「だるいんですけど……」
「同感だよジバニャン。オレもそう思う。」
のぼせトンマンの斜め後ろから橙色の閃光が瞬いた。数多の光がのぼせトンマンを染め上げ、それと同時に彼から発する妖気の圧が増す。のぼせトンマンには異物感があるのか苦しそうにのたうち回り、やがて彼を中心に橙色の爆発が起きた。
そして今、彼はへそを中心に橙色の模様が広がり、目と体から橙色のオーラが迸る、どこか愛嬌のある見た目から一転してただただ厳つい豚の妖怪となっていた。
「ははは……すげぇ!今なら何デモできそうな気がする!」
のぼせトンマンだった大型妖怪はそのはち切れんばかりの妖気を開放した。すると湯槽から火柱が上り、浴槽がマグマで満たされた。それに伴って空間の温度が急上昇する。元が銭湯であるとはいえ、銭湯のそれをあきらかに逸脱した熱気だった。
「なんて熱さだ!まるで火山の中に迷い込んだよう!」
オレは呼吸器が焼けるような感覚を覚えながら辺りを見渡す。どうやらトモダチ達もこの熱さに面を食らったようだ。このまま長続きするのはマズいということで、大型妖怪へと変化したことによって生じたのぼせトンマンとの差を見つけようと思った矢先、番頭のお姉さんから声が聞こえる。
『なんか……急に暑くなってきたわね……。このまま温度が高くなったら死んじゃいそう……。』
どうやら熱気が浴室の外まで広がっているらしい。いや、のぼせトンマンに力を与えた橙色の閃光の主がオレたちを狙っているならフミちゃんも狙うはず。
「つまり、この熱気は広がって高まり続ける。オレとフミちゃんを同時に仕留める為には必要なことだから。しかし、熱がフミちゃんを捉えても、それを知らせる手段は無い。だから大型妖怪はそれを止めることはない。このままじゃさくらニュータウン中が地獄の熱帯夜になっちゃう!」
事実体感温度は高くなり続けている。これを放置してしまったら町中皆が熱中症になって最悪なことになる。下着を取り戻す戦いが町の命運をかけた戦いになってしまった瞬間だった。
「マグマの中で仕事とか前世でもやったことありませんけどね!やってやるよコンチクショー!」
じんめん犬が大型妖怪の頭へ飛びかかる。妖怪になったことで強化された顎によるかみつき、それが大型妖怪に通じずガキンッ!と跳ね返された。
「かった!えっ!?さっきまで通りましたよね!?」
その様子を見てオレは確信する。
ゴーケツの陣、その効果は妖怪のまもりを上昇させるもの。
まもりが高くなると必然的に受けるダメージが少なくなる。そのメカニズムとして体表が堅くなったり、技術等で受け流せるようになったり、攻撃を受けてもすぐ回復して、戦いを継続できるようにになるのだ。あの大型妖怪は一番最初の方法をとることによってまもりを上げている。
つまりそもそもダメージを与えるためのハードルが高くなっているということだ。マグマのような高温に耐えるためだろうか、某RPGの銀色スライムみたいなっている。
だけどのぼせトンマンの状態を引き継いでいるなら残り体力は少ない。あの牙城を崩してダメージを与えられればオレたちは勝てる!
「何としてでもあのまもりを早急に突破するんだ!温度が上がってしまえばオレたちはいずれ死ぬぞ!」
暴走ミツマタノヅチみたいに体のいたるところが脆くなっている訳じゃない。だけど完全な存在はない。どこかで穴があるはずだ。オレは大型妖怪を観察する。
頭はエネルギーの層が幾重にも重なっているように見える。じんめん犬たちがダメージを与えたところに穴が見えた。けど本体に届いていないし、オーラが補充され回復していっている。
次は弱点のへそ。赤かったへそは橙色に染まり、そこからオーラが行ったり来たりしている。まるで心臓のようだ。あそこが弱点なのは変わらないようで桶と腕でガードしている。
ならそのガードを可能にする腕はどうなっている?オーラが力を与えているのか腕がバッキバキに太く逞しくなり、桶も前より固そうな素材で作られていそうになっていた。見た目は木製だけどマグマの熱に耐えられそうである。
最後に目にした足腰は、見た目は特に変わっていないもののオーラが大樹の根元のように集中していて、転ばしてへそを攻める等のことは無理そうだ。
なら攻めるなら頭だ。しかし頭はリジェネ付き。でもあのトモダチならきっと……!
