追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
「前回の依頼では大活躍でしたね」
いつも辛口なジョンソンにしては珍しく、今日は開口一番に誉め言葉から入った。
「オークの被害に苦しめられていた街から感謝状が届いていますよ。読みますか?」
「いらんから捨ててくれでござる」
「捨てちゃ駄目ですって! 私、読みたいです!」
ヘイザが面倒くさそうに受け取り拒否すると、キクコが抗議の声をあげた。幽霊故に生きた人間より遥かに楽しみの少ないキクコにとって、冒険者としての活躍で感謝されるというのは金品に勝る対価なのだ。
「あ、じゃあ感謝状は俺が受け取っておきます」
キクコは手紙を受け取れないので、代わりにジャックがジョンソンから感謝状を受け取る。
「読み終わった後、くれぐれもギルドのゴミ箱にそのまま捨てたりしないでくださいよ。角が立ちますから」
「そんなことしませんって。ご主人じゃあるまいし」
ヘイザは反論しなかった。似たようなことをした覚えがあったからである。
「で、今日はどんな依頼を受けられていきますか?」
「いつも通り一番報酬が高いやつを紹介してくれでござる」
「それでしたら、これになりますね」
そう言ってジョンソンが依頼書を差し出す。どれどれと内容を確認したヘイザは、そのあんまりな内容に目を見開いた。
『ペットの犬・猿・雉を戦力にしたいので手伝ってほしい』
酒を飲み過ぎて幻覚でも見ているのかと、ヘイザは目を擦ってみるが文面はなにも変わらない。
「あの、ご主人。文字の勉強が足りてないからっすかね。犬・猿・雉がどうのって書いてあるように見えるんですけど、なんかの慣用表現っすよね?」
「いや、本当に犬・猿・雉を戦力にしたいから手伝えと書いてあるでござる」
「犬・猿・雉? え、なんで?」
ヘイザ達三人は揃ってクエスチョンマークを浮かべた。
ただの子供の悪ふざけの依頼かとも思ったが、それにしては報酬が高額すぎる。そこでヘイザは依頼人の名前を確認して仰天した。
「コンラート・グラシャラボラス――――グラシャラボラスだと? まさかこやつ……」
「ええ、お察しの通り聖七十二名家の一つ、グラシャラボラス伯爵家の御曹司にして、未だご存命の七雄の片割れドン・ルチアーノの息子です」
お家断絶にならず存続している聖七十二名家にも、過去の内乱で太祖女帝に最初から従った譜代と外様があるが、グラシャラボラス伯爵家は聖七十二名家であり譜代でもあるという名家中の名家だ。
「ど、どうするんですかヘイさん。厄介ごとの匂いがプンプンしますけど」
「金払いがいいなら、なんでもいいでござるよ」
不真面目な冒険者としては報酬が高額の依頼に釣られない訳にはいかない。ヘイザはこの依頼を受ける事にした。
城と見間違わんばかりの絢爛なグラシャラボラス邸に着くと、育ちの良さそうな少年が薔薇が咲くような笑顔で一同を出迎えた。
「やあ冒険者諸君! 僕はコンラート・グラシャラボラス! 英雄ドン・ルチアーノの息子! コンラート・グラシャラボラスさ!」
まるで舞台役者のような大仰な挨拶を自然にやってみせるコンラート。貴族のお坊ちゃんなのはアンリと同じだが、アンリの方がボンボンのドラ息子なら、こちらはお花畑の国の王子様という感じだった。
「は、初めまして、キクコです。こちらは一党のリーダーのヘイさんと、その奴隷のジャックさんです」
「ご丁寧にどうもレディ。そして彼らが僕の配下である頼もしい戦友たち。犬のポチ、猿のウッキー、雉のジキーさ」
「グルルルル……」
「キー、きーっ!」
「キシャーー!」
犬・猿・雉が其々鳴き声で応える。
いやよく見ないでも犬は狼の魔物のガルムで、猿はゴリラの魔物のマッドエイプで、雉は鳥の魔物のサンダーバードだった。
「いやいやいやいや、犬猿雉じゃなくて全部魔物じゃないか! もしかしてテイマーなんですか?」
「いいや! 冒険者になるために買ったのさ!」
ジャックの問いにコンラートは軽い調子で返した。
魔物をテイムして従える
「あの確か魔物ってテイムした本人に従うよう調教するのも大変だけど、テイムした本人以外にも従うよう調教するのは更に大変で、とんでもなく値が張るって聞いたことあるんですよ。そうですよねヘイさん?」
「ああ。人間の奴隷なんかより遥かに高級品でござるな」
「その超高級品をどうやって買ったんですか?」
キクコの質問にちっちっちっとメトロノームのような正確なリズムで、コンラートは左右に指先を揺らした。
