追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~   作:RYUZEN(孔明)

53 / 60
第53話  ぐちゃぐちゃの顔

 酒場から出たヘイザはアルコールの臭いを漂わせ、顔を赤くしながら路地を歩いていた。

 

「ふぅ~~飲んだ飲んだでござる」

 

 ジャックへの土産の焼き鳥を包んだ袋を揺らしながら歩いていると、ボロを着た少女がおずおずと声をかけてきた。アイラである。

 

「あの、まってください。ぼうけんしゃさま」

 

「嫌でござる~。拙者はこれから緋桜のところへ行って、耳掃除してもらうんでござる~~~。小娘なんてお呼びじゃねえでござるよ~~~~」

 

 アイラに対してしっしっと心底鬱陶しそうに追い払う仕草をするヘイザ。

 

「わたしのいえに、おかねがとどきました。おかあさんが、まやくをかうのに、はらったぶんくらいだとおもいます」

 

「そりゃ不思議なことがあったもんでござるなぁ」

 

 無論それはヘイザが売人達のアジトにあった金庫から略奪してきた金である。金に貴賤なしというのはヘイザの考えだが、クスリで稼いだ金は別だ。幾ら不真面目を信条としていても、薄汚い金を懐に入れるつもりはなかったので、代わりに顧客リストを調べ、その顧客たちの所に適当にばら撒いてきたのだ。

 そのばら撒いた金で人生をリスタートするか、或いはまたしてもクスリを買うために浪費して再び破滅するかは知ったことではない。ヘイザの管轄外である。

 

「……やくそくします。いつか、なんじゅうばいにして、かえします。ありがとう、ございました」

 

 アイラはたどたどしい口調で、深々と頭を下げた。

 

「知らんな。子供はさっさと家へ帰れ。大変なのはこれからでござろう」

 

「たいへんだけど、がんばります! このおかねで、おいしゃさまにみてもらって、おかあさんをなおして、また、おかあさんに、えがおになってもらいます!」

 

「……また母親か。気に入らん」

 

 ヘイザの全身から怒気が放たれた。突然怒りの感情を向けられたアイラは、困惑しきっていた。どうして怒りを向けられたかまったく分からない純真さが余計にヘイザを苛立たせる。

 

「え……なんで、ですか?」

 

「馬鹿が。一番辛いのはお前だろうに。四歳児なら、自分を助けてくれの一言くらい言ってみせないか」

 

 そう、どうか自分を助けてくれと子供らしく泣きわめいていたならば、ヘイザも不真面目に生きるという信条を一時といえど捨てずに済んだのだ。お優しいキクコに乞われて渋々ながら手伝うという風な形で決着できていただろう。

 

「で……でも……おねえちゃんが、おかあさんを、おねがいって。だから……わたしが、がんばらないと……」

 

 どうやらアイラには姉がいたらしい。きっとアイラと同じような少女だったのだろう。

 

「真面目に頑張っても、報われるわけではない。お前も、もっと不真面目に生きてみろ。この世に無償で手を差し伸べてくれるお人よしはそうそういないが、有償で手を差し伸べてくれる連中は冒険者ギルドに幾らでもいる。五級以上の冒険者に、人生相談の依頼でも出すのだな」

 

 そう言うとヘイザは、アイラの頭を撫でてやった。

 ヘイザは父親になったことはないが、父親にされた感触を思い出しながら、安心させるように撫でた。

 

「母親を幸せにするのは構わんが、お前自身も幸せになることだ。ならなければ許さんぞ」

 

「……はい。『わたしを』たすけてくれて、ありがとうございました!」

 

 ヘイザは漸く怒りを引っ込める。

 他の誰でもなく”自分”が救われた安堵でぐちゃぐちゃになった笑顔、この顔を見るためにらしくないことをしたのだ。

 その様子を物陰で伺う影が一つ。現場の様子に疑念を抱き独自に捜査をしていたノーマンだった。

 

「ふぅ。やれやれ、耳垢が溜まってたせいで、折角、盗み聞きしたのに何も聞こえなかった。私としたことが、なんたるミスだ」

 

 ノーマンはわざとらしく言うと、ここで見たことは全て忘れて踵を返す。

 

「私も娼婦に耳掃除でもしてもらおうかな」

 

 そうしてノーマンも夜の街へ消えていった。

 二人の売人の殺害が、マフィア同士の抗争であると決着したのはその翌日のことであった。

 

 

 

 その頃、ジャックとキクコとルサルカの三人はペスカトーレの宿屋でヘイザの帰りを待っていた。

 奇妙な沈黙の中、ジャックが口を開く。

 

「結局のところ、ご主人ってなんなんだろうな」

 

「緋桜さんの良い人で、実力はあるけど不真面目なちゃらんぽらん」

 

 キクコが間髪入れずに答える。

 ジャック自身、最初はそう思っていた。だが、

 

「だったよなぁ。なのにたまに妙に親切っていうか真面目になる時があるし、どういう人なんだろ?」

 

 それだけで片づけるには、ヘイザには明らかな謎の気配があった。ドン・ルチアーノとの交渉の時もそうだったが、今回の依頼では特にそうだった。

 

「ふふふふ。そんな二人のために私が面白い依頼をとってきたよ」

 

 そこへルサルカが妖しく微笑みながら冒険者ギルドの依頼書を見せる。

 

「面白い依頼?」

 

「なんだそりゃ」

 

 キクコとジャックの疑念と興味が入り混じった視線に、ルサルカは勿体ぶるように言った。

 

「それはだね――――とある護衛依頼さ」

 

 ジャックとキクコは互いに目を合わせると、コクリと頷きあう。

 ヘイザ・アッシュブレードは何者なのか知りたい。それはルサルカだけではなくジャックとキクコも同じ気持ちだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。