追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~   作:RYUZEN(孔明)

73 / 73
第73話  愛の物証

 ヘイザが事情を説明するとカスパールは困惑して言った。

 

「ビアンカが浮気を疑って、冒険者に依頼を? 魅了の魔眼が効いてない、だと……?」

 

「成程ね。別れ際にじっとビアンカと目を合わせていたのは”魔眼”か。それなら僕が魔法の気配を感じなくても当然だね」

 

 魔眼と魔法は同じ”魔”を冠しているのは同じだが、まったく別の代物だ。魔法が魔力を用いる技術なら、魔眼というのは吸血鬼などの一部の魔物が生まれ持って保有する能力だ。言うなれば鳥にとっての翼、人魚のエラのようなものである。その行使に魔法の兆候は一切検出されない。

 

「それでカスパールさん。貴方が半純血の吸血鬼(ダンピール)であることは分かりましたけど、どうしてこんなことをしていたんですか?」

 

「……吸血鬼だった俺の父親は、俺が生まれる前に討伐されて死んで、俺は人間の母に女手一つで育てられた。ダンピールは完全な吸血鬼と違って、太陽の光を浴びても、吸血鬼の力を使えなくなるだけで死にはしない。血だって吸わなければ死ぬが、吸血鬼ほど必要ではない。だから母の愛と、母の血で、俺は人間として暮らしてきた」

 

 カスパールは重々しく言った。たとえハーフだろうと吸血鬼の息子を人間として育て上げるなんて簡単な話ではない。腕力だってただの人間の子供と比べれば桁違いだし、子供の癇癪一つが人間には致命傷になりかねないのだ。

 母の愛は偉大とはいうが、カスパールの母親は正に偉大な人物だったのだろう。

 

「そんな母さんを楽させてやりたいと思って、俺は金持ちの家のゴミを漁って古本をかっぱらい、法律や経済について独学で勉強して、実業家になった。流石にあのルチアーノには及ばないが、結構な大金持ちさ」

 

「いい話じゃないですか!」

 

 キクコは瞳に涙を潤ませた。

 

「だが企業が安定してやっと親孝行ができると思った矢先に、母さんが死んでしまってな。寿命でどうしようもなかった……」

 

「そうか、それは辛かっただろうな……」

 

 ヘイザは茶化さずに労りの目を向けた。いくら不真面目を気取っていようと、茶化してはいけない話というものがある。

 

「で、母親から貰っていた血が吸えなくなった君は、夜な夜なヒーロー活動をしつつ、悪党から血を吸うようになったと」

 

「……そういうことだ。健康に害はないとはいえ、なんの罪もない人間から血を吸うのは気が引けたからな。まあこんなに有名になってしまったのは誤算だが。注射器で血を採取するのは、余った分は貯蔵に回せるのと、親しくもない人間から直接、牙で血を吸うことに抵抗があったからだ」

 

「な、なるほど」

 

 言われてみれば牙で血を吸うのは、形だけ見れば接吻しているのと同じようなものだ。見ず知らずの赤の他人、しかも犯罪者の体にそれをするのは特殊な性癖の持ち主でもなければ嫌だろう。

 

「だがバレてしまった以上、俺もこの街にはいられないな。ダンピールの俺は法律上、魔物ではなく亜人だからいきなり殺されはしないだろうが、子爵夫人の婿ではいられん。ビアンカにはできれば真実をぼかして、俺は悪い奴で雲隠れしたとでも伝えてくれ。こういう時のために会社の権利はビアンカに譲るという書類は書斎の引き出しに用意してある」

 

 そう言ってカスパールは哀愁を漂わせながら立ち去ろうとする。だがそうは問屋が卸さない。怒ったような口調でキクコが引き止める。

 

「ま、待ってくださいよ! なにを一人で消えようとしてるんです!? さっきまでの話だと、ビアンカさんと結婚する必要がないじゃないですか! 必要がないのに結婚したのは、ビアンカさんのことが好きだったからじゃないんですか!?」

 

「この顔は図星だ」

 

「自分で言うな」

 

 無駄にキメ顔で言い放つカスパールにヘイザはツッコミを入れた。

 

「ともかく、だったらビアンカさんに全て事情を話すべきです! 自分はダンピールでヴァンプマンだったってことも含めて!」

 

「し、しかしだな……。もしも受け入れられず、好きになった女性に半吸血鬼の怪物だと罵られたら辛い」

 

 夜な夜な犯罪者を取り締まるヴィジランテでありながらヘタレな発言をするカスパールに、ルサルカは溜息をつくと、

 

