【リメイク】僕はげきからマホイップと世界を巡る 作:三笠みくら
僕のおじいちゃんは、笑わない人だった。
いつも不機嫌でしかめっ面、口を開いても誰かの悪口ばかり。そんなおじいちゃんが、僕は嫌いだった。それでも足が悪くて1人なので、仕方がなく同居していた。
そんなおじいちゃんは、いつもポケモンリーグの番組を見ていた。ジムリーダーにチャンピオン、全員の悪口を言っていた。完全にいちゃもんだったけど。
なんでもおじいちゃんは昔、はがねジムのジムリーダーだったらしい。それは強かったらしいけど、いかんせん本人の言っていることなので真偽はわからない。僕にとっては、どうでもいいことだと思っていた。
ある日。おじいちゃんが僕を呼んで、ささやいた。
「お前は、ガラルで1番のトレーナーになるんだ」
意味はわからなかった。でもその時の声が、顔が、肩に置かれた手が。気持ち悪かったことははっきりしていた。
それから少しして。おじいちゃんは僕を勝手にトレーナーズスクールに入れた。当然お母さんは怒った。けれどおじいちゃんには全く届かなくて。当時の僕は、ポケモンの勉強ができる楽しい場所なんだと思って了承してしまった。それがいけなかった。
おじいちゃんは、それからというもの僕に執着するようになった。何をするにもついてきて、指図してくる。かけてくる言葉は僕を否定して叱るものばかり。テストで100点を取れないと怒鳴られた。宿題を少しでも遅くすれば怒鳴られた。誰かと遊べば怒鳴られた。だから、友達もいなかった。
その理由は、すぐに分かった。
テレビに映るチャンピオン・ダンデ。それを恨みがましく指差して、おじいちゃんは言った。
「いいか。お前はチャンピオンになるんだ。誰にも負けない、チャンピオンに、ならなければいけない。」
ああ。その言葉で、僕は理解した。おじいちゃんは、チャンピオンになりたいんだ。でも年老いた自分にはできない。だから、孫の僕を使ってその夢を叶えたいんだ。なんて、みじめなんだろう。
それから少し。僕がポケモンリーグの試合を見て、はしゃいでいた時のこと。ジムリーダー・ポプラさんの繰り出したマホイップ。そのポケモンがかわいいんだと、おじいちゃんに伝えた。その時。
おじいちゃんの顔が、険しく、赤黒くなっていって。
ごちん。
気がつくと、床に倒れていた。何が起きたのかわからなかった。でも、頬が痛かった。おじいちゃんの方を見ると、息を荒くして手を上げていて。殴られたんだと、分かった。
その後すぐに異変を察してお母さんが戻ってきて、それはものすごい口論に発展した。お母さんは必死におじいちゃんを責めて、僕を庇っていたけれど。おじいちゃんには何を言っても通じていなかった。おじいちゃんはまるで子供の癇癪のように喚いて、暴れて。その時に理解したんだ。
この人には、何を言っても無駄なんだって。
それから、僕はおじいちゃんに逆らうことはしなくなった。外で友達と遊ぶこともしなくなったし、ひたすらに勉強をした。マホイップの関連グッズを集めるのは許された。マホイップを褒めたことじゃなくて、ポプラさんの名前を出したのが気に食わなかったみたいだ。
相変わらず実技は怖くてダメだけど、筆記の成績はいいのでなんとかおじいちゃんも許してくれていた。それに流石のおじいちゃんもスクールの中まではついてこないので、スクールでクラスのみんなと楽しく過ごしていた。
彼女が来るまでは。
「アローラ地方から来ました、ルセです。皆、仲良くしてくれたら嬉しいです」
アローラ地方からやってきた、お人形みたいな綺麗な女の子。誰にでも優しくて、僕なんかにも優しく話しかけて来てくれた。このままだったら、僕は彼女のことを好きになっていたかもしれない。
でも、彼女の化けの皮はすぐに剥がれた。