「高いっていうのは庶民から見た話だろ? グラシャラボラス伯爵家は聖七十二名家に名を連ね、過去の内乱では太祖女帝陛下にいの一番に従った譜代貴族。そしてなにより僕の父ドン・ルチアーノは一級冒険者にして新大陸一番の大商人! 三体の魔物を買うくらい、僕のお小遣いで余裕だよ!」
恐らくは事実だろう。
「ちょっと疑問なんですけど七雄って、ハルノ・クリアスカバードと独立戦争で帝国と戦った人ですよね? そんな人がどうして帝国で貴族になってるんですか?」
「…………レディ。依頼者の立場でこう言うのもなんだけど、もうちょっと最近の出来事に興味をもったほうがいいんじゃないかな?」
キクコの無知っぷりに、コンラートは呆れたように言った。
「いいかい? 五年前の独立戦争はハルノ・クリアスカバードの公開処刑で帝国の勝利に終わった。でも帝国はそのかわり大陸の自治を認め、自治領誕生の恩赦でハルノ・クリアスカバードに付き従った者の恩赦を行ったのさ」
「要するに帝国は一部自治権をくれてやるかわりに、反乱軍への勝利と反乱軍のリーダーの首を買い取ったんでござるよ」
コンラートの説明に、ヘイザが意地悪く補足する。
「む。そういう言い方はよくないんじゃないかな! ハルノ・クリアスカバードは反乱軍の敗北の未来を悟り、自分の命を懸けた自己犠牲で、帝国から自治権を勝ち取ったんだよ!」
「それで恩赦が出たのは分かりましたけど、なんでドン・ルチアーノが貴族に?」
「それは細かく話すと長くなるから概要だけを掻い摘んで説明すると、ハルノ・クリアスカバード亡き後、父上は英雄としての名声と帝国とのコネを使って商売を拡大して財産を大いに増やしてね! 遂には本国のグラシャラボラス伯爵家から嫁をとって貴族に列するまでになったのさ!」
結婚する相手にグラシャラボラス家を選んだのは資産運用に大失敗してとんでもない借金があったからだろうけどね、とコンラートは小声で言った。
「と、ともかく! これで理解できたかい? 父上は帝国と新大陸の友好の象徴にして、この世界に平和を齎した偉大な英雄なのさ!」
「ちょっと待ってください。独立戦争が終わったのが五年前で、ドン・ルチアーノはそれから結婚したんですよね。だとするとコンラートさんは……」
キクコはコンラートをまじまじと見る。物凄く背が高い早熟な子供だとしたらギリギリ十歳で通じなくもないが、流石に五歳児には見えなかった。
「…………察しの通り父とは血が繋がっていない。グラシャラボラス家に婿養子に入った実の父は、負債をなんとかするために更に無茶な資産運用に手を出して失敗して、絶望して首を吊ったよ」
実の父について語るコンラートの表情は、寂しさと軽蔑と悲しみが入り混じったなんとも複雑なものだった。きっと簡単には言い尽くせないほど色々あったのだろう。ヘイザは敢えて深入りしなかった。
「だが! 例え血が繋がっていなかろうと、僕は偉大な父上の子であると誇りに思っている! だから僕もそんな父上に誇られるような息子になりたいのさ!鬼が住まうという、鬼ヶ島の鬼を討伐することでね!」
「鬼ヶ島とは、また大きく出たでござるな。あれは一級冒険者が出張るような案件でござるよ」
鬼ヶ島というのは魔物の中でもトップクラスに危険な、鬼が根城にした島の総称である。鬼は人並みの知能を持っていて、島一つを自分のものにして要塞化するという習性があるのだ。
「だからこそさ! そんな鬼ヶ島を僕が討ち滅ぼしたなら、きっと僕は父上の息子として恥ずかしくない存在になれる! だから――――」
「犬、猿、雉をもっと鍛えて戦力にしてくれっていうんでござろう? 任せてくれでござるよ!」
ヘイザは自信満々に胸板をどんと叩くと、安請け合いした。
「(お、おい止めねえでいいのかよご主人!)」
「(別に英雄願望の強い英雄の息子が鬼の住処に特攻して死のうと拙者には関係ないでござるし)」
要するにアンリの時と同じ対応だった。だがヘイザが同じ対応をしたなら、当然キクコもあの時と同じ対応をする。
「で、でもほっておけません! コンラートさん、幾らなんでもド素人一人と魔物三体で鬼ヶ島攻略は無謀です! 考え直しましょうよ!」
「いいや、やってみせる! 例えそれで破れて死ぬとしても、それが勇敢なる死なら僕は本望だ!」
コンラートはアンリに比べれば能力もあって、勇敢さも備えていた。だからこそアンリより強情で愚かでもあった。キクコの有難い助言をつっぱねてしまう。
「ほらほら。本人もこう言っているでござるし」
「う……」
説得しても通じない以上、キクコにはどうしようもない。
こうして犬・猿・雉とついでにコンラートへの戦闘指導が始まった。
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