オレたちは例の河川敷についた。河川敷にあるベンチには男子高校生とおばあさんが座っていて、男子高校生の話におばあさんが終始圧倒されている。オレに取り憑かれた妖怪の影響と見えた。
「間違いないよケータくん。さっきと同じ妖気を感じる。」
フミちゃんのお墨付きをもらったためレンズを開き、捲し立てる男子高校生をレンズから覗く。
するととても小さく腕が長い白髪の老婆がそこにいた。
「あれは妖怪バクロ婆!取り憑いた人間のあらゆる秘密を暴露、つまりばらしてしまうことを引き起こすのでうぃす!」
ウィスパーが言った妖怪の力とオレが体験した事が重なる。バクロ婆による妖怪不祥事案件を察したのかフミちゃんから怒りが漏れでた。
「そうか、クラスの女子がトイレの話を恥じらい無く言ってしまうのはコイツのせいね!」
小学3年生位に起きたクラスの問題を思い出す。別クラスだったから愚痴という形で聞いただけだけど、仮にも乙女がトイレの話を堂々とするのはフミちゃんにはくるものが有ったようで当時とてもゲンナリしていた。
「ババーン。(あらさっきのカップルね。また取り憑かれに来たのかしら。)」
バクロ婆が掛け声を発した。あれはバクロ婆の言語のようでウィスパーが翻訳した。
「ババン……ババーン!(さっきの男の秘密は大したことじゃないしね……お望み通りにしようかね!)」
またオレたちを狙っている。とても逃げられる状況じゃない。そしてなにより……
「ケータくん。向かってくるなら容赦しなくていいと思う。」
大切な日の邪魔をしたこの妖怪を、一回叩きのめさないと気がすまない!
「ではいよいよ妖怪ウォッチの本領発揮でうぃっす!」
ウィスパーから聞いた妖怪ウォッチの本領、それはトモダチ契約した妖怪を喚び出せるというもの。オレは例のポケットからジバニャンの妖怪メダルを取り出す。
「最初の召喚はケータくんに譲るわ。思いっきりやっちゃって!」
フミちゃんからの激励を胸に、オレは初めてのトモダチを喚ぶ!
「オレのトモダチ!出てこいジバニャン!妖怪メダル、セットオン!!」
プリチー!オレッチ、トモダチ!ふくはウチー!!
「ジバニャン!」
ウォッチから出た魔方陣よりオレのトモダチ、ジバニャンが喚び出される。軽快な音楽が止み、魔方陣が消えると、ジバニャンは力無く地面に落っこちた。
「ジ、ジバニャン!?どうしたの?」
そしてトモダチの声に反応してジバニャンは話した。
「1人で車相手に特訓して、先ほどひかれたニャン……。」
これ以上ない分かりやすい説明にフミちゃんはある事実に至る。
「ああそうか。妖怪ウォッチはトモダチ妖怪を召喚するというものだから、その妖怪の身に起きたことが地続きになっているんだ。」
正解ですとウィスパーが頷き、妖怪にも生活はありますからねと補足する。初戦闘で体力バーが僅かな状態で始まると思わなかったけどこれで準備は整った!
「さあジバニャン。バクロ婆をやっつけて!」
オレはジバニャンにそう言うとジバニャンは、
「えっ?嫌ニャン。」
動いてくれなかった。オレたち2人は思わずずっこける。ジバニャンは腹巻きからポテチを取り出してオレたちにこう言ったんだ。
「いくらトモダチだからといって都合よく動いてくれるとは限らないニャンよ。」
至極真っ当。むしろトモダチなら対等な立場からお願いしないといけない。オレたちは両手を合わせてジバニャンに頼み込む。しかしジバニャンは動かない。それどころか展開が無さすぎてバクロ婆は茶をたて始めた!
「ああ、ごめんなさいバクロ婆。」
「ジバニャン!バクロ婆が待っているよ。早く戦って!」
これ以上長引かせるのはバクロ婆に悪いのでオレはジバニャンの首輪をつかんで揺さぶる。ごめんジバニャン、でもこうするしか思い付かないんだ。
「わっわかったニャン。さっさと終わらせるから待ってるニャン。」
そう言うとジバニャンの目の色が戦士のそれに変わった。バクロ婆も空気を読み臨戦体勢をとる。そして河川敷で初めての妖怪バトルが、
今始まった!
