【リメイク】僕はげきからマホイップと世界を巡る 作:三笠みくら
トレーナーズスクールの帰り。本来ならブラッシータウン駅で停まるはずの電車が、ワイルドエリア駅で止まってしまった。ウールーの群れによる緊急停止で、僕はワイルドエリアを徒歩で歩くことを余儀なくされた。
かといって家に帰るのも億劫だったので、ワイルドエリアでキャンプして時間を潰すことにした。
僕がひとりになれる時間は少ない。トレーナーズスクールでは女の子…ルセちゃんにいじめられ、家ではおじいちゃんに怒鳴られる。両親は僕の味方だけどそれでも気持ちは晴れないもので。
草原でひとり、キャンプ用のイスに座ってため息をつく。ワイルドエリアは凶暴なポケモンが多くて危険だけど、まあポケモンに襲われて死ぬならそれはそれで、この
僕は辛いものが好きだ。きっかけは覚えてない、たぶん生まれつき。小さい頃から辛口のカレーが好きだったし、辛いスナックだって食べていた。
でもだんだん辛いもの以外が美味しくないと思えてきて、辛いものしか食べないようになっていった。周囲は心配するけど、どうせスクールでは食べられないし、好きなものを食べてるんだから気にしないでほしい。
なのでワイルドエリアでもカレーを作る。マトマのみ、クラボのみ、オッカのみ。それから……チイラのみも入れちゃうか、レアなきのみだけど使う機会ないし。
使う具材はボブのかんづめ。ほろほろのお肉に辛味が染み込むのが最高なんだ。
具材を入れて、火加減を調整して、よく混ぜて。最後にまごころ……まあ、一応入れとくか。
「…美味しい」
舌が燃えるようで、口の中は無数の針で刺されてるみたい。でもこれがいいんだよ。これぐらいじゃないと。
……霧が出てきた。参ったな、流石にずっとワイルドエリアにいる気はないから帰りにくいと困るな……ん?
きゅるる……
……気のせいか?いやでもこの鳴き声は……
「ほみ…」
「It's milcery!!」
マホミルだ!!マホミル、本物のマホミル!?うわああ可愛い、つやつやのクリームボディにつぶらなひとみ!!なんて可愛いんだ!!こんな近くでマホミルを見られるだなんて!!人生最高!!
……おっと、興奮しすぎた。なにを隠そう、僕はマホイップ…マホミル系列が推しなのだ。小さい頃にポプラさんの試合でマホイップを見て以来、その愛くるしさの虜になっている。僕の部屋もマホイップ絡みのグッズばかりだ。
「ほみ……」
「そっか、確かワイルドエリアの天候が霧の時にマホミルは出現するんだっけ……でもこんな近くで見られるなんて…」
「ほみ、ほみ!」
「え、どうしたんだろう……もしかしておなか空いてる?」
「ほみ!」
……どうしよう。僕の手持ちは辛いきのみと今作った激辛カレーだけ。マホミル及びマホイップ系列はその性質上甘いものが好きなんだ。もちろん性格や個体によって違いはあるだろうけど…こんな激辛カレー食べさせるわけにはいかないよね。
「……ごめんね、今甘いもの持ってないんだ」
「ほみ?」
「いや、このカレーはすごく辛いから…」
「ほみ、ほみー!」
「食べたい?すごく辛いよ?」
「ほみゃー!!」
「わかった、ひとくちだけね?ほんとに辛いからね!」
あまりにマホミルが駄々をこねるので、ひとくちスプーンですくって食べさせることに。小さいおくちで味わって食べている……ああ、なんて可愛いのだろう。
「ほみ!」
「え、美味しいの?」
「ほみ〜!」
「よかった……きみ、辛いものが好きなんだ」
そのあともマホミルがもっとちょうだいとおねだりしてくるので、カレーを食べさせてあげた。結果、マホミルはカレーをおなかいっぱいになるまで食べてしまった。これ僕からしても結構辛いんだけど……なかなかの辛いもの好きと見た。
