追放ニート侍~もしもパーティーを追放されたのが本当に最低の屑だったら~ 作:RYUZEN(孔明)
それから生け捕りに成功したヴォルグの手下は近衛騎士の一部が連行し、ヴォルグと手下の死体についてはその場にヘイザやマイケルたち冒険者たちが埋めることになった。
いきなり獣人の死体を埋めることにマイケルは難色を示していたが、ルシフェラがマイケルに二言、三言ほど囁くと青い顔になって頷いた。恐らくルシフェラが自分の正体を匂わせでもしたか、デイリー・ペースの弱味でも事前に握っていてそれを囁きでもしたかのどちらかだろう。
ルシフェラはただ埋めればいいとだけ言ったが、ヘイザはルサルカにも協力させて、彼ら一人一人にちゃんとした墓石を用意してやった。マイケルたちはヘイザが珍しくやる気を見せていることに驚いていたが、今の仲間である紅の足音の面子だけではなくデイリー・ペースの面子含めた全員が特に文句を言うこともなくヘイザに協力してくれた。
ルシフェラが正体に気付いているであろうことは、ルシフェラが自分を見る視線が探るようなものから湿ったものに変化したことから察することができた。
ルシフェラ本人にではなく近衛隊長のエレーナから口止めされたので、ヘイザは貴族令嬢ルシアの正体が女帝ルシフェラであることを他の者には話していない。しかし勘のいいルサルカは察しているだろうし、ルサルカが匂わせればジャックとキクコの二人も気付いただろう。その証拠に帰路でジャックとキクコの二人はなにか言いたげにヘイザとルシフェラの二人を交互に見てはヒソヒソと話していた。
だがヘイザはルシフェラに話しかけることはなかったし、ルシフェラの方もヘイザに話しかけてくることはなかった。そしてそのまま街に到着すると依頼完了となり、解散となった。
けれどヘイザはこれで終わりではないという予感があった。その予感が正しかったことは翌日に証明された。
「アッシュブレードさん。昨日のルシア様より再びの指名依頼です。ただし今回は『紅の足音』にではなくアッシュブレードさん個人へのものとなります。ある街を視察に行くのに同行して欲しいとのことです」
冒険者ギルドに着くなりヘイザは、女帝からの
「すまんがこの依頼は受けられ――――」
「向かう先はガーフィールド市だそうです」
「…………そうか。分かった、受けるでござる」
その都市の名前を聞いて99%の確信は100%の確定に変わる。
もはや逃げられまいとヘイザは依頼を受けることにした。
「ご主人……いいんですか?」
「い、いつものように『働きたくないでござる!』って言って、断ってもいいんですよ?」
「いや、断って逃げられるものではないさ」
ジャックとキクコの提案を、ルサルカがばっさりと切り捨てる。
「そ、そこはほら。引っ越しとか!」
「引っ越しなんかで逃げられるものか。ヘイザはこの時代に愛された一人だからね。どこへ逃げようと、運命の女神ってやつは手を伸ばしてくるよ」
ルサルカの運命云々の妄言はともかく、逃げられないのは間違いない。なにせ相手は帝国の女帝。使える手は多く、その手は長い。
「嬉しそうだな、ルサルカ」
「それはそうだろう? 僕は運命から英雄を寝取りたくて冒険者やってるんだからさ。寝取るにはまず運命と寝て貰わないと」
「やはり拙者はお前が嫌いだ」
「でも僕は好きだよ」
ルサルカは愛おしそうに微笑んだ。吐き気がした。
約束の時間が近づいていることを確認すると、ルシフェラは貴族令嬢のルシアの装いに着替えて外へ出ようとする。近衛騎士隊長のエレーナが「せめて自分だけでも同行を」と希望したが却下した。焦がれた再会に余分を混ぜるつもりはなかった。
暫く歩くと一本だけ木が残った空き地に辿り着いた。人の気配はない。予め手を回し人払いをしておいた。そして周囲に誰もいないことを確認したルシフェラは変装を解いた。
「ここがどこだか知っていますか?」
そうルシフェラが言うと、先に到着していたヘイザが木陰より現れる。
「さてな。ただこんな街中をむざむざ空き地にしておくのは、勿体ないと思うだけでござる」
「ここは私が心から頼りとした者たちが死んだ場所です」
「これは異なことを。陛下には優秀な家臣が多くいるでござろう。ルベウス元帥然り、ジューダス長官然り、ハーヴェイはまあ……期待外れだったかもしれぬが」
「あの者等は私の力に仕えているに過ぎない。私が皇帝で帝国に有用であるから忠誠を誓っているが、私が帝位を追われ、帝国に害があると判断したら、果たしてどう振舞うものか」
皇帝の使う道具であると公言しているジューダスは勿論ルシフェラを排除しようとするだろう。だがそれ以外の家臣たちは、帝位にある今問えば『それでも私が忠誠を誓うのは貴方です』などと答えるに違いない。そしていざその時になれば平然と裏切るのだ。
「陛下は死んだ人間に幻想を抱きすぎている。ここで死んだ人間がどれだけ素晴らしい人間だったかは知らぬが、彼らとてなにも貴女が好きで、貴女個人への忠誠に溢れていたわけではなかろう」
「確かにそうかもしれませんね。この地で死んだ侯爵ヴィルヘルムは、愚弟シモンより私が皇帝に相応しいと考え、故に私を不当に廃嫡しようとした父に抗った」
だからルシフェラがシモン以上の暗愚であったなら、彼は抗うことはなかったかもしれない。
「ですが、そうではない者もいました。帝国のためでもなく、皇帝のためでもなく、父から捨てられた哀れな姫のために戦ってくれた騎士が」
「…………子供の戯言でござろう」
「話は変わりますが、貴方は英雄というと誰を思い浮かべますか?」
「一般論を申せば……そうさな。この新大陸を発見した、始まりの冒険者カシム・エリゴスなど、正に英雄と呼べるでござろう」
「ええ、そうですね。彼もまた偉大な英雄でしょう。ですが私が最も憧れた英雄はただ一人。内乱により五つに引き裂かれた王国を、僅か一年で統一し、帝国の礎を築いた太祖女帝を置いて他にありません」
アナリーゼ・アガレス。太祖女帝、氷の女帝、百年女帝など様々な呼び名で畏怖されるソロモン帝国史上最大の偉人、アガレス朝ソロモン帝国の開祖だ。
新大陸に生まれた者でも、その名を知らぬ者は皆無だろう。
「子供のころから彼女の如き皇帝になりたいと、そう思っていました」
「ならば、なればいい。貴女が帝国の中興の祖となれば、始祖と肩を並べることもできよう」
「私だけでは無理です。太祖様には絶対に信頼できる師にして家臣にして友にして夫がいましたが、私にいるのは奴隷ばかり。だから私のもとに戻ってください、ミハエル」
「――――」
「ウァレフォル侯爵家最後の一人としてではなく、貴方が必要なのです」
ミハエル・ヴェラ・ウァレフォル。それがヘイザが捨てた、真実の名だった。