ゾンビものの世界で、モブがこの先生きのこれるわけwww   作:KNa\

1 / 2
第1話

 

あ゛あ゛ぁ……う゛う゛ぅ……

 

う、ぉ……う゛、う゛ぅ……

 

あ゛、お゛ぉ……う゛ぁ……

 

 

「くぁ……ここも、安全じゃなくなってきたな」

 

眼下の光景を見たフジオは欠伸をした後不機嫌そうに呟いて、拠点にしていたアパートの二階の窓から首をひっこめた。

 

「見えたのは三匹。ノーマルだけ……出るなら今のうちだな」

 

そう独り言ちながら、フジオは床からリュックとヘルメットを取り上げて身に着け、厚く巻いたマフラーで口元を覆う。ぐっと腰を持ち上げると、ぱきぱきと関節から音が鳴った。

 

「荷物、よし。メット、よし。装備、全てよし」

 

リュックに指をあて、次にヘルメットに指をあて、最後に自身の腰回りに垂らした得物にそれぞれ指をあてた。移動の際に指あて確認をやるのが、フジオの癖になっている。焦って移動した結果、荷物の殆どを失うような経験はもう御免である。

 

「っし……ふぅ」

 

すべてを確かめてから、最後に二回ほど大きく腕を回しながら深呼吸をした。これもまた、経験から身に着けた癖だ。体が固まった状態で慌てて動く事はヤツらの餌食になる確率を上げるのだと、ブスジマ夫婦の最期から良く理解している。たたらを踏めば死ぬ世界だ。

 

右手の五指を数回くねらせ、腰の得物から一本選び取りながら玄関へ向かった。ドアを開ける前に覗き窓を見ることはマストである。

 

「……居ないか。ラッキーだ」

 

左手でノブを回し、ドアをゆっくりと押し開けた。右手のクラブハンマーは直ぐに振れるように構えておく。

 

キィィィ。喉を締めたような音のするドアから外に出る。扉の裏や足元に見落としたヤツもいないようだった。

 

目線は周囲を警戒したまま、後ろ手に回したドアをゆっくりと閉じる。重さに任せて閉じてしまうと、存外大きな音が鳴るのだ。まともな人間の減った朝方の街ではよく響く。

 

「さて、どこへ行くか」

 

アパートの外階段を足音を殺して下りながらフジオは思案する。口の中で含めるような小さな独り言は、周囲へ気を配りながら考えをまとめるのに丁度良い。会話をするには向かな過ぎる声量の癖だが問題ない。どうせ会話の成り立つ他人など、この街にはもう殆ど残っていないのだから。

 

「……海、だな。別の街に行ったっていいが、現状不足してる物も無い」

 

フジオはそう決めて、駐車場に停めておいた電動自転車に跨った。こんな世界になってから、バイクや車は一人旅には不向きになった。確かに速さは魅力だが、ガソリンは補充が難しく、運転の音でヤツらの気を引いてしまうからだ。複数人数なら対処もある程度出来るだろうが、ソロで動くなら静音性と小回りのほうが重要である。それに徒歩に比べれば数段早い。

 

ちなみにフジオの使っているこの自転車は、電気を使っていない間は太陽光と車輪の回転で自動的に充電され、さらにケーブルがあれば外部バッテリーにも使えるハイモデルだ。電気発火器やスマホの充電が行えるため、フジオも重宝している良品である。鍵は店から持ち出すときに忘れてしまったが、ヤツらは窃盗はしないので問題ない。

 

「ここから向かうなら、あの道を使うか……さてと」

 

大体の経路を頭に描いたフジオが自転車のペダルを軽く回してアパートを出ると、すぐ目の前にフラリと人影が飛び出してきた。その体は酷くボロボロで、歩く死体のような見た目をしている。

 

「あ゛……た゛、す゛げぇっ……」

「邪魔」

「き゛ゃっ……」

 

フジオは何の躊躇もせず、右手に握ったクラブハンマーを人影の頭部めがけて左から右へ振りぬいた。T字の鉄頭が風を切って勢いよく肉にぶつかる。

 

パキギョッ。パック卵を落とした時のような音と共に人影は仰向けに地面に倒れたが、フジオはそのまま通り過ぎた。一度だけ可哀そうな物を見る目で振り返ったが、すぐにペダルを回して消えていった。ご愁傷様。フジオがポツリとこぼした言葉は、誰にも拾われずに消えていった。

 

後ろに残されたソレは、ピクリとも動かない。アスファルトには赤黒い液体がじわりじわりと広がっていく。割れた鼻頭からは生白い肉片が飛び出して、ひしゃげて欠けた頬骨からぽろりと目玉が一つこぼれていた。言うまでも無くそれは死体だった。

 

フジオが去って少しすると、ふらふらふらりと、三つの人影がアパートの出口に現れた。それらは地面の上の死体に気が付くと、幽鬼のような足取りで近づいて、死体のそばにしゃがみこんだ。

 

 

あ゛、あ゛ぁ……ぅ……

 

 

言葉にならない声を上げて、人影の一つがはくはくと口を動かしながら死体の胸元へ縋りついた。血に汚れることもいとわずに。

 

もう一つの人影は、死体の方腕を胸に抱きこむようにして抱え上げた。力ない掌はゆらゆらと揺れて、人影の顔を左右に擦るような動きをしていた。

 

最後の人影は、死体の腹部へと顔を押しつけた。腰の後ろまで手を差し込んで、強く強く抱き着いていた。

 

 

そうして三つの影が、死体と触れ合い始めて数秒。

 

ぐぢ。   何かが千切れる音がした。

 

ぱき。   何かが圧し折れる音がした。

 

ぷち。   何かが潰れる音がした。

 

ぐぢ。ぐじゅ。ぐぢ、ぶぢ。

 

ぱき。めき。ぎち、めり。

 

ぷち。ずち。くちゃ、ぬち。

 

咀嚼音。

 

それは、そういう音だった。

 

肉を摘み、皮が剥げ、脂の潰れる音だった。

 

筋が断たれ、骨が割れ、髄が飛び出す音だった。

 

腸が零れ、胃が破れて、臓腑が転がる音だった。

 

人影達は、死体を食っていた。食事の音は、静かなその場によく響いていた。

 

 

それからしばらくして。人影たちが突然咀嚼を止めて立ち上がった。

 

「う゛」だの「あ゛ぁ」だのと鳴き声を上げて、現れた時と同じようにふらふらふらりと、またどこかへ散っていった。

 

 

 

ソレらが去った後には、死体だったモノがあった。片方の腕は肩口までが大きな骨だけになり、胸と腹の中身は喰われ尽くして肋骨が風を通していたが、脚や顔といった場所は大部分が残っていた。

 

 

ぴく。

 

 

死体の口が動いた。緩んで開いていた顎が動いた。

 

 

ぴくく、ぴく。

 

 

また、死体が動いた。肉の残っていた方の指先が数度、地面を搔くように動いた。

 

 

ぴくぴく。ぴく。

 

 

そうして、両の脚が立ち上がろうとして深く曲げられて。それから。

 

 

それから、死体は二度と動かなかった。

 

 

 

 

 

Tips

 

ゾンビに成るには肉体が重要である。

 

特に脳髄・脊椎・心臓の三つが不可欠である。

 

成ってからであれば脳髄以外は不要なのだが。

 

基本的にゾンビは同種を襲うことはない

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。