追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
一か月後、ヘイザ達はヴァルデマールが行きつけというキッチン・オニオンに来ていた。ヴァルデマールに一か月の調査結果を報告するためである。
キッチン・オニオンの店主はヴァルデマールから話を聞いていたのか、ヘイザ達が入店すると通されたのは奥の個室で、そこにヴァルデマールは待っていた。
「さて。ヴァルデマールが仕事中の生活費は出すというから、一か月間休みなく監視を続けた成果でござるが……」
「遠慮なく高い宿屋に寝泊まりして、毎日豪勢な飯食って、重労働をやっと終えたみたいな顔するんじゃない!」
「経費で落ちるって最高でござるな!」
青筋をたてるヴァルデマールに、ヘイザはつやつやとした顔で言う。
任務中の衣食住含めた必要経費は全て支払う、とヴァルデマールが言ったのを良いことに、ヘイザは遠慮なく最高峰の宿泊施設に滞在し、最高峰の食事を毎日のように食べた。しかし一方でヘイザは女遊びだの、賭け事だの、私的な買い物などには一切経費を使っていないので、ヴァルデマールも文句を言う以上のことはできないのである。
「はぁ、まあいい。……どうせ私が払うわけじゃないしな。で、報告を聞かせてくれ」
「あ、じゃあ俺から。この一か月の俺の成果はこれっすよ」
そう言ってジャックはヴァルデマールから渡されたカメラで撮影した『写真』をテーブルに置いた。
写真にはロナウド・フォーリーが妻のナターリャではない別の女性の肩を抱いて歩く姿が映っている。浮気の現行犯のこれ以上ないほどの証拠品だった。
「正に決定的瞬間を映した一枚ですね……。サイテーです」
「夫のロナウドは専業主夫で生活費は妻のナターリャ頼りのはず。もしナターリャに離婚された上に慰謝料を請求されては一溜まりもない。これをネタにすれば、思うように動かせそうでござるな」
ナターリャのホムンクルス研究とは直接的にはなんの関係もないが、今後の調査には役立ちそうな証拠だった。
「なら次は私ですね! 私はちょっと家の真下に潜入して聞き耳をたててきました!」
「真下に潜入だって!? 凄いな、どうやったんだ?」
「き、企業秘密です!」
幽霊であることを明かせないのでヴァルデマールの疑問にキクコは曖昧に返した。ヴァルデマールも冒険者が自分の能力について隠すことはよくあることなので、それ以上は詳しく追及することはなかった。
「えーとフォーリー少佐は毎日一度は家に帰るようにしてて、家庭も円満でした! …………でした」
沈んだ顔でキクコが表現を過去形に訂正した。
「僕の成果はキクコの延長線上のものだね。毎日、一度は家に帰るフォーリー少佐は、自宅に仕事を持ち帰ってることが多いみたいだ。自宅を家探しすれば、仕事の資料とかが見つかるんじゃないかな?」
フォーリー家ではなく、魔法を使い職場の方を中心に調べていたルサルカが言った。三人の報告が終わると全員の視線が報告がまだのヘイザへ移る。
「最後に拙者の成果だが……小さな発見だが、もしかしたら一番大きな発見だったかもしれん」
「勿体ぶらないで教えてくださいよ。なにがあったんっすか?」
「二週間前、娘のクララが転んで足を怪我した。翌日、ナターリャが『今日はお母さんとお出かけしよう』と言って娘を連れ出し、軍施設へ連れて行って帰ってくると、足の怪我が綺麗さっぱりなくなっていた」
「軍の見学に行った帰りに、治癒魔法が使える人に治してもらったんじゃないですか?」
キクコが最も普通な考えを言う。それはヘイザも考えた。しかし、
「そうならそうでいいのだがな。だが普通、三歳の子供を軍の施設に連れていくか?」
「ない、とは言い切れないけどね。確かにちょっと奇妙だ」
子供が怪我をしたら連れていくのは病院だ。確かに職場である軍の基地には軍医が常駐しているが、言うまでもなく彼等の仕事は民間人の治療ではない。ましてやこのカボット市には一般開放されている軍病院が別にちゃんとあるのだ。普通ならそこに連れていくだろう。
「…………これはここだけの話にして欲しいんだが、ある軍人がデート中の彼女が突然体調を崩して、たまたま近くにあった軍の基地に連れて行って軍医に診察して貰い始末書を書く羽目になったっていう事例はある」
ヴァルデマールが躊躇いながら言った。なんとなくヘイザにはその始末書を書く羽目になった軍人が誰なのか分かった気がした。
「しかしフォーリー家からは軍の基地より軍病院の方が近い。そもそも転んでできた程度の擦り傷くらいなら、近所にある診療所で十分だろう」
ヴァルデマールが言うようにフォーリー家から直線距離で100mほどの場所に診療所が一つあった。
診療所も軍病院も無視して、たかが転んだ擦り傷程度で始末書覚悟で軍の基地の軍医に診せる。合理的に考えればあり得ないことだ。
「こりゃご主人の言うように小さな発見に見えて一番の大発見だったかもしれないっすね」
「で、これからどうするんだ?」
「ナターリャ・フォーリーは一日一度は家に帰る……が、帰ってそのまま軍にとんぼ返りすることも多い。その後は軍の基地に泊まって、家に戻ることはない。故にナターリャ・フォーリーがとんぼ返りして、娘のクララが寝た直後を狙う」
そう言ってヘイザはテーブルに置かれている写真を手にとった。
夫のロナウドから情報を引き出すのに、これほど有効な武器はない。