「バクロ婆!!」
目を離していない。瞬きすらしていない。正に瞬間移動。一瞬でバクロ婆の目の前に移動し、その触手でバクロ婆を叩きつけた。叩きつけた地面が陥没し、バクロ婆はそこに埋まっている。
その事を認識した数名のトモダチは激昂し、スライムに襲いかかったけど、バチン!となぎ払われ地面に転がった。
ワタシは地面に伏すトモダチを見て違和感を覚える。ウォッチを確認するとおはらい機能がビンビンと反応を示していた。
その事に目を丸くしてトモダチを見ると、恐ろしいものを垣間見たのか体を震わせ発狂寸前に陥っていた。声をあげていないのは声を上げる余裕がないほど痛いのか、ワタシを動揺させないための配慮のどちらかだろう。
ワタシはすぐさま全員のおはらいを済ませ、攻撃をせずじっと見つめているスライムを観察する。触手は常にワタシたちの方へと向いている。ずりずりとこちらに向かっているがそのスピードは遅い。しかしその遅さが恐怖を煽る。ブキミー族よりも不気味な存在は、本能か入れ知恵かは兎も角として人や妖怪を傷つけることに特化した戦法をとっていた。
「キュピ~ン……(ごめんね……。我慢できなかった。)」
「ババーン。(問題ない、奇襲でやられたアタシにも非がある。)」
トモダチが掛け合って安否確認する。そして体勢を整えた瞬間スライムの触手がビャッとこちらに向かってきた!
「これは安全地帯に導くのも苦労するね!」
みちび鬼が苦言する。それもそうだ。このスライムの攻撃に当たれば取り憑かれてしまう。
その内容は恐ろしいものを見たことによる想像を絶する発狂。トモダチ達が耐えられたのは一重に精神力のお陰だろう。ワタシが此処に来る前に感じた他の被害者の場合はその力がOFFにされていたからか、あるいはそれほど痛みが精神汚染のそれを上回ったのかわからないがその様子を見せなかった。
このスライムは瞬間移動だけの一発屋さんじゃない。この子の強さの本質は触手による圧倒的なリーチと攻撃時に与える取り憑き効果によるもの。
つまり超広範囲の物理的衝撃をもたらす精神汚染源がこのスライムの実情といったところね。
「遠距離は大丈夫だと思うけど近接攻撃はどうなるのかしら?素手では危なそうだけど、武器越しならどう?」
そのすばしっこさでいつの間にか懐に潜り込んだしゃれこ婦人が愛用の傘をスライムにぶつける。スライムは軽くのけ反り触手を引っ込めた。ダメージはあるらしい。そしてしゃれこ婦人に異常は見当たらない。武器で攻撃する分には問題なさそうだ。
「あっはは♪フミちゃん、万が一の時は頼んだよ。」
みちび鬼が触手を引っ込めたその瞬間、大きな右手でスライムを殴る。グラァとよろめいて動きが明らかに悪くなる。そしてみちび鬼に異変は起きていなかった。
「あぁん、敵のギミックを看破するなんてうらやましぃ~。」
うらやましろうがみちび鬼を羨ましいと呟く。確かに攻撃じゃないと取り憑きが発生しないのはわかった。
それを確認したトモダチ達はスライムの攻撃を避けながらダメージを与えていく。その度にオーバーリアクションを取っていると疑うほどグワングワンと体が揺れた。
これでワタシは疑惑を持つ。何で攻撃じゃないと取り憑けないのか。何で軽い攻撃でもあんなに効くのか。触手に攻撃されると取り憑かれるなら、こっちから攻撃した触手、あるいは本体に攻撃しても同じように取り憑かれてもおかしくないのに。図体と猛攻の裏腹に脆いのもそうだ。
まるで攻撃しないと本領を発揮しない性質。妖怪は自身の能力を使うことが一種の本能のようなものとウィスパーが言っていたけど、
「まさかこの子は誰かの命を脅かすこと、いや攻撃こそが本能のそれだというの?」
可能性は、ある。極端な話銃が元ネタの妖怪がいればその歴史の都合上人間を殺すことに特化した妖怪となるだろう。
使い捨ての道具が由来の妖怪が居たら本望として、一発限りの煌めきを見せる。
今相手にしているスライムはまるで対人爆弾。命を奪うために一瞬の爆発を行う。それが今相手にしているスライムの本質。だから瞬間最大火力はとてつもないけど防御はおざなりなんだ。
爆弾は基本一発限りの使い捨てで長く使い戦うことを想定されていないから。ワタシはこの事を皆に伝える。戦闘に異常はないけど明らかに動揺が走っていた。
「人間に害しかもたらさない妖怪、60年前に人間界から消えたと思ってたんだけどねぇ~」
「どの時代でも悪しき考えを持つ者がいるということじゃ。平和なんて永くはつづか~ん。」
みちび鬼の言葉につづかな僧が反論する。歴史は利益の求め合いによるもの。その結果戦に発展したことを人は何回も繰り返している。
