ゾンビものの世界で、モブがこの先生きのこれるわけwww   作:KNa\

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第7話

 

 

 

「……アタシの部屋、なんだよね?」

 

ぽそ。と少女は呟いた。部屋の壁際、ふかふかの清潔なベッドに腰かけて部屋の中をぐるりと見渡す。かわいらしくどこかファンシーな雰囲気の部屋だった。大小様々な大きさのぬいぐるみがベッドやクローゼットの上に鎮座していて、大人用には小さいドレッサーの前には子供用のパキっとした色の化粧道具や細々したアクセサリが整頓されて並んでいる。真横に顔を向ければ中身の詰まった大きめの本棚があって、上を見上げればゆったりとしたドレープ布が天井を隠すように垂れていた。

 

少々華美に過ぎる気もするが、年頃の女の子であれば多少気分が上がるのだろうな。とは思う。けれど。

 

「……ほんとに?」

 

案内された私室に関してどうにも琴線に触れない。可愛いとは思うけど自分がこのレイアウトにする気が全くしない。どこを見ても中身の想像がつかない。無意識に私物に手が伸びるというプロセスが挟まらない。何を見ても思い出す気配がない。まるで他人の使っていた部屋を与えられたかのような居心地の悪さを感じている。

 

背中からベッドに倒れこんで舞い上がる匂いが。用意されていた洋服の細かな寸法が。部屋の中に何かが欠けているような物足りなさが。漠然と判然と胸の内に居座っている。それらが記憶がないことによる弊害だと言われてしまえばそこまでなのだけれど、得も言われぬような感覚が少女の胸の内に湧いていた。

 

「お父さん……んー、しっくりこない」

 

記憶喪失の少女は自身を助けてくれた大人の片割れ、黒縁眼鏡をかけた優しげな男性を頭に浮かべて父と呼んでみるが、やはりしくりとも腑に落ちない。風呂を用意してもらって入った時に、鏡の前でも似てる箇所が無いなと他人事のような感想が出たくらいには繋がりを感じられなかった。少女の中にまた疑念が湧く。

 

仰向けのまま片手で髪を梳くと、数本の明るい茶髪が絡みついて指を止めた。こすり合わせると摩擦できしきしと擦れる感触が返ってくる。毛先の割れた明るい色の茶髪は確かに自分のものだとわかる。

 

けれど、ここに帰(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)与えられたお風呂に服に食事に場所に、綺麗で清潔なソレらが自分の物だと呑み込めないのはなぜなのだろうか。

 

「……やめやめ、思い出せない事を考えても意味ないし」

 

そうやって声を出してみても違和感を呑み込む効能は無かった。記憶の戻る様子も同じく。疲労していた体へ補給と洗浄を十分に行っても少女は何も知らずにいる。何度目かの自問を繰り返し、成果のない思考を打ち切る為に少女は部屋の中を回ろうと考えた。

 

まずはベッド。背の下に有るのはふかふかとして気持ちの良い清潔な寝床だ。視界に映る枕カバーにはクリーム色の小太りの犬が描かれているが生憎と名前が浮かんでこない。左右を囲む柵には接触防止のためか中程度のぬいぐるみが座るように並んでいる。犬やら猫やらといった動物モチーフのキャラ物が多い。

 

ベッドを降りると、すぐ近くのドレッサーへと足を向ける。シルバーの縁取りがされたやや楕円の三面鏡の前には色取り取りの化粧品とアクセサリ。収納を開くとそこにもいくつかの種類が仕舞われている。台の上には一軍が出されているのだろう。利用する際に使う座椅子はキラキラと豪華で可愛らしい装飾がされている。趣味ではないな。と少女は思った。

 

次に鏡に反射したロッカークローゼットへ振り返った。上部のクローゼットにはふわふわとした寝間着やカーディガンなどの上着、ワンピースや一体型のドレスが下っている。そして下部のロッカーには現在少女が着用している普段着や下着などの生活衣等がきちりと畳まれて入っていた。パッと見て桃色や黄色系の服が多いように感じる。

 

広げた服を仕舞い直して少女はロッカーの隣、ベッドある壁の逆側に置かれた本棚を見ることにした。中身は文庫小説よりもコミックの割合が多かった。青っぽい灰色の背表紙はみたところ同じレーベルのものばかりだがやはり少女は思い出せない。見覚えが無いわけではないがどの題名にもピンと来なかった。

 

「ん……?」

 

一通り軽く部屋を見て少女は首を僅かに傾げる。また、同じ感覚があった。部(・)屋(・)の(・)中(・)に(・)何(・)か(・)が(・)欠(・)け(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)物(・)足(・)り(・)な(・)さ(・)が今一度。何が足りないのだろうかと、少女が部屋を見た記憶と自身の中にある常識を照らし合わせると「あっ」と一つ声を出して思い至った

