玄関に響く怒号、あまりの剣幕に家の主ではない文花さんも振り返る始末。ケータくんと一緒にリビングを覗くと、テーブルに置かれたプリンを挟んで何か言い争っているようでうぃす。
「アレは数量限定の特濃プリン!ワタシが食べたいって言ってたヤツだ!」
「でも、オレの家族が先に買っちゃってこんな事になっているようだね。オレも食べたかったから……。」
「でもプリンとか限定商品が先を越された程度であんなに怒るかな?いつもは今回は縁がなかった~とか、次は負けないとか微笑ましいものなのに……。」
「オレから見てもそうだよ。いつもならプリンを理由にして家に上がり込んで怒鳴るなんて事はしないのに……。」
成る程成る程お二人から見てもこの状況は異常な様子、ならば、まずは麻痺している感覚を呼び戻して貰いましょうか。
「お二人ともご家族4人をよくご覧ください。何かを感じませんか?」
そう言うと2人は目を凝らしはじめました。ふむ、ケータくんの反応はありませんが、文花さんは気づいたようでうぃすね。
「っ!フミちゃん。あの空間にナニカ、いや妖怪がいるの?」
真っ先に反応したケータくんの疑問に文花さんは頷きます。でも完全には認識できていないご様子。
「姿はよく見えないけど確かに何か居るよ……。今まで逃げ続けてきた、妖怪不祥事案件が起きている最中だと思う。」
やはり筋がいいですねぇ。尚更、妖怪ウォッチの力を見せたくなりました!おおもり山では妖怪の気配が薄くて試しようがありませんでしたからね。ここでチュートリアルと行きましょう!
「お二人とも、自分の手にある妖怪ウォッチの役割を思い出してください。────」
ハッとしましたね?では必須事項です。テストに出ますよ。
「ウォッチのボタンを押したら妖怪レンズが開きます。そのレンズを、あのいがみ合いの中心に向けてみてください。」
レンズの展開に驚きつつも、直ぐに姿勢を取り戻してお二人はレンズをリビングに向けます……。
そうしたら、紫色のブヨブヨスライムが目の前に現れました!
「わぁっ!?いつもよりハッキリ見えるよ!?」
「オレも同じくらい見える。ウィスパー、あの妖怪は?」
「アレは妖怪ドンヨリーヌ!場の雰囲気を悪くする妖怪です。」
私はウキウキペディアからドンヨリーヌの情報を読みます。ドンヨリーヌは部屋の雰囲気をドンヨリと悪くして揉め事をおこさせるわけです。
「あれは妖怪不祥事案件の1つ、不満が爆発して止まらないですな。悪化すれば家庭崩壊の危機に陥りますよ。」
「そんなぁ!ワタシの家族とケータくんの家族は仲が良いのに……。」
お二人ともよくご存知でしょう?妖怪は日常のあらゆるところに居ること、そして人間にあらゆる影響をもたらしてきたことに。そうお二方を諭すと、ケータくんがこういいました。
「どうすれば出てってもらえる?」
いや~愛する人の為に行動をし続けたかっこいい男のかっこいいセリフ。痺れますね~。
「大きく分けて交渉と戦闘でしょうか。」
なら交渉の一択だねとケータくんがドンヨリーヌと対峙しました。
「あの、ドンヨリーヌさん。オレの両親とフミちゃんの両親、今家に上がってきている2人とは仲が良いんです。だから出てってもらえませんか……?」
「ワタシからもお願いします。家族がここまで大喧嘩しているのを見ると、ワタシ達も苦しくなるんです。」
お願いストレート1本勝負、果たして結果はどうなるのか。
「そう言われても、あたしだって事情があるジュボン……。」
事情?とお二人が首を傾げるとお二人にとって衝撃的なことが飛び出してきました!
