追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
退却していく数千の軍団を見送り、自警団の中には安心して気が抜けたのか、その場ではたり込む者までいた。なにせついさっきまで血気盛んな数千人に取り囲まれて、いつ串刺しにされて殺されても不思議ではない状況だったのである。
しかし彼らのリーダーである自警団団長のノーマンには安心する余裕などなかった。なにせサー・クベーラという目に見えた爆弾をどうにか追い払ったのと同時に、別の不発弾を発見してしまったからだ。しかもその不発弾は追い払ったものよりも恐らく数倍破壊力があるときている。
「ふふふ。終わってみれば三十人程度の戦力で数千の反乱軍を追い払う大戦果じゃないか」
「ああ、大戦果だ。大戦果過ぎるとも言えるが」
ノーマンはジャックやキクコのように洞窟での冒険を知らない。だからヘイザの正体に確信を持った訳ではなかった。しかし反乱軍を率いていたサー・クベーラの正体が、本物ではなくその弟子だったことから、幾つかある推測の一つに真実を捕捉することに成功していた。
「………ヘイザ・アッシュブレード。今回の一件について私はどのように市長へ説明するべきだと思う?」
「三十人で突撃してダメ元で一騎打ちを挑んだらクベーラが乗ってきた! 勝った! 退いた! これでいいんじゃねぇでござるか?」
「まあ、嘘は言っていないな」
「あ、クベーラが偽物だったってことは、忘れてはいかんでござるよ」
「ただの偽物ではなく、その偽物がクベーラの弟子だったということが問題なのだがね」
「ま、そのあたりの塩梅は任すでござるよ。ただ一口に弟子といっても言い方は色々でござるよ」
「たとえば?」
「直々の指導を受けた愛弟子、かつて教えを受けた一人。どちらも同じ意味だが受ける印象は違うでござろう」
「確かにそうだな」
前者だとクベーラの正当なる継承者のように思えるが、後者だと単に教えを受けた無数の中の一人程度にしか思えない。
「で、どちらで報告する?」
「……折衷案で、クベーラの弟子を名乗る者だったと伝えよう。それでいいかな?」
「ああ。市長にへんな警戒感を抱かれるのも、へんな期待感を抱かれるのもどっちもごめんでござるからな」
「分かった」
ヘイザ・アッシュブレードに野心はない。
それが確認できたノーマンは、部下たちから遅れてようやく一息つくことができた。
決起に失敗したロス中尉だったが、その顔に悲壮感はない。あるのは圧倒的な歓喜だった。
「よもやクベーラ将軍が本当に生きておられたとは……! これほど嬉しいことが他にあろうか? いや、ない!」
ロス中尉はクベーラの腹心ではあるが狂信者の類ではない。サー・クベーラ生存説については半信半疑どころか疑い九割で、士気に関わるので大っぴらにそれを否定することこそしなかったが、内心では死んだだろうと諦めをつけていた。
それが本人に再会して、生きていることが分かったのである。決起に失敗したことなどお釣りがくるほどの吉報だった。
「でも生きておられたなら、どうして将軍は、我々のもとに戻ってはくださらなかったのでしょう?」
「……あのようなことがあったのだ。将軍は俗世が嫌になられて、過去を捨て去ろうとされたのやもしれん」
「過去を? それは私たちも、なのでしょうか?」
ウィステリアが涙を堪えるように目を伏せた。
「いいや。本当にすべてを捨てておられたなら、私たちをお助けにはきてくださらんさ。やはり今でもあの方と我々は心が繋がっているのだ。いずれ私たちのもとへ戻ってくださるやもしれぬ」
クベーラの忠臣であるロス中尉は、どうやら世間から身を隠しているらしい主君を無理やり表舞台に引っ張り出そうという気はなかった。しかし勝手に席を用意して、いつ帰還しても大丈夫なよう準備を整えておくつもりは満々である。
「――――この馬鹿どもが」
「誰だ!?」
頭上からかかった声に、ロス中尉が帝国産のマスケット銃を向ける。
「テメエらの無謀で幼稚な反乱計画にあいつを巻き込むんじゃねえよ」
「なっ! 貴様は……!」
「裏切り者のドン・ルチアーノ!?」
木の上に腰掛けていたのは、七雄の一人でロス中尉が裏切り者と憎む男の片割れだった。ルチアーノが指をパチンと鳴らすと、風の刃がロス中尉のマスケット銃を両断する。
他の兵士たちが銃口を向けようとするが、ロス中尉が脂汗を流しながら「やめろ!」と叫んで制止させた。
ロス中尉はドン・ルチアーノをリチャードと並ぶ裏切り者と嫌ってはいるが、侮ってはいない。七雄で特に計算高いルチアーノが単身で姿を現したことの意味をよく理解していた。
「俺が裏切り者ならお前らは阿呆者だろうがよ。貴重な兵力を無謀な計画で浪費しようとしやがって」
「無謀? 撤回しなさい! この決起に私たちがどれだけの時間と準備を――――」
「クベーラについてもそうだ。俺があいつをもう一度、立たせるための最善のタイミングを伺ってたのを台無しにしようとしやがって」
ウィステリアを無視するようにルチアーノが苛立ちを隠そうともせずに続けた。それでウィステリアもルチアーノへの怒りを引っ込める。なにせルチアーノの言いようはまるで、彼自身が帝国への反乱を企てているようであったからだ。
「貴様、何を言っている? お前は帝国についた売国奴の裏切り者だろう? 伯爵家の婿養子になって、富貴を謳歌しているのではなかったのか?」
「…………ああ、俺はあがったつもりだったが、そうじゃねえことに、あがってから気づいたんだよ」
ルチアーノはどんよりと曇った目で言った。
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