追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
アダムズ市へ戻ったヘイザ達は、その足で冒険者ギルドへ向かった。ジャックのための買い物でかなりの金貨を使ったので、稼ぐ必要があるからである。
しかしヘイザが冒険者ギルドに入るや否や職員に呼び止められ、大事な話があると言って三階の応接間に通された。
(これは、面倒ごとの匂いがプンプンするでござるな)
経験上、ギルドからこういう風に呼び出されるのは、公にできない内密のクエストを依頼される時である。この手の依頼は前金と成功報酬共に大金である一方、通常クエストよりも面倒で危険な事が多いのだ。
「本日はいきなりこのような場にお連れして申し訳ありません」
応接間にいると既にジョンソンが待っていた。
「あのジョンソンさん、どうしたんですか、いきなり?」
冒険者経験の浅いキクコが疑問をぶつけた。
一方でヘイザと同じように状況を察しているルサルカは、にやにやと面白そうな顔をしていた。
「『紅の足音』の皆さんに指名依頼が入っています。ただ今回の依頼人は『極秘』での依頼ですので、依頼内容を聞く前にまずはこの誓約書にサインをお願いします」
そうしてジョンソンは一枚の書類をテーブルに置いた。
そこには『依頼を受けるか否かに拘わらず、見聞きした内容について口外しないことを誓うものとする』と書かれている。更には破った場合の罰金などについても細かく書いてあった。
「ふーん、極秘依頼の誓約書か。そういうのがあるってことは知っていたけど、こうして見るのは初めてだよ」
ルサルカがしげしげと誓約書を上から下までじっくり嘗め回すように見る。
ヘイザの方はクベーラ時代にこの手の極秘依頼を受けたことはあるが、誓約書の内容は特に変わっていないようだった。
「ええとジョンソンさん、もしもこの誓約書にサインしなかった場合はどうなるんですか?」
「自動的に依頼は断ったことになります。ああ、そのことで紅の足音さんにペナルティとかは一切ないのでご安心ください。それと誓約書にサインして依頼内容を聞いた後も断ることは可能です。勿論、依頼内容について口外禁止の契約は遵守して頂きますが」
ジャックの疑問にジョンソンは淀みなく答えた。
「ど、どうしますか?」
「拙者はどちらでもいい。キクコ、ルサルカ、ジャック。お前たち三人で決めろ」
ヘイザは話し合いから一抜けした。
極秘依頼は一攫千金のチャンスではあるが、多かれ少なかれ政治や権力といったものと関わることになる。そういう話にリーダーとしての権限を振りかざして、受ける事を独断で決めるほどヘイザは自分勝手になりきれなかった。
故に決定権は他の三人に譲る。
「僕はもちろん受けることに賛成だよ。こんな美味しい話、見逃す手はないね!」
先ずルサルカが賛成した。すると、
「冒険とはちょっと違いますけど、こういう秘密の依頼を受けて、世に知られぬ活躍っていうのも冒険者っぽくはありますし、聞くだけ聞いてみてもいいんじゃないでしょうか?」
「だよな。誰々の暗殺とか明らかにヤバい仕事なら断ればいいだけだし」
キクコとジャックも依頼内容を聞いても断る自由はある、ということに背中を押されて同意した。
「分かった。では拙者が代表してサインをしよう。これでいいでござるな?」
「はい、確認いたしました。では私は退室いたしますので、続きは依頼人と直接お願いします」
そう言うとジョンソンは出て行った。
極秘任務なので冒険者ギルドでも任務の全容を知るのは、ゼウス州にある冒険者ギルド本部の本部長含めた極僅かな人間だけである。ジョンソンも依頼内容については知らされておらず、知ることも許されていないのだ。
ジョンソンが出て行って数分すると、仕立ての良いスーツを着た役人風の初老の男が入ってくる。
「帝国人でござるか?」
「……なぜ分かった?」
「なんとなくだ。纏った雰囲気が帝国人っぽかったでござる」
「そうか」
特に気にした風もなく、帝国人の男はヘイザたちの向かい側の椅子に座る。
