追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヘイザ率いる紅の足音と自警団の混成軍――――というには小規模な集団が白旗を掲げながら、サー・クベーラを騙る者たちの軍集団に近づくと、直ぐに兵隊に呼び止められた。
「止まれ! 何者だ?」
槍を向けながら兵たちが問いかけてくる。ヘイザはそんな兵士に一切敵意を見せず、抑えきれない高揚感を滲ませるように答えた。
「それがしは嘗てクベーラ将軍の下で独立戦争に参加していた者です。アダムズ市よりクベーラ将軍の軍に加わりたいという30名を取りまとめて、馳せ参じました。どうか将軍に会わせて頂きたいっ」
「むっ、そうか。直ぐに将軍に確認を――――」
「その必要はない」
「!」
そう言って現れたのは鷹のような眼光を持つ男、ロス中尉だった。その背後には軍団の長である黒装束もいた。サー・クベーラである。
「ふふふふ。偽投降の策かね。その手にはのらんよ」
ロス中尉が手をあげると、一斉に兵士たちが一糸乱れぬ動きでヘイザ達を完全に包囲する。
「くそっ! ばれてたってのかよ!」
「当然だ。私の二番煎じのような策が……我らに通じると思ったら大間違いだ」
歯がみして悔しがるジャックに、サー・クベーラは憤慨したように言った。
独立戦争中、サー・クベーラは今回のような偽装投降による奇襲作戦で、自軍の数十倍の敵を見事に打ち破ったことがある。猿真似は通じないと言いたいのだろう。
「将軍の薫陶を受けた私を侮るなよ。アダムズ市内の混乱も、手の者の情報で把握済みだ」
そうしてロス中尉が冷静に告げる。完全に手の内は見透かされ、数戦の敵に包囲され逃げ場はなし。
「ふふ。絶体絶命だね♪」
ルサルカが笑顔で自分たちの現状を的確に言い表した。
「なんで楽しそうなんですか!」
「だって英雄的には一番美味しいシチュだからね。ねえヘイザ?」
ルサルカが熱のこもった視線をヘイザに向ける。ジャックとキクコも一縷の望みをかけてヘイザを見た。
ルサルカの期待に応えるのは癪ではあったが、こうなることも想定していたヘイザは落ち着いたままサー・クベーラに話しかけた。
「待て、話し合おう。何事も暴力で解決というのはよくない。ラブ&ピースでござるよ」
「聞く耳もたん!」
「まあ待て。お主らの戦術は見事、拙者も一本とられた。だが戦略的にはどうか? アダムズ市を陥落させれば、確かに反乱は盛り上がるかもしれん。だがそれで終わりでござる。本腰を入れてきた帝国と、その意を受けたリチャードによってお前たち反乱の首謀者は皆殺しにされて終わりでござる。無意味なことはやめろ」
「無意味だと? なにを根拠に――――」
「ハルノにはできなかったぞ? ならば誰にもできるはずがない。もう一度言う。馬鹿なことはやめろ」
そう言いながらもヘイザは勝算はゼロではないとも計算していた。
ロス中尉は勝算のない戦いをするほど愚かではない。彼が決起したということは、それなりに成功する目があるということだ。もっともその勝算というのは、数字にすれば精々1%といったところだろうが。
ヘイザとしては誠心誠意、説得しているつもりだったが、その口ぶりがサー・クベーラの逆鱗に触れたらしい。クベーラが激高したように刀を抜いた。
「貴様如きがハルノとクベーラを語るな! もういい全員、囲んで叩け! 皆殺しだ!」
「駄目か……ならば、うむ……皆が死ぬのは寝覚めが悪い……。やむをえんなぁ。ルサルカ、拙者とあのクベーラとロスにだけ声が聞こえるような、そういうサイレントの魔法はあるでござるか?」
「あるよ。でも条件が一つ、僕も聞かせてよ。聞きたいんだ」
本当は拒否したいがルサルカの協力がどうしようもないので渋々と頷いた。ルサルカが対象選択の防音魔法という地味に高度な技術を披露する。
そうしてヘイザはサー・クベーラの甲冑を纏った者と、クベーラの腹心に向けて声を低くして語り掛けた。
『お前たちは誰に対して武器を向けている? 命令だ、武器を下ろせ』
「命令、だと? 貴様……ふざけているのか?」
「私はクベーラ将軍の軍師! 私が命令に従う相手は、クベーラ将軍唯お一人!」
『まだ分からんのか?』
ヘイザの全身から上がるのは、黒属性であることを示す黒い魔力の奔流だった。
剣術だけで魔法の才能はない、そう自己申告していたとは思えないほど濃密なそれにサー・クベーラの鎧を纏う者もロス中尉も見覚えがあった。
「っ! その私と同じ、黒属性の魔力!?」
「まさかお前……いや、貴方は!?」
『そうだ』
ヘイザは嘗ての部下たちに、五年前のように語りかける。
『私がサー・クベーラだ』
その日、サー・クベーラが復活した。
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