追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヘイザ達はアメーリア大陸の東端にあるカボット市に来ていた。
カボット市は特に漁業や海運業で栄えるポセイドン州でも、特に栄えている港町である。しかし他の都市なら見かけられる冒険者の格好をした者は殆どなく、代わりに帝国軍の軍服を着た軍人や豪奢な服を着た貴族達が多い。
それも当然。何故ならカボット市は新大陸に無数にある帝国直轄領の一つなのだ。冒険者が殆どいないのも、帝国直轄領にはそもそも冒険者ギルドが存在しないからだ。
「ここがアメーリア大陸で一番の港町……カボット市か。やっぱ栄えてんな」
ジャックが帝国人も新大陸人もエルフも獣人も、果ては漢服を着た東方人まで多種多様な人種でごった返す市場を眺めながら言った。
帝国直轄領で冒険者の数が少ないということは、なにも新大陸の人間が少ないということを意味しない。寧ろ帝国直轄領だからこそ世界中の商人にとってはメインストリートだった。
「貿易の拠点であると同時に、新大陸と旧大陸の玄関口だからね。あの独立戦争でアメーリア大陸に制限つきの自治権を認める一方、帝国は新大陸内の主要な港町だけは手放さなかった」
「へぇ、なんで港町だけは手放さなかったんですか?」
「地政学でいうところのシーレーンを確保するためでござるよ。遠距離輸送といえば海上輸送一択でござるからな。世界を人体に置き換えれば、シーレーン……すなわち海上交通路は血管のようなもんでござる。つまり世界中の主要港を制することは、世界を制するも同じってことでござるよ。ま、現皇帝の世界戦略の一環でござろうな」
ルサルカに疑問をぶつけたキクコに、ヘイザなりの考察も含めて説明した。キクコとジャックにはあまりピンとこなかったのか「へぇ」と分かっているのだかいないのだか分からない表情をしていた。
「ともかく直轄領であるここには冒険者ギルドどころか、保安官も自警団も存在せん。代わりにいるのは軍の憲兵でござる。気を付けるでござるよ? 帝国憲兵は自警団ほど温くはないぞ」
自警団相手なら一か八かの袖の下が通じる可能性はあるが、帝国憲兵に同じことをしたら贈賄罪の現行犯で逮捕されて終わりだ。
「それでヘイさん。そんな冒険者にアウェーなカボット市でどうやってナターリャ・フォーリー少佐を探すんですか?」
「マロウによれば現地に協力者がいるでござる」
そうして事前にマロウに渡された地図にある目印の場所へ行くと、紳士服を着た若者が待っていた。若者は品のある一礼をすると、
「初めまして。君たちの支援を担当するヴァルデマールだ」
「ふーん、察するにマロウ・クロムウェルの部下かな? それとも同僚? 上司? いやマロウの上が雇った、また別の組織の人間かい?」
わざとらしく名前だけしか名乗らなかったヴァルデマールにルサルカが意地悪く質問した。
「余計な詮索はよしてくれ。俺たちはこの仕事だけの関係で、終われば全て忘れる。それがお互いにとってベストだろう?」
「ま、同意見でござるよ」
ヘイザもクベーラになる前は帝国貴族の端くれだった者だ。
ヴァルデマールがおいそれと姓を明かせぬ身分の者、貴族であることは察しがついた。
「ところでヴァルデマール。仕事をする前に確認しておくと、今回の件について、どの程度のブラックな行為が許されるんでござるか?」
これは重要なところだった。
帝国からの依頼だから多少の不正行為には目を瞑ってくれるのか、犯罪行為は絶対厳禁なのか、極端な話をしたら殺人まで許されるのか。
それらを確認しておかなければ満足に仕事することはできない。
ヴァルデマールは暫し熟考してから口を開いた。
「軍人殺しはまずアウトだ。民間人は……いきなり失踪しても不思議ではないような根無し草とかならどうにかなる」
「この街じゃ殆ど無理じゃないっすか?」
ジャックの言う通り帝国直轄領にいるのは身分がしっかりした者ばかりだ。路地裏に入れば浮浪者が寝床にしていたり、出身地も定かではない冒険者たちがたむろしているアダムズ市とは大違いである。
「そう思ってくれて構わん。とはいえ窃盗、強盗、暴行、後遺症の残らない拷問くらいなら、こちらでケツをもつから、好きにやってくれて構わない。限度はあるがな」
「限度とは?」
「重大な関係者と確信できる者だけにしてくれ。相手が貴族や軍人や外国人の時は、必ず実行前に連絡を頼む。俺はカボット市にいる間、必ず朝六時から七時にドーリッシュ記念公園をランニングして、十二時には煉瓦亭っていう喫茶店で昼食をとり、十五時から十六時にはこのベンチで読書して、十九時にはキッチン・オニオンっていうレストランで夕食をとることにしている」
要するに連絡をとる場合はその時間に自然な形で接触しろ、ということだろう。
「ではまずターゲットを観察してみなければ話にならん。フォーリー少佐の住んでいる場所を教えろ。まさか知らないとは言わないだろうな?」
「それこそまさかだ。所属する軍人の住所を登録しないほど帝国軍は温い組織じゃない。フォーリー少佐はT.O.F.U.の軍人として働く傍ら家庭を持っている。家族構成は旦那に娘の三人家族で、旦那は専業主夫だ」
「か、家庭持ちかよ……」
よりにもよって家庭を持つ一児の母が、ホムンクルスの研究なんてとんでもない事に関わっていることにジャックは唖然とした。
ヴァルデマールがフォーリー少佐の家の住所をメモに書いて渡す。
ヘイザは取り合えずこの住所の場所に行ってみることにした。