追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヘイザが事情を説明するとカスパールは困惑して言った。
「ビアンカが浮気を疑って、冒険者に依頼を? 魅了の魔眼が効いてない、だと……?」
「成程ね。別れ際にじっとビアンカと目を合わせていたのは”魔眼”か。それなら僕が魔法の気配を感じなくても当然だね」
魔眼と魔法は同じ”魔”を冠しているのは同じだが、まったく別の代物だ。魔法が魔力を用いる技術なら、魔眼というのは吸血鬼などの一部の魔物が生まれ持って保有する能力だ。言うなれば鳥にとっての翼、人魚のエラのようなものである。その行使に魔法の兆候は一切検出されない。
「それでカスパールさん。貴方が
「……吸血鬼だった俺の父親は、俺が生まれる前に討伐されて死んで、俺は人間の母に女手一つで育てられた。ダンピールは完全な吸血鬼と違って、太陽の光を浴びても、吸血鬼の力を使えなくなるだけで死にはしない。血だって吸わなければ死ぬが、吸血鬼ほど必要ではない。だから母の愛と、母の血で、俺は人間として暮らしてきた」
カスパールは重々しく言った。たとえハーフだろうと吸血鬼の息子を人間として育て上げるなんて簡単な話ではない。腕力だってただの人間の子供と比べれば桁違いだし、子供の癇癪一つが人間には致命傷になりかねないのだ。
母の愛は偉大とはいうが、カスパールの母親は正に偉大な人物だったのだろう。
「そんな母さんを楽させてやりたいと思って、俺は金持ちの家のゴミを漁って古本をかっぱらい、法律や経済について独学で勉強して、実業家になった。流石にあのルチアーノには及ばないが、結構な大金持ちさ」
「いい話じゃないですか!」
キクコは瞳に涙を潤ませた。
「だが企業が安定してやっと親孝行ができると思った矢先に、母さんが死んでしまってな。寿命でどうしようもなかった……」
「そうか、それは辛かっただろうな……」
ヘイザは茶化さずに労りの目を向けた。いくら不真面目を気取っていようと、茶化してはいけない話というものがある。
「で、母親から貰っていた血が吸えなくなった君は、夜な夜なヒーロー活動をしつつ、悪党から血を吸うようになったと」
「……そういうことだ。健康に害はないとはいえ、なんの罪もない人間から血を吸うのは気が引けたからな。まあこんなに有名になってしまったのは誤算だが。注射器で血を採取するのは、余った分は貯蔵に回せるのと、親しくもない人間から直接、牙で血を吸うことに抵抗があったからだ」
「な、なるほど」
言われてみれば牙で血を吸うのは、形だけ見れば接吻しているのと同じようなものだ。見ず知らずの赤の他人、しかも犯罪者の体にそれをするのは特殊な性癖の持ち主でもなければ嫌だろう。
「だがバレてしまった以上、俺もこの街にはいられないな。ダンピールの俺は法律上、魔物ではなく亜人だからいきなり殺されはしないだろうが、子爵夫人の婿ではいられん。ビアンカにはできれば真実をぼかして、俺は悪い奴で雲隠れしたとでも伝えてくれ。こういう時のために会社の権利はビアンカに譲るという書類は書斎の引き出しに用意してある」
そう言ってカスパールは哀愁を漂わせながら立ち去ろうとする。だがそうは問屋が卸さない。怒ったような口調でキクコが引き止める。
「ま、待ってくださいよ! なにを一人で消えようとしてるんです!? さっきまでの話だと、ビアンカさんと結婚する必要がないじゃないですか! 必要がないのに結婚したのは、ビアンカさんのことが好きだったからじゃないんですか!?」
「この顔は図星だ」
「自分で言うな」
無駄にキメ顔で言い放つカスパールにヘイザはツッコミを入れた。
「ともかく、だったらビアンカさんに全て事情を話すべきです! 自分はダンピールでヴァンプマンだったってことも含めて!」
「し、しかしだな……。もしも受け入れられず、好きになった女性に半吸血鬼の怪物だと罵られたら辛い」
夜な夜な犯罪者を取り締まるヴィジランテでありながらヘタレな発言をするカスパールに、ルサルカは溜息をつくと、
「君の魅了の魔眼が効かなかった理由を教えてあげるよ。既に魅了されている相手を、更に魅了することはできないからさ」
「――――!」
愛や恋心の証明はひどく難しい。けれど今回は珍しく、明確な愛の物証が出てきた。
「分かったらさっさと家へ帰って抱きしめてやれ。手が届かなくなってからでは遅いぞ」
「……すまん。恩に着る」
ヘイザに言われたカスパールは、跳躍し自分の家へと戻っていった。きっとこれから事情を説明するのだろう。
「さてと。これからどうする?」
「馬に蹴られて地獄に落ちても敵わん。バーへ行って酒飲んで寝る」
ヘイザはわざわざ追いかけて行って、二人の話し合いがどういう結末を迎えるかを確かめる必要性を感じなかった。愛し合う二人は勝手にハッピーエンドを迎えてればいいと思う。
そうしてヘイザ達はわいわい騒ぎながら夜の街へ消えていった。
その翌日。
「うわあああああああああああああああああ! よくも置き去りにしたなぁぁああああああああああ!」
「すまん、忘れてた」
屋敷に取り残されたジャックの怒りが炸裂した。
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