「君の魅了の魔眼が効かなかった理由を教えてあげるよ。既に魅了されている相手を、更に魅了することはできないからさ」

 

「――――!」

 

 愛や恋心の証明はひどく難しい。けれど今回は珍しく、明確な愛の物証が出てきた。

 

「分かったらさっさと家へ帰って抱きしめてやれ。手が届かなくなってからでは遅いぞ」

 

「……すまん。恩に着る」

 

 ヘイザに言われたカスパールは、跳躍し自分の家へと戻っていった。きっとこれから事情を説明するのだろう。

 

「さてと。これからどうする?」

 

「馬に蹴られて地獄に落ちても敵わん。バーへ行って酒飲んで寝る」

 ヘイザはわざわざ追いかけて行って、二人の話し合いがどういう結末を迎えるかを確かめる必要性を感じなかった。愛し合う二人は勝手にハッピーエンドを迎えてればいいと思う。

 そうしてヘイザ達はわいわい騒ぎながら夜の街へ消えていった。

 その翌日。

 

「うわあああああああああああああああああ! よくも置き去りにしたなぁぁああああああああああ!」

 

「すまん、忘れてた」

 

 屋敷に取り残されたジャックの怒りが炸裂した。

 




お気に入り評価と、下記の評価ボタンから高評価よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍版打ち切り爆死】悪役令嬢と石田三成(作者:RYUZEN(孔明))(オリジナル:ファンタジー/戦記)

新作の乙女ゲームを購入した帰り、交通事故でこの世を去った現代JK。だが次に目を覚ますと購入したばかりの乙女ゲーム「ホロスコープ・クロニクル」の世界に転生してしまった。しかも転生先はあらゆるルートで絶対に死亡する悪役令嬢のアナリーゼ・アガレス。ゲームプレイ前だったため原作知識はゼロで、頼りになるのはネタバレ糞レビューアーのレビューのみ。そこで死亡フラグを回避す…


総合評価:925/評価:9.06/完結:103話/更新日時:2026年09月30日(水) 18:00 小説情報

俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど!(作者:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

『ドラゴ・マギカ・クロニクル』 ▼ ドラゴン娘を育てて世界を救うという何とも特徴のない擬人化ゲーの世界に『カラバ・イルマイト』として転生して来た俺は特に波乱も無くモブとして生きていた。▼ シナリオの端っこでいつの間にか殺されているという様なことが無いことを願いつつ、ゲームのチュートリアルイベントで召喚したドラゴン娘は『R』でも『SSR』でも『UR』でも無かっ…


総合評価:1744/評価:8.42/連載:41話/更新日時:2026年10月24日(土) 23:35 小説情報

特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです(作者:月待 紫雲)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

戦闘狂のエルゼ王女は今日も無双する。オレは見てれば良いという楽な仕事。▼王女が倒した魔物はオレが倒したことになり、オレの騎士としての評価が上がっていく。▼今朝もオレの魔物討伐のことが新聞に載っていた。▼そんな全然――戦ってないのに。▼……え? 剣の指南役? 王女様の? オレが??▼※カクヨム、小説家になろうにも投稿しております


総合評価:4809/評価:8.54/連載:47話/更新日時:2026年10月16日(金) 07:15 小説情報

棍棒ひとつで迷宮を往く(作者:cla29)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

タクミが異世界に迷い込んで、十年が経った。▼誰とも組まず、言葉は今もカタコトのまま。▼迷宮で拾った一本の棍棒を頼りに生き延び、気づけば特級冒険者と呼ばれるようになっていた。▼それでも、故郷へ帰ることは諦めていない。▼帰る手掛かりを求め、今日も迷宮の奥へと潜る。▼だが、異世界で過ごした月日は、いつしか彼にもう一つの居場所を作りつつあった。▼これは、帰り道を探し…


総合評価:4038/評価:8.64/連載:49話/更新日時:2026年10月24日(土) 22:00 小説情報

精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる(作者:モナカパウマン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム最高!▼全てがアニメみたいにカードゲームで回ればいいのに……そんな風に思って、日々を過ごし、気がついたらカードアニメみたいな世界に転生していた。だが問題があった。この世界においてSSRカードの証左である精霊たちが一切懐いてくれないのである。▼しかし構わない。▼俺は一人で成り上がってみせる。▼元よりカードゲームに精霊なんて、無粋なのだ。▼※他サイト…


総合評価:6715/評価:8.01/連載:22話/更新日時:2026年10月25日(日) 18:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>