追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
「お前が……貴方が……クベーラ将軍……?」
サー・クベーラの甲冑を纏った何者かが声を震わせながら言う。
本物のクベーラだったヘイザには、鎧の中身が誰なのか察しはついていた。嘗てサー・クベーラは自分と同じ黒魔法の素養と剣の天稟を持つ少女を、自分の弟子として引き取り育てたことのある。サー・クベーラの”中身”を任せるに、彼女以上の適任はいないだろう。
『そうだ』
クベーラらしい冷厳とした口調で言おうとしたが、相手が嘗ての愛弟子だと見透かしたせいで若干柔らかくなってしまった。
「……証拠は、ありますかな?」
半信半疑のロス中尉が探るように訊いてくる。
『私とお前たちしか知らないような過去を話せばいいか? それとも今、サー・クベーラを名乗っている面頬の中身について言い当ててやればいいか?』
「いや、それよりもっとはっきりとした証明法がある!」
ロス中尉が目配せすると、偽クベーラが頷いて前へ出た。
「貴方が本当に将軍というのならば、力を見せてみろ!」
なるほど野蛮だが明快な証明方法だった。
一般にサー・クベーラの素顔はハルノと七雄は知っていたと言われるが真実は違う。クベーラの正体を知るのは、リーダーのハルノと七雄ではリチャードとヴァシリッサの二人だけだ。腹心だったロス中尉や弟子や他の部下たちにも素顔を晒したことはない。
しかし素顔を知る三人がいなくても、クベーラはその本人証明に苦労したことは一度もない。何故なら誰にも真似できぬ強さを持っていたからだ。
『良いだろう。来い、”ウィステリア”』
「!」
弟子の名前を言うと、偽クベーラがビクッと傍目にも分かるほど肩を震わせた。
やはり正解だったらしい。ヘイザはするりと刀を抜いて、嘗ての弟子と相対した。
ルサルカの魔法でヘイザ達の会話が聞こえないため、ジャック達は完全に置いてけぼりを食らっていた。
「おい、さっきからご主人もあちらさんも固まっちまってるけど、どうなってんだよ?」
「ミス・ルサルカ。彼らの会話を私にも盗み聞きさせてもらっても?」
「だ~め」
一人だけヘイザたちの会話を聞いているルサルカは良い笑顔で、ノーマンの頼みを拒否する。
性に奔放なルサルカだが、一方で約束は守る義理堅さを持っていた。ヘイザが盗み聞きを許可したのは自分一人なのだから、その盗み聞いた内容を他言するつもりは一切なかった。
「………………」
そんなルサルカと、クベーラと対峙して話すヘイザとを見比べながらキクコはなにかを察したように黙り込んでいた。すると、
『ルサルカ。偽クベーラとロス中尉の声を一時的に全員に聞こえるようにしろ』
ヘイザがルサルカに言った。その声はルサルカの魔法によりジャック達の耳には届かず、彼女にだけ届いた。ルサルカは頷いて魔法を一部解除する。
ロス中尉は軽く声を出し、それが兵士たちに聞こえているのを確認してから、声を張り上げた。
「全軍、拝聴!!」
『はっ!』
ロス中尉が引き連れてきた兵士たちが一斉に姿勢を正し注目する。そしてロス中尉から引き継いだ偽クベーラが宣言した。
「これより私は、そこの男と一騎打ちを行う。双方一切の手だし無用! よいな?」
「こちらが勝てばクベーラ将軍はアダムズ市への進軍を再開する。そちらが勝てば我らはサー・クベーラの兜を抜いて立ち去る。文句は?」
ロス中尉の視線がヘイザ以外の者たちに向けられた。
奴隷のジャックや幽霊のキクコが返答に詰まっていると、代わりにノーマンが進み出て答える。
「文句も何も多勢に無勢の我々には都合がよすぎる条件だ。そちらこそいいのか?」
数千のクベーラの軍勢に対して、アダムズ市側の戦力は三十人である。しかも完全に包囲されているときていた。
これで勝算はある、だなんて言う者がいたら、それはただの誇大妄想家である。
「構わん。『サー・クベーラ』に負けはない。お前たちも構わんな?」
『はっ!』
クベーラの強さを誰よりも信じる兵士たちは、不平一つ言わずに同意した。
『ルサルカ。もう一度魔法を頼む。今度は……ロス中尉はいい』
「了解♪」
ヘイザの頼みにルサルカは対象選択防音魔法をかけて、ヘイザと偽クベーラの声だけを世界から隔離させた。
「――――――名前を、聞いても?」
偽クベーラが問いかけると、ヘイザは名乗った。
「ヘイザ・アッシュブレード、今はそう名乗っている」
「本名は?」
「………………」
ヘイザは答えなかった。その沈黙がそれが本名ではないと言外に伝えていた。
「教えてはくれないのですね」
「事情がある」
「そうですか。では改めて――――ヘイザ・アッシュブレード、貴方が”本物”なら、私に信じさせてみろ!」
こうして五年の時を経て、師弟の戦いが始まった。
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