「実はあたし、旦那と喧嘩して家を出てきたんジュボン……。」
「「えぇっ!?」」
「よ、妖怪も夫婦喧嘩するの!?」
「そもそも夫婦ってあるんだ……。」
妖怪には男女一組、夫婦で力を発揮する妖怪はいくらでも居ますからね。そりゃ夫婦喧嘩も起こりますよ。
「あの人はもうあたしの事を愛していないジュボン……。だから幸せそうな家族を見て、羨ましくなって……。」
そう言ってドンヨリーヌはさらにドンヨリさせます。空気はさらに重くなり、4人の圧力が増しました。もはや核爆発待ったなしでうぃっす。
「でも、本当に旦那さんはもう愛していないのかな?」
ケータくんがそう言うと、ドンヨリーヌの雰囲気が柔らかくなりました。
「仲が良いのに喧嘩することもあるし、逆に仲が良いからこそ言いすぎることもあるよ。そういうときは一度ちゃんと話し合えばきっと仲直りできるさ。」
「ワタシもそう思うわ。一度喧嘩したらそれっきり元に戻らないなんて考えにくいわ。戻らなくなるとしたらその事を放置して取り返しがつかなくなったときよ。」
だから簡単に諦めないでと文花さんがドンヨリーヌに強い念を送ると、ドンヨリーヌはこう言いました。
「うん。旦那ともう一度話してみるジュボン。でも旦那が今どこに居るのかわからないジュボン……。」
「そういうことならフミちゃん、ドンヨリーヌの旦那さんを探しに行くけど……」
「待ってケータくん。妖怪を探すならワタシが行く。」
ケータくんは驚きました。無理もありません。文花さんは今まで妖怪に怯えて生活を送ってきたのですから。恐くないのとケータくんが言うと、
「妖怪に特別好かれやすいワタシが行った方が早いし、何よりケータくんの後ろで怯え続ける毎日からサヨウナラをしたいの!」
文花さんの決意にケータくんは頷いて。
「わかった。ウィスパー、念のためフミちゃんについて。ドンヨリーヌさん、旦那さんの名前と特徴を教えてくれる?」
「ホノボーノといって、黄色い雲の妖怪ジュボン。」
「ありがとうケータくん、行ってくる!」
「ケータくんはどうするんでうぃす?」
家を出る前にこれを確認せねば。妖怪とまだ友達になっていないケータくんが妖怪と一緒にいる事は相当リスクのある行為ですから、
「オレは、後始末の準備をする。」
ケータくんは確かにそう言い、文花さんは家をとびだしたのでした。
◇◆◇
ワタシは家を出て数十メートル走った後意識を集中させた。風で草木が揺れる音や車の駆動音等の人が発する音とは違い、ノイズがする音波や、人間の領域を越えた掃除機の真似のような明らかに不自然な音に集中する。本来はこうやって仔細を拾う為のダウジングマシーンじゃなくて、近くで拾ったら対処する為のレーダーだ。
そして、そんな音の中にホノボーノと思われるものを探す。基準はウィスパーと関わったからかある程度整備されている。焦りの音。大切な人を心配する気持ち。
今なら音を介して妖怪の気持ちが大方わかる!
「そこ!」
ワタシはレンズを開き、例の音がした場所を覗くと、
「ドンヨリーヌ!どこに行ったボーノー!」
ドンヨリーヌから聞いた黄色い雲の妖怪、
ホノボーノがそこにいた。
「一発ですか。スゴいでうぃす!」
ワタシは直ぐにホノボーノの元へ駆ける。ホノボーノは明確にこちらに向かってきている事を察したのかワタシの方を向いた。
「君は霊感のある女の子!私の事が見えているボノか?」
「うんしっかり見えているよ!この妖怪ウォッチのおかげでね!」
ワタシのこと知っていたみたい。霊感のある子って希少だからね。
「妖怪ウォッチを……それはおめでとうボーノ。でも私は今急いでいるのホノボーノ。」
急ぎの用はドンヨリーヌの事だろう。ワタシはドンヨリーヌの場所と今起きている事を伝える。
「それは大変だボーノ!今すぐ案内するボーノ!」
待っててねケータくん。今連れてくるから!