「鬱陶しいぜ……。これでもクラエッテンダカッポーン!!」
大型妖怪が吠えるとなんと燃える石鹸をかたのり小僧に投げつけた。それを受けたかたのり小僧は石鹸により足元がツルツルになったのに加え、体が炎上し、咳が止まらない状態になっていた。
「くっくるしい!負けるかってごほごほ!」
オレはかたのり小僧の元に行きおはらいする。そして今の石鹸の凶悪さにドン引きした。
石鹸は燃える。素材に油や燃えるものを使っているからこれは当然の事だ。しかし燃やすことを想定していないから燃やすと毒ガスが出たりする。
今の石鹸はそれらを応用したものだ。こいつを外に出してしまったらさくらニュータウンは毒ガスで満たされてもおかしくない。それをトモダチに伝えると各々攻勢を強める。唯一攻撃が通りそうな頭に攻撃を重ねつつ、かたのり小僧は唯一大型妖怪の肩に攻撃していた。
「あん?なんだ?そんなところ痛くも痒くもないぜ。」
「黙ってろい、これがおいらの仕事だい!」
仕事、そう仕事だ。オレがかたのり小僧に大型妖怪の肩を攻撃しろと指示した。おはらいの時に頼んだ形だな。一見意味はないかもしれない。でもこれが効いたらとオレは暑くなり続ける部屋の中でそう思うのだった。
◇◆◇
『あんたの攻め、センス無いわ!つくときはこうつくのよ!』『つづかないつづかない猛攻をつづかせない。』『こうやって攻めてもらえるなんてうらやましい~。』
黒いスライムが戦闘中に出たワタシたちの言葉を重ねる。その異常性はワタシたちの攻めを躊躇わせるのに十分だった。
「ね、ねぇウィスパー、あれなんて妖怪なの?」
こっちに来てからウィスパーは妖怪パッドの指が止まらない。こんなに強いスライムの妖怪なんてウキウキペディアに載っているものと思っていたけど未だ検索に戸惑っていた。スライムが玉虫色の模様を出したり、頭部?に目玉?を作ったりと大きな変化が出たからそろそろヒットしてもおかしくないけど……
「ありません。」
「えっ?」
「あれはウキウキペディアに載っていない新種の妖怪!類似している妖怪は1体居ますが所々異なる点があり、完全一致しているものはありません!また妖怪の住民票であるメダルが発行されているデータはないため不正で生まれた人造妖怪の一種と考えるのが妥当でしょう!」
まさかのノーデータ。完全なるUNKNOWN。生命を脅かすために生まれた生物兵器。
人造妖怪ってどういうことかを聞くと、未来の世界では人の手によって妖怪の力をロボット等で再現することに成功した世界線があって、そこから現代にお邪魔することがあるらしい。でもそういった妖怪は正規のプロジェクト等で生み出されたからメダルはきちんとあるしトモダチ契約できる。
だけどあのスライムはそれすらないイレギュラーだった。
ワタシの足元がふらつく。敵の規模感がわからなくなる。未来の技術?未来視ではなく未来人?色々なものがぐるぐると頭で回る。
そんな敵がワタシたちや人間界を狙っている事実。多くの妖怪を殺める事を厭わないその精神性。そしてその尖兵がこの不気味すぎるスライムということもあって、
ワタシの心は限界に近かった。
小学生に耐えれるものを遥かに越えている。全てを投げ出して狂ってしまいたかった。
そんなワタシを正気に戻したのは背中から感じた熱気だった。
「!?あっつい!」
熱気の感じた方を向くとそれは銭湯の方角だった。
どうやらケータくんの相手はドーピングされたらしい。
夜になって少し涼しい空間は炎天下を優に越える猛暑の空間となる。トモダチ達は驚いてパフォーマンスを低下してしまった。しかし黒いスライムはどこか吹く風。問題ないといわんばかりにイキイキしている。
そうだ。敵は人間界とワタシとケータくんを狙っているんだ。だとしたら黒いスライムが逃げないのはワタシとケータくんを狙っている勢力だから、ここでどちらかを始末しろとでも言われているんだろう。それを遂行するための2ヶ所同時出現。実に理にかなっている。迷惑なことこの上ないけど。でもそのおかげで気づいた。生きるためにはここを越えるしか無いって!
「皆、銭湯の方はケータくん達がやってくれるから、ワタシたちはこっちを頑張りましょう!」
トモダチたちは雄叫びを上げる。黒いスライムが発していた恐怖は完全に薄れた瞬間だった。
ケータくんと一緒に行動するガシャ限Sランク妖怪[1体のみ!]
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オオクワノ神
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犬神
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百鬼姫
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心オバア
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虫歯伯爵
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ふじみ御前