追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
帝国からの極秘依頼を終えてアダムズ市へ戻ってきたヘイザは、馴染みの賭場に来ていた。そしてヘイザが参加するギャンブルは一番お気に入りの闘鶏である。
赤と青コーナーから歩いてくる二羽の鶏。あれが本日の主役だ。
ヘイザは嘗てサー・クベーラとして活動していた頃に磨きぬいた眼力を無駄に活用し、二羽の鶏の戦闘力を推し量る。そして、
「金貨百枚を赤に賭けるでござる!」
賭場に「おおっ!」というどよめきが奔る。一人の客が金貨百枚ほどの大金を賭けることは滅多にないことだった。他の客もヘイザがそれほど自信満々ならばと、それにのっかり次々に赤の鶏に賭けていく。
そして――――戦いが始まった。
ヘイザの見立ては正しく赤の鶏の戦闘力は青のそれを凌駕していた。
しかし戦いというのは常に実力に勝るほうが勝つ訳ではない。実力に加えて、運を味方につけた側に勝利の女神は微笑むのだ。
だから実力に劣る青の鶏の我武者羅な抵抗が、たまたま赤の鶏の急所にクリーンヒットしてしまい、そのまま勝利するというラッキーが起きるのもまた必然であり、
「ぬわああああああああああああああ! 拙者の金貨百枚がぁあああああああああああ!」
「おいヘイさん! 俺もヘイさんの眼力信じて赤に賭けたんだぞチクショー!」
「ふざけるな! ふざけるな! 馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおお!」
そしてヘイザが一日で金貨百枚を失い、それに便乗した客達も大損をこいたのもまた必然であった。
「ってわけで金貨100枚溶かしたから、キクコに言われて仕方なく仕事しに来たでござる」
翌日、冒険者ギルドにきたヘイザは開口一番に言った。
金貨百枚を失い絶望したヘイザだったが、酒を飲んで寝たら直ぐに忘れてしまっていた。
「仕方ないのはヘイさんの方ですよ。金貨百枚なんてとんでもない大金をギャンブルで一日ですっちゃうなんて、駄目人間そのものですよ」
「まあ駄目人間そのものでござるからな。はっはっはっ!」
キクコの追及にヘイザは誤魔化すように笑ってみせた。
「ジョンソン、百枚の大損を挽回するためにも、いつもみたいに割高な仕事紹介してくれでござる」
「それでしたら都合がいい。実は『紅の足音』の皆さんに指名以来が入っているんですよ」
「ほう、またでござるか」
「僕らも人気になったものだね。それで依頼内容は?」
「本国のさるご令嬢がお忍びで視察に来られるそうなので、その護衛依頼です」
そう言ってジョンソンは依頼書をヘイザ達に見せる。
依頼内容は冒険者が冒険する様を間近で見学したいので、護衛をしつつ普段みたいに冒険してみせて欲しいというものだった。まるで冒険者への社会科見学のようであった。
「本国からわざわざ新大陸にお忍び視察って、どこのご令嬢なんです?」
「それは知る必要のないことです」
ジャックの質問にジョンソンはピシャリと言い切る。
わざわざ新大陸まで来て冒険者を雇い大がかりな社会科見学を企画するということは、金持ちの道楽娘か、真剣に冒険者というものの存在を学ぼうとする意欲のある娘のどちらかだろう。
道楽娘のお守りは面倒なので、ヘイザとしては後者であると祈りたかった。
「それでこの依頼を受けられますか?」
「答えるまでもない」
依頼書には成功報酬は金貨百枚となっていた。
負けを取り返すなら受けないという選択肢はなかった。
だがヘイザはこの時、安易に依頼を受けてしまったことを酷く後悔することになる。
約束の待ち合わせ場所に現れたのは護衛らしい女戦士を連れた貴族令嬢だった。いや化粧や服装で年齢を十代に見せているが、ヘイザには一目で彼女が自分と同い年であることが分かった。
「本国から来たルシフェ……ルシアです。短い間ですがよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるルシアを名乗る女。
それはソロモン帝国現皇帝たるルシフェラ・アガレスその人であった。