追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~   作:RYUZEN(孔明)

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第61話  黒武者の復活

 新大陸某所。

 そこに統一された軍服を纏った者たちが集まっていた。彼らの目は漆黒の南蛮胴と面頬をした武者に向けられている。黒武者は立ち上がると厳かに宣言する。

 

「――――時はきた」

 

 武者の短い一言に、軍服を纏った兵たちは歓喜の声をあげた。

 

「ああ。他の七雄共の裏切りにより、ハルノ・クリアスカバードが刑場の露と消えて五年半! ここまで長い道のりだった! だが漸くこれだけの手勢と、その武器が揃った! 今こそ我らが将の無念を晴らす時!」

 

 黒武者に続いて言い放ったのは、鷹のように鋭い眼光の中年男性だった。普通の中年のような体の弛みとは無縁の引き締まった体つきと、軍服にあまりにも着慣れた風格が、彼が元軍属であることを如実に示していた。

 

「そうだ……最も悔しい思いをされたであろう、我らが将のためにも、我らが代わってその意思を継がなければならない。それはなにか?」

 

『帝国滅殺ッ! 大陸独立ッ!』

 

「そうだ。アダムズ市で殺された麻薬の売人はアスフォデルス麻薬を売っていた! つまりそれは帝国が再びこの新大陸を、麻薬で汚染しようとしたなによりもの証拠だ!!」

 

 そう語る黒武者の姿を人々が見れば仰天することだろう。

 なにせその姿は五年前の独立戦争の最後に死亡したとされている七雄サー・クベーラその人だったのだから。

 

「各地に檄文を発せ!! まずは全軍をもってアダムズ市を帝国より『解放』する! さすればサー・クベーラの復活を信じぬ者たちもこぞって集ってこよう!」

 

 兵たちの熱狂の中、サー・クベーラの腹心の一人として知られた男、ディミトリ・ロス中尉はボソッと呟いた。

 

「ま、本当のところ帝国とその売人が繋がっているかは知らんがね。事実などどうでもいいのだ。ただ”勢い”さえあれば、それでよい。一度、火がつけばあとは自然に燃え上がるまでよ」

 

 ロス中尉の鷹の目は新大陸のアダムズ市を射抜いていた。

 

 

 

 ノックもせずに襖が乱暴に開かれると、ルサルカが嬉しそうな顔で入ってきた。

 

「やあヘイザ! 待ちに待った時がきたよ!」

 

「……ルサルカ。ここをどこだと思っている?」

 

 半裸のヘイザが眉間に青筋をたてながら凄んだ。だがルサルカはなにも気にした様子もなく答えた。

 

「恋敵の家」

 

 そう、ここは緋桜の家で、ヘイザは彼女とお楽しみを始める正にその時だったのである。

 

「わっちは気にしないでありんすよ。ヘイさんに大事な話があったんでありんしょう」

 

「へぇ。君が緋桜か」

 

 着物を直しながら言う緋桜と、ルサルカの視線が合う。

 

「なるほど、美人だね。それに女として生まれて遊女になったせいで雲散してしまっているけど、男として生まれて覇を志していれば、大陸の覇者にすらなれるほどの覇気の残滓を感じる」

 

「大げさな評価でありんす。わっちは今が愛しい一人の女でありんすよ」

 

「ふーん。どうやら好きになった人は同じでも、好きになったところは正反対みたいだね、僕たち」

 

「……で、こんなところまで来るとは、大した用事なのだろうな? 何があった?」

 

 これ以上、緋桜の家の中でルサルカに好き勝手やらせるのも癪だったヘイザは、さっさと用件を話させることにした。

 

「ゴドリック・マーシャルと共に反乱軍の『双璧』と謳われた騎士にして、その親友であるとされるサー・クベーラが決起した」

 

「な、に?」

 

「いや……親友だったというべきかな? 復活したクベーラはルチアーノ共々ゴドリックのことも裏切者として罵る檄文を発しているみたいだからね」

 

「クベーラが復活するなどありえん!」

 

「おや? 珍しく声を荒げたね。なにか根拠があるのかい?」

 

「…………サー・クベーラはハルノ・クリアスカバードの首を差し出しての手打ちに、たった一人で強行に反対し、その場で降伏派を斬り殺し、挙句の果てはハルノ・クリアスカバードの処刑場に乱入して、ここでも数百人を斬った後、ハルノ・クリアスカバードを攫うも、追ってきたゴドリックによって斬り殺され死体は滝壺へ落ちた……この大陸の人間なら、誰でも知っているようなことでござるよ」

 

 それは独立戦争における最終章にして最も華々しい英雄譚の1ページだった。

 この最後の伝説によってサー・クベーラは七雄の中では特に強烈な人気を持っている。勿論、その行いを蛮行と称して嫌う者も多いが、帝国はまだしも新大陸においては大きな口で批判することはできない。それを聞いた彼の熱烈な支持者がなにをするか分からないからだ。

 

「ふふふふ。有り得ない根拠としては薄弱じゃないかい? だって死んだっていうのはゴドリックの証言だけで、死体が見つかったわけじゃないんだ。だったらゴドリックが親友に情けをかけて逃がしたとか、仕損じていたとか幾らでも可能性はあるじゃないか」

 

「その手の”生存説”なんてちょいと有名な人間には、お決まりのようについてくるものだ。そしてそれが本当だったことは、殆どない」

 

 ヘイザは断固たる口調で言い切った。ルサルカは「それならそれでいいさ」と言うと、

 

「で、そのクベーラはこのアダムズ市を解放するといって手勢を率いて進軍中らしい。冒険者ギルドも市庁舎も大騒ぎさ。君は、どうするんだいヘイザ?」

 

「…………付き合いきれんでござる。拙者は寝る」

 

 期待するようなルサルカから逃げるように、ヘイザは布団にくるまってしまった。

 ルサルカはそれ以上なにか言うことはなく、その場は大人しく退散していった。

 

 

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