ゾンビものの世界で、モブがこの先生きのこれるわけwww 作:KNa\
午前の早くにフジオと男性の二人は外に出ていた。かの一軒家から少し離れた海沿いにある小さなビルの屋上へ完全装備でやってきている。
港倉庫と其処にいるディッパーを観察するのに最適だったからだ。このビルや拠点の周囲には空になった民家もいくつかあるのだが、男性が言うには満足に探索出来ていない場所は港倉庫だけであるらしく、あの子がいるなら倉庫くらいだとのことだった。生存が絶望的な情報にはなるが、万が一、億が一に賭けるためにはディッパー共の巣窟を調べる他にない。
敵を知り己を知れば百戦危うからずという言葉がある通り、敵方の情報を知ることはこの世界において重要な要素である。
「多いな、あんな群れるやつらだったとは」
ポケットサイズの双眼鏡を左目で覗きながら、フジオは開けている右手で床に置いたメモ帳に書き殴る。フジオはディッパーについての詳細を知っているわけではない。ゾンビに詳しいような変人は早々いないので、仕方のない事ではある。誰が好き好んでこちらを捕食しに来る危険生物に詳しくなりたいと思うだろうか。そういった欲求は命の危険に曝されない安全の担保された図鑑や映像で埋めるくらいが丁度良い。
しかし生憎と現在の末法めいた世の中では、ご親切にゾンビの種類や弱点を教えてくれる本もネットも存在しない。であるから知りたい事があるならこうして自ら地道に足と目で調べる必要がある。
「?、普通は群れないのですか?」
フジオの声に対して男性は言葉だけ向けて問いかけた。彼は屋上唯一の移動経路のタラップから、周囲を監視していた。二人して倉庫を眺めていてフラリ現れたゾンビに気付かず食われるのを避けるための分業である。
「変異種自体見るのは七、八回程度だから詳しいことは知らん。が……あんなに固まって動いてるのは初めてだ。変異種は大体が喧嘩っ早いきらいがある」
「喧嘩……?縄張り争いとかですか、アレらのそういう場面を見た事は無いですね」
「共食いだよ、変異種が同種やノーマルを襲ってるのを二、三度ほど見た事がある」
「っ……ともぐい、ですか……」
男性が息をのむ音がフジオの背中から届く。海沿いで生き残ってきた男性にとっては、信じられない情報であったらしい。しかしフジオにとっては複数の変異種が争いもせず共存しているという方が珍しいのだ。これまで何度も拠点を移して移動してきた経験から、変異種の凶暴性はよく知っているつもりであったから。
「……ま、俺が知らんだけであの変異種はそういうタイプかもしらんが」
港倉庫から現れた見分けがついた四匹目のディッパーの様子を書き留めてから、フジオは左目を双眼鏡から離した。ここまで一時間程度観察を続けたが、港の変異種の体には大きな傷や痕は見受けられなかった。うまく見分けがつかなかった個体のカウントも含めればその個体数は十を超す可能性もあり、つまりはあの単位の変異種が一所に共存していることになる。
「もしかしたら、仲間意識でもあるのかもしれないですね」
「……仲間意識?」
「あぁいえ、気にしないで下さい。下らない妄言ですから。きっとアレにそんな知恵はないでしょうし」
「ん-?仲間意識ね、仲間意識……」
ふと男性が漏らした言葉をフジオは無意識に反芻していた。単なる思い付きだったかもしれないがフジオはそれがどうにも引っかかった。仲間意識。ヤツらにそんなものがあるのかと思いつつフジオはメモ帳を遡っていく。
そしてとあるページで指が止まった。
「……発生時の環境か?」
フジオのメモには日付が無いため、それがいつ頃書かれたものかは定かではない。ただそのページの中にはゾンビ複数と変異種二匹が争いもせず徘徊していた記録があった。それを見たのはマンホール直下の地下水路、つまりは下水道の中でのメモだ。また類似の特徴を記したゴミ処理場のメモが別の頁に書かれていた。フジオはそのメモの類似部分が、環境の臭気や状態の悪い場所での記録であると気付く。
「環境、ですか。つまりアレらは全てあの港倉庫で発生した、ということでしょうか?」
