追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヘイザ達の帰還を一番歓喜して出迎えたのは、他ならぬフィリップス市長だった。市長は満面の笑みで新しいアダムズ市の英雄に称賛の美辞麗句を捲し立てる。
「よくやってくれましたノーマン! そして『紅の足音』の面々たち! 特に偽物だったとはいえ、あのクベーラの弟子を相手に一騎打ちで勝利とは凄いじゃないですか!」
「おう市長。30人で時間稼ぎどころか撃退してやったんだから、ボーナスは弾んでくれるんでござろうな?」
「前払いで大金貨100枚、成功報酬で300枚だったね。ではボーナスとして更に400枚を渡しましょう! よくやってくれました!」
いきなり報酬を求めてきたヘイザにも市長は嫌な顔一つしなかった。
大金貨八百枚は一見するととんでもない大金であるが、冒険者達を大動員するために用意していた予算はその数倍だったので、これでも大分安上がりで済んだ計算になるのである。
それにもし反乱によって街が陥落していたら、市長は全てを失っていたであろう事は間違いないので、ヘイザ達は正真正銘の救世主だった。
「よっしゃあ! 400オーバー緋桜でござるよ!」
「いや十分の一は僕がもらうから、ヘイザの取り分は720枚だよ」
「400ジャスト緋桜でござる!」
ルサルカの指摘を受け訂正するヘイザ。
ともあれこうして後に偽クベーラ決起事件と、あまりにもそのまんまな名前で呼ばれる事件は終息した。
新大陸の自治区でも中心州であるゼウス州、その州都に保安庁はある。
その長官室でゴドリックは、部下からの報告を受けていた。
「長官。アダムズ市の自警団団長からの報告によれば、サー・クベーラの正体は元弟子のウィステリアって女らしいですよ。長官の読みがピタリと当たりましたね」
「……彼が本気で反乱を起こしたなら、こんな程度では済まないよ」
親友であるクベーラの恐ろしさを誰よりも知るゴドリックが言った。
「それより未遂で終わったとはいえ、反乱を企てたウィステリアとロスの二人は懸賞金をかけて指名手配をかける。帝国の恩赦でハルノ以外の全ては罪を免除されているが、これはもう独立戦争とは別件だ」
「効果があればいいんですけどねぇ。未開拓地や、独立派の多い地方へ行かれたら今の保安官じゃ手が届きませんし」
部下の言う通り保安庁の権威が行き届き、街に相応の数の保安官が常駐しているのはゼウス州くらいだ。他の州ではゼウス州に主導権を奪われまいとして保安官の配備は限定的で、街の警備は市長直属の自警団が、その他は冒険者を頼りにしている。
そのせいで犯罪捜査一つにしても、州を移動されると一気に難しくなるのが現状だった。縄張りに囚われない冒険者が新大陸中で頼りにされる所以でもある。
「そのためにも保安官の規模をどんどん拡大していかなければならない。冒険者とは謂わば民営化された警察と軍隊だ。いずれは冒険者から、全ての仕事を奪い取れるようにならなければならない」
新大陸の自治州を一つの連邦国家として纏め上げるためにも、自治州全体に影響力を発揮できる保安庁の拡大は絶対的に必要だった。
「ハルノの死を……無駄にはできないんだ……」
全てはハルノの意志を継ぐためにも。
市長から報酬を受け取った後、紅の足音の面々は緋桜の家に集合していた。
ヘイザの物置は大事な話をするには狭すぎるので消去法である。
「で、結局ご主人が本物のクベーラなんっすか?」
「そうでござるよー」
ジャックが切り出すと、あっさりとヘイザは肯定した。
「指導者となって独立を果たすつもりは?」
「ハルノ・クリアスカバードは、凡庸な者だった」
ルサルカの質問にヘイザは一気に冷めた顔になって言う。