「では自己紹介をしよう。……ああ、そちらの方は無用じゃ。全員のプロフィールは頭の中にあるからのう。帝国で文官をしているマロウ・クロムウェルじゃ」
「――――”クロムウェル”か」
クロムウェルというのは建国の三傑と呼ばれるハインリヒ・クロムウェルと同じ姓だった。
「偽名か?」
「偽名で功臣の姓を名乗るほど恐れ多くはない、本名じゃよ。それより早速だが依頼内容について説明しよう。お主らに頼みたい依頼とは『ある研究者の調査』じゃ」
「はぁ……調査依頼ですか……」
キクコが拍子抜けだ、という顔になった。だが次の瞬間、その顔は凍り付くことになる。
「ああ、調査して欲しい研究者というのは帝国機能開発局(The Organization of Functional Upgrade)に所属する技術将校じゃ。そしてその研究内容は七雄のホムンクルスの開発じゃ」
『!!!???』
キクコどころかヘイザ含めた全員がひっくり返るほど仰天した。
帝国機能開発局――――略称がT.O.F.U.であることから豆腐屋などという隠語で呼ばれることもある技術将校がターゲットというのはまだいい。問題は後半だった。
ホムンクルス、フラスコの中の小人とも呼ばれる、人工的に人間を生み出す技術のことである。
「しょ、正気かい? ホムンクルス製造は貴族だろうが皇族だろうが一発で死刑確定の重罪だよ。それを帝国の技術将校がやっているって?」
あのルサルカが冷や汗を流しながら尋ねると、マロウは重々しく頷いた。
「あ、あの。なんで俺たちみたいなのに本国の人が依頼を? 二級とか一級の冒険者や、保安官を動かすのは駄目なんですか?」
「一級冒険者が動けば重大事であると宣伝しているようなものであるし、私は保安官をそこまで信じておらん。万が一保安官のトップのリチャードが、七雄のホムンクルスなどの技術を知って、妙な野心に取りつかれては困るからのう。そこで実力は下手な一級以上でありながら、三級に留まってるお主らに白羽の矢をたてたというわけじゃ」
「研究者と、その裏にいる者の目星は? 研究には金がかかるでござる。研究者一人の興味本位でやれるものではない」
「それを調べるのも仕事のうちじゃ」
「報酬は?」
「前金で大金貨100枚、成功報酬は更に弾もう」
依頼内容が内容だけに、とんでもない額を提示されても誰一人浮かれることはなかった。
「ねぇ。普通、帝国軍人が不正をしてたら、監査部がどうこうするべきところだよね。そこを一介の冒険者にやらせるってことは……」
「私の独断じゃ。表向きはな」
要するに命令したのはマロウの上司か、所属する派閥のトップだが、失敗して事が露見したらマロウ一人の独断専行ということになってトカゲのしっぽ切りに合うということだろう。
「ジャック、キクコ、ルサルカ。すまんがこの依頼、受けてもいいか?」
本当なら受けるか受けないかは、三人の判断に任せるつもりだった。一人でも受けたくない者がいたら、ヘイザがパーティーリーダー権限で反対に一票を投じて流そうとも考えていた。
しかしことが七雄のホムンクルスの開発ということなら、流石に黙っていることはできない。
ジャック達三人は顔を見合わせていたが、
「俺はご主人の奴隷っすから、ご主人がやるっていうならついてくだけですよ」
「七雄の命を愚弄するような研究は、冒険者として許せません! やりましょうヘイさん!」
「僕は元から受けるに賛成票投じるつもりだったからね。君がやる気になってくれたなら渡りに船さ」
「恩に着る」
不真面目なヘイザではなく、嘗ての七雄として三人に頭を下げた。
マロウはその様子を普通に見ていたが、もしもヘイザの正体がクベーラであると知れば、きっとショック死するだろう。
「クエストの成功失敗にかかわらず前払いで大金貨200枚。成功報酬で1000枚。これくらい貰わねば割に合わんな」
「分かった。掛け合ってみよう」
こうしてヘイザの依頼費吊り上げに頷くと、マロウは退室していった。