「狙いを定めて、ここニャ!」
ジバニャンはバクロ婆の頭に目掛けて引っ掻き攻撃を繰り出す。体格と車相手に鍛えたかいもあって当たればただではすまないだろう。
しかしバクロ婆はその小さい体を活かし、ジバニャンの懐に潜り込む。そしてその長い腕をしならせ、強烈なビンタを繰り出した!
「ババーン!!」
バチンッ!!!と人間では絶対に出せない音を奏で、ジバニャンの体は少し浮き上がる。バクロ婆はそれを見逃さず、ジバニャンの鼻辺りまで跳躍し再度はたいた。
「ニャー!?」
音は先ほどと比べて小さい。でも空中では踏ん張りが効かず、かなりの距離までぶっ飛ばされた。
「ウィスパー!バクロ婆ってあんなパワーがあったの!?」
フミちゃんの疑問はごもっともだ。最初のビンタと追撃のビンタ、ビンタの際に出た音が違う。ウィスパーは大忙しでパッドを操作してバクロ婆の情報を見る。
「ええっとですね、あれはバクロ婆の必殺技愛のビンタ!バクロ婆の深い愛情によって必殺の威力へと昇華したビンタです!」
つまりバクロ婆は開始早々必殺技を出したということだ。只でさえ特訓の疲れが抜けきっていないのに必殺技なんて受けたら無事ではすまない。
「まだ……倒れていないニャン。」
ぐらっとジバニャンは起き上がった。車にひかれ続けてその分耐久力や回復力が上がっていたのだろう。しかし必殺技を受けたため召喚した時より元気がなくなっていた。
「ババーン。」
バクロ婆は既にジバニャンの方へ向かっている。ジバニャンが体勢を取り直すその瞬間、バクロ婆はアクロバティックな動きで四方八方からはたき始める。
「ニャー!鬱陶しい!ちょこまか動いて当たらないニャン!」
バクロ婆の動きに翻弄されキズが増えていく。それでも未だに倒れないのはジバニャンのタフネスとバクロ婆の火力の低さによるものだろう。だけど疲れが動きに変化を与えたのか、或いは天運が微笑んだのか、戦況は一変する。
「バッ!?」
「ニャッ!!」
「うぃす!」
「「よしっ!」」
ジバニャンの攻撃がバクロ婆にかすった。あくまでもかすっただけだがやはりその小さな体では相当な衝撃だったようでバクロ婆はジバニャンから離れた。そしてオレたちは確信する。ジバニャンの攻撃がクリーンヒットすればオレたちの勝ちだと。
だがその希望を嘲笑うかのようなことがバクロ婆の身に起きた。バクロ婆の身に淡い光に包まれると、なんとキズが回復したのだ!
「ババーン。ババーン。(いやしの術ってヤツさね。もはやあんた達に勝ち目は無いよ。)」
どうやらバクロ婆は回復妖術の使い手だったようだ。なら1発だけじゃなく一瞬で何発もの攻撃を命中させなければならない。瞬間的に何発も攻撃するのはジバニャンの得意技だ。それを決めれば確実に勝てる。
「ニャー。それならオレっちの……」
でももし避けられたら敗北は必至だ。だから、
「ジバニャン!必殺技を使う前に確実に当てる状況を作るんだ!」
その声が響いたのかジバニャンの動きが変わる。それに対してバクロ婆は奇怪な反応を示すが、我関せずとジバニャンに向かう。
「ババン、ババーン!(そろそろ妖気が溜まったし、これで終わりにするかね!)」
バクロ婆は必殺技の準備が整ったようだ。つまりここがこの戦いの最終フェーズだ!必殺技を放つ隙を伺うバクロ婆に対してジバニャンが取った行動は、
「食らえ隠し球!」
火の妖術をバクロ婆に放つ事だった。
「ババン!(危ないねぇ!)」
しかし近接攻撃より明らかに練度が低いそれはバクロ婆に易々と回避されてしまった。それをお構いなしにジバニャンはバクロ婆に妖術を放ち続ける。でもジバニャンの攻撃は空しく、ついに懐に入ることをゆるしてしまった!