 

棚には書籍。ロッカークローゼットには衣服。ドレッサーには装飾用品。ベッドには寝具とぬいぐるみ達。くるりと首だけを回して部屋を見る。

 

「……やっぱり無い。どこにも」

 

ぽそ。誰に聞かせるわけでもない独り言は少女の思考を補強する為だけのもの。音程だけの言葉にすらならない声量だが確信へ届くには充分だった。

 

「この部屋、筆記用具が一つも無い……?」

 

記憶の欠落している少女はしかし、この世界がどうなっているかを常識として持つことが出来ている。現世がゾンビの蔓延る世界であると理解している。だから部屋の中に筆記具が無くてもおかしいとは思わない。逃げるうえで、生き延びるうえで、それらを重荷として捨てることも燃料代わりに燃やすこともあるだろう。

 

けれど、それはこの部屋にある娯楽品より先に焚べるものなのか?可愛らしいだけの衣服やぬいぐるみ、子供用の化粧品を残してまで?他人へ情報を伝えるのに非常に優れる紙媒体を捨てる必要があるのか?……そんなわけはない。

 

お風呂も食事も寝床も衣服も、高いクオリティでそれらを維持しながら書くという手段だけを捨てる筈がない。ならばこの部屋にそれらがないのは別の理由である。そこまで思い付いた少女はその理由を考える。専用の個室の中に筆記具だけがない理由。

 

「ここから外へ出さないように、なんて」

 

冗談っぽく最後につけた言葉尻が震えていた。なんとなく分かってしまったからだ。この思い付きが正解からそう遠くないということが。少女は脳裏に走った思い付きにたまらなくなってベッドの上へ飛びこみ枕を高く持ち上げた。それが恐怖への対処に振り回そうとしたからなのか、恐れを理由に頭から被ろうとしたのかはわからなかった。

 

なぜなら少女の頭上から一冊の本がポン。とベッドの上に落ちてきたからだ。動きを止めた少女が上を見上げると天井のドレープ布がたわみ揺れている。振り上げた枕が布に当たり、内側にあった本が落ちてきたようだった。

 

少女は落ちてきたその本を何の気なしに取り上げると僅かに本のカバーが浮いていることに気づいた。そのままぺらりとカバーを外しそれを裏返すと、そこには光沢のある黒で文字が書かれている。

 

 

もしもあなたがこれを見ていて、あの眼鏡の男に保護されているなら今すぐ逃げ出す準備をして。あの男は人殺しの詐欺師だから。私も最初は騙されててここに捕まった。知らなかったとはいえお父さんの仇に縋ってた私自身が許せない。幼馴染が外に連れ出してくれたから決心がついた。私はここから逃げる。あいつが油断してる夜の間に逃げ出して見せる。もし私の後に捕まった人がいるならすぐにここから逃げてほしい。出来ればそんな子がいないことを祈って。    指原(さしはら) 加奈(かな)

 

 

鬼気迫る。という言葉を少女は思い浮かべた。手の内にあるその文字はそれだけの熱を発しているように見えていた。無意識に息を整えようとしたところで、何かが酸化したようなツンと鼻の頭をつつくようなにおいが僅かに届く。

 

「……ライナーで書いたんだ。この加奈って子」

 

少女は感心した様子でそう呟く。少女はこの置手紙を既に疑っていなかった。自身を助けて色々と施したあの父を名乗る男性よりも、己の中の違和感と顔も知らぬ相手の文字を信じることにしていた。謎の高揚感と自信に揺り動かされた少女は、ひと先ずは外の様子を伺おうかと部屋の窓に近づいていく。外の様子を見るためだった。

 

はめ殺し窓に目を向けた少女はいつの間にか窓に金属製のシャッターが下りていることに気が付いた。そこでようやく男性から受けたこの家の説明を思い出す。『安心してね、夜の間は窓や玄関は自動で塞がれて家の外の様子は機械で全部監視出来るようになってるんだ』という言葉を。

 

少女は小さく舌を打ち鳴らして考える。部屋にあるもので窓は越えられない。玄関に向かおうにもその道中に男性がいる。全力疾走も出来ない今の状態では無理矢理突破も出来ないだろう。頭の中に経路を浮かべてその悉くが失敗した。自力で逃げ出す事が不可能だ。と少女が結論を出したのはそれから五分後のことだった。

 

 

 

 

/////

 

 

湊倉庫にて単独行動を選んだフジオが、少女と男性の待つ家へ帰ってきて玄関前で発信器を三度押した。中から鍵の開場される音が鳴るのを聞いて扉へと手をかけた。

 

ギィィ。重たい音を鳴らしながらフジオは玄関扉を引き開けた。周囲を確認してから右手のアイスピックを仕舞うと玄関をくぐってから扉を閉める。

 