それが人間に関わりのある妖怪にも表れて、こんなスライムが生まれたと考えれば、その業の深さにため息が出そうになる。
さて、戦況はこちらが優勢に見える。トモダチがスライムの攻撃を避け続け、常にダメージを与えているからだ。
しかし油断は一切できない。ダメージに怯んでいるからか驚異となるワープ能力を使ってないし、本体がそんなに動いていないとはいえ、触手の動き次第で何時でも戦線を崩壊できるからだ。変わらずスライムを注視する。何かあったときに指示できるように。じっと、ずっと見つめていたら、スライムと目があった。
「……へ?」
その瞬間、妖気による衝撃波がスライムから放たれる。威力はそれほどではないものの、トモダチを引き剥がすには十分な火力だった。
「皆、無事!?」
ワタシはトモダチにそう言うとスライムから何かが聞こえる。
『皆、無事!?』
ギョッとスライムの方向を向く。そこには筆舌しがたい光景があった。黒い体と無数の触手はそのままに、口を思わせる玉虫色の楕円模様が本体の至るところに広がって、目を想起させる玉虫色の球体が本体上部に2つできていた。球体はコロコロと本体上部で蠢いており、楕円の模様は開いたり閉じたりしている。そして、楕円の動きに合わせてスライムから音が聞こえた。
『痛い!痛くて死んじゃうよー!』『お父さん!お母さん!死なないで!』『仲間が皆……!お前のせいでグギャアアアアアア!!』『彼氏が、彼氏があいつに食われ……!いや、来ないでイヤーー!!』『まるで瞬間移動だ!団々坂の全てがヤツのテリトリ、グワァァァァァァァ!!!』『あの怪物が現れて何時間経った……6時間!?一帯どれ程の被害、あれ?前がみえな』
「あのスライム、被害者やワタシの声を真似しているの……!?」
音の中身は支離滅裂で意味を理解しているとは思えない。ただ、学習する。模倣する。あのスライムは現在進行形で強くなっている。それを察したワタシたちは強くこう思った。ここからが本番なんだと。
◇◆◇
さくらの湯の男湯にて戦闘が佳境に入る中、小さい排水口から一人の妖怪が覗いていた。
その妖怪はカイム射手。ミツマタノヅチの暴走を引き起こした張本人である。
彼はジミー一族に伝わる秘伝の術により、狭い空間をものともせず入り込むことができる。カイム射手は種の特性上ありとあらゆるところに溶け込めるためこの程度のことは造作もないし、驚きもしないだろう。
のぼせトンマンがダウンする音が排水口に響く。回数にして3回目のダウン。このまま天野景太が総攻撃を指示すれば戦闘が終了するだろう。
想像より体力の削りが早いと察したカイム射手は排水口から銭湯に出て、愛用の銃を構える。その銃はおおもり山で使った青色のフレームに水色のロングバレルをつけたスナイパーライフル……
ではなく、フレームの色はそのままの、橙色の大きい銃口が目を引くショットガンであった。
カイム射手はのぼせトンマンに狙いを定め引き金を引いた。そのワッズカップ*1は青と橙の稲妻を放ちながらのぼせトンマンへと向かっていく。やがてその弾から小さい装弾が放たれ、桶で連続攻撃していたのぼせトンマンを橙色で染め上げた。
散弾の閃光が止むとのぼせトンマンはのたうち回る。内と外から炙られて豚を焼いた匂いが銭湯を満たすとのぼせトンマンを中心に橙色の爆発が起きた。
そして、のぼせトンマンからあの音声が流れる。
ミツマタノヅチのような発狂は起きない。
しかし、天野景太とそのトモダチは緊張が走る。
へそを中心に橙色の模様が入り、目と全身から橙色の火が立ち上るのぼせトンマンの特異な点をこれから考えなくてはいけないからだ。
この場に居るのは天野景太とそのトモダチ、のぼせトンマンだった妖怪のみ。
この現象を起こしたカイム射手は既に排水口からこの場を去っているのだった。
ケータくんと一緒に行動するガシャ限Sランク妖怪[1体のみ!]
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オオクワノ神
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犬神
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百鬼姫
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心オバア
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虫歯伯爵
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ふじみ御前