追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヘイザ達が屋敷へ赴くと、まだ二十歳を少し過ぎたばかりくらいの淑女が待っていた。淑女は完璧な作法でヘイザ達に挨拶をする。
「よくお越しくださいました。まさか今をときめく『紅の足音』の方々が受けてくださるとは思いませんでした。私、ビアンカ・バルベリーニと申します」
「ははは、拙者たちも有名人になったもんでござるな」
貴族の耳にも届いているとは、クベーラ決起事件の影響力の大きさを感じさせた。それだけクベーラの存在が帝国にとって大きいという証左だろう。もしヘイザが自分の正体を明かしたら、目の前の夫人はショック死してしまうかもしれない。
「ご丁寧にどうも子爵夫人。僕はルサルカで、こっちの侍がリーダーのヘイザ。僧侶のキクコに拳士のジャックです。早速ですが仕事のお話にうつりましょうか」
「旦那さんが夜な夜な出かけるということでしたが、それは週にどれくらいのペースですか?」
「そうですね。週に六日くらいです」
まさかの一週間の殆どであった。これには四人全員が渋い顔をする。ヘイザが深刻に呟いた。
「不味いな、これは」
「ま、不味いですか?」
「想像を絶する駄目人間でもない限り、妻帯者が週に六日も娼館通いはしないでござる。となると娼館通いより、愛人の可能性のほうが高い」
「しかも場合によっては、離婚して愛人と再婚することを考え始めている頃かもしれないよ?」
「どうする? 離婚したいなら決闘の代理人になって、慰謝料ぶんどってやるでござるが?」
クベーラの名を捨てて遊び人をしているヘイザだったが、元貴族という出自もあって不貞には特に義憤する性格だった。珍しくやる気を出しながらビアンカに提案した。
「ま、まだ浮気とは限らないじゃないですか。それに浮気だったとしても、先ずはビアンカさんの希望を聞かないと」
燃え上がるヘイザに、キクコが常識的な意見でストッパー役をする。
「そうでござるな。ところで子爵夫人は嫁入りした側か、それとも婿をとった側か?」
「婿をとった側です。恥ずかしい話ですがバルベリーニ子爵家は爵位を維持できないほど困窮していまして、それで新大陸に渡り一代で財をなした夫と結婚したんです」
「成程。一種の政略結婚でござるか」
金がないが爵位のない新大陸の富豪と、爵位はあっても金がない本土の貴族が結びつくことはよくある話である。ルチアーノが婿養子として入ったグラシャラボラス伯爵家もその類だった。
「け、けれど勘違いしないでください! 私はちゃんと生まれもった身分によらない真の高貴さに惹かれて、それで結婚したんです! いくら家を保つためとはいえ、財産しか持っていない馬の骨に嫁ぐほど安い女になったつもりはありませんから」
(真に高貴な人が浮気なんてするかなぁ)
ジャックは心の中だけでそうツッコんだ。
「婿養子の浮気かあ。九回裏一点差で満を持して投入したストッパーが、ノーアウト満塁からのフォアボール四連発ってところかな?」
「いやあ、まだ確定してないからギリ三連発でござろう」
生まれながらの貴族のご令嬢と、新天地で一代で財産を築き上げた男。性格の不一致で夫婦関係が上手くいかなくても不思議ではない。ビアンカの方は夫のことを愛しているようだが、夫婦関係というのは双方向でなければ意味がないのだから。
「ともかく拙者たちは屋敷の中に隠れて、その旦那を見せて貰うでござる。構わんな?」
「はい、お願いします」
そうしてヘイザ達は旦那の帰りを待った。
ビアンカ・バルベリーニの夫であるカスパール・バルベリーニは元の姓をブラナンといい、貧しい農家の生まれだった。
金山発見されたという情報を逸早く聞きつけた彼は、川に飛び込んで泥を漁るような真似をせず、受け継いだ農家に自分自身を担保に合法非合法問わずあらゆる金貸しから借りれるだけの金を借りると、ショベル、つるはし、金属製のフライパンをありったけ買い占めた。
ゴールドラッシュを求めて新大陸中から人が殺到すると、彼は炭鉱夫達に買い占めた炭鉱に必要な道具を売りさばき、一度も金を掘ることなく最大の財をなして19歳にして富豪の仲間入りをした。
それから新たに始めた事業も殆どは成功し、ビアンカの夫としてバルベリーニ子爵家に婿養子と入り爵位も得て、正に成功者といえるだろう。
夜になって帰宅し夕食を食べ終えたカスパールは「まだ残った仕事がある」と言うと、再び出ていこうとする。
「あなた。もう遅いですし、今日はお休みになったらどうです? その、久しぶりに一緒に過ごしたいですし」
どんな鈍感な男でも気づく露骨な熱っぽい視線を送るビアンカ。カスパールがじっとビアンカの目を見つめると、
「……いや。今日も仕事が山積みでね。先にベッドで、休んでいるといい」
妻の期待を裏切るように、あっさりと言った。
「分かり、ました」
コートを羽織りさっさと家を出ていくカスパール。その様子を天井裏で隠れて見ていたヘイザ達が、リビングに着地する。
「ろくに取り繕うこともなく、すっげぇ露骨に出て行ったな……」
「いつもああなんです」
ビアンカは寂しげに言った。
「いや、いくらなんでも雑過ぎる。あれは催眠の魔法かなにかではござらんか? だとしたら隠す気のない雑過ぎる言い訳に理由がつく」
「それはないんじゃないかな。見た限り魔法の気配は一切感じられなかったよ。だいたいそれじゃどうして子爵夫人はなんの影響もないのさ」
ルサルカの指摘に「それもそうか」とヘイザは納得する。仮にビアンカが催眠の魔法をかけられているのだとしたら、そもそも彼女が冒険者ギルドに浮気調査の依頼をすることもなかっただろう。
だがヘイザはわざとらしく妻と数秒視線を合わせてから、それからあっさり拒否したカスパールの態度に、なんとなく引っ掛かるものを感じていた。
「これからどうするんですご主人?」
「隠密に向かないジャックは念のためここで夫人の警護。拙者たちでカスパールを尾行する。ルサルカ」
「はいはい、
ルサルカに隠密魔法をかけさせると、ヘイザ達はカスパールの尾行を開始する。
だがヘイザ達はこの尾行で思わぬ真実を知ることになるのだった。