に繋がる道路が霧で塞がっていたからだ。
所謂結界の一種で悪夢を見る子供たちを逃がさないようにする為のものと察したオレはせめて団々坂に近いシンボルである小学校を目指した。
でも最短距離で突っ切ろうものなら見回りや鬼に引っ掛かるところがあるため大回りしないと行けなかったし、道中の宝箱が気になって集めていたらかなり疲れてしまった。フミちゃんも同じ理由で顔に疲れが出ている。かつて2人で乗り越えたものとはいえその迫力によって心身共に削られていったのだ。
「これ、いつ終わるのかな?前みたいに夜が明けるまでかな?」
「逃げきった時は一晩中逃げきったけど、時間経過が現実にも反映されるなら銭湯に行っても意味ないよ。」
そうなったら騙し損である。両親とバク、店主のお爺さんに申し訳ない。
「困っているようだな。」
頭を悩ませていると竜のマフラーをしたあの青年が現れた。オレたちは急な来訪者に驚いていると青年は黄金の扉を呼び出した。
「その扉を潜れば元の時間に戻れる。」
「本当!?ありがとう!」
「今までの活躍を観ていたからな。勝手に見たその詫びだ。だが、次があると思うなよ。」
その言って青年が去るとオレたちはその扉を開け、鬼時間から脱出する。景色は元の色に戻り、張り詰めた妖気が無くなっていた。
「フゥー、何とかなった~~。」
「お疲れケータくん。」
「2人共ナイスランです。」
オレたちは鬼から逃げきったことを労いながら銭湯に向かう。銭湯の扉を開けると番台のお姉さんが探し物が見つかるまで待ってあげると言ってくれた。お言葉に甘えて探そうとすると、
ミツマタノヅチを越える妖気が男湯と外から渦巻いてきた。
「嘘!?このタイミングで!?」
「間隔が短いよ……トモダチ達に申し訳ないや。」
どう考えても放置するのはマズいということでオレは発生源がわかっている男湯の方に行き、フミちゃんは外にある妖気の根元を探ることにした。妖気を探るという点ではフミちゃんの方が優れているからね。
オレはフミちゃんと別れて男湯に入り、レンズを覗くと、湯船に浸かっている大きな豚の妖怪が居た。フミちゃんに伝えるために残ったウィスパーがパッドを操作している時、ウィスパーが気付く。
その妖怪がチョーシ堂の店主の勝負下着を身に付けていたのだ。
オレはその妖怪にそれ別の人のものだから渡してくれないかなと言う。そうしたらお風呂の邪魔をしたのが逆鱗だったのか物凄く怒っていた。
「なんだぁ?お前、追い剥ぎってヤツか!子供相手からといって手加減しねぇぞ。カッポーーン!!」
人のものと言ったのに聞こうとせず、あまつさえそれを追い剥ぎと逆上する。支離滅裂な妖怪と戦闘になったとき、ウィスパーがこの妖怪の名前を叫んだ。オレが相手にするこの妖怪は─────
◇◆◇
時は遡って午後6時ひがん山トンネル前にて1人の男がそこに居た。
ほとんど黒に近い青色に目に馴染む赤のラインが入ったビジネススーツを身に纏い、愛用のペンを右手で回しながら、左腕に着けた時計を見ていた。
「総統が言っていたシステムにおける夜になりましたね。天野景太と木霊文花が外に出るまで後6時間、そろそろでしょうか。」
男がペン回しを止め、
男が空にペンを走らせ、妖怪でも読むのに困難を極めるレターを記すと、レターが光を放ちながら円盤となり、妖怪メダルを作り出した。
「総統の細胞から造られたこの力、本番でも問題なく動くか試させて貰います。」
男は左腕に着けた時計を見ながら呟き、それに妖気を込める。それで電源が入ったのか、あるいは問題ないと示すためか、その時計は異常無しと示した。
「OK。なら、この程度の2対2は耐えてくれよ?」
男はメダルを持ちこう叫びながら、時計にセットした。
「顕現せよ我が創造物。今こそ応えよ─────」
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