「おかえりなさいフジオさん。少し遅かったようですが、ご無事で何よりです」

「少しやることがあったからな。あの女の、あー……嬢ちゃんの様子はどうだ?」

 

中に入ると玄関とつながる廊下の少し先から男性が現れてフジオに声をかけてきた。律儀なことだと思いながらも言葉を返す。

 

「そうですね。記憶は戻りませんが大きな問題はなさそうです。作っていた昼ご飯をぺろりと食べていましたよ

「そうか。そいつは良(よ)……かねぇな。親の記憶も無いってのはかなり面倒じゃないか?」

「いいえ、まさか。彼女が元気でいてくれるだけで幸せですよ」

 

にっこり。としか言いようのない笑顔を浮かべて男性はそう答えた。その表情に嘘や欺瞞の気配は全く感じられない。実際に本気でそう思っているのだろう。「覚えていないほうが都合が良い」という言葉を隠しているだけで。ただフジオはそれを追求したりしない。ここで突いて藪蛇になっては面倒だからだ。

 

「そうかい。まぁ元気そうならちょうどいいな」

「丁度いい、とは、何かありましたか?」

「そろそろここを出る。多分明後日にはな」

 

フジオは外用の装備やリュックを外して床に纏めて置くと、すぐ取り外せる衣類などを洗濯籠に投げてからそう言った。

 

「……それはまた随分と急ですね_?」

「むしろ長居しすぎた気さえするな。初日に船をかっぱらって海に出るつもりだったし」

「そういえば、確かそれでアレに襲われてたんでしたね」

「ああ、さすがに変異種が群れてるのは予想外だった」

 

フジオは男性との出会いを思い出す。海へ出て目的地を目指すために港に立ち寄ろうと自転車を走らせていると、突然倉庫のほうから七匹ものディッパーが出て来たのだ。アレは生きた心地がしなかったとはフジオの談である。実際そこに男性があらわれて拠点付近まで案内しなければフジオは死んでいた可能性が高かった。

 

「まぁ、こちらとしてはそのおかげでフジオさんと知り合えて、あの子とも会えたので良い縁だったと思っていますよ。お礼してもし足りないくらいですから」

「そうか?ならコレにある機能を追加してほしいんだが」

 

リュックから探索で見つけた使えそうなものを取り出していたフジオが、男性へポンと何かを手渡した。見ればそれは埃に塗れて画面の薄汚れたスマートフォンだった。受け取った男性が手癖のようにボタンを押すと画面が点いて四桁のPWを求める画面になる。

 

「コレは……フジオさんスマホを持ってたんですね」

「いや、今日見つけてとってきた。充電したら動いたんで初期化してな」

「ああだからこんなに汚れ……ええと、それで機能の追加とは?流石にOSを自作などは難しいんですが」

「いや、欲しいのは周囲に電波を出す機能だ。アレの対策には必須だろう?」

 

フジオの言葉に男性は成程と合点がいった。男性はこの拠点のおかげでディッパーの脅威とは無縁の生活をしているが、フジオはこれからここを出るつもりなのだ。ならば明確にディッパー対策になると分かっている手段くらいは用意するのが普通である。男性はそれくらいなら一日あれば追加できると言ってフジオからスマホを受け取った。フジオは設定しなおしたPWと礼を伝えると、最後に少女への土産だと言ってリュックの底から何かを取り出した。

 

「ラジコンカーと……これはノートや色鉛筆、ですか」

「ラジコンのほうは充電式だからすぐには動かせんが、ソレなら暇つぶしには良いだろう?何か描けば記憶も戻るかもしれないしな」

「……そうですね。では充電はココのコンセントからどうぞ。こっちは後であの子に渡しておきますよ」

 

男性はそういうとフジオからスマホと色鉛筆。ノートを受け取って廊下のほうへそそくさと消えていった。フジオは突然立ち去った男性を多少訝しみながらも、スマホを受け取ってくれたこととラジコンの充電を許してくれたことに安堵する。小細工に必要な条件は大体揃った。あとはどうやってバレずに計画を持ち掛けるかだ。フジオはそう考えながらラジコンと操作リモコンの充電を開始した。

 

 

 

 

 

Tips

 

少女の記憶に関して。

 

家族について。両親ともども顔や名前、性格も覚えていない。兄弟についても不明。(いない)

 

自分について。名前や経歴が思い出せない。指原(さしはら)加奈(かな)は自分ではないという感覚がある。(合っていればそれが正解だとわかる感じ)

 

知識について。読み書き発話は問題ない。地理は若干ふわふわ。ゾンビについても詳しくないが危険性は知っている。(英語の会話と読み書きも可能)

 

もたつきながらも狙って撃てる程度に銃の撃ち方を知っている。




やべえモブ男性をころしたいだけだったのに省略が下手すぎて文章が間延びしてる
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