「多分そう、程度だけどな。まぁ同タイプの変異種がアレだけ固まってるあたり、大きく外れてるわけでもなさそうだ……心当たりはあるか?」
フジオは男性にダメ元で話を振ってみる。まぁ、あの快適な拠点で自給自足が回っているのだから、危険な外の様子を知っているかは望み薄だと考えていた。
しかしフジオの予想とは裏腹に男性はポンと心当たりを口に出す。
「そういえば、港の海が面白いっていうのは聞いたことがありますね。なんでも砂と軟泥が混ざった砂泥底をしてる、とかなんとか……魚がよく釣れるけど少しキツイ臭いがすると、以前とある少年から聞いたことがあります」
「……成程。倉庫そのものじゃなく周りの方か。有り得るな」
フジオは感心しながらメモを残し、そして読み返していたページを再び浚う。変異種のメモは数少ないものの、幸運なことに虫に似た変異種の項目は比較的に多かった。メモでもかなり初期のページに、複数の死体を纏めて埋めた場所からディッパーのような虫型が多く出ていた事と、体を何かで埋められることが変異条件であるという推測が書いてあった。メモはそこまでで止まっていたが今必要な情報としては十分だ。
「ゾンビは基本泳げない。そしてパニックで海に逃げた人間も溺れやすい……つまりヤツら、海底で藻掻いて砂泥に埋まって変異したって具合か」
そうフジオは結論を出した。
……とはいえ、だから何なのかという話ではある。ディッパーの発生原因が分かったところで、フジオらが襲われなくなるわけではない。あれだけの数だ、もしも複数に襲われれば真正面から相手にすることは不可能で、逃げ切れるかさえ危ういだろう。
そこでふと疑問が浮かび、フジオは男性へと問いかける。
「なぁアンタ。調べられてないのはあの倉庫くらいだって話だよな?」
「そうですね。拠点周囲の民家は大体。港周りに民家はないですし、アレらがいるので倉庫は手付かずです」
「アイツらの行動範囲ってどんなもんだ?」
「そうですね、少なくとも拠点側では見てません。対岸の倉庫周りと、フジオさんが来た方面の道路付近まででしょうか……道の先はすいません、存じませんね」
それを聞いてフジオはある確信をもった。ディッパーは明確に、男性の住む民家側を避けて行動しているということだ。思い返してみれば複数のディッパーに襲われ、男性に助けられた日もそうだった。ヤツらは比較的移動が速いタイプの変異種だ。並走する男性に合わせた自転車程度のスピードで撒き切れる理由がないのに、なぜあの日フジオと男性は逃げ切れたのか。
「ヤツらが避ける何かが、あの周辺にある?」
突飛な思い付きではあったが、直感的に的外れな考えでは無いとフジオは確信していた。その理由さえ突き止めれば比較的安全に倉庫を探索できるかもしれない。フジオがそう言うと、男性はそんなものが本当にあるのかと訝し気な声色になったが、行方不明の子を探せるとなればその感情を飲み込んだらしい。
「一度戻って、状況を振り返ろう。恐らくだが俺やアンタの手持ちの中に答えがあるはず……検証もいるな、装備の確認もついでに済まそう。手を貸してくれ」
フジオがそう言って振り返ると、男性は瞳をやる気で燃やしてフジオの方を見ていた。
「ええ勿論。すぐに見つけてやりますとも。ええ、直ぐに……!!」
フジオは頼もしい限りだと鼻で笑い、広げていたメモ道具や双眼鏡をてきぱきと片付け、男性もすぐに支度を整えて荷を背負う。
ビルを後にした二人が、ディッパーが近づくことを避ける習性の原因を突き止めることに成功したのはそれから二日後の事だった。
Tips
フジオのメモは自分以外が見ることを想定していないため、時系列も文字もぐちゃぐちゃで読みにくい。
また、ゾンビについてだけではなく有効だった武器や防具代替品。敵対しやすい人間の特徴や食事のレシピ。はてはいくつかの種類の薬の名前や見た目まで書いてある、フジオの生存記録ノートである。
名前は書いておらず、ノート背表紙にはO.Kという文字とくすんだ赤茶のシミが残っている。
変異種に変異するタイミングは、生存者がゾンビ化しかけている時が最も確率が高い。というメモが残っている
わすれてた
理由なくはアレなので、理由つけてからヤるつもりです