なにがきっかけだったかは分からない。でもある時から、ルセちゃんは僕につきっきりになった。もちろんいい意味じゃない。
「アマネくん、バトルの成績良くないんですってね。わたしが教えてあげる」
そう言って、僕にバトルを教えてきた。苦手だからと断ったけど、彼女は押し切ってきた。いや、無視してきたという方が正しいな。
ルセちゃんのバトルは怖かった。反動ダメージのある技を平気で使わせるし、ポケモンが傷ついてもギリギリまでキズぐすりなどは使わない。
何より、ポケモンへの愛情がかけらも感じられなかった。
ポケモンの育成はちゃんとしているのだけど、「がんばったね」とかは一言も言わないし、どれだけポケモンが傷ついても平気な顔をしている。まるで道具としてしか思っていないようだった。
怖くなって、僕は逃げようとした。すると、彼女はスマホロトムの画面を見せてきた。写っていたのは、僕の実家と、笑顔で接客する両親の姿。
「アマネのお家……料理屋さんなのね。わたし、リーグ委員会の偉い人とコネがあるの。だからちょっと告げ口したら、この小さな料理屋さん、無くなっちゃうかもね」
ぞっとした。ルセちゃんの声は甘ったるくて、背筋を這い寄ってくるような悍ましさがあった。彼女ならやる。そう確信した。それだけはやめてと懇願すると、彼女はうっとりした笑顔で頷いた。そして、背後から抱きしめてきた。
「それでいいの。あなたは、ずっとわたしのもの」
それから、ルセちゃんによる「教育」が始まった。彼女は辛いものが嫌いだから、ルセちゃんの前で辛いものを食べるのを禁止された。せっかくお母さんが持たせてくれたお弁当も捨てられて、彼女の手作りで栄養たっぷりだという弁当を食べさせられた。
左手の薬指をカッターで切りつけられた。溢れてくる血を、愛おしそうに彼女は舐めた。
右耳にピアス穴を開けられた。右耳のピアスは「愛される側」がつけるものだからと。
毎日のように傷をつけられた。方法は色々、場所はばらばら。やけどさせられたり、シャーペンの芯で刺されたり、殴られたり。傷や痣が絶えないので、長袖やタイツを毎日着るようになった。
そういうことをする時、決まって彼女はこう言う。
「あなたのためなの」
理解できなかった。やっぱり、彼女の思考を受け入れることはできなくて。1度反抗したこともあった。僕なりに怒って、拒絶したつもりだったけど、彼女には通じていなかった。まるで子供の癇癪を見ているような、そんな感じ。
なぜ僕にそこまで執着するのか、なぜここまでやるのか。何度聞いても、ルセちゃんはこう返すだけだ。
「アマネのことが好きだからよ」
本当かどうかは分からない。ただ、これだけ好き放題やっておいてなんの制裁も受けていないのは、彼女が根回ししているからだ。僕には逆らえないよう脅して、周囲にはいい子のように振る舞って、都合のいいことを囁いて。いろんな手を使って、邪魔させないように。
いっそのこと、何もかもなかったことになって消えてしまいたい。
ルセ
アマネをいじめるヤバいやつ。人の形をした何か。辛いものが大の苦手。アマネがマホミルをゲットしたことは知らなかった。アマネを心身ともに追い詰めている。平気で脅迫するし傷つける。
アマネ祖父
50年以上前、ガラルのはがねジムリーダーだった。当時の相棒はニャイキング。とにかく傲慢でプライドが高く、自分以外の全てを見下さないと気が済まない。ジムリーダー時代もその性格のため人気は全くなかった。その後交通事故に巻き込まれ引退。しかし当時のチャンピオン・マスタードとジムリーダー・ポプラに勝てなかったのが心残りで彼らに執着している。アマネを殴ったのもポプラの話題を出されたため。
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