追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
キッチン・オニオンでヘイザ達の報告を聞き終えたヴァルデマールは深く息を吐きながら、どこかスッキリしたような表情で口を開く。
「事情は分かった。黒幕はほぼ間違いなくディミトリ・ハーヴェイ大将だろう」
「あっさり納得するんっすね」
「あの基地でホムンクルスの研究が本当に行われているとしたら黒幕は彼だろうと覚悟はしていた」
ジャックの問いかけにヴァルデマールが答える。要するにヴァルデマール――――というよりヴァルデマール達はヘイザ達に依頼を出す前から、ナターリャ・フォーリーの背後にディミトリ・ハーヴェイがいると予想していたのだろう。
「あの、私はあんまり帝国の事情とか分からなくてディミトリ・ハーヴェイって人のことも知らないんですけど、どういう人なんですか?」
「ハーヴェイ大将はクーデター時に真っ先に陛下にお味方した現皇帝派……つまり主流派に属する男だ。陛下からの信頼も厚く、新大陸についてほぼ一任されている」
「あの、クーデターとか主流派とか言われても、よく分からないんですけど。というかクーデターってなんっすか? 独立戦争とは別なんですか?」
ジャックが素朴な疑問をぶつけると、ヴァルデマールが助けを求めるようにヘイザに視線を向けてくる。ヘイザは自分でジャックたちに話すのが面倒だったので「全部教えてやれ」とヴァルデマールに丸投げすることにした。
「簡単に説明すると外戚の宰相とそれに繋がった麻薬伯フラスカーノに好き勝手やらせて、遂には新大陸での史上最大の反乱という未曽有の事態を引き起こした先帝陛下に、先帝の姉で廃嫡されていたルシフェラ陛下がクーデターを起こして帝位を奪っ……いや不当に奪われていた帝位を回復されたんだよ」
奪ったと言えば現皇帝のルシフェラの即位は不当なものである、と言っているように勘違いされかねないのでヴァルデマールは言い直した。
考えすぎとは言えない。史上こういったちょっとした舌禍で破滅する例は少なくない。
「即位後、独立戦争を主導して、見事に納めてみせた手腕は、まったく見事という他なかったでござるよ」
独立戦争の当事者だったヘイザはどこか複雑な表情で補足した。
「えーと、話を聞く限り今の皇帝陛下ってとっても優秀な方なんですよね。そんな女帝陛下がどうして廃太子されたんです?」
「それは確か……『これからは愛とやさしさの時代』だったかな?」
キクコの質問に、ルサルカが意地悪くヴァルデマールに言った。ヴァルデマールは渋い顔をしながら頷く。
「キクコとジャックの二人と違い、君は帝国史に詳しいようだな。そうだ、先々帝……つまりはルシフェラ陛下と先帝であるシモン廃愚帝の父たる戦勝帝オズワルドは『これからは愛とやさしさの時代』と言って、才気煥発で多くの貴族が後援となっていたルシフェラ陛下を強引に廃嫡し、優しく情け深い先帝陛下を皇太子に指名したんだ」
もっともそうして皇太子に指名されたシモンが父の死後に即位すると、優しさは優柔不断さに、情け深さは決断力のなさにとって代わられた。その結果が母方の伯父である宰相に好き勝手されての独立戦争である。
廃愚帝などという歴代皇帝でも特に酷い通称を与えられた事からも、現在その評価は散々なものだ。
「話を戻すが、ハーヴェイ大将は陛下のクーデターにお味方された一人で、五年前の独立戦争を勝利に導いた立役者の一人でもあるから、俺たちとしては手を出しずらいんだよ!」
「……察するにお主の所属は、先帝派か?」
「元だよ。鞍替えに失敗した先帝派は全員粛清された。先帝ご自身も含めてな」
ひえっとキクコが声を漏らすが、ヘイザは残酷なこととは思わなかった。先帝と先々帝にはヘイザも恨み骨髄なので、様を見ろという気分だった。
だがそういうことならヴァルデマールが中々手を出せないでいたことも納得である。証拠も揃えていないうちにハーヴェイ大将側に疑っていることがばれたら、先んじて暗殺されるか、下手したら逆に内通者として告発されかねない。
「で、これから僕たちはどうすればいいのかな?」
「君たちは十分に仕事を果たしてくれた。依頼はここまでだ。成功報酬は後日冒険者ギルドへ届けるからそこで受け取ってくれ。ここから先は我々の仕事だ」
「そうか」
事が自分の嘗ての仲間のホムンクルスを作り出そうとしている、なんて一線を踏み越えるものなのでヘイザとしては自分で始末をつけたいという思いはある。しかし帝国側としては、ある程度の証拠を得た以上は部外者を使いたくないという事情も分かっていたので、それを求めることはしなかった。
「ヴァルデマール、ルシフェラ陛下は聡明な人だ。仮に信用勝負になったとしても、信頼する側の証言だけを鵜呑みにするなんてことはしないから安心するでござるよ」
「おい、冒険者のお前が陛下のなにを知ってるんだ?」
「さて、なにかな」
現在帝位にあるルシフェラ・アガレスのことを思い起こす。ルシフェラはヘイザにとって独立戦争で自分たちを負かした最大最悪の敵であり、そして決して忘れえぬ幼馴染でもあった。
ヘイザ達と別れたヴァルデマールが秘密警察のアジトの一つへ戻ろうとしている時だった。
「もし……秘密警察のヴァルデマール・キマリス様ですね?」
ヘイザ達に最後まで隠していたフルネームで呼びかけられ、声のした方向を見ると仮面で素顔を隠した黒装束の男が立っていた。
「だ、誰だお前は!?」
「秘密警察あてに匿名のタレコミをした者ですよ」
「!」
ヴァルデマールが所属する秘密警察ヒュドラが、ホムンクルスの研究というスキャンダルについて掴んだのは自力によってではない。匿名の情報提供があったからだった。これを知るのは秘密警察の極一部以外には、情報提供をした者しか知らないことである。
ヴァルデマールが黒装束の男をどう対処するべきか迷っていると、男が茶色い封筒を投げ渡してくる。
「どうぞ。ディミトリ・ハーヴェイ大将閣下の企てた反乱計画及び、ホムンクルスの研究データです」
「なに?」
思わず封筒の中にある資料を引っ張り出すと、そこには『女帝ルシフェラのホムンクルスを作り、本物と入れ替え帝国を支配する』という途轍もなく冒涜的な計画が記されていた。
「これをどこで手に入れた!?」
「私の主はハーヴェイ大将に無理やり計画に参加させられそうになった者です。ですがこのような計画に乗るのは本意ではないため、表向きは従いつつ、裏ではこのように計画をつぶすために動いていたのです。どうか主人の名誉のために、主人の名前を伏せることをお許しください」
「そうはいかん。お前も重要参考人だ。一緒に来てもらうぞ。そのかわりお前の主人に対しては、上司に掛け合って恩賞を約束してもいい」
「それはご勘弁を。では、失礼」
男は煙玉を叩きつけると、どろんと姿を消した。
ヴァルデマールは急いで周囲を調べるが、男がどこに逃げたか行方を探ることはできなかった。