「ほみ〜……」
「ふふ、可愛い」
マホミルがピトッと僕に近づいてくる。ああ、この子をゲットできたらな。でも僕、モンスターボール持ってないんだよ。正確に言えば、持つのを許されてない。
僕はトレーナーズスクールに通っているんだけど、実技…つまりポケモンバトルの成績が良くないんだ。理由は単純で、僕がポケモンバトルが苦手だから。見るのは好きだしすごいって思うんだけど、いざ自分で指示して戦わせるとなると話が変わってくる。
自分の指示ひとつでポケモンが傷つくかもしれないし、そもそもタイプだのわざの物理・特殊だの、しまいには追加効果だのと覚えることが多いんだよバトルは。筆記はともかく、実践でそんなことを考える余裕がない。
そういうわけで僕はバトルの成績はからっきし。だからおじいちゃんもそれにご立腹で、バトルの成績が良くないのにポケモンを捕まえるなんて許さないってことで、僕はボールを持っていない。とはいえこればっかりは僕も同意だ。
「……そろそろ帰らないと。ごめんね」
「ほみ……?」
「きみに会えてよかった、それじゃあね」
キャンプ用品をしまって、ブラッシータウンに戻る。はあ、家に帰ったらまた怒られるんだろうな。
「アマネ、おかえり!遅かったわね?」
「うん、列車がワイルドエリア駅で止まっちゃって…」
「そうだったの、とりあえずお風呂……」
お母さんがいきなり硬直する。どうしたんだろう、キテルグマと素手で戦って勝てる人なのに。
「アマネ……そのポケモンどうしたの?」
「え?」
「ほみ!」
「マホミル!?」
マホミルはすすすと僕に近づいて頬ずりしてきた。もしかしなくっても、さっきのマホミル……?
「実は……」
「……なるほどね」
どうしよう、お母さんが黙っちゃった。お母さんにまで怒られるのは嫌だな。
「ちょっと待ってて、そのマホミルちゃんから目を離さないで」
猛ダッシュで家の奥に入ると、数秒後に再び猛ダッシュで戻ってきた。そして何かを手渡される。これは…ラブラブボール?どうして?
「アマネ、そのボールでマホミルちゃんゲットしちゃいなさい」
「え、え?なんでいきなり……」
「アマネがマホイップ…マホミルを好きなのはお母さんでも知ってる。だからよ」
「でも、そんなことしたらおじいちゃんに…」
「……うん、そうね。でもおじいちゃんよりアマネの方が大事よ!おじいちゃんは適当な老人ホームにでもぶち込むから、あなたは好きにしなさい!アマネの激辛好きに付き合える子なんてそういないんだから!これは運命よ!」
「お母さん……」
「今まで守ってあげられなくてごめんね。おじいちゃんにいろいろ言われて辛かったでしょ。でももう大丈夫!お母さんがなんとかするからね!」
……相変わらず屈強だな僕のお母さんは。僕にお母さんの遺伝子は受け継がれてないんじゃと思うくらいだ。
「じゃあ……マホミル、僕と一緒に来てくれる?」
「ほみ!」
ラブラブボールを頭に当てて、数回揺れてカチリ。マホミル、ゲットだぜ!!
その後、お母さんは有言実行し、おじいちゃんを羽交締めにして老人ホームに連行しました。ということは、だ。
家では、自由だーー!!ヒャッホウ!!
スクールでは相変わらずいじめられるだろうしマホミルをゲットしたなんてバレたらマホミルを傷つけかねないから絶対に隠し通すとして!!これからはマホミルとの幸せな人生が始まるんですね!!
……そう思っていた時期が、僕にもありました。
アマネ
ブラッシータウン在住の男の娘。ピンク。辛いものが好き。というか辛いもの以外あんまり味を感じない。いろいろ抑圧されている。
マホミル
辛いものが好き。
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