追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
夜になり家に戻っ達てきたナターリャが再び家を出て、更に娘のクララが眠ったことを確認してからヘイザ達は、フォーリー家のドアをノックした。クララを寝かせた後でロナウドが一人リビングで読書していることは確認済みである。
ノックして直ぐ「はーい」と声が聞こえてきた。
「えーと、どちらさまですか?」
ガチャっとドアを開いたロナウドは見たことのないヘイザ達四人に怪訝な目を向けた。そんなロナウドにルサルカがにっこり笑いながら、例のブツを見せる。
「悪いけど君に名前を名乗る気はない。取り合えずこれを見てくれないかな?」
「そ…それは!?」
妻以外の女性の肩を抱いて歩く――――浮気の証拠写真を見せつけられたロナウドの顔がみるみる蒼褪めていく。
「娘が起きてしまうでござるよ。静かにするでござる。お前が今日一日大人しく言うことに従って、今日見たことは全て忘れると誓うなら、これは見なかったことにしよう」
「ち……違う! お、俺だけが悪いんじゃないんだ! ナターリャさんが全然俺に構ってくれないから!」
「ちゃんとナターリャさんは毎日一度は家に帰ってるじゃないですか!」
言い訳を始めたロナウドにキクコが怒りながら言った。
「家に帰ったって構うのはクララばかり! 夕食だけ食べたら、直ぐに軍に戻るのもしょっちゅうで、久しぶりに一緒に寝ようって誘ったら、まだやらないといけない仕事があるとか、今日は疲れてるって一人で寝ちまう! これのどこが構ってるだ!」
するとロナウドは狼狽えるどころか逆に自分の抱えていた不満をぶちまけ始めた。
しかしそう言われてヘイザは気づく。確かにナターリャが毎日家に帰るようにしていたのは間違いないが、この一か月間ただの一度もロナウドと夫婦の営みをしたことはなかったと。
「俺だって寂しいんだよ! まだ若いんだよ! 欲求だって、溜まるんだよ! ナターリャさんがちゃんとしてくれたら、俺だって他の女となんて……うぅ……」
「ちょっとそういう生々しい話は勘弁してもらえませんかね……。俺もうちょっと結婚に夢見てたいんで」
目に涙を溜めて嗚咽を漏らす哀れな男に、ジャックはげんなりしながら言った。
「まあ拙者たちはお主の事情とか死ぬほどどうでもいいから、取り合えず言うことを聞けでござる」
「も、目的は金か?」
「いや、お前の妻の部屋を見させてもらう。お前は見て見ぬふりをして、今日のことをなかったことにすればそれでいい」
「ナターリャさんの、部屋を?」
「そうだ」
「ど、どうしてそんなことを? お前たちは何者だ?」
「知る必要はない」
冷たく言い切ると、軍人の旦那だけあって察したようだった。ロナウドはこくりと小さく頷く。
「わ……分かった。俺はずっとクララのことを見ている。他の部屋でなにがあろうと知らんし聞こえないし分からない。これでいいんだな?」
「物分かりが良くて助かるよ」
そう言うとルサルカはロナウドの脇を擦り抜けて家の中に入っていく。ヘイザとジャックもそれに続き、キクコだけは律儀に「おじゃまします~」と言いながら入っていった。
ナターリャの部屋に入ったヘイザは先ず、部屋の中をカメラで撮影する。
証拠写真として確保しておく以外にも、後で片づける時に物を元あった場所に戻すための材料にするためだ。
部屋にある本や資料を片っ端から手にとって中身を確認するが、特に怪しいものは見つからない。だが、
「ヘイさん! 天井裏にノートっぽいものを見つけました!」
「でかした!」
幽霊故に人間では探れない場所を探していたキクコが当たりを見つけた。
ヘイザは鞘でタイル状になっている天井のタイルの一つを押してやるとパカリと開いた。
(ナターリャ・フォーリーの魔法属性は”風”。魔法資質は戦闘にはとても使えない微々たるものと資料に書いてあったが、ノートくらいの重さの物なら風で浮かすことくらいはできる)
ヘイザがやっているように棒かなにかでタイルの一部を開けられるよう仕掛けを施せば、秘密の隠し場所の完成である。
「ルサルカ」
「はいはい」
ルサルカが杖をひょいとやると天井裏に隠されていたノートがヘイザの手に収まる。
このような仕掛けまでして隠してあるノート、果たして一体どんなことが書かれているのか。ヘイザは恐る恐るノートを開いた。
XXXX年 X月 X日
フラスコから出した01を家に連れて帰る。
今日より観察記録をつけることにする。
XXXX年 X月 X日
夫に不審な目で見られた。
どうやらまだ記憶転写が不完全だったようだ。
事故で死ぬかもしれない大怪我を負った娘が三か月後にいきなり五体満足で帰ってきたことも一因かもしれない。
XXXX年 X月 X日
誤魔化しつつやってきたが、十七日ほどで01の体調が一気に悪くなった。
やはりフラスコから出すと、長くは生きられないようだ。
予定通り明日に廃棄して交換する必要があるだろう。
XXXX年 X月 X日
01を廃棄して新しく02を家に連れて帰ってきた。
記憶転写がまだ上手くいかず、夫は首をかしげていた。
閣下に頼んで、手が回っている軍医に事故の後遺症による記憶障害とでも、もっともらしい理由をつけてもらおう。
XXXX年 X月 X日
39~42まで夫が不信感をもった形跡がない。
どうやら記憶転写は完璧に近づいているらしい。
閣下の命で明日からは一日ごとに廃棄と交換を繰り返すことにする。
これで夫が一か月間、娘の変化に気付かなければ記憶転写については一先ず完成した、と言えるだろう。
なお二桁では終わらないと思うので、次からは043と呼称することにしようと思う。
XXXX年 X月 X日
342をもって記憶転写については一応の完成をみたので今後は延命がテーマになる。
フラスコの中の小人はその名の通りフラスコから出たら僅か半月で寿命を迎えてしまう。閣下によれば最低でも一年、できれば三年は交換なしで活動できるようにしたいとのことだ。
パタンと日記帳を閉じる。
ヘイザ達は全員同じ顔をしていた。同じ、世にも悍ましいものを目の当たりにした顔だった。
「想像以上にネジが飛んでたね」
誰も言葉を出せない中、ルサルカがポツリと呟く。
「……取り合えずこのことをヴァルデマールに伝えるでござるよ」
「あ、すみませんご主人。この日記帳に出てきたフラスコの中の小人ってなんのことですか?」
「ホムンクルスの別名でござるよ。太祖の時代、ある錬金術師が生み出した人造の人間。フラスコの中でしか生きられず、フラスコから出したら死んだことから、そう呼ばれるようになったでござる」
太祖女帝は錬金術師にホムンクルス研究について聞かされた時、とんでもない嫌悪感を剝き出しにしてその場で研究開発を違法化し、絶対の禁忌としたという。今ならばヘイザには太祖の気持ちがよく理解できた。
「そしてこれだけ大規模な実験をやれるんだ。この日記帳に出てくる”閣下”っていうのは、ハーヴェイで間違いないだろうね」
「誰ですか、それは?」
ルサルカの出した名前に聞き覚えがなかったキクコが訊く。それにルサルカより先にヘイザが答えた。
「ディミトリ・ハーヴェイ――――アメーリア大陸駐留軍司令官でござるよ」
つまりはこの新大陸にいる帝国軍で最も偉い男だった。