「ババーン!!(終わりだよ!!)」
炸裂する愛のビンタ。当たれば惨敗。絶対絶命のその時、ジバニャンが不敵に笑った。
「それを、待ってたニャーー!!」
腹巻きからお札を取り出しバクロ婆に貼り付ける。その瞬間バクロ婆の動きが散漫になり必殺技が不発に終わる。
「バッ……!?」
ジバニャンはスウェーバックでビンタを回避し、バクロ婆から距離をとる。バクロ婆は再度接近しようにも何時もより動きが悪く、困惑を隠せない。
「ババン?(何故だ?)」
その様子を見てジバニャンはあの瞬間起きた事を解説する。
「オレっちがおまえに取り憑いたニャン。オレっちは地縛霊。死んだ土地から離れられない妖怪。その影響からかオレっちに取り憑かれた存在は自分の体を思うように動かせなくなるニャン。」
そう、ジバニャンはバクロ婆に[とりつき]を行ったのだ。そもそも妖怪に取り憑かれることでさまざまな効果を発揮する。それはいい効果と悪い効果の2つに大別され、内容は種族によって差が出る。
ジバニャンは悪い効果のとりつきを持っていて、その内容は地縛霊の性質を付与し、動きを阻害するというもの。お札はそれを起動するための鍵で、取り憑かれたら全身が痺れるような感覚になることからジバニャンはしびれお札と呼んでいる。
つまり今のバクロ婆は全身が痺れて動けない状態なのだ。それが意味することは、
「バッバ……(まっ待て。やめ)」
「もう遅い!食らえ必殺!!」
車相手に鍛えたジバニャンの肉球がバクロ婆に降り注ぐ。いくら体格が小さくても、機敏に動くことができるといっても、体が動かなければどうしようもない。バクロ婆は打撃の雨に押し潰され、戦意を喪失した。
「バ……バン……(スミマセン、でした……)」
戦いが終わったのを確認して、オレたちは2人の元へ駆け寄る。そしてジバニャンと、バクロ婆に激励をかけ、バクロ婆と会話する。
「人間には言わない方が良いこともあれば、言わないと駄目な事もあると思う。今回の事はオレたちにとって許せなかった事なだけで、バクロ婆の力は素晴らしいものだよ。」
「バラされた事があれなだけで暴露自体には罪がないしね。なんなら将来ケータくんが隠し事をしたときに協力して貰おうかな?」
フミちゃんそれはやめてくれ。オレの尊厳がオーバーキルされる。
「ババーン?(もう怒ってないのかい?)」
その問いにオレたちは頷いた。
「ジバニャンが代わりにはらしてくれたもん。これ以上引きずるのは違うよ。」
「それに、こうやって心の内をさらけ出すことは必要だったのだと思う。そのタイミングが最悪なだけでこうなってしまったのだから、バクロ婆に悪いことをしたなと思っているよ。」
フミちゃんはオレたちの怒りはもう無い事を示し、オレはあの言葉はいつか必要になると言った。バクロ婆の力は秘密を暴露することであって、心に無い事を言わせる力ではない。
オレは、いやきっとフミちゃんも妖怪とか学校とかそういうしがらみの無い世界に行きたいなんて心のどこかで想っていたんだ。
それがウィスパーと出会って、妖怪ウォッチを使ってといろいろある内に、オレたちの知らぬ間に溜まっていったんだろう。バクロ婆はその爆発のヘイト役を担ってくれた。そういう意味ではオレたちはバクロ婆を憎みきれない。むしろ必要な存在だとオレたちは考えたんだ。
「ババーン……!(出来すぎた将来の夫婦だね。惚れてしまったよ!)」
その事をバクロ婆に伝えると、光を放ち、円盤状の物質を2つ作った。バクロ婆の妖怪メダルである。メダルを受け取り、バクロ婆とパスが繋がったことを噛みしめる。そしてジバニャンとバクロ婆の傷を癒すと2人は帰る準備をした。
「さぁてオレっちは……車で特訓するニャン。」
なんか一瞬溜めがあったけど特に気にしない。バクロ婆の力を使えば一瞬だけど流石に疲れた状態じゃ悪いしね。
「ババーン。(あっそうだ。あんた達に1つ言っておくよ。)」
バクロ婆はオレたちを呼び止める。その表情は先ほどの戦いと同じくらい真剣なものだった。
「ババンババーン。(あんた達が通っている学校に変な妖気を感じた。今は何ともないが、用心しておくんだね。)」
そう言うとバクロ婆は去って行った。妖怪を気にしないデートはしばらくできないかもしれないとオレとフミちゃんは思った。
祝☆ジバニャンドルオタ判明回避!