追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
ヴァルデマールに案内されてやって来たナターリャ・フォーリーの住む家は、実に立派な外観をしていた。流石は軍の少佐である。
といってもヘイザ達はその家の間近まで来ているわけではない。そこから遠く離れた建物の屋上からルサルカの望遠の魔法で様子を伺っているのだ。
「ルサルカさんの望遠の魔法はいいですね。500mくらい離れたフォーリー少佐の家が、すぐ目の前にあるみたいです」
「ふふ、ありがとう」
ルサルカが空間に出現させた鏡のようなものには、遠方の景色がまるで目の前のもののように映っている。ここから覗くことで術者以外でも遠くの景色を眺めることが可能というわけだ。
「あれがフォーリー少佐の旦那のロナウド・フォーリーでござるか」
ヘイザが家の中で調理をしている男を見ながら言うと、ヴァルデマールが頷いた。
料理するロナウドの動きに淀みはなく常日頃から家事をしなれていることが分かる。テーブルに並んでいる洗濯物も綺麗に畳まれていた。
どうやらただのヒモだと世間体が悪いから専業主夫ということにしているというわけではなく、本当に専業主夫らしい。
「フォーリーさん家は奥さんが働いて、旦那さんが家庭を守るスタイルなんですね。珍しくないですか?」
「完全な男系社会な極東大和と比べると、帝国は太祖からして女帝だし、働いている女性そのものは珍しくないよ。ただ夫側が家庭に入っているっていうのはキクコのいう通り珍しいかな」
結婚後も妻が仕事を続けるというのは帝国ではよくあることだ。なにせ女だから云々などと言い出した日には、太祖への不敬と受け取られかねないのだから。
しかしそういう場合でも夫婦共働きが殆どで、妻が働く代わりに夫は家庭に入るというパターンは中々見られない。
「まあ軍人で研究職となれば忙しそうだし。家事育児とかする余裕ないなら、こういうのも一つの家庭の形なんじゃないか」
ジャックが素朴ながら開明的な発言をする。
「ま、家庭なんて其々違うんでござるから、各々で好きにやりゃいいんでござるよ。それより家の中にいる少女……あれが娘のクララ・フォーリーか」
クララ・フォーリーは料理する父親にひっついて何かを言っている。唇を読むと『ゆ・う・しょ・く・は・な・に』だった。
「なんか普通の幸せな家庭にしか見えないんっすけど、本当にあの家のお母さんがホムンクルス研究なんてしてるんっすか?」
「だからそれを調べるのが君たちの仕事だ。そうだ、調査のためにこれを預けておこう」
そう言ってヴァルデマールはずっしりと重い袋をヘイザに渡した。
「なんでござるかこれは?」
「豆腐屋の作った新鮮な豆腐だよ」
「…………なに言ってるんですか?」
キクコが頭おかしいのか、とでも言いたげな視線をヴァルデマールに向けた。
「すまん、つい軍人相手にするように隠語で話してしまった。T.O.F.U.が開発した新しい発明品っていう意味だよ」
ヘイザが袋の中身を取り出すと、なにやらレンズがついた機械細工のようなものが出てきた。
「で、どういう豆腐……もとい発明品なんでござるか?」
「カメラといってスイッチを押すだけで、写真というとんでもなく精巧な絵を作ることができる」
試しにヘイザがヴァルデマールにレンズを向けてスイッチをおすと、パシャという音がして中からずずずと紙が出てきた。紙を引っ張り出すとそこには、どんな肖像画よりも精巧なヴァルデマールの白黒の絵が映っていた。
「これは……凄い発明品だな」
思わず素の口調でヘイザは呟いた。
この発明、今回は調査の証拠集めに使用することになるが、それ以外にもありとあらゆる用途で使える。正に革命的な発明品だ。
「だろ? まだ試作段階の貴重品だから壊さないでくれよ」
「分かった。では取り合えずメインのナターリャ・フォーリーの生活を監視するでござるよ。24時間を四人で割って一人6時間ずつ交代でな」
そうしてその日は監視のシフトを決めて一時解散となった。