◇◆◇
オレはフミちゃんを待っている間にオレたちの家族とドンヨリーヌとホノボーノの仲を取り戻す仕掛けを施していた。時間は正直足りないけどやれる分はやった。後はこれが効く事を祈るだけだ。
「ケータくん、お待たせ!」
仕掛けが終わった時にフミちゃんがリビングに入ってきた。つまりそれは、
「やっと見つけたホノボーノ。」
黄色い雲の妖怪、ホノボーノを見つけてきた事を意味する。ホノボーノは力を解放すると、張り詰めていた空気は一転し、ほのぼのとした雰囲気に包まれた。
「スミマセン家にまで上がり込んで。私たちが大人げなかった……。」
「いえ、いいんです。私たちもいいすぎたところもあるので……。」
オレたちの家族はこれで終わった。あとは、
「私がいいすぎたホノボーノ。機嫌を直してほしいボーノ。」
「あたしの方こそ、勝手に家をとびだしてゴメンなさいジョバーン!」
どうやら仲直りできたみたいだ。オレはそれを確認して仕掛けを取り出す。
「仲直りの記念、といってはいいかわからないけど、せっかく来てくれたのに楽しい思い出が無いというのは悲しいから。」
取り出したのはレトルトハンバーグに照り焼きソースをかけて、それをキャベツの千切りと一緒に食パンで挟んだハンバーグサンド照り焼き風だ。本当ならちゃんと肉だねを作ってテリヤキバーガー風にしたかったけど、時間がないからこれで妥協した。当然ドンヨリーヌとホノボーノの分も用意してある。みんなが一切れずつ手にとって頬張ると、ほのぼの空間のグレードが上がった。
「スゴいわケータ。短時間でここまで作れるなんて!」
「ケータくんの成長が著しいですね。羨ましい限りです。」
「あっはは。フミちゃんを喜ばせる方法の1つが美味しいものを食べることだから。」
フミちゃんのみならず人間は美味しいものを食べると幸福を感じる。妖怪の件でセンチメンタルになったフミちゃんを回復させるべく色んな方法を試していく内に、料理にも行き着いてここまでになったんだよな。
「ケータって言ったわよね。あたし達の好物を知っていたジュボン?」
ドンヨリーヌがそう言うとオレは首をふった。妖怪にも食の好みとかあるんだ。覚えておこう。
「今回は夫婦共々迷惑をかけてゴメンボーノ。」
「お礼の準備があるからここで失礼するけど、また会うときはよろしくジョバーン。」
そう言うと2人は姿を消した。それを理解した瞬間一気に疲労が襲ってくる。フミちゃんもどうやら疲れたようで息を切らしていた。
「ケータくん、やったね!」
額に汗を流して、体力はスッカラカン。その時に出てきた笑顔はフミちゃんにとって1つ恐怖を乗り越えたと確信した瞬間だった。
「うん!頑張ったねオレたち!」
そう達成感を共有していると、ウィスパーが喋りはじめた。
「初めての妖怪不祥事案件の解決お見事でうぃす。どうですか?妖怪の不可思議、そして妖怪ウォッチの力の感想は?」
ウィスパーの問いにオレたちは答えられなかった。それほどまでに今日のエピソードは濃すぎるよ……。
「その妖怪ウォッチは無料でお貸しいたします。これからも妖怪ウォッチを使って様々な妖怪と関わっていくと幸いでうぃす。」
言われなくてもそのつもりだ。フミちゃんの体質上妖怪と関わらないことは逆に身を危険にさらすことになる。それにフミちゃんが妖怪と関わって危機に陥ったらいつでも駆けつけられるようにした方がいい。オレはそう決意したその時、
「もっとも、」
その一言で場の空気が締まって、
「その出会いがあなた方の人生にどのような影響をもたらすのか、それは解りませんがね。」
そう言いきるとオレたちは冷や汗をかいて妖怪ウォッチを見つめた。オレたちはもうこの奇妙な運命の針から降りることはできないと感じたんだ。
ハンバーグサンド照り焼き風
パン/ハンバーガー
(パンとハンバーガーどちらも判定がある。好物と嫌物の両方の判定がある場合、好物判定が優先される。)
HP65回復
なつき度ちょぴっと