追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
酒場は冒険者たちで賑わっていた。今日の酒の肴はクベーラの決起を僅か三十人足らずで追い払ってみせたヘイザの大活躍である。
「よく100人ぽっちしか集まらなかったのに、逃げなかったな? 俺なら絶対に逃げてたぜ」
「やっぱり緋桜さんがいたから? 愛の力ってやつ?」
「んまっ。そんなとこでござるよ」
エターナル・レストのベネディクトとゲルダの二人の煽てを、ヘイザは酒をぐびぐびと飲みながら適当に返事をした。
「いい加減、身を固められたらどうです? 緋桜さんってここ数年は、ヘイさんしかお客をとってないんでしょう?」
「まあヘイさんが纏まった金が入るたびに入り浸ってるし、他の客をとる必要もないざんすしねぇ」
ラティーファの意見にバルガスがうんうんと頷いた。
「大金貨720枚をペスカトーレに預けた時も、似たようなことを言われたでござるな。土地を買え、家を買え、嫁を貰え、とかなんとか」
「ペスカトーレさんの言うことは正しいぜ。冒険することに拘りのあるラティーファと違って、お前は別に冒険者でやりたいことがあるってわけでもねえだろ。今回の報酬を緋桜さんに渡して財布を握ってもらえば、それなりに穏やかに一生過ごせるぞ」
「あんまりほっておくと本国の貴族とか大富豪とかにとられちゃうかもよ? アダムズ市の緋桜といえば、本国にまで噂が伝わるほどの高級娼婦だし」
「それならそれでいいでござるよ。よく見ろ。拙者が人間一人、妻一人を幸せにできる男に見えるか?」
「むぅ」
ヘイザに身を固めるよう勧めていた者たちもこれには押し黙ってしまう。ヘイザの滅茶苦茶な素行は同じ街の冒険者である彼らが一番よく知っていたからだ。
「ねぇ、もしかして他に気になる子がいたりする? 新米のキクコちゃんとか、ルサルカちゃんあたり?」
『実はそうなんでござる。拙者はルサルカのことが気になって気になってしょうがないんでござるよ! もう結婚してぇでござる!』
「ファ!?」
いきなりルサルカへ情熱的な愛を叫び始めたヘイザに、ベネディクトが仰天した。
自分の口から出ていない自分の声に心当たりのあるヘイザは青筋をたて、気配に気づいたラティーファが嘆息した。
「ルサルカちゃん、悪戯は駄目ですよ」
「永遠に喋れない体にしてやろうか?」
「ごめんごめん、可愛いジョークじゃないか♪」
ぺろっと舌を出しながら、ルサルカがひょっこり姿を現した。いつの間にか酒場に紛れ込んで話を盗み聞きしていたらしい。そして堂々とヘイザの隣に腰かけると注文を始めた。
「あ、オヤジさん。僕もヘイザと同じのを」
「オヤジじゃなくてオカミだっての」
オカミはそう言いながら、ヘイザと同じ酒をルサルカに出した。
こうして冒険者たちの夜は更けていった。
一か月後。ヘイザ達、紅の足音は冒険者ギルドを訪れていた。
担当はいつも通りジョンソンである。
「無念だ。一年くらい遊びまわって暮らそうと思ったら、毎日のようにキクコが冒険したい攻勢をかけ、緋桜に窘められ、一か月で戻ってくるはめになったでござる」
「いいことじゃないですか。ところで生活スタイルを少し改善されるご予定は? もう少しなんとかされたら、今なら二級冒険者へ昇格できますよ」
クベーラ決起事件でアダムズ市を守ったことは、フィリップス市長だけではなく冒険者ギルドも高く評価していた。本来ならこの一件だけで二級冒険者昇格が確定するほどの功績である。それ故のジョンソンの勧めだったが、
「嫌でござる」
自分のライフスタイルを一切変えるつもりはないヘイザはにべもなく答えた。ジャックは「だと思った」と呆れる。
「さて。では本日のクエストですが、こちらが紅の足音さんが受けられる依頼です。どれを受けられますか?」
「お。これなんてキクコにうってつけの仕事でござるよ」
「本当ですか!?」
自分にうってつけと言われて、キクコが飛びつくように依頼書を覗き込んだ。
「え、どれどれ……『夜な夜なひっそりとどこかへと出掛ける旦那の調査』ですか。って冒険じゃないじゃないですか!」
「はは。でもうってつけでござろう?」
幽霊であるキクコは浮いているので足音はしないし、どんな壁もすり抜けることができるし、その気になれば地面に潜むこともできる。浮気調査のような尾行にはもってこいだった。
「まあまあキクコちゃん。指名が高位冒険者になってて依頼料も高額なんだし。でもなんでこんな高額なんですか? たかが浮気調査で」
「こういう浮気調査は死ぬ危険こそ魔物退治と比べれば皆無に等しいですが、決して簡単というわけでもありませんからね。あとこういう依頼を出すのは、大抵余裕がある裕福な人間ですから」
「ふむふむ、依頼人は帝国本土から新大陸に出てきた子爵家のご夫人みたいだね」
ルサルカが依頼書にある名前をチェックしながら言った。
依頼人の名前はビアンカ・バルベリーニ。ヘイザが過去の記憶によれば、それは帝国の外様の地方貴族の家名だった。
本国で財産を失い爵位を維持できなくなった貴族が、稼げる新大陸に出てくるのはよくあることである。バルベリーニ子爵家もその類だろう。
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