凡庸、それは一般に伝わる独立戦争の英雄ハルノとは対極にあるような言葉だった。しかしヘイザの顔は真剣そのものだった。
「一を聞いても一しか知れず、歴史からではなく経験からしか学べない凡人だった。だが誰よりも強い大和魂《メンタル》を持っていた。知っているか? 人間の集中力というのは、一時間程度しか保たんのだ。頭と体とを本気で集中した一時間の鍛錬は、十時間の普通の鍛錬と同じ。しかし彼女は大和魂《メンタル》で、常人の二倍の集中力で十時間以上の鍛錬を日々行うことで、通常の二十倍以上の速度で成長していった」
「む、無茶だろ……」
まごうことなき無茶無謀である。
言ってしまえば、凄いやる気を出して頑張れば凄い成果ができるはず、という根性論そのものだ。しかしそんな理屈にもなっていない根性論を実現してしまうからこそハルノは英雄だったのだ。だが、
「そういう無茶ができた彼女ですら失敗したのだ。なら他の誰がやってもできるはずがない。できていいはずがない」
「別に素晴らしい人格をもつ人間が、素晴らしい偉業を成し遂げるわけじゃないだろう?」
断言するヘイザにルサルカが異を唱える。
「例えば民衆を家畜のように思っていて、私利私欲に満ちた王だろうと、国を富ませ栄えさせたなら、それは名君だ。逆に民衆を愛する清廉潔白な王でも、政治に失敗して、国を傾けたなら、それは暗君だ。場合によっては暴君とも呼ばれるだろう。ゴドリックは嘗ての戦争で汚れて、英雄性を失ってしまった。でも君は反対に汚れたことにより、秘めた英雄性を増した。ヘイザ、君はきっと、王になれるよ。――――帝国の太祖のような、偉大なる王にね」
「お前の言葉に対して拙者が返すのは唯一つきり」
人を堕落させる悪魔――――とは正反対の、人に試練を与える女神のような笑みを浮かべながら言うルサルカに、ヘイザは刃を研ぎ澄ましたような表情で言い放つ。
「働きたくないでござる!」
そのあまりに強い口調のニート宣言にジャックとキクコがずっこけた。
「まあともかくご主人がクベーラって聞いて、驚いたけど納得もできましたよ」
「サー・クベーラといえばバリバリの一級冒険者だと聞きました。ドラゴンを一撃で殺せたり、冒険者としての技術全般に精通していても納得しかありません」
クベーラ時代のヘイザは今と真逆の恐ろしいほど真面目な人間だったので、冒険者としての必要技能は片っ端から学んでいた。デイリー・ペース相手に適切な指導ができたのもそれ故のことである。
「ところでサー・クベーラといえば顔を完全に隠した面頬をした鎧武者で有名らしいっすけど、なんで顔隠して冒険者してたんです?」
「実は王位継承争いの政争で破れて、国外追放喰らった貴族の生まれなんでござるよ。死は免れたが爵位は没収され、国外追放刑を喰らったんでござる。だからほら下手に名をあげて帝国に名が知られると、警戒されて殺されてしまうでござろう?」
新たに投下された途轍もない爆弾にキクコが噴き出した。ジャックが冷や汗を流しながら横にいるルサルカに訊ねる。
「侯爵って、どれくらい偉いんですか?」
「うーん。小国の王様で、皇族の血も流れてて世界一の帝国の後継者が誰になるかを左右するくらい偉い」
「すんごいヤバいじゃないですか!」
キクコの言う通り正体がサー・クベーラだったという事実に劣らぬ話ではあった。
「ま、今は物置暮らしのその日暮らしの冒険者でござるよ」
「ヘイさん、キクコはん、ジャックはん、ルサルカはん。お夕飯の用意ができたでありんすよ」
「おお、待ってたでござるよ!」
しかしヘイザはなんでもないかのように、緋桜が用意した夕飯を美味そうに食べ始める。
一つ謎が解けても、また次の謎が現れる。
ヘイザ・アッシュブレードの全ての謎を知る日がくるのだろうか、とジャックは思いをはせた。